連結な折り目特異点集合をもつ 3 次元多様体から 2 次元球面への安定写像について 工藤 将 3 目次 第1章 序文 5 第2章 準備 9 2.1 安定写像 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 2.2 Stein factorization . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 2.3 3 次元多様体から曲面への安定写像の特異点の分類 . . . . . . . . . . . . 10 2.4 Ehresmann のファイバー束定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 2.5 レンズ空間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 2.6 ザイフェルト多様体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12 3次元多様体から2次元球面への安定写像 17 3.1 主定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 3.2 定理 3.1.1(i) の証明 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18 3.3 定理 3.1.1(ii) (iii) の証明 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19 3.4 定理 3.1.2 の証明 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23 第3章 参考文献 29 5 第1章 序文 M, N を C ∞ 級多様体とし,M から N への C ∞ 級写像全体の集合を C ∞ (M, N ) と 書く.f ∈ C ∞ (M, N ) が安定写像であるとは,f の近傍に含まれる任意の写像が f と右 左同値であるときをいう.安定写像に関しては,[4] を参照.安定写像を用いて,多様体 M の位相構造を決定することができる.安定写像の最も簡単な例としては,モース関数 M → R である.本論文では,3 次元多様体から 2 次元球面 S 2 への安定写像を扱う. 3 次元多様体から連結な 2 次元多様体への安定写像は特異点として,定値折り目特異点, 不定値折り目特異点,カスプ特異点のみを持つことが知られている.特に、定値折り目特 異点のみを持つ安定写像を special generic map という.Special generic map に関して は,Burlet-de Rham,Porto-Furuya, 佐伯氏らによって研究が行われてきた.Burlet-de Rham は,向きづけ可能な閉 3 次元多様体 M が R2 への special generic map を持つこ とは,M が 3 次元球面 S 3 または S 2 × S 1 の連結和と同相であるための必要十分条件 であることを示した [2].村井智美氏は,論文 [10] において,レンズ空間から S 2 への特 異値が 2 重点を持たない安定写像を具体的に構成した.彼女の構成方法は,レンズ空間 L(p, q) の p q の連分数展開を用いるものであった. 本論文では, f : M → S 2 が special generic map である場合については,M の位相 型を完全に決定した.また,特異点集合が連結かつ不定値折り目特異点からなる場合につ いて考察した. 定理 1.0.1 (K). M を連結かつ向き付け可能な閉 3 次元多様体とする.M から S 2 への special generic map が存在するならば,M は S 3 または S 2 × S 1 の連結和または L(p, 1) のいずれかと同相である.また,その逆も成り立つ. 安定写像が不定値折り目特異点を持つ場合については,特異点集合が連結かつ像が S 2 上の単純閉曲線であり,かつ近傍のファイバーが捻られていない場合について,M の位相 型を決定した.以下,f の特異点の集合を S(f ) ,f の定値折り目特異点の集合を S0 (f ), 第 1 章 序文 6 f の不定値折り目特異点の集合を S1 (f ) と書く.また S0 (f ), S1 (f ) の連結成分数の数 をそれぞれ |S0 (f )|, |S1 (f )| と書く.P を S 2 から 3 つの開円板を取り除いて得られる 曲面とする.N (S1 (f )) を (S1 (f )) の近傍とする. 定理 1.0.2 (K). M を連結な向き付け可能な閉 3 次元多様体とし,安定写像 f : M → S 2 で次の条件をみたすものが存在するとする: (1) S(f ) = S1 (f ) かつ |S1 (f )| = 1. (2) f (S1 (f )) が S 2 上の単純閉曲線となる. (3) N (S1 (f )) ∼ = P × S1. このとき,M は,S(S 2 , b; (n1 , 1), (n2 , 1), (n3 , 1)) と同相である. また,その逆も成り立つ. ここで ni ∈ Z (i = 1 , 2 , 3) であり,S(S 2 , b; (n1 , 1), (n2 , 1), (n3 , 1)) はザイフェルト 多様体である.注意として,(1) (2) を満たす N (S1 (f )) は 2 種類ある.定理 1.0.2 の f に関する条件のうち,(3) の条件をはずして,N (S1 (f )) が P × S 1 でない場合について M を決定すれば,条件 (1) (2) を満たす多様体の位相型を決定できる.また,条件 (2) (3) の両方を外すと,M が双曲多様体であるような例が構成でき,位相型の決定はさらに 難しくなる [5]. 本論文では,主定理 1.0.1 を |S0 (f )| により (i) |S0 (f )| = 0 の場合,(ii) |S0 (f )| が奇数 の場合,(iii) |S0 (f )| が偶数の場合の 3 つに分けて述べ,それぞれについて考察する. (i) |S0 (f )| = 0 のとき,M ∼ = L(p, 1) を示す.まず,M が 2 つのソリッドトーラス D2 × S 1 を境界で貼り合わせて得られることを示し,レンズ空間であることを示す.その 後,貼り合わせをファイバーによって考察し,レンズ空間の位相構造を決定する.逆の証 明は,村井氏の論文に沿って証明する. (ii) (iii) のとき,すなわち |S0 (f )| > 0 のとき,M が S 3 または整数個の S 2 × S 1 の 連結和になることを示す.以下,Σg,n を種数 g ,境界の数が n の境界付き曲面とする. ここで N (S0 (f )) を S0 (f ) の近傍とすると,f の M \ ∪ N (S0 (f )) への制限は正則な写 像であるから M \ N (S0 (f )) は Σg,n × S 1 と同相であることが従う.M \ N (S0 (f )) に N (S0 (f )) を貼り合わせることを考察すると,M は ∂ (Σg,n × D2 ) と同相,つまり S 3 あ るいは S 2 × S 1 の連結和と同相であることが分かる.ここで,∂ は境界を意味する.逆 の証明に関しては,具体的に安定写像を構成することで示す. 次に,定理 1.0.2 の証明の概略を述べる.N (S1 (f )) ∼ = P × S 1 は M に埋め込まれてお り,安定写像 f : M → S 2 の M \ P × S 1 への制限は正則であることから,M \ P × S 1 は Σg,n × S 1 たちの非交和であることが分かる.M \ P × S 1 の連結成分の数で場合分けを して証明を行う.M \ P × S 1 の連結成分の数を |M \ P × S 1 | と書く.|M \ P × S 1 | = 3 7 の場合,M はザイフェルト多様体であることが示され,境界のファイバーによる貼り合 わせをみることで,M は S(S 2 , b; (n1 , 1), (n2 , 1), (n3 , 1)) と同相であることが示される. |M \ P × S 1 | = 1, |M \ P × S 1 | = 2 の場合には種数を持つ曲面上の S 1 束から S 2 へ の特異点を持たない安定写像が構成され,定理 1.0.1 に矛盾することが示される. 本論文の構成としては,以下の通りである.2 章では,まず主定理を述べるための準備 として、安定写像の定義を述べる.次に Stein factorization の定義を述べ,3 次元多様体 から曲面への安定写像の特異点の分類に関する命題を述べる.次に,主定理の証明で用い る Ehresmann のファイバー束定理を述べる.その後,主定理の主張で述べる 3 次元多様 体であるレンズ空間とザイフェルト多様体の定義を述べる.3 章では,主定理を述べその 証明を与えていく. 最後に,本論文を書くにあたって多くの指導や助言をいただいた石川先生に深く感謝 する. 9 第2章 準備 2.1 安定写像 まず多様体間の写像のなす空間の概念を導入する.M, N を C ∞ 級多様体とする.M からの N の中への C ∞ 級写像全体の集合を C ∞ (M, N ) と書く.これを M から N へ の写像空間という.写像空間には,ホイットニー位相を入れる.詳しくは [4] を参照. 次に多様体間の安定写像の定義を述べる.M, N を C ∞ 級多様体とする.f, g : M → N を C ∞ 級写像とする.2 つの C ∞ 級微分同相写像 Φ : M → M と Ψ : N → N が存在 して,以下の図式が可換になる (つまり,Ψ ◦ f = g ◦ Φ となる) とき,f と g は右左同値 であるという. f M −−−−→ Φy N yΨ g M −−−−→ N 定義 2.1.1. C ∞ 級写像 f について,f の C ∞ (M, N ) における近傍 Uf が存在して,Uf の任意の元 g が f と右左同値になるとき,f を安定写像という. 2.2 Stein factorization f : M → N を安定写像とする.M 上の 2 点 p , p′ が次の 2 つの条件を満たすとき,点 p と p′ は同値であるとする: • f (p) = f (p′ )(= a) • p と p′ が f −1 (a) の同じ連結成分に属する. 第 2 章 準備 10 同値関係を ∼ で表すことにする.商空間 Wf を Wf = M/ ∼ と定義し,商写像を qf : M → Wf と書く.同値関係の定義により,f = f¯ ◦ qf となるように一意的な写像 f¯ : Wf → N を定義できる. 定義 2.2.1. 商空間 Wf を安定写像 f の Stein factorization という. 2.3 3 次元多様体から曲面への安定写像の特異点の分類 命題 2.3.1. M を連結かつ向きづけ可能な閉 3 次元多様体,N を連結な 2 次元多様体と する.f : M → N を滑らかな安定写像とする.各点 p ∈ M に対して p を中心とする局 所座標 (u, x, y) と,f (p) を中心とする局所座標 (X, Y ) が存在して,f は以下のいづれ かで与えられる. • X ◦ f = u, Y ◦ f = x (p:正則点) • X ◦ f = u, Y ◦ f = x2 + y 2 (p:定値折り目特異点) • X ◦ f = u, Y ◦ f = x2 − y 2 (p:不定値折り目特異点) • X ◦ f = u, Y ◦ f = y 2 + ux − x3 (p:カスプ) 特に特異点として,定値折り目特異点のみを持つ安定写像を special generic map と いう.また,この特異点の分類に関して,H. Levine によって証明された定理を 1 つ紹介 する. 定理 2.3.2 ([8]). M を連結かつ向きづけ可能な閉 3 次元多様体,N を連結な 2 次元多様 体とする.f : M → N をカスプ特異点を持つ安定写像とする.f は,ホモトピーの連続 変形により,カスプ特異点を持たない安定写像に作りかえることができる. 2.4 Ehresmann のファイバー束定理 ここでは,主定理の証明で用いる Ehresmann のファイバー束定理を紹介する.始めに, Ehresmann のファイバー束定理に関わる定義を紹介しておく. 定義 2.4.1. C r 級写像 f : M → N が沈めこみであるとは,任意の点 p ∈ M に対して, (df )p : Tp (M ) → Tf (p) (N ) が上への線形写像になることである. 定義 2.4.2. π : E → B が次の条件をみたすとき,これを可微分ファイバー束であると いう: 2.5 レンズ空間 11 1. E, B は可微分多様体である. 2. π は可微分であり,全射である. 3. ある可微分多様体 F があって,任意の b ∈ B に対してある開近傍 U と微分同相写 像 Φ : U × F → π −1 (U ) で,π ◦ Φ(u, f ) = u が任意の (u, f ) ∈ U × F に対して成 り立つものが存在する. 特に上の 3 の条件を局所自明条件という.また E を全空間,B を底空間,F をファイ バーという. 定理 2.4.3 (Ehresman のファイバー束定理 [3]). E, B を C ∞ 多様体,f : E → B を C ∞ 級の沈めこみ写像で,固有であるとする.もし,B が連結であれば,あるコンパク トな C ∞ 級多様体 F が存在し,任意の点 x ∈ B に対して,近傍 U ⊂ B と微分同相写像 ψ : f −1 (U ) → F × U が存在して,以下の図式が可換になる.以下では,p2 は第 2 成分 への射影を表す. ϕ f −1 (U ) −−−−→ F × U p2 fy y U id −−−−→ U (言い換えれば,f : E → B が可微分ファイバー束になるということである.) 詳しくは [12] の定理 4.3 (p,108) や [1] の 8.12 等を参照. 2.5 レンズ空間 この節では,主定理を述べる際に必要な 3 次元多様体のうちレンズ空間の定義を述べ る.この節の説明に関しては [11] に従う. H1 , H2 を D2 × S 1 (ソリッドトーラス) とする.∂(D2 × S 1 ) = ∂D2 × S 1 = S 1 × S 1 = T 2 .∂H1 = T1 , ∂H2 = T2 とする.ここで ∂ は境界を意味する.同相写像 h : T1 → T2 とする.π1 T 2 = Z ⊕ Z において,基底を以下のように選ぶ. θ と ψ を T 2 = S 1 × S 1 上の標準座標とする (i.e. 極座標表示の直積で (eiθ , eiψ ) ∈ T 2 = S 1 × S 1 と表す).ψ = 0 で与えられる曲線を µ としメリディアン (meridian),θ = 0 で 与えられる曲線を λ としロンジチュード (longitude) と呼ぶ.注意として,µ は Hi 内の 円板 D2 × {∗} の境界となっている.µ と λ の向きをそれぞれ θ と ψ の向きと一致する ように定めておく.H1 , H2 それぞれのメリディアンとロンジチュードの基底を (µ1 , λ1 ), (µ2 , λ2 ) と取る. 第 2 章 準備 12 T2 longitude meridian 図 2.1 行列 A = ( −q p s r トーラス ) ,p, q, r, s ∈ Z,qr + ps = 1 とおく.det A = −1 であり,p, q は 互いに素な整数である.向きを入れ替える同相写像 h : ∂H1 → ∂H2 を,誘導するホモロ ジー群の間の写像 h∗ : H1 (∂H1 ) → H1 (∂H2 ) が次の条件を満たすように定める: ⟨µ1 , λ1 ⟩ = ⟨µ2 , λ2 ⟩A. ここで T1 におけるメリディアン µ1 の像は,T2 における −qµ2 + pλ2 の曲線となる (T2 上で θ2 方向に −q 回,ϕ2 方向に p 回巻きついている).L(p, q, r, s) = H1 ∪ h H2 とする. 補題 2.5.1. L(p, q, r, s) と L(p, q, r′ , s′ ) は同相. また µ1 = −qµ2 + pλ2 , λ1 = sµ2 + rλ2 であるから,この補題により µ1 の像が M を 決定していることが分かる.よって,L(p, q, r, s) は r, s を省略して,L(p, q) と書くこと ができる. 定義 2.5.2. 3次元多様体 L(p, q) をレンズ空間という. 補題 2.5.3. 次の 2 つのことは,同値である. • L(p, q) ∼ = L(p′ , q ′ ) • p = p′ であり,q ≡ ±q ′ mod p または qq ′ ≡ ±1 mod p 2.6 ザイフェルト多様体 次にザイフェルト多様体の定義を紹介するとともに,ザイフェルト多様体の表記の仕方 を述べる.この節の説明は [9] に従う. D2 = {reiθ |0 ≤ r ≤ 1} とおく.p,q を互いに素な整数の組として,D2 上の自己同相 写像 f を f : D 2 → D 2 を f (reiθ ) = rei(θ+ 2πq p ) と定める.f は,D2 を原点を中心に 2πq p 回転させる写像である.次に I を単位区間とし,Vp,q = D 2 × I/(x, 0) ∼ (f (x), 1) とす 2.6 ザイフェルト多様体 13 る.Vp,q は,D 2 × I において,(x, 0) と (f (x), 1) を同一視した図形であり,D 2 × S 1 と 同相である. D2 上の点 x に対し,p 個の線分 {xe 2πkq p } × I (k = 0, 1, · · · , p − 1) の和集合は Vp,q 内の単純閉曲線となる.このようにして得られる単純閉曲線たちをそれぞれ 1 点に 潰して得られる商空間は円板 D2 と同相であることが簡単に確認できる.この商写像を g : Vp,q → D2 とする. 定義 2.6.1. Vp,q をファイバートーラス体という.ここでファイバーとは写像 g のファ イバーを意味する.また中心のファイバーを (p, q) 型のファイバーという.特に p > 1 の とき,中心のファイバーを (p, q) 型の特異ファイバーといい,p = 1 のとき正則ファイ バーという. Vp,q の構成から Vp,q において中心のファイバー以外はすべて正則ファイバーである. 定義 2.6.2. M をコンパクトな向き付け可能な 3 次元多様体とする.M が以下の 2 つの 条件を満たすとき,M をザイフェルト多様体という. (1) M から曲面への連続写像で,各ファイバーが S 1 と同相なものが存在する. (2) 各ファイバーの近傍には (1) の連続写像によりファイバートーラス体の構造が入っ ている. (1) の連続写像をザイフェルト多様体の射影と呼ぶ. 次にザイフェルト多様体の表記について述べる.M をザイフェルト多様体とし,B を 底空間,g : M → B をその射影とする.M がコンパクトであることより,特異ファイ バーの数は有限個なので,それらを s1 , · · · , sr とする。各 si の正則近傍を Vi とする.M ′ を M − (V1 ∪ V2 ∪ ··· ∪ Vr ) の閉包とする.M ′ はコンパクトであるから,B ′ = g(M ′ ) はコンパクトな曲面となり,M ′ は B ′ 上の S 1 束となる.M は M ′ の境界にファイ バートーラス体をファイバーが一致するように貼り合わせることで得られる.Vi 内の特 異ファイバーを (pi , qi ) 型とする. はじめに ∂B ̸= ∅ とする.∂M ′ の連結成分で,∂Vi と貼り合わされるトーラスを Ti と する.M ′ は B ′ 上の S 1 束であり,B ′ は境界つき曲面なので,断面 c : B ′ → M ′ をもつ. c(B ′ ) ∩ Ti = ci (i = 1, 2, · · · , r) とおく.また Ti 上にある M ′ のファイバーを一つ指定し,hi とおく. 次に hi , ci に向きを入れる.M は仮定から向き付け可能なので,M の向きを 1 つ指 定する.その向きから M ′ の向きが決まり,さらに Ti の向きが決まる.よって hi と ci の向きを,この順序によって 1 つ指定する。ここで,トーラス上の単純閉曲線と,それが 第 2 章 準備 14 表すホモトピー類を同じ記号で書くことにする.以上の向きの指定により,π1 (Ti ) の元 hi , ci が決まり, π1 (Ti ) ∼ = ⟨hi ⟩ ⊕ ⟨ci ⟩ (i = 1, 2, · · · , r) である.次に,Vi にも M から向きが決まるので,Vi を M ′ に貼り合わせるための写像 を fi : ∂Vi → Ti とすると,f は向きを逆にする写像である.ここで,Vi のロンジチュー ドとメリディアンをそれぞれ li , mi とし,Vi のファイバー構造が (pi , qi ) 型であること から, fi− 1 (hi ) = pi li + qi mi ∈ π1 (Ti ) ∼ = ⟨li ⟩ ⊕ ⟨mi ⟩ となるように li と mi の向きを指定する.このとき,li と mi の向きからこの順序によっ て決まる ∂Vi の向きは,Vi の向きから決まる向きと一致する. fi (mi ) = αi ci + βi hi , fi (li ) = γi ci + δi hi とおく.このとき, ( fi (li ) fi (mi ) ) ( = γi αi δi βi (2.1) )( ) ci hi となる. fi は向きを逆にする写像なので, ( γi αi δi βi ) = −1 となる.mi と li の順序を入れかえて, ( ( と書く.このとき det αi γi ) ( )( ) fi (mi ) ci αi βi = γi δi fi (li ) hi ) βi = 1 である.ゆえに, δi ( ) ( fi−1 (ci ) δi = −1 −γ fi (hi ) i −βi αi )( mi li ) である.これより, αi = pi , βi qi ≡ 1 mod pi (i = 1, 2, · · · , r) と い う 等 式 が 得 ら れ る .M の 位 相 形 は ,fi (mi ) (i = 1, 2, · · · , r) の Ti に お け る ホ モ ト ピ ー 類 で 決 ま る .し た が っ て そ の ホ モ ト ピ ー 類 は ,上 記 の 条 件 を み た す (α1 , β1 ), (α2 , β2 ), · · · , (αr , βr ) という互いに素な整数の組で決まる. さらに,次に述べるように,αi , βi をうまく選ぶことができる. 2.6 ザイフェルト多様体 15 補題 2.6.3. βi は 0 < βi < αi とできる. 証明. ∂B ̸= ∅ より,T0 を ∂M ′ の連結成分で,∂V1 , ∂V2 , · · · , ∂Vr とは貼り合わされない ものの 1 つとし,c0 = c(B ′ ) ∩ T0 とする.i = 0, 1, · · · , r に対して,di = g(Ti ) とおく. また d0 と di を B ′ 上で結ぶ弧を ai とする. g −1 (ai ) = Ai とおくと,Ai は,アニュラスとなる.また,ai の正則近傍 N (ai ) は ai × [0, 1] と同相で ある.さらに,Ai の M ′ における正則近傍 N (Ai ) は以下のようになる: N (Ai ) ∼ = N (ai ) × S 1 ∼ = ai × [0, 1] × S 1 . ここで N (Ai ) を用いて,M ′ 上の自己同相写像 ϕ : M ′ → M ′ を次のように定める: ϕ|M ′ \intN (Ai ) = id (恒等写像) ϕ|N (Ai ) (s, t, eiθ ) = (s, t, ei(θ+2πt) ). ここで int は,内部を意味する.ただし, (s, t, eiθ ) ∈ N (Ai ) = ai × [0, 1] × S 1 . 断面 c(B ′ ) の ϕ による像 ϕ(c(B ′ )) は,S 1 束 g ′ : M ′ → B ′ の断面になる.よって c′i = ϕ(c(B ′ )) ∩ Ti とおくと, π1 (Ti ) ∼ = ⟨hi ⟩ ⊕ ⟨c′i ⟩ となり,c′i = ci + hi である.よって ci = c′i − hi より, f (mi ) = αi ci + βi hi = αi c′i + (βi −αi )hi となり,(αi , βi ) のかわりに (αi , βi −αi ) を採用しても,できあがる 3 次元多様体の位相 形は変わらないことがわかる.このような操作を断面の取りかえとよぶ.また断面の取り かえにおいて S 1 方向を逆にすると,(αi , βi ) のかわりに (αi , βi + αi ) を採用することも できる.以上により,(αi , βi ) は 0 < βi < αi とできることが示された. 整数の組 (α1 , β1 ), · · · , (αr , βr ) をザイフェルト不変量とよぶ.したがってザイフェルト 多様体の位相形は ∂B ̸= ∅ の場合,底空間 B とザイフェルト不変量 (α1 , β1 ), · · · , (αr , βr ) で決まることがわかった.このようなザイフェルト多様体を,S(B; (α1 , β1 ), · · · , (αr , βr )) と書く. 第 2 章 準備 16 次に ∂B = ∅ とする.∂B = ∅ なので,∂B ′ の連結成分の数はちょうど r である.B ′ 内に2次元円板を一つ指定し D0 とおき, V0 = g − 1 (D0 ), g|M \intV0 : M \ intV0 → B ′ \ intD0 とする.g|M \intV0 は,∂B ̸= ∅ のときと同様の射影であり,M \ intV0 は,境界を持つの で ∂B ̸= ∅ の場合で扱ったザイフェルト多様体である.よって,M \ intV0 の位相型は, B ′ \ intD0 とザイフェルト不変量 (α1 , β1 ), · · · , (αr , βr ) で決まる.したがって M の位相 形は,これらの不変量と,∂V0 を M \ intV0 に貼り合わせる写像によって決まる.V0 の メリディアンとロンジチュードを m, l とし,∂(M \ intV0 ) における正則ファイバーを一 つ指定し h とおく.また ∂(M \ intV0 ) は断面をもつ S 1 束なので,その断面の境界の連 結成分の中で,∂(M \ intV0 ) に現れるものを c0 とし,f : ∂V0 → ∂(M \ intV0 ) を貼り合 わせの写像とする.V0 は正則ファイバーの正則近傍なので,(1, q) 型のファイバートーラ ス体である。よって f − 1 (h) = l + qm となり,ある整数 b によって f (m) = c0 + bh となる.この整数 b をザイフェルト多様体の障害類とよぶ.またこのようなザイフェルト 多様体を,S(B, b; (α1 , β1 ), · · · , (αr , βr )) と書く. 以上をまとめると,ザイフェルト多様体は以下のように表すことができる. 定義 2.6.4. M を底空間を B とし,r 本の特異ファイバーを持つザイフェルト多様体を とする.M は,次のいづれかで与えられる. (1) ∂B ̸= ∅ のとき,M = S(B; (α1 , β1 ), · · · , (αr , βr )) (2) ∂B = ∅ のとき,M = S(B, b; (α1 , β1 ), · · · , (αr , βr )) ただし (1) (2) において,(αi , βi ) は互いに素な整数の組であり,βi は 0 < βi < αi と する. 17 第3章 3次元多様体から2次元球面への安 定写像 3.1 主定理 f の特異点の集合を S(f ),f の定値折り目特異点の集合を S0 (f ),f の不定値定値折り 目特異点の集合を S1 (f ) 書く.また定値折り目特異点の連結成分数の数を |S0 (f )|,不定 値折り目特異点の連結成分数の数を |S1 (f )| と書く. 導入で述べた定理 1.0.1 は,次の定理より従う. 定理 3.1.1 (K). M を連結な向きづけ可能な閉3次元多様体とする.以下,f : M → S 2 を special generic map とする.以下のことが成り立つ. (i) S(f ) = ∅ である f が存在するならば,M は L(p, 1) と同相である. (ii) |S0 (f )| が奇数である f が存在するならば,M は S 3 あるいは偶数個の S 2 × S 1 の 連結和と同相である. (iii) |S0 (f )| が偶数である f が存在するならば,M は奇数個の S 2 × S 1 の連結和と同 相である. さらに各 (i), (ii), (iii) について,その逆が成り立つ. また,不定値折り目特異点を持つ安定写像に関して次の定理が成り立つ. 定理 3.1.2 (K). M を連結な向き付け可能な閉 3 次元多様体とし,安定写像 f : M → S 2 で次の条件をみたすものが存在するとする: (1) S(f ) = S1 (f ) かつ |S(f )| = 1. (2) f (S(f )) が S 2 上の単純閉曲線となる. 第3章 18 3次元多様体から2次元球面への安定写像 (3) N (S(f )) ∼ = P × S1. このとき,M は,S(S 2 , b; (n1 , 1), (n2 , 1), (n3 , 1)) と同相である. また,その逆も成り立つ. ここで P は,S 2 から 3 つの開円板を取り除いて得られる多様体である.また,ni ∈ Z (i = 1, 2, 3) であり,S(S 2 , b; (n1 , 1), (n2 , 1), (n3 , 1)) は,ザイフェルト多様体である. 詳しくは,定義 2.6.4 を参照. 3.2 定理 3.1.1(i) の証明 2 2 2 2 2 ) 証明. S 2 = D+ ∪ D− とする.f |f −1 (D+ : f −1 (D+ ) → D+ は正則である.また任意 2 の p ∈ D+ に対して,f −1 (p) は,1 次元多様体である.特に M は閉多様体であるから, 2 f −1 (p) は,S 1 の非交和である.定理 2.4.3 より,f −1 (D+ ) は,D2 × S 1 の非交和とな 2 2 2 る.D− も同様である.ここで f −1 (D+ ) と f −1 (D− ) の境界同士を微分同相で貼り合わ 2 2 せて M を構成することから,M は境界がないので f −1 (D+ ) と f −1 (D− ) の連結成分の 2 2 数は,同じ数でなくてはいけない.よって,f −1 (D+ ) と f −1 (D− ) はそれぞれ同じ数の 2 2 D2 × S 1 を貼り合わせてできたものとする.また f −1 (D+ ) と f −1 (D− ) がそれぞれ 2 つ 2 2 以上の D2 × S 1 を貼り合わせてできたものであるとする.f −1 (D+ ) と f −1 (D− ) が連結 であることから M の連結性に矛盾する.よって,M は 2 枚の D 2 × S 1 を境界に沿っ て貼り合わせて得られる.すなわちレンズ空間である.それぞれのソリッドトーラスを H+ , H− とする. 2 2 a+ を H+ のメリディアンとし,b+ を正則写像 f |f −1 (∂D+2 ) ; f −1 (∂D+ ) → ∂D+ のファ イバーとする.a+ と b+ の向きは (a+ , b+ ) が境界 ∂H+ の向きと一致するように選んで おく.µ+ = [a+ ], λ+ = [b+ ] ∈ H1 (∂H+ ; Z) とする.⟨µ+ , λ+ ⟩ は H1 (∂H+ , Z) ∼ =Z⊕Z の基底をなす.H− についても同様の記号を用いる. H+(と H− ) の貼り合わせを定める向きを入れ替える同相写像 h : ∂H+ → ∂H− を行列 −q s A= ,p, q, r, s ∈ Z,pr + qs = 1 により定める.つまり,誘導するホモロジー p r 群の間の写像 h∗ : H1 (∂H+ ) → H1 (∂H− ) が ⟨µ− , λ− ⟩ = ⟨µ+ , λ+ ⟩A を満たしているとする. λ+ および λ− がファイバーに対応するホモロジー類であり,λ− = sµ+ + rλ+ である ことから,s = 0 かつ r = ±1 が得られる.つまり, 3.3 定理 3.1.1(ii) (iii) の証明 19 ( −q p s r ) ( −q = p ) 0 ±1 となる.det A = −1 より q = ±1 と分かる.よって M はレンズ空間 L(p, ±1) ∼ = L(p, 1) である. 逆に、M は L(p, 1) と同相ならば S(f ) = ∅ である f が存在することを示す.この証明 は,[10] に従う. L(p, 1) ∼ = L(p, −1) であるから安定写像 f : L(p, −1) → S 2 を構成する.L(p, −1) = ∪ D1 ×S 1 ϕ D2 ×S 1 とする.ここで ϕ : ∂D1 ×S 1 → ∂D2 ×S 1 は,ϕ(ψ, θ) = (ψ −1 , ψ p θ) ∪ とする.また S 2 = D1 g D2 とする.ここで,g : ∂D1 → ∂D2 は,g(z) = z −1 により 定義される.射影を f |Di ×S 1 → Di (i = 1, 2) と定義すると,f は well-defined な特異点 のない安定写像となる. 3.3 定理 3.1.1(ii) (iii) の証明 定理 3.1.1(ii) (iii) の証明の前に,証明に必要な補題を提示するとともにその証明を与 えておく. 補題 3.3.1. B をコンパクトで向き付け可能な曲面,M を向き付け可能な B 上の S 1 束 とする.このとき,∂B ̸= ∅ ならば M は B × S 1 に同相である. この補題の証明は,[9] に準ずる. 証明. B をコンパクトで向き付け可能な曲面,M を向き付け可能な B 上の S 1 束, p : M → B を射影とする.∂B ̸= ∅ のとき,B に埋め込まれた互いに交わらない有限個 の弧で以下を満たす α1 , · · · , αn が取れる. cl(B − (N (α1 ) ∪ N (α2 ) ∪ ··· ∪ N (αn ))) = D2 . ここで,cl は閉包を意味する. Ai = p−1 (αi ) (i = 1, 2, · · · , n) とおく.Ai は,αi 上の S 1 束なので, Ai ∼ = αi × S 1 . M を A1 , A2 , · · · , An に沿って切り開いて得られる三次元多様体を M ′ とする.M ′ は, D2 上の S 1 束となり, M′ ∼ = D2 × S 1 第3章 20 3次元多様体から2次元球面への安定写像 となる. 以下,この積構造が M においても保たれることを示す.∂M ′ ∼ = ∂D2 × S 1 上にある A1 , · · · , An の切り口を A′1 , A′′1 , · · · , A′n , A′′n とし,∂D2 上にある α1 , · · · , αn の切 ′ り口を α1′ , α1′′ , · · · , αn , αn′′ とする.このとき, A′i = αi′ × S 1 , A′′i = αi′′ × S 1 (i = 1, 2, · · · , n). αi には向きを定めておき,αi′ , αi′′ にはその向きから定まる向きを指定しておく.A′i と A′′i には M ′ に指定された S 1 の向きと αi′ , αi′′ の向きによって,それぞれ向きが定まる. D2 から B を構成するとき,A′i と A′′i の貼り合わせにおいても,αi′ と αi′′ の向きが一 致するように貼り合わせる必要がある.また B が向き付け可能なので,M が向き付け可 能であるためには,S 1 の向きも保存する必要がある.ゆえに,M ′ ∼ = D2 × S 1 という積 構造は,M においてもそのまま保たれ, M∼ = B × S1 となる. 以下では,Σg,n を種数 g ,境界の数が n 個の向き付け可能な閉曲面とする.ただし, g ≥ 0, n ≥ 1.また,k = 2g + n − 1 とする. 補題 3.3.2. ∂ (Σg,n × D 2 ) は,k = 0 のときは S 3 と,k > 0 のときは k 個の S 2 × S 1 の連結和と同相である. 証明. k = 0 のとき,Σ0,1 ∼ = D2 より ∂ (Σ0,1 × D2 ) ∼ = ∂D4 ∼ = S3 k > 0 のとき,Σg,n は,D2 に k 個の 1 ハンドル Pi = [0, 1] × [0, 1] (i = 1, · · · , k) を 貼った多様体と同相である.Σg,n は次のように書くことができる. Σg,n = D2 ∪ P1 ∪ P2 ∪ ··· ∪ Pk また D 2 × Pi より, ∪ ∪ P2 · · · Pk ) × D2 ∪ ∪ ∪ ∪ ∼ = (D2 × D2 ) (D2 × P1 ) (D2 × P2 ) · · · (D2 × P2 ) Σg,n × D2 ∼ = (D2 ∪ P1 ∪ ∼ = D4 ♮(S 1 × D3 )♮(S 1 × D3 )♮ · · · ♮(S 1 × D3 ) 3.3 定理 3.1.1(ii) (iii) の証明 21 よって, ∂ (Σg,n × D2 ) ∼ = ∂{D4 ♮(S 1 × D3 )♮(S 1 × D3 )♮ · · · ♮(S 1 × D3 )} ∼ ∂D4 ♯∂(S 1 × D3 )♯∂(S 1 × D3 )♯ · · · ♯∂(S 1 × D3 ) = ∼ = S 3 ♯(S 2 × S 1 )♯(S 2 × S 1 )♯ · · · ♯(S 2 × S 1 ) となる.ここで連結和の個数は k 個なので,∂(Σg,n × D 2 ) は k 個の S 2 × S 1 の連結和と 同相である. よって,∂(Σg,n × D2 ) は,S 3 または k 個の S 2 × S 1 の連結和と同相である. 定理 3.1.1 (ii) の証明. |S0 (f )| = 1 である special generic map f : M → S 2 が存在する とする.特異点が定値折り目特異点であることから,S(f ) の各点の近傍 N (S(f )) は,M 内で図 3.1 のようになっている (cf.[6]).ここでは,太い線が S(f ) である. S (f ) 図 3.1 定値折り目特異点とその近傍 M はコンパクトだから,S(f ) は単純閉曲線となり, N (S(f )) ∼ = D2 × S 1 となる. 次に写像 M \ intN (S(f )) → S 2 は,正則な写像であるから定理 2.4.3 より M \ intN (S(f )) は,Σg,1 上の S 1 束になる.補題 3.3.1 より M \ intN (S(f )) は,Σg,1 × S 1 に同相である.よって, M∼ = (D2 × S 1 ) ∪ (Σg,1 × S 1 ) (3.1) ここで Σg,1 × D2 を考える.Σg,1 × D2 の境界を取ると以下のようになる. ∪ ∂(Σg,1 × D2 ) = (∂Σg,1 × D2 ) (Σg,1 × ∂D2 ) ∪ = (S 1 × D2 ) (Σg,1 × S 1 ) (3.2) ここで,式 (3.1) と式 (3.2) での境界の貼り合わせを見る.式 (3.1) でファイバーを考え ると,D 2 × S 1 上では D 2 × {∗} ∈ D 2 × S 1 ,Σg,1 × S 1 上では,{∗} × S 1 ∈ Σg,1 × S 1 が 第3章 22 3次元多様体から2次元球面への安定写像 対応している.式 (3.2) でファイバーを考えると,D 2 × S 1 上では D 2 × {∗} ∈ D2 × S 1 , Σg,1 × S 1 上では,{∗} × S 1 ∈ Σg,1 × S 1 が対応している.よって,境界の貼り合わせが 一致する. 以上より境界の貼り合わせが一致するので, M∼ = ∂ (Σg,1 × D2 ). g = 0 のとき,補題 3.3.2 から,M は S 3 と同相である.g > 0 のとき,k = 2g +1−1 = 2g となり,M は偶数個の S 2 × S 1 連結和と同相である.したがって,|S0 (f )| = 1 のとき は,M は,S 3 または偶数個の S 2 × S 1 の連結和と同相である. |S0 (f )| ≥ 3 のときは以下のように考える.|S0 (f )| = t である special generic map f : M → S 2 が存在するとする.t 個の S0 (f ) を S01 (f ), S02 (f ), · · · , S0t (f ) とする.先程 の議論と同様に, N (S0j (f )) ∼ = D2 × S 1 (j = 1, 2, · · · , t ). 各 D2 × S 1 を Qj (j = 1, 2, · · · , t) とする.また写像 M \ 則な写像であるから定理 2.4.3 より M \ 題 3.3.1 より M \ ∪ j ∪ j ∪ j intN (S0j (f )) → S 2 は,正 intN (S0j (f )) は,Σg,t 上の S 1 束になる.補 intN (S0j (f )) は,Σg,t × S 1 と同相である.よって, M∼ = (Σg,t × S 1 ) ∪ Q1 ∪ ··· ∪ Qt 次に,Σg,t × D 2 を考えその境界を取る議論も同様で,境界の貼り合わせが一致すること も確かめられるので, M∼ = ∂(Σg,t × D2 ) となる.そして補題 3.3.2 を用いて,M は,k = 2g + t − 1 個の S 2 × S 1 と同相である. 今 t は,t ≥ 3 である奇数なので,2g + t − 1 は偶数である.したがって,|S0 (f )| ≥ 3 の とき,M は,偶数個の S 2 × S 1 の連結和と同相である. 以上をまとめると,定理の主張が得られる. 定理 3.1.1 (iii) の証明. 定理 3.1.1 (ii) の証明とほぼ同様である.|S0 (f )| = u である special generic map f : M → S 2 が存在するとする.ただし u は,u ≥ 2 である偶数と する.定理 3.1.1 (ii) の証明とまったく同様に, M∼ = ∂(Σg,u × D2 ). ここで補題 3.3.2 を用いて,M は,k = 2g + u − 1 個の S 2 × S 1 と同相である.今 u の 仮定から,2g + u − 1 は,奇数となる.よって M は,奇数個の S 2 × S 1 と同相であると いえ,定理の主張が得られた. 次に,定理 3.1.1 (ii) (iii) の逆の証明をまとめて与える. 3.4 定理 3.1.2 の証明 23 定理 3.1.1 (ii) (iii) の逆の証明. M を以下のように,分解する. M∼ = (Σg,n × S 1 ) ∪ (D2 × S 1 ). Σg,n は,図 3.2 のように書くことができる.α : Σg,n → R2 をこの図から定まる自然な埋 めこみとする. g n 1 図 3.2 コンパクト曲面 Σg,n β : R2 → S 2 を立体射影とする.γ を第 1 成分への射影とする.すなわち, γ : Σg,n × S 1 → Σg,n . このとき, β ◦ α ◦ γ : Σg,n × S 1 → S 2 は,M \ intN (S(f )) から S 2 への安定写像になる.ここで,D2 × S 1 と N (S0 (f )) を同 一視し,Σg,n × S 1 の β ◦ α による像のカラー近傍に対して,安定写像 β ◦ α ◦ γ を拡張す ることで,M から S 2 への安定写像が得られる. 3.4 定理 3.1.2 の証明 まず,3 つの条件を満たす安定写像 f が存在するならば, M∼ = S(S 2 , b; (n1 , 1), (n2 , 1), (n3 , 1)) を示す. 証明. f は不定値折り目特異点を持つので,M 内での S(f ) の近傍は,図 3.3 のように なっている.ここで太い線の部分が S(f ) である. [0, 1] を閉区間,ϕi : P → P (i = 1, 2) を次のように定める (cf.[13]). N (S(f )) ∼ = P × [0, 1]/(x, 0) ∼ (ϕi (x), 1) (i = 1, 2) 第3章 24 3次元多様体から2次元球面への安定写像 S (f ) 図 3.3 不定値折り目特異点とその近傍 ここで,ϕ1 = idP (恒等写像),ϕ2 は,P を図の S(f ) を中心に π だけ回転させる写像で ある.ϕi (i = 1, 2) は,図 3.4 の P × {0} と P × {1} を貼り合わせる写像である.今 N (S(f )) ∼ = P × S 1 なので,ϕ1 の方を考える. P S1 S (f ) P f1g P f0g 図 3.4 P × S 1 図 3.4 の P ×S 1 の外側の境界を A×S 1 ,内側の境界を B ×S 1 , C ×S 1 とする.ここで, A, B, C は全て S 1 と同相だが,区別するために A, B, C とした.N (S(f )) = P × S 1 の境界を Σg,n × S 1 たちで埋めて M を構成する.以下、M \ P × S 1 の連結成分の数を |M \ P × S 1 | と書き,|M \ P × S 1 | によって,場合分けを行う. (1) |M \ P × S 1 | = 3 のとき P × S 1 はトーラスの境界を 3 つ持つので,3 つのトーラス境界を持つ 3 次元多様 体 Σgj ,1 × S 1 (j = A, B, C) でそれぞれ埋める.ここでそれぞれの曲面 Σgj ,1 の種 数を gA , gB , gC とした.(P × S 1 ) ∪ (ΣgA ,1 × S 1 ) ∪ (ΣgB ,1 × S 1 ) の境界 C × S 1 に {∗} × S 1 ⊂ C × S 1 がメリディアンになるように D2 × S 1 を貼り合わせて得られる 多様体を M1 とする.D 2 × S 1 を定値折り目特異点の近傍とみなすことで安定写像 3.4 定理 3.1.2 の証明 25 f1 : M1 → S 2 が得られる. f ((P × S 1 ) ∪ (D2 × S 1 )) は,S 2 上でアニュラスと同相である.このアニュラスを a1 とする.f (S(f )) は S 2 上の 単純閉曲線なので,f (∂ (ΣgA ,1 × S 1 )) と f (∂(ΣgB ,1 × S 1 )) は平行な単純閉曲線であり, それぞれを a1 の境界としてよい.f1 |M1 \((P ×S 1 ) ∪(D2 ×S 1 )) を以下のようにする: f1 |M1 \((P ×S 1 ) ∪(D2 ×S 1 )) = f |(ΣgA ,1 ×S 1 ) ∪(ΣgB ,1 ×S 1 ) . また, f1 |(P ×S 1 ) ∪(D2 ×S 1 ) : P × S 1 を (P × S 1 ) ∪ ∪ (D2 × S 1 ) → a1 (D2 × S 1 ) = (S 1 × I) × S 1 ∋ ((s, t), u) に対して, f1 ((s, t), u) = (t, u) とする. ∂(ΣgA ,1 × S 1 ) = ∂ΣgA ,1 × S 1 と ∂(ΣgB ,1 × S 1 ) = ∂ΣgB ,1 × S 1 ではファイバーは, ∪ {∗} × S 1 ⊂ ∂ΣgA ,1 × S 1 , ∂ΣgB ,1 × S 1 である.∂((P × S 1 ) (D2 × S 1 )) ではファイバー は,S 1 × {∗} × {∗} である.ファイバーが一致するので,境界に沿って f1 は貼り合わさ れているといえる.以上で,特異点を持たない安定写像 f1 : M1 → S 2 が構成された. ∪ M1 は S 2 上の S 1 束となり,f1 の Stein factorization は,ΣgA ,1 ΣgB ,1 である.こ ∪ こで,写像 f¯1 : Σg ,1 Σg ,1 → S 2 は正則写像となる.特に f¯1 は被覆写像となる.S 2 A B 2 の普遍被覆は S なので, ΣgA ,1 ∪ ΣgB ,1 ∼ = S2. よって gA = gB = 0. gC = 0 も同様に示される. 以上より ΣgA ,1 と ΣgB ,1 と ΣgC ,1 は,D2 × S 1 と同相である.P × S 1 の境界を 3 つの D2 × S 1 で埋めるので,多様体 M は,ザイフェルト多様体となる. P × S 1 は 2.6 節の M ′ であり,先程の 3 つの D2 × S 1 を順に V1 , V2 , V3 とする.Vi の ロンジチュードを li ,メリディアンを mi とする.∂M ′ の連結成分で,各 Vi と貼り合わ されるトーラスを Ti とする.2.6 節と同様に π1 (Ti ) の元を ci , hi (i = 1, 2, 3) とする. ここで,境界の貼り合わせをファイバーで見る.写像 M \ P × S 1 → S 2 は正則なの で,∂Vi のファイバーは li 方向である.また ∂M ′ では,ファイバーは ci 方向である. 第3章 26 3次元多様体から2次元球面への安定写像 式 (2.1) から f (li ) = γi ci + δi hi より,境界の貼り合わせを見ると,γi = 1, δi = 0 と分 かる.また, ( det αi γi βi δi ) =1 より βi = −1 と分かる.よって, f (mi ) = αi ci − h. ∂M = ∅ なので, M∼ = S(S 2 , b; (α1 , −1), (α2 , −1), (α3 , −1)) ∼ = S(S 2 , b; (−α1 , 1), (−α2 , 1), (−α3 , 1)) (2) |M \ P × S 1 | = 2 のとき 以下の 2 通りの埋め方が考えられる. (i) A × S 1 と B × S 1 を境界に持つ ΣgAB ,2 × S 1 ,C × S 1 を境界に持つ ΣgC ,1 × S 1 で埋めるとするとき.ここで gAB は,ΣgAB ,2 の種数であり,gC は,ΣgC ,1 の種数 である. (ii) A × S 1 を境界に持つ ΣgA ,1 × S 1 ,B × S 1 と C × S 1 を境界に持つ ΣgBC ,2 で埋め るとするとき.ここで gA は,ΣgA ,2 の種数であり,gBC は,ΣgBC ,1 の種数である. (i) のとき.C × S 1 の近傍で,ΣgC ,1 × S 1 を切る.切り口には,定値折り目特異点の 近傍 D 2 × S 1 を貼り合わせる.ここで貼り合わせは,ΣgC ,1 の境界のメリディアンが C × {∗} ⊂ P × {∗} ⊂ P × S 1 に一致するように貼る.得られる多様体を M2 とする.す なわち, ∪ M′ ∼ = (P × S 1 ) (D2 × S 1 ) ∼ = I × S1 × S1 ∼ = a2 × S 1 ここで I × S 1 = a2 (アニュラス)とした.f2 を次のように構成する. f2 |(P ×S 1 ) ∪(D2 ×S 1 ) : (P × S 1 ) ∪ (D2 × S 1 ) → S 2 を (1) の f1 と同様に構成する.また, f2 |ΣgAB ,2 ×S 1 = f |ΣgAB ,2 ×S 1 とする.(1) と同様,ΣgAB ,2 ∪ a2 で得られる閉曲面が Stein factorization となる.(1) の議論と同様に ΣgAB ,2 ∪ a2 ∼ = S2. 3.4 定理 3.1.2 の証明 ΣgAB ,2 ∪ 27 a2 は,種数 1 以上の曲面となり,矛盾が生じる. (ii) のとき.B × S 1 の近傍と C × S 1 の近傍で,ΣgBC ,2 × S 1 を切る.切り取った ΣgBC ,2 × S 1 の鏡像を (ΣgBC ,2 × S 1 )′ とする.ΣgBC ,2 × S 1 と (ΣgBC ,2 × S 1 )′ を境界で自 然に貼り合わせて得られた多様体を M3 とする.境界の貼り合わせは,鏡像の取り方から 整合性は保たれている.すると,特異点を持たない安定写像 f3 : M3 → S 2 が構成され, 種数が 1 以上の曲面上の S 1 束から S 2 への正則な安定写像が存在し,(i) と同様の議論で 矛盾する. (3) |M \ P × S 1 | = 1 のとき.A × S 1 と B × S 1 と C × S 1 の 3 つ境界を持つ Σg′ ,3 × S 1 で P × S 1 の境界を埋める.ここで g ′ は,Σg′ ,3 の種数である.C × S 1 で M を切り開 き,P × S 1 側の境界に定値折り目特異点の近傍 N1 = D 2 × S 1 を貼り合わせ,また, Σg′ ,3 側の境界に N2 = D2 × S 1 を微分同相写像 ∂D2 × S 1 → ∂P × S 1 で貼り合わせる. 得られた多様体を M4 とする.f4 を以下のように構成する. f4 |(P ×S 1 ) ∪ N1 : (P × S 1 ) ∪ N1 → S 2 を (1) の f1 と同様に構成する.また f4 |Σg′ ,3 ×S 1 = f |Σg′ ,3 ×S 1 とし,N2 上では第 1 成分への射影 f4 |N2 : N2 = D2 × S 1 → D2 で定義する.すると,f4 : M4 → S 2 は特異点のない安定写像となる.以下,(2) の (i) と 同様の議論で矛盾することが示される. 以上 (1) (2) (3) から,M は,ザイフェルト多様体 S(S 2 , b; (n1 , 1), (n2 , 1), (n3 , 1)) と同相である. 次に,M ∼ = S(S 2 , b; (n1 , 1), (n2 , 1), (n3 , 1)) ならば,定理 3.1.2 の 3 つの条件を満たす 安定写像 f が存在することを示す. 証明. 仮定より M∼ = (P × S 1 ) ∪ (D2 × S 1 ) ∪ (D2 × S 1 ) ∪ (D2 × S 1 ) P は,S 2 から 3 つの開円板を取り除いて得られる多様体である.また,P × S 1 は不定 値折り目特異点の近傍と同相であるから,安定写像 fP ×S 1 : P × S 1 → S 2 を次の 3 つの 条件を満たすように定める: 第3章 28 3次元多様体から2次元球面への安定写像 • S(fP ×S 1 ) = S1 (fP ×S 1 ). • |S1 (fP ×S 1 )| = 1. • f (S1 (fP ×S 1 )) は S 2 上の単純閉曲線. 3 つの D2 × S 1 を Hi (i = 1, 2, 3) とする.fHi : Hi ∼ = D2 × S 1 → D2 を第 1 成分への 射影とすると,fHi はいたるところ正則である. 次に境界の貼り合わせを見る.βi = 1 であるから, ( det αi γi βi δi ) =1 より,γi = −1, δi = 0 とおくと,(2.1) におけるファイバーに関する式より, fi (li ) = γi ci + δi hi = −ci となる.よって,3 つの境界で貼り合わせの整合性は保たれている.P × S 1 の境界の各 連結成分の fP ×S 1 による像は S 2 上の単純閉曲線だから,fHi は P × S 1 に自然に貼り 合わせることができる.したがって,安定写像 f : M → S 2 で以下の条件を満たすもの が構成された. • S(f ) = S1 (f ) かつ |S1 (f )| = 1. • f (S1 (f )) が S 2 上の単純閉曲線となる. 以上より,主張が示された. 注意 3.4.1. 主定理 3.1.2 の f に関する条件のうち,(3) の条件をはずして,N (S1 (f )) が P × S 1 でない場合について M を決定すれば条件 (1) (2) を満たす多様体の位相型を決 定できる. 注意 3.4.2 ([5]). 主定理 3.1.2 の f に関する条件のうち,(3) の条件のみをはずすと,M が双曲多様体であるような例が構成できる. 29 参考文献 [1] T. 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