【3】 フル金型解析を迅速、容易に 鹿取事務所 鹿取 貞夫 はじめに 先に、「Cast-Designer のアウトライン」と「設計早期段階の解析」について概説した。今回は、「フ ル金型解析」、「ストレス解析」および「変形の検証」の参考情報を提供する。 前回に述べたように、Cast-Designer は設計初期段階で複数方案の迅速な解析を可能にする。 これは大きな経済効果をもたらす。それは設計技術者が自ら実行できる。使い易いため、解析の経 験が無い新人であっても実務に携われる。導入コストは低い。学習期間が短かくて済む経済効果も 小さくはない。 しかし、企業はそれに引き続き、サイクルの適否確認、金型を含めた熱遷移、熱移転、クラック、 ストレス・ストレインの解析、疲労の予測、特に最近特に重要な変形の予測を迅速に実行したい。 Cast-Designer はそのためのアドバンス機能とオプション・モジュールを提供する。 Cast-Designer の金型解析 Cast-Designer は熱、フローおよびメカニカル・ストレスのフルカップルを作成して、フル金型システム を迅速、容易に解析する「コンポーネント・アセンブリ作成」と「メカニカル解析」のオプション・プログラム を提供する。 金型を含む解析においての問題はデータ量の増大である。計算が長時間におよぶ。多くの CAE システムは数日、数週間にわたる作業を余儀なくされる。金型メッシングだけでも非常に長い時間と 労力を費やす。 Cast-Designer はユーザーの検証のネライに応じて、「シンプルで時間と労力を大幅に節減する方 法」または「詳細に解析する方法」を順次選択できる。シンプルな方法で一定の結果を得た上で、 詳細な解析に進む漸進的方法が最大の効率を生む。解析の渋滞を防ぐ。Cast-Designer のフル金 型解析は他のシステムに比べて 90%以上時間を節減できる。 一般に FEM メッシングは難しい作業とされている。また、FEM メッシュ・アセンブリもまた同様である。 それに対し、Cast-Designer は「ファスト・メッシュ」と呼ぶ高速の六面体メッシング法を提供する。在来 の FEM メッシングの 10 倍も速い。しかも非常に堅牢で、十分に高精度であり非常に使いやすい。 メッシュ・アセンブリの作成には、合理的で操作が容易なコンポーネント・グルーピングが可能である。 Boolean 操作を要しない。オブジェクトは CAD 図形、サーフェス CAD 図形、STL メッシングまたは他 のメッシュ・フォーマットの混合データでもよい。他の CAE に無い特徴である。 Cast-Designer には金型を考慮した解析のために、必要レベルに対応した 3 段階のアプローチがあ る。「クイック金型法」、「シンプル金型ボックス法」および「物理的金型法」である。ユーザーはネライに 応じて弾力的に最適手法を選択し、滞りの無い、迅速な作業進行を実現できる。 クイック金型 試行段階の「クイック 金型」は Cast-Designer CPI のチェック・ボックスをオンにすると自動的に金型 の寸法(X、Y、Z)に沿った直角ボックスが生成する。ユーザーは金型の材質プロパティおよびカスティ ング・パーツと金型の間の熱伝導率(HTC:デフォルトは 2000)を定義する。外部空間への拡散距離 を考慮してボックスのサイズはコンポーネント・サイズの 5 倍(デフォルト)程度を指定すれば 99%の場 合適合する。金型のリアル・サイズを使ってはならない。 Cast-Designer の標準機能で、フロー、熱、凝固、ポロシティ等を解析する。大きな砂型カスティン グで金型を節減するのに特に有効。無論、ダイカスティングにも使える。カスティングまたはゲート・シス テムとカスティング・パラメタの適性を検討できる。(表 1 クイック金型と物理的金型の比較参照)。 クイック金型と物理的金型(表 1) クイック金型 図形 物理的金型 図形定義の必要は無い。 金型の物理的形状を使用。様々なシェル Cast-Designer CPI が自動生成するボッ 厚さとクーリング経路も考慮する。 クスまたは適当な厚さのシェルをパーツの 周りに使用する。 メッシュ操作 クイック金型にはメッシュ操作はない。 物理的金型に対するメッシュ生成には時 間がかる。 CPI 設定 熱シミュレーション クイック金型を金型オブジェクトとして扱 物理的金型を金型オブジェクトとして扱う。 う。界面の HTC は定義可能。 界面のタイプと HTC 定義可能。 良好、迅速で非常に堅牢。 メッシュ品質が良い場合は良好。節点結 金型は熱を外部に移転できない。 合メッシュが良好な熱移転を示す。界面の メッシュ交差と熱移転を扱う。 フロー・シミュレーション 良好 良好 ストレス・シミュレーション 無し。 連結メッシュに対してストレス・シミュレーショ ンを実行できる。 シンプル金型ボックス法 「シンプル金型ボックス法」は、金型定義が未だ無 いカスティング・データに対して、金型形状相当のボック スを定義して(図 1)、解析を実行する方法。メッシン グは次に説明する物理的金型(実際の金型)法とほ とんど同じ。計算時間はシンプル金型が 5 倍から 10 倍速い。通常、両者の結果に著しい差は無い。 標準機能でフロー、凝固の解析および非常に好評 の「ファスト・クーリング機能が利用できる。 図 1 シンプル金型の作図例 「サイクル解析」(図 2~図 6)には、アセンブリ・メッシ ュのオプション・モジュールが必要、さらに「ストレス、変形の解析」にはメカニカル解析オプション・モジュ ールが必要。ストレスおよび変形シミュレーションにおいて、金型材質が硬質の場合はシンプル金型で も良好、弾塑性の場合は物理的金型の方が精確である。 物理的金型法(実際の金型) 物理的金型法は、ダイセットのコンポーネントが全て揃っている場合の解析方法である。コンポーネ ントの材質の詳細定義によって、現実に近づけ、解析精度を高めることができる。 解析に当たって、以下のパラメタ値が実際の鋳造と同じであることが必要である:アロイ成分、注 入温度、金型材質と温度、ショット曲線、プランジャの直径と速度、クーリング・チャネルの寸法、位 置、冷却力、スプレイ条件とサイクリングの各ステップの時間。 要領として、完全な充填シミュレーションをする前に、予め短い予備的なシミュレーションでモデルと ゲート・システムに存在する問題を把握して置くこと。パラメタ値を様々に変えながら、欠陥予測を試 みることである。 シンプル金型ボックスまたは物理的金型に対しては、メッシングを実施する。金型と空気環境の間 の熱移転、クーリング・チャネルと金型ボックスの間の熱移転を検証する必要があるので、サーフェス・ スキンを用意する。インレットとピストンの速度の境界条件を追加する。 これらフル金型のミュレーションはかなりの時間を要する。したがって、先ず標準機能のクイック金型 で最適化を図り、その後フル金型モデルの完全検証実施を推奨する。最初からフル金型解析をする ことは推奨できない。 Cast-Designer の特色は、このように状況に応じてフレキシブルに手法を変え、結果として最短の 時間で結果を得ることにある。 (註:Cast-Designer の特色ある高速メッシング法と熱移転を解析するための合理的な界面設定 方法については次回以降に紹介を予定)。 なお、サイクリング解析を目的として、ソルバに標準ソルバとパラレル・ソルバの 2 種類がある。パラレ ル・ソルバにはマルチ CPU オプションが必要である。パラレル・ソルバは速度だけでなく、作業軽減のメ リットがある。 2CPU4 コアは計算速度を 1.5~1.8 倍程度にする。4CPU8 コアは 3 倍程度。しかし、オプション・ プログラムのコストと、元々高速である Cast-Designer の計算をその程度速めるメリットは必ずしも重 大ではない。ただ、2 人のオペレータが同時に利用するような場合は、投資額の節減になるかも知れ ない。 サイクル解析 図 2 カスティング・サイクル サイクル解析の目的は、生産数の増加および金型の正確な温度分布と各ステップの境界条件が カスティング・パーツに及ぼす影響を知ることである。 手順として、カスティング・パーツ・メッシュ、金型メッシュを追加し、カスティングと金型の間の界面を 設定する。Cast-Designer にはアセンブリ・メッシュ間の界面設定に優れた機能がある。 HTC 定数と下記項目を定義する:合計サイクリング時間、充填開始、型開き、排出、スプレイ開 始、終了、型閉じ、次サイクル開始の各時間。一般に、高圧ダイカスティング・サイクルは次のステップ からなる。タイム・スパンはラフな見積である。相互依存関係がある。 − メタル取鍋(コールド・チャンバ)、3-5 秒 − ダイ・スプレイ、4-16 秒 − ショットとパーツ凝固、6-15 秒 − ダイ冷却と乾燥、3-15 秒 − 必要な場合、コア前進動作 4-7 秒 − 型閉じ、1-2 秒 − 型開き、パーツ排出、2-15 秒 − 必要な場合、コア後退動作 4-7 秒 − パーツ除去その他のステップの検証 トー ータル・サイクル ル時間は必要 要なステップと とステップ長さに に影響するファ ァクタに依存す する。 サイ イクリング・シミ ミュレーション終 終了後、そこか から金型温度 度を抽出し、新 新しい充填と と凝固シミュレ レーショ ン・モデルを定義し して、新しいシ シミュレーション ンに使用する。 図 3 解析結果 果後の金型温度 度 分布 図 4 冷却チャネ ネル付近の 温度変 変化 図 5 左図パーツ ツのサイクル温 温 度変化 化 図 6 左図金型 型の複数点のサ サ イクル温 温度変化 ストレス・シミュレーション ストレス・シミュレーションは、いくつかのタスクから成り立つ非常に複雑な課題である。温度と凝固 の正確な予測と材質の正確なモデルがストレスと変形をシミュレーションする基礎である。ストレスとそ の結果は金型の熱遷移と材料凝固によって惹き起こされる。ゲーティング・システムを含むカスティン グ・パーツの図形によっても影響される。熱、メカニカルと材質モデルは独立的ではなくて、互いに強く 作用し合うものである。 Cast-Designer にはストレス解析のオプションモジュールがある。ストレス解析から、カスティング・パ ーツと金型の変形が予測できる。シミュレーションはすくなくとも次の結果を提供する。 カスティング・パーツ変形: Cast-Designer はカスティング・クーリングの間の熱ストレス・シミュレー ションをする。変形はパーツにトレランスからの逸脱と、場合によりクラックを惹き起こす。 熱間亀裂(クラック): カスティングはしばしば熱間亀裂欠陥を起こす。熱間亀裂は凝固の間に形 成する。原因は引張歪である。個液共存のゾーンで体積欠損を生成する。それが残りの流体で補 給できないとき熱間亀裂が生じる。これはカスティング後方領域で起きやすい。検証には、全体温度 の動きについての知見が必要である。 金型寿命と疲労: 熱疲労のインデックスで金型寿命を推測する。インデックスであるから、5 は 8 より短いという相対推測をする。実際の金型寿命はメンテナンスはじめ多くの外因によるところが非常 に大きい。 干渉とギャップ: サイクル熱解析と合わせると、カスティングと金型の間のギャップの可能性を推測 できる。ギャップは熱伝達に影響するのでストレス計算には非常に重要。FEM ソフトだけがこのシミュ レーションができる。 変形のシミュレーション メカニカル・ストレスの“速いシミュレーション法”を紹介する。金型形状に代えてアセンブリを囲うシン プルなシェルを使う。シェル厚さはメッシュ・サイズの 2~3 倍が時間と精度の間に適度のバランスをもたら す。 [手順は次の通り] シェルを作成(図 8) 固定節点を指定(図 9) 熱移転を反映するスキン作成(図 10) [情報として例えば下記を使う] カスティング材質: AlSi7Mg03-A356 ストレスのカスト材質:A356_(弾塑性応力) 金型材質:STEEL_AISI_H13(Stress) カスティング温度:625 金型温度:220 凝固とメカニカルの計算、またはフロー/熱/ストレスのフルカップルの計算をする。カスティング・オブジ ェクトと金型(シェル)のメッシュと材質を定義、固定節点を境界条件に追加、熱移転を設定、最終 温度を調整して、シミュレーション入力準備を完了する。 シミュレーションの結果は(図 11~図 26)に示す。ワイヤフレーム・モデルでオリジナルと比較して変 形を検証する。 [変形検証の手順] 図 7 参照モデル 図 8 シェル作成 図 9 固定節点指定 図 10 スキン作成 [以下は結果を示す] 図 11 X 方向の変位 図 12 Y 方向の変位 図 13 Z 方向の変位 [ワイヤフレーム・モードで変位をチェックする] 図 16 オリジナルと比較 図 14 ワイヤフレーム 図 15 部分拡大 [各種の例] 図 17 ノートブック・ケーシングのストレス 図 19 エンジンブロックのストレス 図 21 部分 図 23 インベストメント・カスティングのストレイン 図 25 断面 図 18 左の変形 図 20 左の変形 図 22 左の 5 倍拡大 図 24 ストレス 図 26 断面拡大 おわりに ダイカスト解析ソフトは過去非常に高額で、高いメンテナンス費用を要した。技術者費用も少なく ない。それは優れた研究的成果を生んだ。しかし、計算に長い時間を要するため Time to Maket の 要請には対応できない。年間数百型の需要が無いいと採算が取れない。一旦滞るとタイムラグの解 消が難しい。 そのため、比較的安価なシステムが開発され、ユーザーのメリットに貢献して来た。しかし、現実に は、簡易で速いと称される FDM のシステムには、精度が不足で、時間が掛かり過ぎるという不満が ある。 Cast-Designer は高速と精度を提供する FEM システムである。しかも、低価格である。「標準機 能」で効果を挙げた後、「アドバンス機能」に入る段階を踏めば、利用効果を十分に挙げることがで きる。標準機能のユーザーから、すでに不良率削減に高い効果を挙げているという報告を得ている。 「ゲート・システム設計機能」は相乗効果を持つため、これを含めたパッケージを推奨するが、あえ てこれを割愛するなら、Cast-Designer は世界最低コストの CAE ソフトウエアである。 おそらく企業にとっての課題は、設計、解析、製造各部門間の調整にあると思われる。今は、海 外生産、加工が製造業の常態となった。工程情報のフロント・ローディングと部門間の円滑なすり合 わせが企業の生命線である。設計早期段階で速やかな工程検討を実現する Cast-Designer は、そ の確かな支えとなる。 鹿取事務所: 〒222-0002 横浜市港北区師岡町 1062-3 メール:[email protected] 開発元(資料提供): C3P International Software Co. Ltd. USA, Hong Kong, Quanzhou
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