テキスト

自然科学実験
C4
ものさしで測る分子の大きさと表面圧
-気液界面の単分子膜-
改訂版テキスト
平成 27 年 5 月 13 日の C4 実験は、このテキストに従って行います。このテキストは、北海
道大学自然科学実験編集委員会 編「自然科学実験」
(学術図書出版社)第1版第8刷の内容を
一通り含んだ上で、発展させています。このテキストの画像が不鮮明な場合・内容が不明瞭な場
合は、
「自然科学実験」のテキストの該当箇所を参考にしてください。
この実験は、予習必須です。
下記の予習を行ってください。行っていないと、規程時間内に実験を終了できません。
(1)予習課題を解いてくること(実験ノートに記す)。
(2)テキスト全体を一読し、下記をフローチャート形式でノートに記すこと。
実験1 「実験操作と解析」の(1)~(10)までを記す
実験2 「実験操作と解析」の(1)~(22)までを記す
(実験1と実験2の間には、1~2ページの空白を開けておくと良い。)
(3)課題の内容を把握し、実験終了時に試問されたときに答えられるよう、準備すること。
(2)については、テキスト p.10~の注意を参考にすると良い。
実験 1 および実験 2、二つの実験があります。
番号1~24の人は、実験1から開始し、終了後、実験2を行います。
番号25~44の人は、実験2から開始し、終了後、実験1を行います。
担当教員: 景山義之(理学研究院 化学部門)
[email protected]
本実験に関するウェブページ
http://www.sci.hokudai.ac.jp/~y.kageyama/public/chem/
レポートの作成について
今回の実験のレポートは、以下の構成で作成し、期限までに提出すること。
※枚数制限は厳守すること。行数については、目処です。図示なども適切に入れると良い。
※コメント返却を希望する場合は、コピーをとり、10 枚を一部に閉じて提出する。
(作成分を前にし、コピー版を後ろにして閉じること。5/19 までに提出すること。)
【一枚目:レポート用紙1枚限定】
・スタンプ
・実験テーマ
・実験1・2を通じた目的 (2~3行)
【二枚目:実験1について:レポート用紙1枚限定】
・目的
(1行)
・用いた原理
(2~8行)
・実験方法
(2~8行)
・実験結果
(2~8行)
・考察
(2~8行)
・結論
(1~2行)
2 枚目の、結果・考察・結論に、課題(1)(2)の内容を含めること。
【三枚目:実験2について:レポート用紙 1 枚限定】
・目的
(1行)
・用いた原理
(2~8行)
・実験方法
(2~8行)
・実験結果
(1~8行)
「結果のグラフを次ページに記す」の1行でも可。
表形式のデータの掲載は不要。
・考察
(1~5行)
・結論
(1~2行)
3 枚目の、結果・考察・結論に、課題(3)の内容を含めること。
【四枚目:実験2の結果(グラフ用紙 1 枚限定。p.11 参照。
)】
(グラフに記載された、実験結果についての書き込みも評価対象。
)
【五枚目:全体を通じたまとめ:レポート用紙 1 枚限定】
・実験1・2を通じた結論
5 枚目に、課題(4)の内容を入れること。
・(任意で)感想・意見
2 枚目の例:小見出しを目立つようにつけること。(中央揃えでも左寄せでも構わない。)
目
的
ステアリン酸の単分子膜の厚さを・・・・・・・。
用いた原理
ステアリン酸は、両親媒性分子である。両親媒性分子は、
・・・・・・・
1. 全体の目的
疎水性のアルキル基(C17H35-)と親水性のカルボキシ基(-COOH)をもつステアリン酸(図 1-a)を水
の表面に置くと、図 1-b の模式図のようにカルボキシ基を水に浸した分子の膜ができる。既知の重さのス
テアリン酸を、ものさしで測ることができる広さの水面に並べて、分子1層からできた膜(単分子膜)を作
る。水面の表面積とそれを覆い尽くすのに必要なステアリン酸の量から、ミクロな値である単分子膜の厚
さを求めることができる。つまり巨視的な測定量からミクロな分子の大きさを知ることができる。
そこで、ものさしで測ることができる水面を、ステアリン酸の単分子膜で覆うことで、ステアリン酸の単分
子膜の厚さ(ステアリン酸の分子の長さ)とステアリン酸の分子の断面積を求める。
さらに、ステアリン酸の単分子膜の密度を変えたときの表面張力の変化を測定により明らかにし、その
測定から計測されるステアリン酸の分子の断面積を求める。
図1 (a)ステアリン酸分子のモデル例 (b)水面上のステアリン酸分子の2次元的な配列模式図
2. 予習課題
今回行う実験方法のほかにも、分子の大きさや形について様々な方法で調べられている。たとえば、
中性の分子からできた分子性結晶を、X 線結晶構造解析によって調べることで、以下のように、経験的
に、原子の大きさ(ファンデルワールス半径)や結合長、結合角の大きさが求められている。
・ファンデルワールス半径の値:H: 0.120 nm、–CH3: 0.200 nm、–CH2–: 0.200 nm、
F: 0.135 nm、Cl: 0.180 nm、Br: 0.195 nm、I: 0.215 nm
・典型的な結合距離:C–C: 0.154 nm、C–H: 0.109 nm
・典型的な結合角:単結合だけをもつ C 原子、たとえばメタン CH4 の C は正四面体の中心に
位置し、結合角は cos  = -1/3 を満たす値となり、109.5°である。
なお、化学便覧(日本化学会編、丸善)など他の文献を調べると、結合距離や結合角、さら
にほかの詳しいデータが記載されている。
(1) 自分が考えるステアリン酸の分子構造を図示し、その構造のアルキル基の長さ(単位:nm)
を、上記の値(あるいは別の文献の値)を用いて求めよ。
(2) 自分が考えるステアリン酸の分子構造(断面図)を図示し、その構造の断面積(単位:nm2)
を、上記の値(あるいは別の文献の値)を用いて求めよ。
なお、分子のモデルの組み方は様々あり、正答があるわけではない。(予習課題としては自分の
考えるモデルを一つ提唱し、それについて長さ・断面積を求めれば良い。
)
1
3. 実験1
ものさしで分子の長さを測る
目的
ステアリン酸の単分子膜の厚さ(ステアリン酸の分子の長さ)と分子の断面積を求める。
原理
ステアリン酸を水の表面に置くと、図 1-b に示すように、水面に分子の膜ができる。水面の面積に対す
るステアリン酸の量が、十分に少ないときには気体状単分子膜が形成される。ステアリン酸の量を多くす
るにつれ、液体状単分子膜、固体状単分子膜へと変化していく。この固体状単分子膜が形成されてい
るときが、ステアリン酸が水面を覆い尽くした状態である。
ところで、水面上に油滴を 1 滴おくと、その油滴がすぐに拡がる場合と拡がらないで留まる場合がある。
これは、水面の表面張力に依存している(詳細は「7.2 表面張力」「7.4 水面の油滴の形と拡張係数」を参
考)。すなわち、表面張力の大きい気体状単分子膜・液体状単分子膜が形成されている水面上では、
油滴はすぐに拡がって(溶媒が)蒸発していくのに対し、表面張力の小さい固体状単分子膜が形成され
ている水面上では、油滴はすぐに拡がらず、レンズ状の形を保った状態で(溶媒が)蒸発する。この性
質を利用することで、水面をステアリン酸が覆い尽くしたことを目視で確認することができる。
※他グループでは,終了点の判断を「核ができるまで」とか、「何秒間消えないまで」、と教わる場合があ
る。本実験では、元のテキストの原理の通り、「レンズ状の形を保つ」まで、とする。
実験器具と試薬
大バット ・ テフロンコートバット(茶色のテフロンコート付き) ・ テフロンの棒状の板2本 ・ 30 cm
ものさし ・ 500 mL カップ ・ 1 mL シリンジ ・ ステアリン酸のシクロヘキサン溶液(濃度 100
mg/L)
・ 少量のイオンを含む水 ・ エタノールとシクロヘキサン(洗浄用)
注意事項
有機溶媒を用いるときは、ポリエチレン手袋をつけること。
テフロンコートバットのテフロンコートを傷つけないように注意すること。
シリンジは、使用後、ただちに瓶に入ったシクロヘキサンで洗浄すること。
図2 実験器具のセットアップ
2
実験操作と解析
準備
(1)
テフロンコートバットを、エタノールをしみこませたケミカルペーパーで拭いた後、水で
洗浄する。
(2)
図 2 のように大バット・テフロンコートバットを置く。
(3)
「少量のイオンを含む水」を 500 mL カップに汲み、テフロンコートバットへ、縁から盛
り上がるまで静かに注ぎ入れる。
(4)
2 本のテフロンの板をそろえて水面の一端に置き、そのうち内側の 1 つを水面上をはくよう
に、およそ 10 cm 平行移動させる。これにより、2 本の板の間に清浄な水面ができる。
(5)
作った水面の辺の長さをものさしで測る。
測定
(6)
ステアリン酸の 100 mg/L シクロヘキサン溶液を、およそ 0.7 mL、空気を入れないように
シリンジにとり、その時の目盛りを読む。
(7)
このシリンジを用いて、溶液を 1 滴、静かに、水面の中央におとす。
(8)
溶液が水面でどのように拡がっていくかを観察する。
(9)
水面のシクロヘキサンが蒸発したら、さらに溶液を 1 滴、静かに水面の中央に落とし、観
察する。この操作・観察を、液滴が拡がらなくなるまで繰り返し行う。
(10)
液滴が拡がらなくなったとき、シリンジの目盛りを読む。
解析
(11)
水面の面積を算出する。(単位: cm2)
(12)
滴下したステアリン酸のシクロヘキサン溶液の容量を求める。(単位: mL)
(13)
滴下したステアリン酸の重量を求める。(単位: mg)
(14)
ステアリン酸の固体(結晶)の密度は 1.04 × 103 mg/cm3 である。これを用いて、水面上
にできたステアリン酸の分子膜の厚さを求める。(単位は cm および nm の二通りで)
(自宅で)課題(2)を解く。
片付け
(15)
シリンジは、ガラス瓶に入れたシクロヘキサンで洗浄する。
(16)
テフロンコートバットを大バットの中に入れたまま、流しにバットを移動し、水を捨てる。
(17)
大バット・テフロンコートバット・テフロンの板を流水で洗浄する。
(18)
器具類を所定の位置に戻す。
※求めた値に自信がないときには、(1)-(17)について、2 回実験を行っても良い。複数回行った
場合、レポートの実験結果には複数回の結果を記載すること。結論に用いるための値の選別は、
考察において行うこと(考察の前で値の選別を行わないこと)。
4. 実験2
表面圧と2次元的な分子集合状態
目的
ステアリン酸一分子の断面積を求める。
原理
一定量のステアリン酸が気体状単分子膜を形成している水面の面積を小さくしていくことでも、液体
状単分子膜・固体状単分子膜を形成させることができる。また、これに伴い、表面張力は減少(表面圧
は増大)していく「表面圧」および次段落参考。たとえば、ステアリン酸の場合、面積 A を小さくして
3
いくと、図 3 に示すように、ある面積以下で表面圧は急に大きくなっていく。これは水面上にステアリン
酸の 2 次元の固体状単分子膜が形成されたためである。さらに面積を小さくして圧縮すると、この固体
状単分子膜は崩壊する。このプロット上で、崩壊する前の傾きを = 0 まで直線的に外挿したところの面
積 AΠ→0 を 1 分子あたりに直したものを極限面積という。
図3
水面上でのステアリン酸分子の凝集状態の面積依存性
今回の実験では、つり板型表面張力計(図 4)を用いて、面積 A と表面圧の関係を計測する。なお、
表面圧は、測定水面の表面張力(o)と水(清浄水面)の表面張力(w)の差として定義される(式 1)。
Π
γo
γw 1
この装置のガラス板にかかる力を図 4-c に示す。力のつり合いから、装置にかかる力-F は式(2)で表
される。
-
2
2γ 2
但し、Fg と Ff は、それぞれ重力と浮力であり、Fはガラス板が表面張力によって引かれる力である。測
定中、Fg と Ff の値が一定である場合、F の値の変化から表面圧の変化を算出することが可能である。
図4
つり板型表面張力計の装置図(a,b)と装置とガラス板にかかる力(c)
4
実験器具と試薬
つり板型表面圧計(ウィルヘルミーの表面圧計) ・ ガラス製つり板(横幅約 2.38 cm) ・ 500 mL カ
ップ ・ 100 μL マイクロシリンジ ・ ピンセット ・ 校正用 200 mg 分銅 2 個 ・ マイナスドライバ ・
ものさし ・ 水流ポンプ式吸引器(流しに接続されている) ・ ポリエチレン製手袋 ・ ステアリン酸の
シクロヘキサン溶液(濃度 100 mg/L)
・ 少量のイオンを含む水 ・ エタノールとシクロヘキサン(洗浄
用)
注意事項
有機溶媒を用いるときは、ポリエチレン手袋をつけること。
表面圧計のコントロール部・表示部を水で濡らさないこと
ガラス製吊り板は割れやすいので、取り扱いに注意。割れた場合は、速やかに教員に報告すること。
マイクロシリンジは、使用後、ただちに瓶に入ったシクロヘキサンで洗浄すること。
分銅はピンセットで扱い、決して素手で触らないこと。
測定中は、圧縮バリアの L 字型の角を、かならずトラフの縁に添わせること。浮かせたり、斜めに向け
たりしない。また、測定中に、トラフの移動方向を逆転させてはならない(勝手にやり直さない)。
実験操作と解析
装置の洗浄と設置
(1)
ポリエチレン手袋をはめる。
(2)
トラフ(緑の容器)と圧縮バリア(L 字型の緑の棒)を、エタノールをしみこませたケミカ
ルペーパー、シクロヘキサンをしみこませたケミカルペーパーで、順次よく拭く。
(3)
水準器をトラフの上におき、トラフの四隅のネジを調整してトラフを水平かつ揺れないよ
うにし、水準器を片付ける。
(4)
ガラス製の吊り板の白く曇ったすりガラスの部分を、エタノールをしみこませたケミカル
ペーパーと、シクロヘキサンをしみこませたケミカルペーパーで順次軽く拭き清浄にする。
(払うようにふくこと。指でこするようにふくと割りかねない。)
(5)
ガラス製吊り板についている金属製フックをピンセットで持ち、表面圧計の測定用フック
①に静かにのせる。
装置の校正
(6)
今回の実験では、測定用フックにガラス板の重力のみがかかった状態を、測定の原点(ゼ
ロ点)とする。そこで、表示部②の数値が安定したら、その数値が 0.0 (±0.2) mN/m にな
るように、調整ダイヤル(ZERO ADJ.)③を回す。
(7)
ピンセットを用いて、200 mg の分銅をガラスの吊り板の両肩に一個ずつ静かにのせる。表
示部②の数値が安定したら、その数値が-82.4 (±0.2) mN/m になるように、SPAN ダイヤ
ル④をマイナスドライバで静かに回す。
(8)
ピンセットを用いて、分銅を静かに取り外したとき、表示部②の値が 0.0 (±0.2) mN/m に
なるか確かめる。値が合わない場合は、(6))~(8)を繰り返す。
(9)
ピンセットを用いて、ガラスの吊り板を、測定用フック①から外し、リザーブ用フック⑤
にかける。
5
清浄水面の表面張力測定
(10)
500 mL カップを用いて、
「少量のイオンを含む水」を、トラフへ、1~2 mm 程度盛り上が
るまで注ぐ。
(11)
2 本の圧縮バリアを、トラフの左端(バリアの左端が 190 の目盛り付近)にそろえて置く。
(12)
右側の圧縮バリアを、トラフの縁を滑らせながら、スケール(図 4)の 20 の目盛りあたり
まで動かす。これにより、2 本の圧縮バリアの間に清浄な水面ができる。
(13)
ガラスの吊り板を、リザーブフック⑤からはずし、すりガラス部分をトラフの水にしっか
り浸して濡らした後、測定用フック①に静かに吊す。
(すり板部分がしっかり濡れていない
と、水をはじいてしまい、図 4(c)のような状態にならなくなる。)
(14)
表示部②の数値が安定したら、その値(値 a)を記録する。このとき、数値が 0~-60 mN/m
の間にある場合は、一度つり板を外し、(13)の操作を水にしっかり浸して再度行う。数値が
0 mN/m の場合は、ガラス板が水面に接していないので、教員に相談をすること。
(15)
左のバリアを、トラフの縁を滑らせながら(決して浮かせないこと)、静かに右方向(つり
板の左端から 1 cm ぐらいまで)に移動させる。このとき、表示部②の数値に大きな変化(1
mN/m)がないことを確認する。液面が清浄ならば、浮力・表面張力の値は変わらない。大
きく変化する場合は、教員に相談すること。
(16)
左のバリアを、トラフの縁を滑らせながら、静かに左に動かし、元の位置に戻す。右のバ
リアは、つり板の右端から 1 cm ぐらいのところまで滑らせながら移動させる。
表面圧の測定
(17)
マイクロシリンジを用いて、ステアリン酸の 100 mg/L シクロヘキサン溶液 90 L を水面
上に静かにのせる(実際の滴下量を読み取り、ノートに記載すること)。(下線部:教科書
では 100 L であるが、ここでは変更する。)
(18)
マイクロシリンジをドラフト内の瓶に入ったシクロヘキサンで洗浄する
(19)
スケール(図 4)で、左側の圧縮バリアの右端と、右側の圧縮バリアの左端の位置(それぞ
れ値 b と値 c)を読み取り、記録する(図 5 にノートに記録する表の例を示す)
。
実験値
実験値
計算
横軸
左バリアの
位置(cm)
右バリアの
位置(cm)
左右バリア
の間隔(cm)
液面の面積:
値b
値c
値b-値c
(値b-値c)×5.00
18.50
18.00
17.50
2.50
2.50
2.50
8.40
8.40
2.50
2.60
A/cm
2
16.00
80.0
15.50
77.5
15.00
75.0
( 中 略 )
5.90
29.5
5.80
29.0
実験値
縦軸
表示された
数値
表面圧:
Π/(mN/m)
値d
値d-値a
-59.0
-59.0
-58.9
1.0
1.0
1.1
-9.5
-12.1
50.5
47.9
図5 ノートに記載する表の例:網掛け部分は計算によって算出する項目
(頭が冴えている人は、A とΠの列を計算しなくても実験可能。(25)の【※】参照。)
(20)
表示部②の数値(値 d)を記録する。なお、値 d と値 a の差(測定している液面の表面張
力と水(清浄水面)の表面張力の差)が、今回求める表面圧である。
(21)
左側の圧縮バリアを、トラフの縁を滑らせながら(決してバリアを浮かせてはならない)
右に動かし、バリアの位置(値 b と値 c)および、表示部②の数値(値 d)を記録する。
※この操作を次項に示す「測定終了」まで繰り返す。圧縮バリアは下記の量を動かす:
測定開始から表示部②の値(値 d)の変化量が 2 mN/m 未満のとき: 5 mm
6
表示部②の値(値 d)の変化量が、2 mN/m を越えて以降、最後まで: 1 mm
※表示部が一定になるとは限らない。動かした 5 秒後の値を読み取り、連続的に実験を行
うことがコツ。予想外の値の変化があった場合でも、連続的な計測実験は継続すること(ノ
ート担当の学生は、メモ書きをしておくこと)
。また、規定量以上バリアを動かした場合で
も、実験を継続すること。逆向きに動かすと、全てのデータが無効になる。
※最終的に、液面の面積と表面圧の関係をプロットできればよいので、記録内容を各自の
理解に合わせて変更してもよい。解析およびプロット作成を、測定と並行してもよい。
(22)
図3に示すように、液面の面積減少に伴い、表面圧(値 d と値 a の差)は変化する。すな
わち、当初はほとんど変化がない一方、ある時点から値が大きくなってくる。さらに面積
を小さくすることにより、単分子膜が崩壊する。崩壊したとき、値 d が急激に小さく(絶
対値が大きく)なったり、ほとんど変化しなくなったりする。この崩壊が確実に観測され
たら、
「測定終了」とする。なお、左側の圧縮バリアをガラス板の左端 1 cm まで動かして
も崩壊が観測されない場合、右側の圧縮バリアを左に動かすことで、面積を減少させる(ガ
ラス板の左右 1 cm のエリアにバリアを入れないこと)。
解析
(23)
各測定回について、値 b と値 c の差、およびトラフの奥行(5.00 cm)から、液面の面積 A を
求める。
(24)
各測定回について、値 d と値 a の差(表面張力の差)から、ステアリン酸分子膜の水面上
での表面圧を求める。※
(25)
図 3 にならって、ステアリン酸分子膜の水面上での表面圧と面積 A の関係をグラフ用紙
にプロットする。さらに、AΠ→0 を求める。グラフを、グラフ用紙にできるだけ大きく描く
ことで、求められる AΠ→0 の値の誤差は小さくなる。
グラフ作成法は、テキスト p.11 参考。
【※頭が冴えている人限定】グラフの横軸を[(23)で求めた値または値 b]、縦軸を[マイ
ナス d]で作成し、その後、軸の値を変換し、表面圧と面積 A のグラフにしても良い。
(自宅で)課題(3)を解く。
片付け
(26)
ポリエチレン手袋を装着する。
(27)
ピンセットを用いて、ガラス製吊り板を測定用フックから外し、ガラス製の吊り板の白く
曇ったすりガラスの部分を、エタノールをしみこませたケミカルペーパーと、シクロヘキ
サンをしみこませたケミカルペーパーで順次軽く拭き、元のガラスケースに戻す。
(28)
トラフの水は吸引器によって排液する。
(29)
トラフおよび圧縮バリアを、エタノールをしみこませたケミカルペーパー、シクロヘキサ
ンをしみこませたケミカルペーパーで、順次よく拭く。
(30)
すべての備品類が、元の場所に戻っていることを確認する。
5. 課題
(1)
実験1より、ステアリン酸の分子膜の厚さを求めよ(実験1(14)と同じ課題)。
(2)
実験1の結果から、アボガドロ定数を用いて、水面上の分子膜の中のステアリン酸分子 1
個あたりの、水面に平行に取った断面積を求めよ。
(3)
実験2(25)で求めた AΠ→0 から、ステアリン酸1分子あたりの断面積を求めよ。なお、膜を
形成しているステアリン酸の分子の数は、アボガドロ定数を用いることで求められる。
(4)
ステアリン酸の長さおよび断面積について、予習課題で推定した構造や値と、実験で求ま
った値などを比較し、自身の意見を述べよ。
7
6. 参考
6.1 有効数字について
今回の実験では、長さを 3 または 4 桁、溶液の容量を 3 または 4 桁で計測可能である。一方で、ステ
アリン酸のシクロヘキサン溶液の濃度は有効数字 3 桁で表されているので、今回の実験での有効数字
は 3 桁でよい。実験 2 のプロットからの値の算出では、統計による誤差の見積もりが必要となるが、本実
験では求めない。
6.2 表面張力
液体は、分子間に引力が働いて分子が集まることにより、その状態を保つ。図 6 に模式的に示すよう
に、液体の内部では、1つの分子はまわりのすべての分子と引き合い、エネルギーが低い安定な状態と
なっている。液体の表面では引き合う分子の数が少ないためエネルギーが高い不安定な状態にある。
そこで、できる限り表面積を小さくして安定化しようとするため、小さな液滴は球形となる。同じ体積で最
も表面積が小さいのは球である。表面張力の大きさは表面積 A を微小面積 dA 増やすのに必要なエネ
ルギーdG を用いて次式のように表され、
γ
d
3 d
その単位は J m-2 である。J = N m であるため、Nm-1 と表すこともでき、これは単位長さあたりに働く力とも
考えることができる。J(ジュール)はエネルギーの単位、N(ニュートン)は力の単位、m(メートル)は長さ
の単位である。
図6
水表面の分子と内部の分子の引力の違い
6.3 表面圧
水面上に油を1滴置くと、それが円形のレンズ状になって留まる場合と、油が拡がって薄い膜になる
場合がある。水面で油が拡がっていくとき、水面の面積が十分広ければ油は非常に薄い膜となり、つい
には単分子膜となる。さらに拡がると、油の分子間の距離が平均的にはかなり長くなる。この水面に浮か
ぶ油が拡がろうとする力を表面圧という。図3に示すように水を張ったバットの水面に、面積 A を調節す
る棒 E と仕切り S を置き、左側の水面に油を浮かべたときの表面張力をo、右側の清浄な水面の表面張
力をw とすると、油が拡がろうとして S にかかる表面圧Πは 4 ページの式(1)で与えられる。これはちょう
ど 3 次元の普通の気体の圧力と似た量であり、油の膜の分子密度が極めて低い極限では 2 次元の気体
と考えてもよい。この膜を作る物質(油)について、通常の 3 次元の気体の状態方程式 P V = n R T と同
様な状態方程式、 A = n R T が成立する。ここで A は薄膜の面積(図 7 の E と S ではさまれた面積)、
n は油の物質量、R は気体定数、T は絶対温度である。この表面圧を利用して油などの水に溶けない分
子の大きさなどを求めることができる(ラングミュアの表面圧計)。
8
図7
水面を上から見た図。油を浮かべた水面の表面張力o と清浄な水の表面張力w
なお、ある一定温度で面積 A を変化させ、表面圧を測定してプロットすると、3 次元に広がる物質の
場合の等温線(P-V 曲線)と同様に、一般的には 2 次元の気体状態、液体状態、固体状態が現れる。し
かし、その温度が室温で現れるとは限らない。膜を作る物質に依存する。
6.4 水面の油滴の形と拡張係数
一方、水面の面積 A を固定して、水面に置くステアリン酸分子の数を次第に増やしていけば、水面上
のステアリン酸の分子膜を 2 次元固体に近づけていくことができる。
一般に、水面上に油を 1 滴置くと直ちに薄く拡がる場合と、レンズ状になってそのままでいる場合があ
るが、この違いを考えてみる。油が拡がるかどうかは次式(4)で示すの値が正か負かできまる。



 4
ここで、w、a、i はそれぞれ水の表面張力、油の表面張力、および水と油の界面張力であり、図 8 は
これらの力の関係を図示したものである(a とo の違いに注意。7.3 の表面圧は 2 次元の膜。ここは 3 次
元の油滴。)。(4)式と図 8 からわかるように、 > 0 ならばw > a + i であり、点 P で油滴は引っ張られて
拡げられ、逆に <0 ならばw < a + i であり油滴は押されてレンズ形状を保つことになる。このためΓは
水面上での油の拡張係数と呼ばれる。たとえばシクロヘキサンやベンゼンは清浄な水面では > 0 であ
り、四塩化炭素や流動パラフィンは < 0 である。ステアリン酸など室温で固体の脂肪酸はそのままでは
水面には拡がらないが、シクロヘキサンやベンゼンに溶かした希薄溶液にして水面に滴下すると > 0
となるため拡がる。拡がるとともに溶媒のシクロヘキサンやベンゼンは蒸発して水面からなくなるため、水
面には脂肪酸の分子膜が残る。脂肪酸の分子が水面を覆いつくして単分子膜ができると、この水面の
表面張力が小さくなり、さらに溶液を滴下していくとシクロヘキサンやベンゼンに対しても < 0 となり、も
はやシクロヘキサンやベンゼンも水面で拡がらず液滴として留まるようになる。これを目で観察すれば水
面に脂肪酸の密な単分子膜ができたことがわかる。
図8
9
水面上の油滴の形状と表面張力
7. その他の注意
7.1 フローチャートの作成とノートの準備例
実験を行うに当り、実験時の操作をフローチャートにまとめることで、実験の流れを把握す
ることは基本である。また、実験時は、基本的にフローチャートを見ながら操作を行うのであっ
て、教科書を見ながらの操作はしない。最先端の研究を行う場合、そもそも教科書はなく、自分
で計画を立てたスキーム(フローチャート)によって実験を行うものであり、学生実験はその演
習である。
初めての実験であり、テキストを読んでも分からない操作は当然ある。たとえそうであって
も、予習段階でフローチャートを作成してくること。その上で、実験開始前の説明を聞き、フロ
ーチャートに修正を加えたり、それでも分からない場合には、質問をしたりすること。
図 9 は、フローチャートの一例である。この例のように、一目で操作が分かるように、簡潔
に記すことは重要である。作成に当たっては、教科書の記述を整理して見やすく記載するべきで
ある。また、図などを記載したり、観察結果を絵で描いたりすることも良いであろう。
準備
(1)
(2)
ポリエチレン手袋着用
トラフとバリアの洗浄(エタノールをしみこませた紙)
トラフとバリアの洗浄(シクロヘキサンをしみこませた紙)
(3)
(4)
トラフを水平にする(水準器使用)
ガラス板の曇った部分を軽く拭く(エタノールをしみこませた紙)
ガラス板の曇った部分を軽く拭く(シクロヘキサンをしみこませた紙)
準備
15:30
(1)
15:31
(2)
15:32
ポリエチレン手袋着用
トラフとバリアの洗浄(エタノールをしみこませた紙)
トラフとバリアの洗浄(シクロヘキサンをしみこませた紙)
15:34
(3)
ペアが実施
(4)
ペアが実施
トラフを水平にする(水準器使用)
ガラス板の曇った部分を軽く拭く(エタノールをしみこませた紙)
ガラス板の曇った部分を軽く拭く(シクロヘキサンをしみこませた紙)
割らないように注意した 校正
(5)
(6)
(7)
ガラス板をフックにかける(ピンセット使用)
表示部の値を 0.0 (±0.2) mN/mにする(Zero Adj.)
200mgの分銅をガラス板の両肩に一つずつのせる
表示部の値を-82.4 (±0.2) mN/mにする(Span ダイヤルを-ドライバで)
(8)
(9)
清浄水面
表面張力測定
(10)
分銅を外す
※0.0 (±0.2) mN/mにならなかったら(6)に戻る
ガラス板をリザーブ用フックへ
校正
15:36
(5)
15:36
(6)
15:37
(7)
15:38
ガラス板をフックにかける(ピンセット使用)
表示部の値を 0.0 (±0.2) mN/mにする(Zero Adj.)
200mgの分銅をガラス板の両肩に一つずつのせる
表示部の値を-82.4 (±0.2) mN/mにする(Span ダイヤルを-ドライバで)
15:38
(8)
15:38
(9)
清浄水面
表面張力測定
(10)
↑ -82.5 mN/mにした
分銅を外す
※0.0 (±0.2) mN/mにならなかったら(6)に戻る
↑ -0.1 mN/mになった
ガラス板をリザーブ用フックへ
図9 フローチャートの作成例:
(左)予習段階(右)実験時に書き込んだもの
実験ノートは、主として実験操作および結果を記すものである(併せて、目的・考察・結論
も記す)。実験2では、フローチャートのみでなく、事前にデータを書き込む表(図 5)を作成
するなど、実験しやすい・結果を記載しやすいように準備しておくこと(自分で工夫すると、よ
り計算が楽だったり、使いやすかったりする表を作成することができる)
。多くの学生は、5 mm
方眼の実験ノートを使用していると思う。しかし、通常、5 mm 幅ではデータの記録を行うには
小さすぎるので、7.5 mm 幅や 1 cm 幅で準備しておくと良い。ノート2ページ分の表枠を作成
しておけば、多くの場合、足りる。テキスト表紙のウェブページにあるテンプレートをダウンロ
ード・プリントアウト(2部必要)して用いても良い。但し、使用上の注意に従うこと。
10
7.2 グラフの作成について
テキスト p.7 にも記したとおり、グラフは大きく描いた方が良い。今回の実験では、図 10 の
ようなスケールで作成するとちょうど良い。グラフには、タイトルおよび軸ラベルと目盛りをか
ならず記入すること。これらの記入が無いと、何を示したグラフなのかが伝わらない。
図10
グラフの作成例:外枠が A4 サイズ(横)相当。縦軸(Π / (mN m-1))・
横軸(A / cm2)ともに、用紙 2 cm あたり目盛り 10。
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