思考力・判断力・表現力を高める算数科指導の在り方 ~「できる」 「分かる」につながる仲間との交流活動や評価の工夫を通して~ 大垣市立江東小学校 教諭 岡崎 茉美 概 要 本校の研究は,思考力・判断力・表現力を育むことを重点に置いた授業について研究している。そう した中で,児童の実態として,算数の授業や問題を解決することへの興味関心が薄く,数学的な考え方 で自分の考えを導く力が弱いということが課題として挙がった。これらのことから,3つの手立てを考 えた。 (1)しっかり聞いてはっきり話す段階表を利用した相手を意識した話し方聞き方ができる学習 集団を作り,算数授業の交流活動の基本とした。 (2)思考力・判断力・表現力を高める交流活動の工夫 を行った。①一人学びでの考えの足場づくりを行うことで,自分の考えをもって交流活動に向かえるよ うにした。②仲間学びでの交流活動で自分の考えをお話板に書き込みながら説明する活動を取り入れ た。 (3) 「できる」 「分かる」につながる評価の工夫(形成的評価)を行った。①視点を明らかにした教 師による 2 度の評価②「分かった・困ったカード」を利用した児童自身の理解度の評価を行った。その 結果「できた」 「分かった」と実感し,意欲的に思考し,表現する児童の姿が見られるようになった。 なっている。 1 主題設定の理由 また,<図表 2>の小領域別の結果からは, 「図や (1)本校の研究の歩みから 本校は,CRT 学力検査の結果から,既習内容の 絵を用いて数える」という項目に弱さが見られた。 定着に差が見られ,低学力層の割合が比較的高い ことが分かった。そこで,23 年度から算数の学習 において児童の学力向上を目指して実践してきた。 23 年度は知識・技能を習得することに重点を置き, 24 年度からは知識・技能を活用し,思考力・判断 力・表現力を育むことを重点に置き,その授業づ くりについて追求してきた。 (2)児童の実態から 本実践では,3 年生での実践を挙げるが,その 児童の 2 年生の時の CRT 学力検査の結果は次の ようである。 <図表 2>2 年生 小領域別 CRT 学力検査結果 学年 全国 算数への関心意欲態度 72 75.7 数学的な考え方 76.7 74.2 数量や図形についての技能 88.5 86.9 数量や図形についての知識理解 81.4 81.9 <図表 1>2 年生 CRT 学力検査結果 これらの結果から,児童の実態は以下のように 分析できる。 ・計算の仕方は形式的に理解しているものの,計 算原理は十分理解しておらず,図や絵と計算をつ なげて考える力が弱い。 ・算数の授業や問題を解決することへの興味関心 まず,注目する点は,算数への関心意欲態度が 全国平均に比べ大きく下回っていることである。 が薄い。 また,これまでの実践により数学的な考え方は全 ・問題の内容を的確に捉えたり,これまでの学び 国平均よりも高い結果となったものの,技能や知 を活用させて新たな考えを生み出したり,数学的 識理解の得点と比較すると,まだまだ低い結果と な考え方で自分の考えを導く力が弱い。 1 き方・話し方が 7 項目ずつの山形になっており, 児童の算数への意欲が低いのは,受け身の授業 になっているからではないかと考える。確かに, 順にレベルが上がっていく段階表になっている。 一部の児童の発表に耳を傾け,板書をノートに写 全校統一で毎月,項目の一つを目当てとし,重点 し,練習問題に取り組む授業では,意欲はわかな 的に取り組んでいる。学級では,毎週すべての項 いであろう。 目(3 年生のため「大事なことを落とさないでメ 一人一人の児童が思考し,そこから生み出され モをして聞く」は省く)において評価し,9 割の た考えが仲間に伝わった時や授業の終末に行う練 児童が達成すれば学級として達成したことにして 習問題が解けた時に,児童は初めて「できた」と いる。この取組は算数授業に関わらず,どの場面 いう実感をもち,算数の授業を楽しいと感じるこ でも行っているため,取組の 2 年目である 3 年生 とができると考える。 の児童たちは,項目を理解し,達成に向けて取り 組んでいる。 以上の理由から, 「できた」 「分かった」と実感 できる授業づくりを行うことで,思考力・表現力・ 特に,話し手 判断力を高め,意欲的に学ぶ児童を育成したいと は,聞き手が見や 願い,本研究主題を設定した。 すい場所(教室の 2 研究仮説 端)に移動して話 したり,聞き手全 「できる」 「分かる」につながるような仲間と 員が話し手(自 の交流活動や評価を工夫すれば,考えや思いを 分)を見ているかを 伝え合い,分かり合える喜びを感じることがで <写真1>話し方・聞き方 確認してから話し出したりすることは徹底しつつ き,思考力・判断力・表現力を高め,意欲的に ある。また,話し手に体を向け,顔を見て聞くと 学ぶ児童を育成することができる。 いうことも習慣化している。 3 研究内容 (1)学習集団づくり (2)思考力・判断力・表現力を高める交流活 動の工夫 ①交流活動に向けた一人学びでの考えの足場 づくり Ⅰ)導入時の既習内容の確認 Ⅱ)ヒントカードの工夫 <図表 3>しっかり聞いてはっきり話す段階表 Ⅲ)ティーム・ティーチングによる部分少 また, 「はっきり話す」の一番高い段階に「分か 人数指導 りやすく話す 『じっくりあたま』 」を置き〈図表 ②仲間学びでの交流活動 4〉の話し方の型も示している。これにより,わけ お話板を使っての自由交流 を付けて話したり, 「~ですよね。 」のような聞き (3) 「できる」 「分かる」につながる評価の工 夫(形成的評価) 手の反応を確かめながら話したりする児童が増え ①視点を明らかにした教師による 2 度の評価 てきた。 ②理解度における児童の自己評価 4 実践内容 (1)学習集団づくり 本校では,25 年度から「しっかり聞いて,はっ きり話す」として,話し方聞き方の段階を作り, 全校体制で実践している。<図表 3>のように,聞 <図表 4>じっくりあたま表 2 このような実践を積み重ね,相手を意識した話 が考えられる。そこで,かけ算九九でつまずきが し方聞き方ができる学習集団を作り,算数授業の 予想される児童には,九九表を渡したりすること 交流活動の基本とした。 で,つまずきがなくなるようにしていく。 〈実践例 1〉3 年「かけ算の筆算」 (2)思考力・判断力・表現力を高める交流活 動の工夫 本単元は,学習指導要領の次の指導事項に位置 ①交流活動に向けた一人学びでの考えの足場づく 付いている。 [A 数と計算] り (3) 乗法についての理解を深め,その計算 Ⅰ)導入時の既習内容の確認 授業の流れは,<図表 5>のような流れを基本と が確実にできるようにし,それを適切 した。その中で,特に導入の流れを「問題提示→ に用いる能力を伸ばす。 ア 2 位数や 3 位数に 1 位数や 2 位数をか 分かっていること聞かれていることの確認→立式 ける乗法の計算の仕方を考え,それらの →前時との違い→課題→考え方の見通し・・・」 計算が乗法九九などの基本的な計算を基 とし,立式した後に既習内容の何を活用して答え にしてできることを理解すること。また, を導くかの考えの見通しをもたせる時間を設けた。 その筆算の仕方について理解すること。 さまざまある既習内容の中から本単元で使える イ 乗法の計算が確実にでき,それを適切 物を掲示(<写真 2>)した。そして,考えの見通 しをもつ場面で,掲示されている既習内容から何 に用いること。 を使って答えを導くのかを考えさせ,見通しをも ウ 乗法に関して成り立つ性質を調べ,そ てるようにした。 れを計算の仕方を考えたり計算の確かめ かけ算は,まる図やたし算を使えば,どんな場 をしたりすることに生かすこと。 D[数量関係] 合でも答えを出すことはできる。しかし,たし算 (2) 数量の関係を表す式について理解し, は数が大きくなると容易に答えは出せなくなる。 式を用いることができるようにする。 たし算で答えを出すことは大変であるということ ア 数量の関係を式に表したり,式と図を に気づき,何を使えばより簡単に答えを出せるか まで考えられるようにしたい。 そこで, 掲示物は, 関連付けたりすること。 単位時間ごとに新たに学んだことを色を変えた画 本単元では,乗法について,被乗数が 2 位数, 3 位数になっても乗法九九を用いれば計算できる 用紙で増やしていき,前時の内容を確認しながら, 既習内容として使えるようにした。 ことや,乗法の筆算のしかたを理解し,その計算 が確実にできるようにするとともに,それを適切 に用いる能力を伸ばすことをねらいとしている。 また,乗法が用いられる場面を, 「1つ分の大きさ ×いくつ分=全体の大きさ」と一般化することや, 数量の関係をテープ図と数直線を用いて図に表す ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ようにもしていく。 筆算では,部分積の和を求めて乗法九九の計算 ⑨ に帰着させていくという計算原理と対応させなが ら,理解をはかっていく。その際,2,3 位数×1 ⑩ 位数の計算の仕方を児童が主体的に考えていくよ うにし,それをもとに筆算形式の指導に結び付け ⑪ ていくよう配慮する。 ①問題提起 ③立式 自分の考え ⑨まとめ 児童の実態として,かけ算九九が身に付いてい ない児童もおり,筆算を行うときにつまずくこと 3 分かっていること・聞かれていること 課題 ⑤考えの見通し ⑦自由交流 全体交流 ⑩一問問題 ⑪練習問題 <図表 5>授業の流れ の考え方のほうがより簡単に答えを出し,説明で 第1時 きるか判断する力を伸ばすことができると考えた。 第2時 改善前 改善後 ヒントカード 1 第3時 <図表 6> <写真 2> ヒントカード 第 10 時 既習内容の掲示 Ⅱ)ヒントカードの工夫 ヒントカード 2 本単元は, 「20×3」を「20 は 10 のまとまりが 2 個」だから「2×3=6」 「10 が 6 個で,答えは 60」 Ⅲ)ティーム・ティーチングによる部分少人数指 というように,数を 1 や 10 や 100 のいくつ分と 導 いう見方からかけ算九九につなげることが大切に 児童が 2 年生の時の CRT 学力検査結果や本単 なる。それを筆算の計算につなげることで,形式 元前の準備テストからも,かけ算九九や数の構成 的な理解から計算原理の理解へと深めることがで の理解などの基本的な技能や知識理解が身に付い きると考える。 また, 本単元前の準備テストから, ていない児童がいることが分かった。その時間の 児童の実態として「56 は 50 と 6 を合わせた数」 学習内容ではなく,基本的な技能や知識理解が身 などの数の構成で, 「56 は 5 と 6 を合わせた数」 に付いていないために,自分の考えがもてない児 のような誤答が見られる児童がいたため,その弱 童もいる。そのような児童には,ヒントカードを さを補うヒントカードを作った。 渡しても,どう使えばよいか分からない。少人数 ヒントカードの作成においては,次の 4 点を考 で,言葉を交わしながら,ともに答えを導く場が 慮した。 必要であると考えた。 ア 教師側がこう考えてほしいという意図が強 そこで,ティーム・ティーチングによる部分少 すぎるために穴埋め式にならないこと。 人数指導(ヒントコーナー)を行った。ヒントコ イ 児童が考えなくても答えにたどり着いてし ーナーは,その後に続く自由交流で自分の考えを まうものにならないこと。 もって進ませたいこともあり,一人学びの間に行 ウ 意図が読み取れない児童にとって余計に分 うこととした。また,すぐにヒントコーナーを設 かりにくいものにならないこと。 定するのではなく,自分で思考する時間を少し取 エ 児童が思考する余白を残したヒントカード った後,児童本人の意思または教師側から声をか を作成すること。 けた児童をヒントコーナーに呼んだ。 ヒントコーナーでは,T2 の教師が指導にあたる。 さらに,まる図を使ったものやかけ算九九を使 ったものなど,できるだけヒントカードはいくつ そこでは,児童からいろいろな考え方を引き出す かの種類を準備するようにした。そして,児童の のではなく,その時間で大切にしたい考え方(例 実態に応じて,どちらのヒントカードを使うか, えば,32×3 の場面では,32 を 30 と 2 に分ける 教師が決めたり児童自身に選ばせたりした。既習 という考え方)を⑩や①の具体物を使って,児童 内容の掲示からは考えの見通しをもてなかった児 とともに答えを導いていくことを中心に行った。 童も,2 種類のヒントカードならば選ぶことがで 自分で思考することを大切にしたいため,T2 のヒ きる。また,児童自身に選ばせることで,どちら ントにより, 「分かった」と思った児童から,話の 4 途中でもコーナーから抜け出ることは自由とした。 意識が薄れてしまうことがあった。そこで,本実 践では,次のようなレベル別の話し方を目指し, 3つ×3 2つ×3 既習内容が使える 数の構成をもとにした考え方を分かりやすく ⑩①の数にとらわれ ないように裏返す 掲示した。 レベル① ノートを指さしながら レベル② ボードに書き込みながら レベル③ ボードに書き込みながら,相手に 問題を出して 本実践では,相手に分かりやすく説明すること を目指すため,レベル②のように書き込みながら 相手に説明することを大切にした。さらに,児童 の意欲を高めるために,レベル③も設けた。レベ ル③は,説明している相手に向けて,問題を投げ かけるというものである。 答えを導く また,聞き方も,聞き流して交流が終わらない ように,自分の考えと比べて聞くこととした。す <写真 3>ヒントコーナー ると,単元を進めるにつれて,説明する児童の間 ②仲間学びでの交流活動 ヒントカードやヒントコーナーにより,自分の 違いに気づき,それを伝えることができる児童が 考えをノートにまとめた児童から,交流活動(自 出てきた。このような児童の姿から,掲示に追加 由交流)に進む。自由交流とは,自分の考えをも し,聞き方においてもレベル別にした。 った児童が席を離れ,同じようにすでに考えをも った児童とペアになり,説明し合うことである。 自由交流では,表現力を高めるために,自分の 考えを仲間に分かりやすく説明する力を身に付け られるようにしたいと考えた。仲間に説明をする ということは,児童にとって戸惑いが大きく,消 極的になりやすい。しかし,自分の考えが自分の 言葉で仲間に伝わった時にこそ, 「できた」と感じ ることができ,意欲的に授業に向かえることがで きると考える。そこで,戸惑いや不安を小さくす <写真 4>話し方・聞き方レベル表 る方法を工夫した。 1 つ目は,自由交流を単位時間のどこに位置付 ≪自由交流での話し方(レベル③)≫ けるかである。本実践では,児童同士の交流によ 32×3 の場合 って他の考えを新たに知ることで考えを深めたり, A:説明する側 1 対 1 の緊張感の少ない中で話すことで全体交流 に自信をもって表現したりするために,全体交流 B:聞く側 A:話します。32 は 10 が 3 つと 1 が 2 つで の前にペアでの自由交流を位置付けた。 すよね。 2 つ目は,話し方である。児童たちは,2 年生の B:はい。 時にも,隣同士での交流を行ってきた。その時に A:10 が 3 つ×3 で,どうなりますか。 目指した話し方は,自分の考えを書いたノートを B:10 が 9 つです。 指で示しながら話すということであった。しかし, A:10 が 9 つで,90。 1 が 2 つ×3 で 6 すでに書いてあるものをもとに,もう一度説明す だから答えは,96 です。どうですか。 るということで,相手に分かりやすく話すという B:分かりました。 5 私も 32 を 30 と 2 に分けて考えました。 ≪自由交流での聞き方(レベル②)≫ (3) 「できる」 「分かる」につながる評価の工 夫(形成的評価) A:話します。32 を 20 と 12 に分けます。 ①視点を明らかにした教師による 2 度の評価 20×3 は 60 ですよね。 12×3 は 36 ですよね。 これまでの評価は,単位時間や単元の最後の練 だから答えは,60+36 で 96 です。 習問題の時間に問題が解けたかどうかで評価をし B:12×3 は,まだできないよ。 ていた。しかし,これではどの段階でつまずいた だから,32 を 30 と 2 に分けるといいよ。 かを教師が把握しきれなかったり,児童は「でき 3 つ目は,自由交流に必要と思われる物の準備 なかった」で 1 時間や単元を終わってしまったり する。 である。書き込みながら説明することを目指すた そこで単位時間の中で,評価する場を何度か設 め,以下のようなものを準備した。 けることで,細かな支援ができ,児童も「できた」 ・お話板(算 数セット) ・ホワイト ボードペン ・① ⑩ 100 の磁石 と感じて授業を終えることができると考えた。 まず,評価する場は,一人学びの時とまとめの 後の教師が出す一問の問題の時とした。 また,単位時間の中で,身に付けさせたい力が あるため, 評価の視点を明確にした。 そのために, 一問問題は,答えのみを出すのではなく,その時 間に大切にしたい考え方も書くこととした。 <写真 5> 交流の道具 ≪評価の例≫ 32×3 の場合 書き込み方 一人学び時:32 を 30 と 2 に分けて考えてい る。 一問問題時:分けた式で書き,筆算ができてい これらのものは,1 人 1 セットずつ必要な数だ る。 けを分けて準備しておくことはしなかった。何が ※分けた式とは いくつ必要なのかを考えたり必要のない児童もい 32×3 たりすることから,準備数としては児童一人ずつ 30×3=90 96 2×3=6 に行き渡るようにしたが,自由に手にとれるよう 一人学びの時には,評価の視点に沿って見る他 にした。 に, 「ヒントカードを渡したか」 「まる図や式など どの方法で考えたか」も机列表に書き込み,一問 問題時の支援の仕方に生かした。一問問題時には, ヒントカードを渡した児童や 1 度目の評価ででき ていなかった児 童を中心に支援 ①や⑩の磁石を使って した。また,一 問問題ができた 児童は,挙手で 教師に知らせ て,教師が答え <写真 7>一問問題の評価 合わせをした。そうすることで,その時間に大切 にしたい考え方ができているかを確実に見届ける ことができた。 磁石は使わずに,式で これらの 2 度の評価を,T1 と T2 で児童半数ず <写真 6>交流活動の様子 6 つ分担して行った。 <実践1から> ○ヒントカ ードを使っ て,式と絵 と言葉をつ なげて考え 第 1 時 ヒントカード有 たことで, 第 2 時 ヒントカード無 一問問題の 時には,数字 が変わって も学んだこ <図表 7>ヒントカードを使った児童のノート とを活用し て,自力解決することができた。 第 3 時 自分の言葉で 第 4 時 式と言葉をつな げて <図表 10>思考の深まりが見られる児童のノート ●導入時に,既習内容を掲示し,考えの見通しを もてるようにしたが,児童の思考が高まるように <図表 8>図・式・言葉がつながった児童のノート と,本時何を使えば答えを導くことができるのか ○自由交流で自分の考えを表現する場が何度もあ を全体で確認せず,児童任せにしてしまった。そ ったことで,分かりやすい伝え方を学び,図と式 のため,分かる児童はすぐに自分の考えをもつこ と言葉をつなげて表現する力が付いた。 とができるが,既習内容のどれを使えばよいかが ○2 度の評 分からない児童にとっては考えがもてずにヒント 価の場によ カードやヒントコーナーまでの時間を持て余すこ り, 一人学び とになってしまった。考えの見通しの時間をもっ では自力解 と丁寧に行う必要があった。 決できなか ●評価の仕方をさらに工夫する必要があると感じ った児童が た。一人学びの時の評価は,児童が考えを書き出 誰かを把握 すまでに時間が必要であり,考えているのか困っ するこ ているのかの判断が難しい。また,一人学びの間 とがで には,全体交流で,意図的指名を行うための机間 き,一問問題の時に重点的に支援を行うことがで 指導も必要であり,考えがもてず困っている児童 た。 への支援に十分な時間がかけられず,おろそかに ○ヒントカードや交流活動を継続することで,前 なってしまった。 時に学んだことを活用させて考える力が付き,考 〈実践例 2〉3 年「あまりのあるわり算」 <図表9>形成評価により問題解決した児童のノート えたことを図や言葉で表現する力がついてきた児 前実践「かけ算の筆算」で成果の出た部分は継 童も見られた。 (図表 10 は,力がついてきた児童 続し, 課題は改善して, 以下のような実践をした。 のノートを時間をおって表したものである。 ) 本単元は,学習指導要領の次の指導事項に位置 付いている。 7 [A 数と計算] きの操作をそのまままる図に書き換えることがで (4)除法の意味について理解し,それを用い きるため,迷うことなく自分の考えを図で表現す ることができた。 ることができるようにする。 ただし,毎時間おはじきの操作を行っていたの ア 除法が用いられる場合について知るこ では児童の思考は高まらない。そのため,単位時 と。また,余りについて知ること。 間ごとに操作することを少しずつ減らしていった。 イ 除法と乗法や減法との関係について理 [第 1 時] 操作 チョコレート 18 個を一人に 3 個ずつ分ける。 (割り切れるわり算の振り返り) 操作 チョコレート 20 個を一人に 3 個ずつ分ける。 (包含除) [第 2 時] 操作 シュークリーム 34 個を 6 人で同じ数ずつ分け る。 (等分除) 第 3 時以降は,操作なし。 解すること。 ウ 除数と商が共に 1 位数である除法の計 算が確実にできること。 本単元では,余りのある除法を扱っていく。こ こではあまりのある除法の計算の形式的な処理の 仕方だけでなく,あまりの意味の指導についても 大切にしていく。除法の意味から, 「あまりは,い 既習内容の何を使って答えを導くかの考えの見 つもわる数より小さくなるようにする」ことをつ 通しを全体で確認してから一人学びに入るように かませていく。 した。 「あまりのあるわり算」の単元の前に「わり (2)思考力・判断力・表現力を高める交流活 動の工夫 算」の単元の学習の時,たし算やひき算,かけ算 ①交流活動に向けた一人学びでの考えの足場づく 考える?」と問うと, 「まる図。たし算。ひき算。 り かけ算。 」などと,これを使えば答えを導くことが Ⅰ)導入時の既習内容の確認 できるという見通しが返ってきた。いろいろ出て などを使って考えてきたこともあり, 「何を使って 実践 1 では,既習内容から本時何を使って答え きた段階で,自分は何を使って考えるか,挙手で を導くのかの考えの見通しが児童任せになってし 確認した。何を使えばよいのか迷っていた児童も, まった。そのため,見通しをもてずに一人学びに 全体で確認できたことで,一人一人が事前に見通 入り,時間を持て余す児童がいた。その改善を目 しをもつことができ,自力解決できる児童がぐん 指す。 と増えた。 改善点:全員が考えの見通しをもって一人 学びに入れる導入の工夫 Ⅱ)ヒントカードの工夫 また,あまりのあるわり算では, 「あまりは,い カードを作ったことで,教師の意図を押し付けす つもわる数より小さくなるようにする」ことをつ ぎず,考えるきっかけとなるヒントカードとなっ かませることも大切になってくる。 た。そのため,本実践でも継続して,大切にした 実践 1 で,児童が思考する余白を残したヒント そこで,一人学びに入る前に, 「具体物(おはじ い考え方(かけ算を使うこと。あまりの意味。 )を き)を使うこと」 「考えの見通しを全体で確認する 使いながらも余白のあるヒントカードを準備した。 こと」にした。 おはじきを実際に操作することで,言葉だけで はとらえにくい問題の意味をとらえやすくなった。 継続:児童が思考する余白を残したヒント カード かけ算ヒントカード また,答えが分かって まる図ヒントカード から一人学びに入る ため,児童たちは「答 えが違っているかも しれない」という不安 がなくなったようだ った。さらに,おはじ <図表 11> <写真 8>おはじき操作 ヒントカード 8 自分の理解度を表すことができるようにした。次 ②仲間学びでの交流活動 実践 1 の話し方聞き方のレベル表とお話板を使 のような,表は笑った顔,裏は困った顔のカード (分かった・困ったカード)を全員が持つように っての自由交流を継続して行った。 し,授業中はいつも机の上に出して自分の理解度 改善:自由交流後に仲間の考えを整理する時 を表すようにした。 間の設置すること 継続して行うことで,全員の児童が話し方レベ ル 2「お話板に書き込みながら」 ,相手に自分の考 えを表現することができた。 また,自由交 <写真 10>分かった・困ったカード 流の後に,仲間 <図表 12>いくつもの考え の考えを整理す 一人学びの時には, このカードをもとに, まず, る時間をとった 困ったカードを出している児童にヒントカードを ことで,聞こう 渡して支援した。次に,分かったカードを出して とする意欲が高 いる児童を回り,全体交流で意図的に指名ができ まり,新たな考 るように生かした。 えを自分のもの 練習問題の時には,困ったカードを出している とし,いくつもの 児童,一人学びの時にヒントカードを渡した児童 を中心に支援に回った。 方法で答えを導くことができた。 さらに,自分 これまで,児童が聞きたいことがある時には手 の考えを説明す を挙げて質問していた。しかし,困った時に手を るということに 挙げるということは児童にとって抵抗が大きく, 抵抗がなくな 困っているのにそのままにしてしまう児童やどう り、その後の全 困っているのかをうまく言葉で説明できないため 体交流に意欲的 に手を挙げられない児童がいた。そのような児童 に発言しようと にとって,裏返せばよいだけのカードは抵抗なく <写真 9>児童同士の全体交流 する児童が増え 使うことができ,困っていることを素直に表すこ た。そして,全体交流の場でも話し方レベル 3「黒 とができた。 板に書き込みながら,聞き手に問題を出す」話し また,教師側も,ま 方をするようになり,児童同士で学びあう姿が生 ず「困ったカードが出 まれてきた。 ている児童から」とは っきりするため,短い (3) 「できる」 「分かる」につながる評価の工 夫(形成的評価) 時間で机間指導を行 ①視点を明らかにした教師による 2 度の評価 うことができた。時間 実践 2 においても,一人学びと練習問題の時の に余裕ができたため 2 回を評価する場とした。また, 「どの既習内容を に,困っている児童に 使っているか」や「問題に適した答えになってい 時間をおいて何度も るか(あまりを出すのか出さないのかなど) 」の視 支援できるようにな 点をもって評価することは継続した。 り,一度目はヒントカ ②理解度における児童の自己評価 ードを渡すだけで児 「分かった・困ったカード」の活用 童自身に思考させ,時 教師から児童への評価だけでは,短い時間の中 間をおいて二度目は, で支援しきれないことがあったため,児童自身が 答えを導き出せている 9 <写真 11>一人学び時の支援 かを見届けることができた。また,分かったカー ●一人学びの時,単元が進んでいっても,いつま ドを出している児童には,全体交流に向けて話し でもまる図を使う児童もいた。より簡単な考え方 方などまで支援できるようになった。 を判断して選ぶ力が身に付くような指導方法を考 えていく必要がある。 一方,練習問題の時には,困ったカードを出し 6 終わりに ている児童は,支援を必要としていることが周り の児童からもすぐに分かるため,そのカードを目 本実践を通して,児童がどんなことを不安に感 印とし,児童同士で教えあう姿が見られるように じているのか,どの部分でつまずくのかなど,こ なった。また,これまでは,分かってはいるが答 れまで以上に児童の実態をより細かに分析しよう えを出すまでに時 とすることで,交流の仕方や評価方法の工夫を行 間の必要な児童に うことができた。また,実践を重ねることによっ まで教えようとす て,児童の反応から新たな課題もどんどん浮かび る姿があり,思考 上がり,さらに改善していくことができた。自身 を途中で止めてし の中でこんな児童を育てたいという目指す姿をは まうことがあっ っきりさせることで,そこに向かう手立てもはっ た。しかし,カード きりしていくのだと感じ,それが自身の学びとな った。 を使うことで必要 な時に必要な分だけ <写真 12>練習問題の時の支援 また,実践を進める中で, 「なんとか自分の力で 支援を行うことができた。 解決したい。 」 「より分かりやすい話し方をしたい。 5 成果と課題 いろいろな考え方をしてみたい。 」という児童の思 ○導入時に問題解決に向かう見通し(まる図・式 いを感じることができた。児童は,もともとはも などの方法)を全員にもたせたことで,一人学び っと伸びようとする気持ちをもっている。問題を ですぐに問題に向かえる児童が増えてきた。 提示し,それを児童自身の力で解決できるような ○ヒントカード・部分少人数指導をきっかけに, 支援の方法を教師が工夫することで,児童はのび 自分の考えをもって,自由交流に向かうことがで のびと問題に向かっていくのだと感じた。 また,話し方・聞き方のレベル表や分かった・ きる児童が増えてきた。 ○話し方レベルをもとにお話板を使って自由交流 困ったカードなど,継続して使っていくことで, を行うことで,自分の考えを表現することに楽し 教師が予想していた以上の高まりを見せることが んで取り組む様子が生まれてきた。 分かった。 ○評価の視点を明らかにして一人学びの時に評価 今後も, 「分かった」 「できた」と実感できるよ を行うことで,その時間に身に付けさせたい力に うな授業改善に取り組み,児童が意欲的に学び, ついて児童の理解度が分かり,練習問題の時の支 学ぶ喜びを感じられるようにしたい。 援に生かすことができた。 ●自由交流で,違う考えの児童同士が交流するこ とで自分の考えを深めることができる。意図的に 違う児童同士の交流が行われるように,ペアの組 み方を工夫する。 (考え方別に色カードを配布し, <写真 13>2 学期の算数の感想 違う色の児童同士が交流を行う。 ) ●単位時間内に児童全員を十分に評価するのは難 ≪参考文献≫ しい。児童の実態から,つまずきの見られる部分 ・ 「小学校学習指導要領解説 算数編」文部科学省 平成 20 年 8 月 を把握し,単元のどの時間にどの児童がつまずき やすいかを予想し,その時に重点を置いて評価を するなど,単元全体を通して,全員を評価するよ うにする。 10
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