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自由論題 東南アジアの政治
報告2
谷口 美代子(東京大学大学院博士課程)
ムスリム・ミンダナオにおける紛争と暴力の構造的要因――「リド」
(Rido)
(氏族間抗争)
をとおしてみるフィリピンの国家性
The Statehood of the Philippines through Rido (family feud)
過去 40 年以上にもわたり、イスラーム系反政府勢力(モロ民族解放戦線(MNLF)
、モ
ロ・イスラーム解放戦線(MILF)
)はフィリピンからの分離独立、自治拡大を目指し、武
力紛争を継続し、2014 年 3 月に和平合意を締結した。2000 年以降は、MILF とフィリピン
政府との間で締結された停戦合意により、国軍と MILF の軍事衝突は減少した一方、人々
の日常生活を脅かすリド(Rido)
(氏族間抗争)
(日常的暴力)の存在が表面化した。こう
した現状にともない、ミンダナオ研究にリド研究が含まれるようになった。しかし、これ
らの先行研究は、リドが文化的要因と紛争による国家の統治や法の支配の不在に起因する
ものとし、紛争との関連やその構造的要因を体系的に分析している研究はほとんどない。
本研究の目的は、特にリドに焦点を当てながら、複雑化・多様化する紛争と暴力が継続
する構造的要因を明らかにすることである。本研究では、リドを南部ミンダナオの「暴力
の文化」と位置付ける原初アプローチを否定し、フィリピンの国家性と支配の正当性とい
う観点から分析する。この中で、ランデのクライアンティズム、マチャドの政治マシーン、
サイデルのボッシズムなどの分析枠組みを適用する。事例として、2009 年にマギンダナオ
州で発生したマギンダナオ虐殺も単なるリドとしてではなく、時のアロヨ大統領とアンパ
トゥアンが政権維持のためにどのように政治取引が行われたかを明らかにしながら、フィ
リピンの国家性を浮かびあがらせ、リドと紛争との構造的要因を検証する。
本研究の構成は、①概要(目的、方法など)、②先行研究と分析枠組みの提示、③リドの
概要(定義、形態・件数、被害状況など)、④ミンダナオのリド研究、⑤アクターの多様化
(軍閥、私兵団、政治家)
、⑤人々への影響、⑥マギンダナオ虐殺にみる紛争・暴力の現実、
⑦結論-などを想定している。