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『一団地の住宅施設』に関する研究
―適用廃止・変更後の実態に着目して‐
A Study on Group Housing Facility
‐Special Reference of
Actual State after Abolition and Change‐
時空間デザインプログラム
11_21071 福井 恵莉薫 Erika Fukui
指導教員 中井 検裕 Adviser Norihiro Nakai
表2
更決定回数として数え
ている。一団地の住宅
変更
A 82回
B 0回
C 0回
施設と地区計画の 2 つ
一部廃止
D 8回
E 0回
F 2回
全部廃止
の軸で考えると理論的
G 2回
H 2回
I 46回
には表 2 のようなパターンができるが、実際には BCE は存在せ
ず、
ほとんどが最も一般的なパターンである A と I に該当する。
表3
はじめに
1-1 研究の背景と目的
高度経済成長期、都市部の住宅難に対応するため「一団地の
住宅施設」によって多くの団地・ニュータウンが建設された。
「一団地の住宅施設」とは都市計画法第 11 条に規定されてい
る都市施設の一つであり、面積、建蔽率容積率の限度、住宅の
予定戸数、公共施設・住宅の配置等を定めるものである。しか
しこの制度で定められている建蔽率は 20%、容積率は 50~
60%など現在の周辺地域よりも大幅に抑えた数字であり、更新
期を迎えている団地にとって建替えを阻む要因となっている。
また、区域内では定められた事項以外のものは建設できないな
ど厳しい制限がかけられているため、社会状況に合わせた柔軟
な対応ができないことが以前から問題となっていた。
このような状況に対しこれまでは「一団地の住宅施設で定め
られた内容を変更する」ことで対応してきた。しかし平成 13
年に国交省及び東京都が「一団地の住宅施設は地区計画に移行
することで廃止する」方針 1)を打ち出してから、地区計画への
移行例が多く見られる。一団地の住宅施設は大半が昭和 30~
40 年代に建設されている事を考えると今後も廃止例は増加す
る事が予想される。廃止に関しては、「良好な居住環境を確保
したうえで、一団地の住宅施設に関する都市計画を廃止するこ
とが望ましい」と都市計画運用指針 1)に記述されているものの、
一団地の住宅施設と地区計画は全く同じ内容を定めているわ
けではないため住環境が変化することが予想される。そこで本
研究では「一団地の住宅施設」を変更・廃止後の環境の変化を
把握し、地区計画への移行は「変更」と比べて住環境を損なう
恐れがないか、検証することを目的とする。
1-2 用語の定義
表 1 都府県別適用件数
変更決定(広義の変更)…一団地の住宅施設
都府県
件数
1 東 京 都 157
の変更(狭義)や廃止の都市計画決定
2 兵 庫 県
19
変更(狭義の変更)…団地の住宅施設の変更
3 愛 知 県
11
決定のうち、廃止せずに定められている内
4 大 阪 府
10
5 福 岡 県
7
容のみ変更を行うこと
全
国 242
1-3 研究対象
右上の表 1 のように、一団地の住宅施設は全国に 242 件ある
うち、半数以上の 157 件が東京都内である。よって、研究対象
を東京都の一団地の住宅施設に絞ることとする。
かけない
廃止の一部にかける 廃止全部にかける
目的別の変更決定回数
不明
回数
目的
1章
り、表 2 ではそれらの重複も含めて変
変更決定の分類
地区計画
一団地
建替え
住宅改善
外的要因
施設利用
再検討
将来のニーズ
不明
その他
計
事業決定
合計
A
回数
26
28
10
8
8
19
0
10
0
83
26
83
26
B
%
34
12
9.6
9.6
23
0
12
0
100
回数
%
C
回数
%
D
回数
E
%
回数
F
%
回数
%
G
回数
%
0
0
0
0
0
0
0
0
0 100
0
0
0
0
0
0
0
0
0 100
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
8 100
0
0
8 100
0
0
0
0
0
0
0
0
0 100
2 67
0
0
0
0
1 33
0
0
0
0
0
0
0
0
3 100
1
0
0
0
0
0
1
0
2 100
0
0
8
0
3
2
H
回数
0
0
0
0
0
0
0
0
I
%
0
0
0
0
0
0
0
0
100
回数
%
35
1
1
6
0
2
2
0
47
計
%
48
8.2
6.7
11
14
1.5
9.7
0.7
100
回数
88 64
2.5 11
2.5
9
15 15
0 19
5
2
5 13
0
1
100 134
101
47
235
2-3 変更決定の目的
計画内容にどのような変化があるかは、目的によってそれぞ
れ異なる。行政へのヒアリング及び都市計画図書の縦覧により
それぞれの変更決定の目的を調査した結果を表 3 に示す。(各
パターンの中で重複あり)
それぞれの変更決定の目的のうち、変更決定後に大きく環境
が変化する可能性があるのは、「建替え」のみである。よって
3 章では建替え目的の変更決定の内容を調査・分析する。
3章
建替え目的による変更決定の計画上の相違点
ここでは制度上の違いを把握することを目的とする。2 章で
の調査で得た資料や行政・施工者へのヒアリングをもとに変更
決定の内容を整理した。
3-1 パターン A(28 件)
主な変更点は建蔽率・容積率制限の緩和、住宅の予定戸数並
びに公園緑地の配置などである。平成 12 年以前は建替え時は
ほぼ全てこのパターンの変更決定で対応している。一般的には
建蔽率・容積率を上げる際は、代わりに公園を広くとるなど行
政側から条件を要求されることが施工者へのヒアリングから
わかっている。この点は後述の F・I でも同様である。建蔽率
と容積率は上がっているものの周辺地域より抑えている例が
多い。
3-2 パターン F(2 件)とパターン I(35 件)
廃止となるとほとんどが I に該当する。しかし一団地の住宅
施設内で団地の施工者が分かれている、賃貸と分譲の混合、建
設年代のギャップ等がある、などの事情から区域内の一部の団
地のみを建替えたい場合に F となることがある。
地区計画の内容には F と I の間に差はない。建蔽率・容積率
を上げている他に、一団地の住宅施設では規定のなかった「建
物の高さ制限」や「建築意匠」など新たな事項を定めている場
合もある。建蔽率や容積率に関しては、周辺地域の数字に合わ
せる形をとっている例が目立つ。
3-3 A と FI の比較
2章 一団地の住宅施設の概要と変更決定の分類
A と FI での制度上の違いは、計画の柔軟性にある。A(一団
2-1 都内の一団地の住宅施設の概要
地の住宅施設)では、住宅から小学校・商業施設・病院といっ
ここでは一団地の住宅施設について、東京都作成の資料 2) に た公益的施設や緑地の配置まで細かく計画図上に示すため「建
より全体像を整理する。まず、建設年代であるが、都内の全
物の配置を変えたい」や、あるいは「用途を変えたい」といっ
157 件のうち、9 割を超える 146 件が昭和 50 年までに該当し
た簡単な工事でさえ、一団地の住宅施設の変更決定手続きをと
ている。敷地面積は最少で 1ha 未満、最大で 100ha 程度など らなければならない。しかし、FI(地区計画)の方は建築物の配
幅広く見受けられるが、全体では 10ha 未満の団地が 67%と、 置や用途に関しては『○○は建築してはならない』などという
小中規模のものが目立つ。施工者で注目すると、東京都の場合、 表現に止まるため、地域の状況の変化に合わせて柔軟な対応が
東京都、現 UR 都市機構、東京都住宅公社だけで 94%を占め、 可能である。
公的セクターの事業がほとんどであったことが伺える。
2-2 変更決定のパターン
次にこれまでの変更決定を整理する。都内の 9 の区市で電
話・メールによるヒアリング、その他の 19 の区市役所に直接
伺い都市計画図書の縦覧制度により資料を収集し、変更決定の
分類を行った。一つの団地で複数回変更を行っている場合もあ
図1
建蔽率の変化率※1
図2
容積率の変化率※1
また、建蔽率・容積率制限に差があることも大きな違いであ
る。図1、2より、FI(地区計画)の方が制限が緩く、変更決定
以前の数字と比べて変化率も高いことがわかる。よって、建替
え後の環境も A と FI で異なることが予想できる。そこで、4
章では建替え後の環境変化に着目し、A と FI で比較を行う。
4章
建替え後の実態調査
建替え目的で行った変更決定のうち、①建替えが既に終了し
ていること②建蔽率・容積率制限の倍率が特に大きいこと③式
面積が 10ha 以下であること を条件として、AFI それぞれで 1
~2 事例抽出し実態調査を行った。ここではそのうちの 2 事例
を説明する。今回は都市再生機構『集合住宅団地の屋外空間環
境評価実施検証業務 報告書』の中から、建替え前後で大きく
変わると予想できる「空地率・建物の高さ・緑被率・隣棟間隔」
に評価指標を絞り調査を行った。
4-1 調査方法
建築物・緑被の面積は Google Earth の航空写真・ゼンリン
住宅地図・Google Map・イラストレーターおよびプラグインソ
フト「はかりや」を用いて計測した。屋上の緑被のみ有効係数
を 0.5 として計上した。建築物の階数・高さ・隣棟間隔につい
ては Google Earth Pro およびゼンリン住宅地図によって調査
した。
4-2 建替え後の変化
4-2-1 パターン A 足立区西新井団地
まず建物の配置について述べる。建替え前は 4 階建ての中層
規模の住宅が一区画に 3~4 棟平行に並んでいたのに対し、建
替え後は 4~8 階建てで一区画に 2 棟、というように、高層化
しているものの空地率は 80.9%から 73.2%に止まっている。
次に D/H について説明する。これは、住宅の日照時間を把握す
るための指標であり、D/H がおおよそ 1.9 以上であれば、冬至
の日に 4 時間以上の日照を確保でき、住環境としてはかなり良
好であると言える。結果は表 4 の通り、建替え前後でそれほど
変化は見られなかった。しかし緑被については、一部の棟で屋
上緑化を施しているが、34%から 19.4%と、およそ半減して
いることが明らかとなった。建替え前は住棟敷地には万遍なく
芝が敷かれていたが、建替え後に大半が駐車場となったことが
大きな原因と考えられる。また、敷地内の公園の立地変化に注
目すると、建替え前は敷地の内部に位置するもののみであった
のに対し、建替え後には敷地外に面する公園が増えており、ま
とまった広さをとっている。
4-2-2 パターン I 世田谷区芦花公園駅
建物配置について、建替え前は A と同様に 4~5 階建の中層
規模の住宅が平行に並んでいたのに対して、建替え後は 4~14
階建までと、高層の住棟が増え棟数は約半分に減っており、空
地率は 86.1%から 72.8%に減少している。D/H については、
表4
A と I の実態調査結果※2
平均値が 1.32 と約 0.7 ポイントも減少している。次に緑被率
だが、A と同様に激減しており屋上緑化も確認できるが減少に
歯止めをかけるほどの面積ではない。しかし公園配置に注目す
ると敷地中心を貫く大通りに面して広い面積の公園を2つ配
置しており、敷地内部に細かく配置していた建替え前と比べる
と、地域内外への貢献度は高まったと言える。
4-3 A と I の比較
上記の2事例の他、AFI でそれぞれ 1 事例ずつ同様の指標で
調査を行ったが、総合的に判断して A と I でそれほど住環境に
差は出ていない。住棟の高さについては、パターン I の方が若
干高いことがわかったが、空地率・緑被率については A と FI
では同じく減少しており、違いは見られなかった。D/H は、上
の芦花公園駅前の例では大きく減少しているが、パターン A の
別の例(中野区鷺宮)でも 1.5 から 1.3 まで減少しているため、
片方がより減少率が大きいという事は言えない。
5章
総括
5-1 結論
本研究では、以下の事が明らかとなった。
① 更新期を迎える一団地の住宅施設が多い中で、今後廃止し
て地区計画を導入する例は増えていくと予想できるが、変
更決定後の計画上は A と IF では建蔽率や容積率制限に差
があり、IF の方が緩い規制である(3 章)。
② しかし、実態の方は I の方が高層であるもののその他の点
で住環境が A よりも損なわれている印象は受けない(4 章)。
③ その理由として地区計画移行時は行政側が比較的厳しい
条件を要求していることが挙げられる(3-1)。
④ ただし、再び更新期がきたときの環境の維持については
制度上地区計画の方が不透明である(3-3)
⑤ また、廃止と変更どちらにしても緑被面積が大きく減少し
ている。今後豊かな緑をできるだけ保持するため何らかの
方策を検討する必要がある。(4 章)
5-2 今後の課題
今後の課題としては以下の内容を挙げる。
・実態調査の事例数を上げる。
・実態調査で定性的な分析を行う。
【脚注】
※1 件数(N)は、表 3 の建替えをしたものの内、ヒアリング・資料等で把握で
きなかったものを除いたものとした。
※2 H は、住棟の南側に位置する棟の高さ。D は、南側隣棟間隔をそれぞれの
棟で計測したものの平均値を示した。 D/H も同じくそれぞれの棟の平均値。
【参考文献】
1)国土交通省 都市計画運用指針
2)東京都都市整備局 一団地の住宅施設一覧