シャンプー購入の際の判断基準 −価値観との関係から− 筑波大学 理工学群 社会工学類 社会経済システム主専攻 201111254 宍戸 研滋 指導教員 石井 健一 目次 第1章 研究目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 1-1 研究の背景と目的 1-2 仮説の設定 第2章 研究方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 2-1 質的調査 2-1-1 ラダリング法を用いた質的調査の調査方法 2-1-2 ラダリング法による調査結果の概要説明 2-2 アンケート用紙による量的調査 2-3 尺度の定義、変数の定義 第3章 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 3-1 アンケート調査結果の概要 3-2 仮説の検証 3-2-1 仮説 1 の検証 3-2-2 仮説 2 の検証 3-2-3 仮説 3 の検証 3-2-4 仮説 4 の検証 第4章 結論と今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 参考文献 付録 謝辞 1 第1章 1-1 研究目的 研究の背景と目的 日本でシャンプーが普及し始めたのはいつからなのだろうか。頭髪用香粧品(本間 1982)によると、 「昭和 30 年,戦後の混乱の中もっぱら何でもセッケンで洗っていたところに初めて粉末のシャンプーが世の 中に出てきた。この時から頭髪用洗浄剤としてシャンプーの歴史が始まったといって良いだろう。」と書かれ ている。50 年以上前に始まったこのシャンプーは時を経るごとに使用回数が増し、今では毎日シャンプーを する事が当たり前になっている。また、今日のシャンプーのブランド数は 300 を越えると言い、消費者のニ ーズは単に髪を洗浄することに留まらず多様化していると言える。 1 そこで「消費者はどのような判断基準でシャンプーを選んでいるのだろうか」また、 「消費者の価値観はど のように関係しているのか」について興味を持った。そのため本研究では消費者の価値観と商品の選択要因 を調査し、価値観がシャンプー商品の選択に与える影響を明らかにする事を目的とする。 1-2 仮説の設定 仮説の設定のために、ラダリング法による質的調査を実施した。このラダリングの手法と質的調査の結果 については第 2 章で述べることとする。質的調査を参考にし、以下の仮説を設定する。 仮説 1:「合理的な考えを持つ人ほど、商品のデザインやイメージを重視する」 質的調査において「有名品などの商品イメージが良い物を選択することで、できるだけ失敗を防ぎたい。」 、 「無駄なことをしたくない。」という回答を得た。このことから合理的に判断したいと考える人ほど、失敗を 避けるために有名品を選び、商品イメージを重視するのではと考え仮説 1 を設定した。 仮説 2:「周囲の人とうまく付き合いたい人ほど、商品の洗浄力を重視する」 髪の汚れをスッキリ落としたい理由として、 「周囲から不潔だと思われたくないから。」という回答を得た。 これをもとに周囲からの評価に敏感な人であれば、髪の汚れを良く落とせる商品を重視すると考え、仮説 2 を設定した。 仮説 3:「自分に自信を持ちたい人ほど、商品の質を重視する」 質的調査において、髪を乾かした時髪がパサつかないことや、指通りの良さを重視する理由は「髪のコン ディションを整えたいから。」という回答を得た。さらには、髪のコンディションを整えることで「もっと素 敵・かっこよくなって自信を持ちたい。」という回答を得た。このことから、目標の自分に到達し自信を持ち たい人ほど、商品の質を重視すると考え仮説 3 を設定した。 1 JMR 生活総合研究所 消費者調査 シャンプー(2010 年 2 月版) 2 仮説 4:「自分らしくいたいと考える人ほど、商品の質を重視する」 質的調査において、髪のコンディションを整えることで「自分らしいヘアスタイルを実現しやすくなる。」 という回答を得た。このことから自分らしさを求める人ほど、それを実現するために商品の質を重視すると 考え、仮説 4 を設定した。 第2章 2-1 研究方法 質的調査 仮説を設定するにあたって、筑波大学生 3 名に対しラダリング法による質的調査を行った。方法と結果は 以下のとおりである。 2-2-1 ラダリング法を用いた質的調査の調査方法 ラダリング法のブランド戦略への適用(丸岡 1996)によると、「ラダリング法(laddering)は、1980 年代以降、消費者行動研究、マーケティング実務の分野で幅広く活用されるようになった調査手法である。 この手法は、消費者の持つ価値システムに着目するもので、消費者の重視する価値が個々の商品やブランド の具体的な属性にどのように実現しているかを明らかにすることができる」。本研究での被験者は 22 歳女性 が 1 人、21 歳男性が 1 人、20 歳女性が 1 人である。個別インタビュー形式で、1 人あたり約 30 分程度行っ た。調査内容はシャンプー12 製品に関して、製品の写真とブランド名が書かれたカードを提示し、その中か ら 3 位までを選んでもらう。次に、1 位と 2 位の差異が生じる理由を尋ねる。さらに 2 位と 3 位の差異が生 じる理由を尋ねる。同様に 1 位と 3 位の差異が生じる理由を尋ねる。続いて、1 位と 2 位の差異が生じる理 由がなぜ重要であるかを尋ねる。2 位と 3 位、1 位と 3 位の理由についても同様になぜ重要であるかを尋ね る。質問を繰り返し、答えが価値観に分類されるものになるまで続ける。この調査結果を仮説を立てるため の資料として用いた(付録 1 参照)。 2-2-2 ラダリング法による調査結果の概要説明 21 歳男性は 1 位ヴィダルサスーン、2 位ラックス、3 位パンテーンを選択した。この被験者は全体の順位 付けを製品の香りや高級感を基準に行っていた。理由としては、 「シャンプー後、ドライヤーで髪を乾かして いる時に自分の好きな匂いがして欲しい。」と回答した。細かい 1 位と 2 位の差や 2 位と 3 位の差について は価格や製品デザインが要因であった。22 歳女性は 1 位アジエンス、2 位いち髪、3 位ラックスを選択した。 この被験者はインターネット上の口コミを参考に、指通りや髪がサラサラになるかに注意して順位付けを行 っていた。理由としては、「髪を傷めたくない。髪のコンディションを整えたい。」と回答した。またインタ ーネット上の評価だけでなく CM によるイメージも 1 位と 2 位や、3 位との差異を生む要因であった。20 歳女性は 1 位パンテーン、2 位 TSUBAKI、3 位ダヴを選択した。選択基準として髪がパサつかずツヤが出 ること、ある程度の有名品であることを重視していた。またそれぞれの順位差を生む要因としてより髪の汚 れが落ちやすい、高級感を感じるなどが挙げられた。 3 2-3 アンケートによる量的調査 仮説を検証するために、アンケートによる量的調査を実施した。アンケートの内容は、シャンプー製品を 購入する際の判断基準や、現在使用しているシャンプー製品、個人の価値観を問うものである(付録 アン ケート用紙) 。 調査実施日:2014 年 11 月下旬から 12 月上旬 対象:筑波大学生 場所:社会工学類端末室、第二エリア 2B 棟食堂、第三エリア 3A 棟食堂 回収数:アンケート用紙回収数 87 枚 2-4 内、男性 41 枚、女性 44 枚、性別不明 2 枚であった。 尺度の定義 本研究では、アンケート用紙の問 4 に回答者の価値観を測る質問を設定している(付録 2 アンケート用 紙参照)。問 4 の 6.から 9.まではアンケート対象者が他人からの評価をどれだけ気にしているかを測る(以 下、評価懸念尺度) (笹川・金井他 2004)。問 4 の 10.から 13.までは独自性をどれだけ求めているかを測る (以下、独自性欲求尺度) (心理測定尺度集Ⅱ)。問 4 の 14.から 17.までは合理性を測る(以下、合理性尺度) (内藤・鈴木他 2004)。問 4 の 18.から 21.までは自信を持つこと、自己実現への意欲を測る(以下、自己 実現尺度)(平石 1990)。またこれらの尺度の信頼性を保つためにα係数の測定を行った。その結果、評価 懸念尺度については問 6 が削除され項目の数が 3 つ、α係数は 0.747 になった。独自性要求尺度については 問 10、問 12 が削除され項目の数が 2 つ、α係数は 0.739 という結果になった。合理性尺度については問 15 が削除され項目の数が 3 つ、α係数は 0.659 という結果になった。自己実現尺度については問 20 が削除さ れ項目の数が 3 つ、α係数は 0.738 という結果になった。以下の分析には質問項目削除後の各尺度を使用す る。 第3章 3-1 結果と考察 アンケート調査結果の概要 今回のアンケート調査では、シャンプー製品を購入する際の判断基準や、現在使用しているシャンプー製 品、個人の価値観(2-2 で述べた 4 つ)などを回答してもらった。ここでは、シャンプー属性とその重要度 の関係、シャンプー製品別のシャンプー属性との関係、性別とシャンプー属性の関係に関する結果と考察を 述べる。 はじめに、 「シャンプー属性」の定義について述べる。これはシャンプー製品を購入する際に判断基準とな 「有名品である」、 る製品の特長である。具体的には、 「価格が安い」 、 「価格が高い」、 「CM を気に入っている」、 「デザインが良い」、 「高級感を感じる」、 「指通りが良い」、 「髪がパサつかない」、 「髪がサラサラになる」、 「香 りが良い」、「髪にツヤが出る」、「ノンシリコン製品である」、「汚れが良く落ちる」、「スッキリする」をあげ た。 4 図 3-1-1 はシャンプー属性の重要度の平均得点である。得点が高いほどその属性を重視している。このグ ラフから「価格が安い」ことが一番重視されており、次いで「香りが良い」「髪がサラサラになる」「髪がパ サつかない」といった髪への効果が重視されていることがわかる。一方、シャンプー本来の目的である「汚 れがよく落ちる」は全 14 項目中 9 位である。これは消費者にとってシャンプーで汚れが良く落ちることは 当たり前になりつつあり、シャンプーによって得られる様々な追加効果を重視して製品を選択するようにな っているからではないかと考えた。 図 3-1-1 シャンプー属性の重要度の得点(N=87) 次に、現在使用しているシャンプー製品別に、 シャンプー属性への重要度の回答をまとめたものが表 3-1-1、 表 3-1-2 である。特定の製品については回答者が 2、3 人であり少ないことから一般性に欠けると考え、上位 3 つの製品について考察する。まず、1 位で 12 人が選択したパンテーンについては、「有名品である」の項 目が他と比較して高い結果となった。これはシャンプー製品売上ランキングにおいてパンテーンが 1 位を獲 得している製品であり、非常に知名度が高いことが影響していると推測される。次に 2 位で 11 人が選択し たメリットについては、 「汚れが良く落ちる」、 「スッキリする」の項目が高い結果を示した。これはメリット が発売以来「髪と地肌(頭皮)の清潔と健康」をテーマに販売を続け、そのイメージが消費者に浸透してい るためだと推測される。また、 「高級感を感じる」の項目でメリットが最下位なことにも注目したい。これは CM にママや子どもを起用し、家庭的なイメージをメリットに対し作り上げる事に成功しているためだと考 えられる。最後に 3 位で 8 人が選択したラックスについては、「CM を気に入っている」、「有名品である」、 「デザインが良い」、「高級感を感じる」の項目が高くなる結果が得られた。これらは全て商品自体の効果で は無く商品イメージであり、ラックスが CM において外国人セレブを起用している、製品ラインナップは金 色が多用されているなどの理由が考えられる。 現在使用中のシャンプー製品で「それ以外」を選択した回答者には、自由記述で製品名を回答してもらっ た。回答は「石けん」、 「トップバリュー」から「美容室限定のもの」まで幅広く見られた。 5 表 3-1-1 シャンプー製品別の属性の重要度Ⅰ(かっこ内の数字は人数、太文字は上位 3 位) 価格が安 い 価格が高 い を気 に 入 っ て い る CM 有名 品 で あ る デザ イ ン が 良 い 高級 感 を 感 じ る 指通 り が 良 い パンテーン(12) 3.00 2.58 2.42 3.50 2.92 2.75 3.92 ラックス(8) 4.13 2.25 2.75 3.75 3.13 3.38 3.88 TSUBAKI(5) 3.40 2.40 1.80 3.40 3.00 2.80 3.20 エッセンシャル(2) 4.00 2.00 2.50 3.00 4.50 3.00 4.50 h&s(4) 3.75 2.75 2.50 3.25 3.00 2.50 3.00 いち髪(7) 4.14 3.00 2.29 3.14 4.00 3.43 4.14 メリット(11) 4.45 2.09 1.82 2.64 1.55 1.64 2.36 ダヴ(3) 4.67 1.67 1.33 2.33 2.33 3.00 3.33 アジエンス(4) 4.25 1.75 3.00 3.75 2.75 2.50 3.25 ハーバルエッセンス(2) 4.50 2.00 1.50 2.50 2.50 2.00 4.50 サクセス(5) 5.00 1.40 2.00 3.40 2.60 2.20 2.80 それ以外(19) 3.58 2.21 2.53 3.16 3.11 2.79 3.53 6 表 3-1-2 シャンプー製品別の属性の重要度Ⅱ(太文字は上位 3 位) 髪が パ サ つ か な い 髪がサ ラ サ ラ に な る 香りが良 い 髪に ツ ヤ が 出 る ノンシリ コ ン 製 品 で あ る 汚れ が 良 く 落 ち る スッキリ す る パンテーン(12) 4.00 3.75 3.92 3.58 2.42 2.75 2.67 ラックス(8) 4.00 3.88 4.38 4.00 1.63 2.75 2.50 TSUBAKI(5) 4.20 4.20 3.60 3.20 2.20 2.80 3.00 エッセンシャル(2) 4.00 4.00 4.00 3.50 2.50 3.50 3.50 h&s(4) 3.75 3.75 4.00 3.25 2.75 3.00 3.25 いち髪(7) 4.14 4.00 4.57 4.29 2.29 3.00 3.00 メリット(11) 2.55 2.73 2.64 2.27 1.73 3.09 3.55 ダヴ(3) 3.67 4.33 3.00 3.67 2.33 2.33 2.00 アジエンス(4) 4.50 4.50 4.75 4.50 2.75 3.00 3.50 ハーバルエッセンス(2) 5.00 4.50 5.00 4.00 2.50 2.50 3.50 サクセス(5) 4.00 3.60 3.60 2.80 1.80 2.60 3.40 それ以外(19) 3.95 3.89 4.05 3.84 2.89 3.00 3.05 次に性別とシャンプー属性の関連性を見るために、t 検定を用いて分析した(表 3-1-3)。 7 表 3-1-3 性別とシャンプー属性の関連性 属性 価格が安い 価格が高い CM を気に入っている 性別 各属性の平均値 男性(N=41) 4.02 女性(N=44) 3.84 男性(N=41) 2.29 女性(N=44) 2.25 男性(N=41) 2.17 女性(N=44) 2.48 男性(N=41) 3.00 女性(N=44) 3.45 男性(N=41) 2.66 女性(N=44) 3.16 男性(N=41) 2.66 女性(N=44) 2.77 男性(N=41) 2.88 女性(N=44) 4.05 男性(N=40) 3.38 女性(N=44) 4.30 男性(N=41) 3.29 女性(N=44) 4.23 男性(N=41) 3.44 女性(N=44) 4.30 男性(N=41) 3.02 女性(N=44) 4.00 男性(N=41) 1.90 女性(N=44) 2.68 男性(N=41) 2.83 女性(N=44) 2.95 男性(N=41) 3.07 女性(N=44) 3.07 有名品である デザインが良い 高級感を感じる 指通りが良い 髪がパサつかない 髪がサラサラになる 香りが良い 髪にツヤが出る ノンシリコン製品である 汚れが良く落ちる スッキリする t値 有意確率 0.738 0.463 0.716 0.857 -1.180 0.241 -1.551 0.125 -1.687 0.095 -3.98 0.692 -4.202*** 0.000 -3.400*** 0.001 -3.711*** 0.000 -3.176** 0.002 -3.475*** 0.001 -3.154** 0.002 -0.477 0.635 0.018 0.985 *は 5%水準で有意、**は 1%水準で有意、***は 0.1%水準で有意 表 3-1-3 のように、男性と女性の間には、 「指通りが良い」 、 「髪がパサつかない」、 「髪がサラサラになる」 、 「香りが良い」、「髪にツヤが出る」、「ノンシリコン製品である」の項目で差が見られた。これらの項目では 8 全て女性が男性よりも高い重要度を示している結果が得られた。このことから女性が価格、商品イメージで はなく製品の髪への効果を男性よりも重視していることが伺える。 3-2 仮説の検証 ここでは 1-2 で設定した仮説の検証を行う。以下の仮説の検証では、各シャンプー属性をその特徴に従っ てグループにまとめたものと、2-2 で定義した価値尺度との相関関係を見ていく。そのためここで新しい変 数を次のように定義する。「価格が安い」と「価格が高い」の項目の平均は「価格平均」とする。「CM を気 に入っている」、「有名品である」、「デザインが良い」、「高級感を感じる」の項目の平均は「商品イメージ平 均」とする。 「指通りが良い」、 「髪がパサつかない」、 「髪がサラサラになる」、 「香りが良い」 、 「髪にツヤが出 る」、 「ノンシリコン製品である」の項目の平均は「商品効果平均」とする。 「汚れが良く落ちる」、 「スッキリ する」の項目の平均は「洗浄力平均」とする。 3-2-1 仮説 1 の検証 仮説 1: 「合理的な考えを持つ人ほど、商品のデザインやイメージを重視する」を検証するために 2-2 で設 定した「合理性尺度」と 3-2 で設定した「商品イメージ平均」を用いる。合理性と商品イメージの重要度の 相関分析を行った結果、相関係数は—0.034、有意確率が 0.752 で有意な結果は得られなかった。よってこの 結果から「合理的な考えを持つ人ほど、商品のデザインやイメージを重視する」という仮説 1 は成り立たな かった。ここで、合理性尺度と相関がある項目を見つけるために、合理性尺度と 3—2 で設定した各項目との 相関分析を行った結果、表 3—2—1 のようになった。 表 3—2—1 合理性尺度と各項目の相関関係 項目 相関係数 有意確率 価格平均 0.293** 0.006 洗浄力平均 -0.028 0.799 商品効果平均 -0.026 0.809 **は 1%水準で有意 表 3—2—1 から分かるように、合理性尺度と価格平均の間に 1%水準で有意差が見られた。このことから、 仮説は支持されなかったものの合理的な考えの持ち主は、ラダリング法によって得られた図のように、客観 的に商品を判断できる価格を重視することが示された。付録 1 参照 3—2—2 仮説 2 の検証 仮説 2: 「周囲の人とうまく付き合いたい人ほど、商品の洗浄力を重視する」を検証するために 2-2 で設定 した「評価懸念尺度」と 3-2 で設定した「洗浄力平均」を用いる。評価懸念尺度と洗浄力の重要度の相関分 析を行った結果、相関係数は 0.323、有意確率が 0.002 で相関係数は 1%水準で有意な結果が得られた。ここ で、洗浄力平均を構成する各変数の説明力の強さを測るために、従属変数を評価懸念尺度、独立変数を洗浄 9 力平均の構成要素である「髪の汚れが良く落ちる」、「スッキリする」として回帰分析を行った。結果、決定 係数は 0.060、有意確率は 0.073 で F 値(=2.703)が統計的に有意でないので、モデルとしての説明力が認 められなかった。以上の結果から「周囲の人とうまく付き合いたい人ほど、商品の洗浄力を重視する」とい う仮説 2 は、回帰分析においてはモデルが成り立たないが、相関分析において成り立つ事が示された。回帰 分析でモデルが成り立たなかったのは、今回調査した人数が少なかった事が影響していると考えられる。ま た相関分析の結果から、周りの人を気にする消費者はシャンプーの洗浄力を重視する事がわかった。これは 周りからの評価を気にする人は、自身の外見や性格、清潔感を気にし、シャンプーは清潔感を保つための商 品として捉えているためではないかと考えられる。 3—2—3 仮説 3 の検証 仮説 3:「自分に自信を持ちたい人ほど、商品の質を重視する」を検証するために、2-2 で設定した「自己 実現尺度」と 3-2 で設定した「商品効果平均」を用いる。自己実現尺度と商品効果の重要度の相関分析を行 った結果、相関係数は 0.217、有意確率が 0.043 で相関係数は 5%水準で有意な結果が得られた。次に仮説 2 の検証と同様、商品効果平均を構成する各変数の説明力の強さを測るために、従属変数を自己実現尺度、独 立変数を商品効果平均の構成要素である「指通りが良い」、 「髪がパサつかない」、 「髪がサラサラになる」、 「香 りが良い」、 「髪にツヤが出る」、 「ノンシリコン製品である」として回帰分析を行った。結果、決定係数は 0.081、 有意確率は 0.334 で F 値(=1.163)が統計的に有意でないので、モデルとして成り立たなかった。これら の結果から「自分に自信を持ちたい人ほど、商品の質を重視する」という仮説 3 は、回帰分析の上ではモデ ルは成り立たないが、相関分析において関係が有意であり成り立つ事が示された。これは仮説 2 と同様に調 査した人数が少なかった事が回帰分析の結果に影響していると考えられる。また相関分析で有意な結果が得 られたのは、企業が CM に女優を起用し、髪のコンディションを整える事はさらに素敵になれるという印象 を消費者に与え、消費者もそれを認識しているためだと考えられる。 3—2—4 仮説 4 の検証 仮説 4: 「自分らしくいたいと考える人ほど、商品の質を重視する」を検証するために、2-2 で設定した「独 自性要求尺度」と 3-2 で設定した「商品効果平均」を用いる。独自性要求尺度と商品効果の重要度の相関分 析を行った結果、相関係数は—0.185、有意確率が 0.086 で有意な結果は得られなかった。よってこの結果か ら「自分らしくいたいと考える人ほど、商品の質を重視する」という仮説 4 は成り立たなかった。これは、 「自分らしくいたい」という価値観を測るための質問を設けたのだが、何をもって「自分らしく」あるかは 個人によって違い、例えば生活リズムや服装によって自分らしさを表すことも考えられ、 「自分らしいヘアス タイルを作れる」というのは回答者にとって「自分らしさ」を表す主たる要因では無かったためだと考えら れる。 10 第4章 結論と今後の課題 本研究は、消費者の価値観と商品の選択要因を調査し、価値観がシャンプー商品の選択に与える影響を明 らかにすることを目的としていた。これを踏まえ、第 1 章で設定した 4 つの仮説の検証結果をそれぞれ見て いく。 まず仮説 1 であるが、合理性と商品イメージの間の関係は成り立たず仮説は支持されなかった。これは、 商品のイメージを判断するには主観が必要であり、主観に基づいた決定は合理的とは言えないため相関が見 られなかったと考えられる。しかし合理性と価格の間には有意な結果が見られ、ラダリング図の一部が証明 された。 次に仮説 2 の評価懸念と洗浄力の関係についてである。検証の結果、2 つの変数の間に正の相関が見られ、 他人からの評価を気にする人はシャンプー購入の際に洗浄力を重視していることが分かった。一方で回帰分 析では有意な結果が得られず、評価懸念尺度を洗浄力の項目で説明することはできない結果となった。 さらに仮説 3 の自信を持つことと商品効果の関係については、相関分析で有意な結果が得られ、自己実現 への意欲が強い人ほど商品効果を重視することが分かった。しかし、仮説 2 と同様、回帰分析では有意な結 果が得られずモデルは成り立たなかった。 最後に仮説 4 であるが、独自性と商品効果の間には有意な結果が得られず、仮説は支持されなかった。こ れは商品効果によって「自分らしいヘアスタイルを作れる」ことは、回答者にとって独自性を表す主な要因 では無かったためだと考えられる。 これらの結果から、特定の価値観とシャンプー属性が結びついていることが明らかになった。しかし、消 費者が自身の価値観を確認しながら商品を購入しているとは言えず、価値観による判断は無意識的なものが 多いと考えられる。したがってシャンプー市場は、シャンプー属性を強調するのでは無く自社商品の特徴が 消費者のどのような価値観に作用しているのかを正しく把握し、消費者の価値観に触れるような宣伝手法を 取る必要性もあるだろう。 今回の研究の問題点としては、回収数の少なさとアンケート調査の回答者が筑波大生に限定されてしまっ たことが挙げられる。また課題としてはアンケート調査の結果から、女性が男性に比べ商品効果に強い関心 を示していたので、商品効果を細かく分類し消費者のどの価値観と密接に結びついているのかを探ることが 挙げられる。 11 参考文献 本間意富(1982) 統廃合香粧品 Journal of Japan Oil Chemist’s Society Vol.31(1982) No.10 P862-867 丸岡吉人(1996) ラダリング法のブランド戦略への適用 消費者行動研究 Vol.4(1996-1997) No.1 P25-40 内藤まゆみ 鈴木佳苗 坂元章(2004) 情報処理スタイル(合理性−直感性)尺度の作成 パーソナリティ研究 2004, 第 13 巻, 第 1 号, 67−78 笹川智子 金井嘉宏 村中泰子 鈴木伸一 嶋田洋徳 坂野雄二(2004) 他者からの否定的評価に対する社会的不安測定尺度(FNE)短縮版作成の試み —項目反応理論による検討— 行動療法研究, 第 30 巻, 第 2 号, 87—98, 2004-09-30 平石賢二(1990) 青年期における自己意識の発達に関する研究(Ⅰ) Bulletin of the Faculty of Education, Nagoya University(Educational Psychology) 1990, Vol.37, 217−234. 心理測定尺度集Ⅱ (独自性要求 P88—91) 監修・堀洋道、編集・吉田富二雄、出版社・サイエンス社、刊行年・2001 JMR 生活総合研究所 消費者調査 シャンプー(2010 年 2 月版) http://www.jmrlsi.co.jp/trend/mranking/03-hbc/mranking87.html 流通ニュースホームページ (シャンプー 売上ランキング/2013 年 12 月~2014 年 2 月) http://makernews.biz/201403282397/ 花王株式会社ホームページ http://www.kao.co.jp/merit/products/ ユニリーバ・ジャパン株式会社ホームページ http://www.unilever.co.jp/our-brands/detail/lux_oil_harecare/404085/ 12 付録 付録1 価 ラダリング図 合理的にしたい 人とうまく付き合いたい 自信を持ちたい 自分らしくいたい 無駄な事は 周りの人を気に もっと素敵 自分らしい しない満足 する になれる スタイル 値 観 情緒的 ベネフ ィット 機能的 商品のイメー ベネフ コストパフォー ィット マンスが良い ジが良い 髪のコンディション 洗浄力がある ・ 指通りが良い ・ パサつかない ・ サラサラになる ・ 香りが良い ・ ツヤが出る 13 ・ ノンシリコン製品である ・スッキリする ・髪の汚れが良く落ちる ・ を気に入っている CM ・ 有名品である ・ デザインが良い ・ 高級感を感じる ・ 価格が安い ・ 価格が高い 属性 を整える 付録 2 アンケート用紙 2014 年度卒業研究 アンケート調査のお願い 理工学群・社会工学類 4 年 宍戸研滋 連絡先 [email protected] このアンケート調査は卒業研究の一環として実施するものです。消費者がシャンプーを購入する際の判 断基準を調査することを目的としています。回答結果は論文執筆のためにのみ使用されるものであり、 個人情報を厳重に管理し、第三者への目的外使用を一切行わないことを約束します。ご協力お願いいた します。 14 問1 1) 問2 あなたの性別に○をつけてください。 男性 2) 女性 あなたは普段使うシャンプーを購入する際に、以下の項目をどの程度重要視していますか。当て はまる数字に○をつけてください。 当てはまらない あまり当てはまらない どちらとも言えない やや当てはまる 当てはまる 1.価格が安い 1 2 3 4 5 2.価格が高い 1 2 3 4 5 3.CM を気に入っている 1 2 3 4 5 4.有名品である 1 2 3 4 5 5.デザインが良い 1 2 3 4 5 6.高級感を感じる 1 2 3 4 5 7.指通りが良い 1 2 3 4 5 8.髪がパサつかない 1 2 3 4 5 9.髪がサラサラになる 1 2 3 4 5 10.香りが良い 1 2 3 4 5 11.髪にツヤが出る 1 2 3 4 5 12.ノンシリコン製品である 1 2 3 4 5 13.汚れが良く落ちる 1 2 3 4 5 14.スッキリする 1 2 3 4 5 15 問3 (1)あなたが普段使用しているシャンプーのブランドを以下の欄から選んでください。 (2)上の質問で「16.それ以外」を選んだ方は、普段使用しているシャンプーのブランドを教えてくださ い。 問4 あなた自身について一番近いと思うものを選んでください。 あ 当 て は ま ら な い ま り 当 て は ま ら な い ど ち や ら や 当 と 当 て も て は 言 は ま え ま る な る い 1.シャンプーを買うときはコストパフォーマンスを気にしている 1 2 3 4 5 2.髪はいつも清潔にしておきたい 1 2 3 4 5 3.良いシャンプーを使ってかっこよく・素敵になりたい 1 2 3 4 5 4.良いシャンプーを使って自信を持ちたい 1 2 3 4 5 5.今使っているシャンプーは自分らしいスタイルに結びつく 1 2 3 4 5 6.他の人が自分を認めてくれなくても、あまり気にならない 1 2 3 4 5 7.人に自分の欠点を見つけられるのではないかと心配だ 1 2 3 4 5 16 あ 当 て は ま ら な い ま り 当 て は ま ら な い 8.誰かと話しているとき、その人が自分のことをどう思っている ど ち や ら や 当 と 当 て も て は 言 は ま え ま る な る い 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 13.我を通すことをあまり好まない 1 2 3 4 5 14.論理的な考えの持ち主だ 1 2 3 4 5 15.複雑な問題を解決するのは得意ではない 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 17.注意深くものごとを考え抜くのに、困難を感じない 1 2 3 4 5 18.自分の夢をかなえようと意欲に燃えている 1 2 3 4 5 19.前向きな姿勢でものごとに取り組んでいる 1 2 3 4 5 20.自分には目標というものがない 1 2 3 4 5 21.自分の良い面を一生懸命伸ばそうとしている 1 2 3 4 5 か心配だ 9.他の人が自分のことを価値がないと思うのではないかと心配だ 10.社会の規則や基準にいつも従わなければならないわけではな いと思う 11.人から「変わり者」と言われるよりは、皆と同じようにして いる方がよい 12.人がどういう意見を言っていようが、自分の意見は表明する 方である 16.人生や生活上の問題を考えるとき、論理的に考えるとうまく いく 17 謝辞 卒業論文を執筆するにあたり、ご指導を引き受けてくださり、ゼミ、調査分析、論文作成などの面におい て、丁寧にご指導してくださった石井健一先生に心より感謝申し上げます。またアンケートに協力していた だいた皆様にもこの場をお借りして、深く御礼申し上げます。 18
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