VOL.6 JANIS (Japan Nosocomial Infections Surveillance)newsletter 2012年9月発行(年4回発行) SPECIAL ISSUE 長年の 疑問が 解決! JANIS 『耐性菌』 Q& A 今号のJANIS通信 長かった猛暑が過ぎ去り、朝夕はめっきり冷え込んで きておりますが、 お変わりございませんか。 今回は、JANISで集計をしている耐性菌の定義や SPECIAL ISSUE 判定基準についての特集です。JANISサイトの 「お問 JANIS『耐性菌』 Q&A い合わせ」 によく寄せられている質問を中心に解説し JANISでの耐性菌の分類の仕方は? てまいりますので、 どうぞご期待ください。 CLSIとJANISの判定基準の違いは? また、今回からβ-ラクタマーゼについての漫画連載 ESBL産生菌が集計されない理由は? をスタートします。 お楽しみに! 「特殊な耐性を示す菌」 の分離頻度は? ●参加医療機関の現場レポート 院内感染対策サーベイランス (JANIS)事務局 http:www.nih-janis.jp/ ほか 01 JANIS 通信 VOL.6 SPECIAL ISSUE Q A JANISで用いられている 「薬剤耐性菌」、 「特定の耐性菌」、 「特殊な耐性を示す菌」の違いは? 全入院患者部門 検査部門 薬剤耐性菌 特定の耐性菌 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA) MRSA カルバペネム耐性緑膿菌 バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA) VRSA カルバペネム耐性セラチア バンコマイシン耐性腸球菌(VRE) VRE ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP) PRSP 多剤耐性緑膿菌(MDRP) MDRP 第3世代セファロスポリン 耐性肺炎桿菌 多剤耐性アシネトバクター属(MDRA) MDRA フルオロキノロン耐性大腸菌 + 第3世代セファロスポリン 耐性大腸菌 特殊な耐性を 示す菌 国内での報告がない、 もしくは報告が 比較的まれな菌 ※問題菌警告システムの対象と なっています ※次頁に関連記事が あります 上記の耐性菌は、2007年にJANIS研究班※が臨床で問題となっている菌として選出 しました。 しかし、対象菌は随時見直しており、 フルオロキノロン耐性大腸菌は、第2回 JANIS運営委員会での協議を経て、 2009年4月から特定の耐性菌に追加されてい ます。 また、感染症発生動向調査の対象にMDRA感染症が追加されたため、 2011 年1月から全入院患者部門でも対象に追加されました。 ※)厚生労働科学研究費補助金 平成18∼20年度 薬剤耐性菌等に関する研究(研究代表者・荒川宜親) Q A VREの判定基準が米国CLSI※1と JANISで異なるのはなぜでしょうか? 米国ではバンコマイシン高度耐性を示すVanA型のVREが多く、 CLSIでは微量液体希釈法でVCM≧32 μg/ml ※2が耐性となって 整理すれば それほど 複雑では ありません きらーん VREの 判定基準は 日本のほうが シビアです います。 しかし、 日本ではバンコマイシン軽 度 ∼ 高 度 耐 性を示 す VanB型のVREの報告もみられるため、感染症発生動向調査の耐性の基準は VCM≧16 μg/mlとなっており、JANISもそれに倣っています。 ※1) Clinical and Laboratory Standards Institute ※2) Werner G et al. Emergence and spread of vancomycin resistance among enterococci in Europe. Euro Surveill. 2008 Nov 20;13 (47) . pii: 19046. Review. Q A 米国CLSIは毎年判定基準を改訂していますが、 なぜJANISでは判定基準を変更していないのでしょうか? JANISでは、 ご報告いただいたMICをもとにCLSI 2007の判定基準に 則って再判定をしております。 サーベイランスの性質上、頻回に判定基準を 変更することは望ましくないため、現時点ではCLSI 2007の判定基準のまま ですが、 いずれ変更することになるかと思います。 同じ基準での データの経時的 変化を 見るためです CLSI 2008以降判定基準が変更され、JANISの 「特定の耐性菌」判定基準と異なる菌 は以下の通りです(2012年7月末現在)。公開・還元情報の解釈の際に、 ご注意ください。 ●PRSP:CLSI 2008でPCGのブレイクポイントが髄膜炎と非髄膜炎で区別 されるようになった。 ●第3世代セファロスポリン耐性大腸菌・肺炎桿菌:CLSI 2010でCTX、CAZ のブレイクポイントが変更された。 ●カルバペネム耐性セラチア:CLSI 2011でIPM、 MEPMのブレイクポイント が変更となり、DRPMも新たに追加された。 ●カルバペネム耐性緑膿菌、MDRP:CLSI 2012でIPM、MEPMのブレイク ポイントが変更となり、DRPMも新たに追加された。 院内感染対策サーベイランス (JANIS)事務局 http:www.nih-janis.jp/ 02 JANIS 通信 VOL.6 Q A Q A なぜ基質拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)や AmpC型β-ラクタマーゼ(AmpC)産生菌は 集計対象に入っていないのでしょうか? ESBLやAmpC産生菌の同定ができる施設が限られており、 なおかつ現 簡便で迅速な 検査法が 確立されると いいですね 在のデータフォーマットにはβ-ラクタマーゼの有無の項目がないため、対象に は入っていません。 その代わりに、第3世代セファロスポリン耐性大腸菌、肺 炎桿菌が 「特定の耐性菌」 の対象となっています。 「特殊な耐性を示す菌」はどれくらい 検出されていますか? サーベイランスは 精度管理が 命です! JANIS研究班 ※で特に注意が必要な耐性菌をリストアップし、 さらに A:国内で過去に報告がない薬剤耐性菌とB:国内での報告が比較的 稀な薬剤耐性菌に分けています。2009年の検査部門年報データをもと に集計した結果は、下図の通りです。2010年からはカテゴリーAの精度管理を行って いますが、2009年は一部のみしか行っていないため、VRSAなどが分離されているこ とになっています。必ず菌株の再検またはデータの修正にご協力をお願いします! ※)厚生労働科学研究費補助金 平成18∼20年度 薬剤耐性菌等に関する研究(研究代表者・荒川宜親) A 国内で過去に報告がない薬剤耐性菌(責任者と担当者に警告メールが送られます) 菌名コード 1111 1114 1131 1301 1303 ∼ 1306 菌名 Streptococcus pyogenes Streptococcus agalactiae Streptococcus pneumoniae Staphylococcus aureus 抗菌薬コード 薬剤名 感受性 入院検体 外来検体 1201 PCG S以外 19 36 1216 ABPC S以外 23 45 2301 VCM S以外 2 8 2616 LZD S以外 0 3 2301 VCM S以外 16 31 2616 LZD S以外 2 1 2301 VCM S以外 43 58 2616 LZD S以外 0 0 2301 VCM R 0 6 抗菌薬コード 薬剤名 感受性 入院検体 外来検体 2301 VCM 耐性† 975 28 2306 TEIC I, R 148 25 2616 LZD R 22 3 2306 TEIC I, R 65 16 2616 LZD S以外 38 15 2301 VCM I, R 86 30 40 2 B 国内での報告が比較的稀な薬剤耐性菌 菌名コード 1201 ∼ 1202 1205 ∼ 1206 菌名 Enterococcus faecalis Enterococcus faecium 1301 1303 ∼ 1306 Staphylococcus aureus 1311 ∼ 1325 Staphylococcus,coagulase 4400 ∼ 4403 negative (CNS) 1401 IPM/CS 右の3系統の抗菌薬について、 1411 MEPM 全ての条件を満たす 1816 AMK Acinetobacter spp. 2521 CPFX (多剤耐性アシネトバクター属) 2516 LVFX 2561 GFLX R 耐性† R 注)S, I,Rの判定は原則CLSI 2007(M100-S17) に準拠し、†は感染症発生動向調査の基準に準拠しています 院内感染対策サーベイランス (JANIS)事務局 http:www.nih-janis.jp/ 03 JANIS参加 医療機関としては めずらしい 200床未満の 病院です。 JANIS 通信 VOL.6 レポート JANIS参加医療機関の現場レポート 前回に引き続き、JANISに参加している医療機関を事務局メ ンバーが訪問しご紹介していきます。今回は山梨県北杜市立 塩川病院をレポート。病院長の都倉昭彦先生、臨床検査技 師の輿石芳夫さん、総看護師長の成島佐智子さんを中心に お話を伺いました。 JANISデータはどのように活用していますか? - 輿石さん:実は、今年度の目標が「JANISデータを有効活用し よう」 です。 当院は100床ほどの病院で検体数が少ないため、 月 報ではなく、半期報や年報のデータを感染対策委員で回覧して います。JANISにデータを出すことで、耐性菌への注意が高まり ます。特に箱ひげ図は、集計対象医療機関の中の自施設の位 置が把握できるので分かりやすいです。 ただ、PDFのページ数 が多いので、重要な部分を抜き出して編集するのが大変です。 都倉院長:年に1∼2回院内感染対策勉強会を開き、 そこでも JANISデータを活用しています。VREのアウトブレイクを経験し たスタッフが減っており、学んだ教訓が風化してしまうのを防ぎ たいという思いがあります。 都倉院長 (左) 、 輿石さん (右上) 、 成島さん (右下) 。 みなさんとても気さくでした。 2004年のVRE(バンコマイシン耐性腸球菌) 院内感染について 中小規模の病院における感染対策で、 大切なこととは? - - 都倉院長:2004年6月に院内でVREの集団発生がありました 都倉院長:院内で細菌検査を行うのはコストがかかりますが、 そ れ以上にリアルタイムにデータが出せるメリットが大きいです。 が、奇跡的に約3ヶ月で制圧することができました。 当時はベッド 輿石さん:すべてを自動検査機器に頼るのではなく、 ディスク法 間隔が狭い上に病床稼働率が100%以上であり、抗菌薬の多 も使い、 それぞれの検体に柔軟に対応しています。 当院には大 用などもVRE蔓延の原因と考えられています。対策としては、入 規模病院にはない強みがあると思います。 それは、医師、看護、 院を制限し、患者・医療従事者のゾーニングを実施しました。病 薬剤、検査など各部門のつながり、 スピードのある対応です。 院の建替えの時期と重なったため、 自動水栓の装備など環境 都倉院長:危機的な状況を経験し、 マスコミ対応に追われるな 改善にも努めました。 標準予防策の徹底を図り、 手袋・エプロン、 ど本当に大変な思いもしましたが、貴重なノウハウを得られたの ペーパータオルなどは質を落とさずともコストは抑え、惜しみなく も、 また事実です。各部門が役割をしっかりと果たすことが重要 使えるようにしています。 2004年以降、 アウトブレイクは発生し だと感じています。 ていません。 - 成島さん:各機関が調査に入ったことで、職員の標準予防策に ありがとうございました! 対する意識が向上しました。職員からのアイデアで 「あなたはそ の手でおにぎりを食べられますか?」 というポスターを作ったことも ありました。患者さんの目にも触れるので、病院全体で手洗いに 取り組んだような印象でした。毎週水曜日は水回りのチェックや 手洗いの見直しを行い、 常に意識付けをするようにしています。 輿石さん:アウトブレイクの経緯を踏まえ、 当院では細菌検査シ ステムを導入し、 JANI Sにも参加することになりました。 検査室の風景。 感染対策に関する情報は、 院内のイントラネットで共有されています。 編集後記 JANIS事務局・編集後記 柴山恵吾 皆 様 に 出 来るだ け JANISのことをよくご理 解頂くため、 スタッフと ともに頑張っています。 皆様からもご意見を頂 ければ幸いです。 宮永由弥子 鈴木里和 JANIS事務局のメンバーから一言ずつ 秋です。JANIS事 務 局 にとって秋は説明会と 新規参加登録の季節 です。多くの病院の方 が参加して下さるのは やはり嬉しいもので す。 ご期待に添えるよ う頑張ります。 ようやく秋到来。例年よ り早い10月20日にデー タ提 出・活 用 の ための 説 明 会 を 開 催します。 生の「お問い合わせ」 会場へ万障お繰り合わ せのうえご参加下さい。 瀧世志江 山岸拓也 残暑厳しい9月でした が、 すぐに肌寒い朝晩 になりました。今年は やり遂げた事よりやる べき課題が増えた気 がします。 残りの3カ月 で一つ一つ取り組み たいです。 秋刀魚・松茸・梨などの 秋の味覚だけでなく、 データ提出・活用のた めの説明会ではJANIS の旬の話題をお楽しみ ください!皆様、お待ち しております。 院内感染対策サーベイランス (JANIS)事務局 筒井敦子 http:www.nih-janis.jp/ 網中眞由美 今夏は感染管理認定 看護師を目指す研修 生にお会いする機会 が 多くありました。感 染管理を熱心に学ぶ 姿に私も初心を忘れ ず頑張ろうと気持ちが 引き締まりました。 JANIS参加医療機関の 現場レポートも3回目 を終え、 どの 病 院も院 内の連携が素晴らしい と感じました。次回は、 あなたの病院に突撃取 材させてください! 04
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