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有機化学 III
宮地 弘幸
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有機化学III
本日の講義内容
第8章 芳香族化合物の反応性
SBO52 芳香族性(ヒュッケル則)
の概念を説明できる。
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有機化学III
化合物が芳香族化合物であるというためには,その化合物がベンゼンの
どんな性質や特徴を有していれば良いのだろうか??
ベンゼン
アズレン
アズレン;濃青色で昇華性の高い結晶。多くの化粧品に用いられた。ア
ズレンの誘導体は抗炎症作用を持つため、古くから民間薬として用い
られてきた。現在でもその誘導体が目薬・胃薬などに配合され、一般に
使用されている。 アズレンも芳香族化合物である。
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ベンゼンの特徴
実験的観点
芳香族化合物とは,分子式から予想すると不飽和度
が非常に高いにも関らず,
1) 不飽和化合物一般に特徴的な付加反応に抵抗
する化合物
2) 異常に安定な化合物
3) 環状で扁平な化合物
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芳香族(環)の特徴
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ベンゼンの特徴
理論的観点
芳香族化合物とは,
1) その化合物が分子平面の上下に非局在化した環状
π電子雲を有する化合物 でさらに
2) そのπ電子雲には合計で4n+2個のπ電子
(つまりは2, 6, 10 ・ ・ ・)を含む化合物
の両方の条件を満たす化合物
この必要条件を
Hückel 則(Erich
Hückel)と呼ぶ。
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ベンゼンの特徴
▼ Hückel
則
分子軌道法を用いた説明
ベンゼンのπ電子軌道は、各炭素原子のp軌道
が相互作用してできた、6つの軌道からなる。ここでπ電子が6個までならp軌道が
6つ単独で存在するよりも安定な状態をとれる。
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Hückel 則はヘテロ原子があっても成立!
ピロール窒素はsp2 混成で,非共有電子対が2p 軌道に入る.この電子と炭素原
子のπ電子を合わせ,5 員環π共役系に6 個電子が存在する.従って,ピロール
は芳香族性を示す.ピロールは芳香族安定化を得るために窒素原子がsp3 混
成ではなく,sp2 混成をとることに注意!
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Hückel 則はヘテロ原子があっても成立!
ピロール窒素原子上の孤立電子対がπ電子対であることはわかりにくい.しか
しその共鳴寄与体から,窒素原子はsp2 混成しており,そのうちの三つのsp2
軌道は2 個の炭素と1 個の水素との結合に使われていることがわかる.孤立
電子対は隣の炭素のp 軌道と重なりπ結合を形成しているp 軌道上にある.し
たがってそれらはπ電子対である.このようにピロールは三組のπ電子対をもっ
ており,これにより芳香族となる.
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Hückel 則はヘテロ原子があっても成立!
芳香族ヘテロ環化合物
多くのヘテロ環にも芳香族性は存在する.ヘテロ環化合物とは,炭素
以外の原子を1個以上環に含んでいる環状化合物ある.炭素以外の原
子をヘテロ原子という.その名称は,ギリシャ語で〝異なる〞を意味する
heteros に由来する.ヘテロ環化合物に含まれる最も一般的なヘテロ原
子は,N,O,およびS である.
右の化合物
は芳香族か?
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Hückel 則はヘテロ原子があっても成立!
ピリジン環はそれぞれsp2 混成で,それぞれの環原子がp 軌道をもって
いることを意味する.ピリジン分子は三組のπ電子対をもっている(窒素
原子上の孤立電子対と混同してはいけない).窒素はsp2 混成している
ので,三つのsp2 軌道と一つのp 軌道をもっている.そのp 軌道はπ結
合形成に使われている.窒素の二つのsp2 軌道は隣の炭素のsp2 軌道
と重なっている.窒素の三番目のsp2 軌道に孤立電子対を含んでいる.
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Hückel 則はヘテロ原子があっても成立!
フランやチオフェンも安定な芳香
族化合物である.フランの酸素原
子とチオフェンの硫黄原子はとも
にsp2 混成しており, sp2 軌道上
に一組の孤立電子対をもってい
る.二組目の孤立電子対は,隣
接する炭素のp 軌道と重なりπ
結合を形成しているp 軌道上に
ある.したがって,それらはπ電
子対である.
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π電子が(4n+2)個以外のときには,電子が入った最も高い準位の
軌道は完全には満たされない.
シクロペンタジエニルカチオンは五員環π共役系に4 π電子をもつ(4n)π電子系
である.最安定分子軌道に2 電子が入り,残りの2 電子は縮退した二つの軌道
に1 個ずつ入る(Hund 規則). この結果シクロペンタジエニルカチオンには部
分的にしか満たされない軌道が二つ存在する.環状(4n)π電子系をもつ分子は,
芳香族化合物とは対照的に不安定で,同数のπ電子をもつ非環状共役系よりも
不安定であり,反芳香族とよばれる.
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Hückel 則は電荷を有する化合物にも適応できる!
シクロペンタジエニルアニオンは芳香族である
1,3-シクロペンタジエンは芳香族ではない. しかし, 脱プロトン化
により生成するシクロペンタジエニルアニオンはπ電子が非局在
化した6π電子系で芳香族である. 生成物が安定であり1,3-シク
ロペンタジエンの水素の酸性度は著しく高い(pKa=16, プロペ
ンの水素のpKaは40)
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Hückel 則は電荷を有する化合物にも適応できる!
シクロヘプンタトリエニルカチオンは芳香族である
1,3,5-シクロヘプタトリエンに臭素を作用させると臭化シクロヘプタ
トリエニルという塩が得られる.このシクロヘプタトリエニルカチオン
部分には,六つの非局在化したπ電子が存在し,正電荷は七つの
炭素上に等しく分布している.
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反芳香族化合物の例
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非芳香族化合物の例
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芳香族,非芳香族,反芳香族
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芳香族,非芳香族,反芳香族
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有機化学Ⅱ(Organic Chemistry II)
本日の講義内容
SBO52
芳香族性(ヒュッケル則)の概念
を説明できる。
“芳香族化合物とは分子平面の上下に非局
在化した環状π電子雲を有し,さらにπ電子雲
には合計で(4n+2)個のπ電子を含む化合
物”という必要条件をHückel 則と呼ぶ。
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シャトルカード確認課題
課題1:以下の文章の( )内に適切な言葉を記せ。
芳香族化合物とは,
1) その化合物が分子平面の上下に非局在化した(
2) そのπ電子雲には合計で(
B
A
)を有する化合物
) 個のπ電子を含む化合物
の両方の条件を満たす化合物である。この必要条件を(
C
) 則と呼ぶ。
課題2:以下の化合物のうち,芳香族性を示す化合物の構造を記せ。
また,各化合物は,何π電子系か?
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