長期にわたるSF商法で 高齢者に高額な商品を 次々

石川県消費生活支援センター
長期にわたるSF 商法で
高齢者に高額な商品を
次々と契約させる販売業者
一人暮らしの高齢者が、数カ月で他の場所に移転する店舗の
ような会場に数年間にわたり通い詰め、次々と商品を購入し、
数千万円を支払った事例を紹介する。
結果概要
相談内容
一人暮らしの母親が住む実家を久しぶりに訪
石川県消費生活支援センター
(以下、当セン
ねたところ、床の間や仏壇に見覚えのない高価
ター)
において、契約当事者本人
(以下、契約者)
な商品が置かれていた。さらに押し入れの中に
と相談者
(県外で暮らす息子)
、当センター相談
も多くの商品があり、驚いて母親に事情を訪ね
員で、契約書・領収書・家計簿などを確認した
たところ
「数年前から親切にしてくれる販売業
ところ、同じ販売業者に対し5年以上にわたり
者がいて、そこから買った」
という。
3000 万円を超える支払いをしていたことが分
さらに詳しく聞くと、
「最初、誘われて展示会
かった。
に行ってみたら、販売業者の話がとても面白く
当初、契約者は
「担当の販売員は親切な人だ
会場に行くことが楽しみとなった。続けて何回
から、自分の意思で買った。これまでに買った
か通ううちに特定の販売員と顔見知りとなって
物は返品しなくてもよい」と話していたが、契
親しくなり、体調のことなども親身に相談にのっ
約金額が高額であることから、法的な解決を図
てくれた。品質も良いらしいので、勧められる
るため弁護士への相談を勧めた。しかし、相談
まま商品を買ってあげるようになった」とのこ
を受けた弁護士は
「本人の解約意思がぶれてい
とであった。
るので受任できない」
という見解であった。
判断力が低下している高齢者に対して、高価
当センター相談員が相談者とともに、契約者
な商品を次々と販売するのは問題なのではない
に販売業者の販売方法の問題点を指摘し、説得
か。解約・返金してほしい。
を重ねたところ、ようやく解約の意思を固めた
(相談者:50 歳代 男性 給与生活者 /
ことから、販売業者との解約・返品の交渉に入
契約当事者:80 歳代 女性 無職)
2016.6
ることとした。
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契約者に返品を希望する商品を選定してもら
ようになってきた。
い、当センター相談員とともに契約書や現物を
新しいタイプの SF 商法には、次のような特
確認し、絵画や香炉など約 500 万円相当の商品
徴があり、被害の救済を困難にしていると考え
について販売業者と返品・解約の交渉を行った
られる。
ところ、「未使用品は解約に応じるが、香炉は
・会場の雰囲気が楽しいことから、契約者が自
部屋に飾っているので使用済み」と一部の商品
らの意思で積極的に会場に通っている。
の解約には、頑として応じようとしなかった。
・通い詰めることで販売員と顔見知りになり、
そこで国民生活センターから助言を受け、高
優しく親切にされるうちに、業者と顧客以上
齢で判断力に不安のある契約者からの意向を受
の信頼関係があるように錯覚させられる。
けた相談者と当センター相談員で、販売業者の
・信頼している販売員から商品を勧められるの
本社(以下、本社)
と解約交渉を行った。本社は、
「社内の販売に関する規定に基づき、新品と認
で、
「断るのは申し訳ない」
といった感覚に陥
りやすい。
めるものは解約に応じる。今回は契約金額がか
・一人暮らしの場合、身近に相談できる人がお
なり高額であり、企業責任もあることから、常
らず、周囲の人が気づいたときには、既に購
識の範囲内の保存状態であれば、未使用品とし
入額が高額なものとなっている。
て解約に応じる」
との姿勢をみせた。
以上の経過から、契約者には被害にあってい
本社との交渉状況を契約者に説明したところ、
「早期解決を図りたいので、契約後1年以内の
るという意識がないため、周囲が被害を認識さ
せることが難しい。
未使用品と使用済みといわれた香炉の解約だけ
本事案でも、相談者である息子は、契約者と
でよい」との意向を示したので、これらの解約
離れて暮らしており、一人暮らしの母親から事
と返金を確認して相談終了とした。
情を聴くまで、高額な商品の購入には気づかな
かった。
また、契約者は、当センターへの相談後も、
問題点
担当の販売員をかなり強く信頼しており、親切
本事案は、以前から問題のある商法とされて
な販売員との良好な関係を維持していきたいと
いる催眠商法(SF 商法)に関するものである。
の思いが強く、当センター相談員や息子の説得
これまでの SF 商法は、閉め切った会場に人を
に対しても、
「担当者は親切な人だ」
「納得して
集め、日用品等をタダ同然で配って雰囲気を盛
買ったものだ」と話すなど、解約の意思が揺れ
り上げた後、正常な判断ができなくなった来場
続けたようである。
者に高額な商品を販売する商法で、短期間で会
本事案のような新しいタイプの SF 商法は、国
場を転々とするケースが多かった。
民生活センターからも注意喚起されており
(2015
最近は、本事案のように数カ月以上の長期に
年5月 21 日公表)
、契約者の平均年齢が 76 歳、
わたって展示会を開催し、販売員によるプロ顔
またその8割が女性とされている。今後も、高
負けの話術や次回来場時の割引券、来場の度に
齢者自身に対する啓発とともに、被害額が高額
押印するスタンプカードなど、来場者を引きつ
になる前に気づけるよう、周囲の人による見守
ける各種の工夫や演出により、高齢者等を継続
りが何より重要である。
的に会場に通わせ、販売員と親しくなったとこ
ろで高額な商品を次々と販売する例がみられる
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