Network Economics (3) コンテスタビリティ理論 規制緩和編 京都大学 経済学研究科 依田高典 1 第1節 規制緩和の時代 規制緩和の進展 レーガノミックス・サッチャリズム・中曽根行革路線 米国の規制産業:17%(1977)→6.6%(1988) ミクロ経済学者の支持 1970年代の独特の「反逆のムード」 日米の規制緩和法 表1参照 NTT・日本たばこ・JRの誕生 米国規制緩和の経済効果 表2参照 約5兆円/1990年:航空産業が大 日本規制緩和の経済効果 約1兆円/1990-97年平均:移動体が大 2 表1 1970-80 年代日米の主な規制緩和法等 航空 ト ラック 鉄道 電気通信 CATV 銀行 証券 日本 米国 1986 年運輸政策審議会最終答申 1989 年貨物自動車輸送事業法 1986 年国鉄改革関連 8 法 1984 年電気通信事業法 - 1981 年銀行法改正 - 1978 年航空規制緩和法 1970 年代 ICC の料金自由化 1980 年ス テガーズ鉄道法 1982 年 AT&T 分割修正同意審決 1984 年 CATV 規制緩和法 1980 年預金機関通貨管理法 1975 年証券法修正 表2 米国規制緩和の厚生効果(単位: 1990 年時 10 億$) 航空 鉄道 ト ラック 電気通信 CATV 証券 天然ガス 合計 消費者余剰 8.8-14.8 7.2-9.7 15.4 0.73-1.6 0.37-1.3 0.14 - 32.6-43.0 生産者余剰 4.9 3.2 -4.8 - - -0.14 - 3.2 合計 13.7-19.7 10.4-12.9 10.6 0.73-1.6 0.37-1.3 0.0 - 35.8-46.2 最適規制緩和と の乖離 4.9 0.45 0.0 11.8 0.4-0.8 0.0 4.1 21.65-22.05 戻る 第2節 航空産業の規制緩和 2.1 規制緩和以前の米国航空産業 1938年航空法:公共利益論・幼稚産業論 CAB設立:参入規制・運賃規制・反トラスト 過剰規制批判:経済学者・国内航空旅客運賃調査・ケネデ ィ委員会 1975年航空法案(結局廃案) 1977年カーンCAB委員長就任 同年 航空規制緩和法(ADA)成立 4 2.2 規制緩和以後の米国航空産業 規制緩和の便益 表3参照 2兆円の消費者便益 規制緩和の3局面 第1局面1979-85 新規参入(ピープル・エクスプレス)と旧州内(サウスウェスト)の 活躍、イールドの低下 第2局面1986-91 大手の吸収合併、イールドの上昇、かっての大手の破産 第3局面1992集中度・イールド共に微減、再規制を求める声 市場シェアの変化 表4参照 市場集中度は1985年度までは低下、 1992年までは再上昇 5 新規176社の中、175社が倒産、1社も破産 イールドは低下したが、規制緩和前から低下傾向 規制緩和効果か、その他の要因か 運賃差別化の進展 ハブ&スポークの完成 便数は増加したが、機内混雑や乗換の増加 航空界社利潤の著しい悪化 ライト兄弟以来の黒字を全て吐き出す 6 表3 規制緩和によ る 消費者便益(単位: 1993 年時億$) 運賃低下 124 運賃制約 -11 便数増加 103 機内混雑 –6 乗継増加 -7 乗継利便向上 9 旅行時間延長 合計 –28 184 億ド ル 表4 米国定期航空産業の市場シェ アの変化 1978 年 1985 年 1992 年 1996 年 1 位 ユナイテッド 17.0 1 位 アメリカン 13.1 1 位 アメリカン 20.3 1 位 ユナイテッド 20.1 2 位 アメリカン 12.5 2位 ユナイテッド 12.3 2位 ユナイテッド 19.3 2 位 アメリカン 18.2 3 位 パ ンナム 12.5 3 位 イースタン 9.9 3 位 デ ルタ 16.8 3 位 デ ルタ 16.2 4 位 TWA 11.7 4 位 TWA 9.5 4位 ノースウェスト 12.2 4 位 ノースウェスト 11.9 5 位 イースタン 10.9 5 位 デ ルタ 9.0 5 位 コンチネンタル 9.0 5 位 US エアウェイズ 6.7 6 位 デ ルタ 10.1 6 位 パ ンナム 8.1 6 位 US エア 7.3 6 位 コンチネンタル 6.4 7 位 ウェスタン 4.4 7 位 ノースウェスト 6.7 7 位 TWA 6.0 7 位 TWA 4.7 8 位 コンチネンタル 4.2 8 位 コンチネンタル 4.9 8 位 サウスウェスト 2.9 8 位 サウスウェスト 4.7 上位4 社 53.7 上位4 社 44.8 上位4 社 68.6 上位4 社 66.4 上位 8 社 83.3 上位 8 社 73.5 上位 8 社 93.8 上位 8 社 88.9 上位 12 社 94.7 上位 12 社 86.0 上位 12 社 98.3 上位 12 社 94.8 戻る 規制緩和の帰結 • 産業構造 – 4・8・12社集中度:初め低下(78-85 )、後に増加(85-92) – 176の新規参入:175倒産、1破産 • 運賃 – 運賃は低下(2/3水準)、ただし規制緩和前からのトレンド – 運賃差別化の一般化 • サービス – ハブ・アンド・スポークの完成 • 便数増加・機内と空路混雑・乗換増加・附帯制約増加 • 利潤 – 極端に悪化、ライト兄弟以来未曾有の危機 8 2.3 日本の航空産業の規制緩和 45・47体制 JAL(幹線・国際)・ANA(幹線・地方)・東亜(地方) 86年の見直し 国際線複社化・国内線複線化・JAL完全民営化 緩やかな規制緩和 需給調整基準緩和(92・96) 同一距離帯同一運賃の標準原価導入(90) 割引運賃の一部届出化(94) 幅運賃制度導入(96) スカイマーク・エアドゥ参入(98) 9 第3節 航空コンテスタビリティの神話 「理論的支柱説」の検証 コンテスタビリティ理論が米国航空産業の規制緩和 の理論的支柱になった? 「航空市場コンテスタブル説」の検証 航空産業はコンテスタブル市場である? 「コンテスタビリティ=規制緩和説」の検証 ボウモルは規制緩和論者、カーンはコンテスタブル 論者? 10 3.1 「理論的支柱説」の検証 コンテスタビリティ理論形成史(Bailey) 第1期「内部相互補助」 負担テスト(Baumol 1970, Zajac&Faulhaber 1972) 第2期「規模・範囲の経済性」 放射線平均費用逓減性・横断放射線凸性(Baumol 197475) 第3期「持続可能性」 潜在的参入の重要性(Baumol&Bailey, Panzar&Willig 1977) 第4期「コンテスタビリティ命題」 定理の証明(Willig 1978) CABとコンテスタビリティの接点 Bailey、1977年CABの委員となる 11 3.2 「航空市場コンテスタブル説」の検証 ハブ・アンド・スポークの埋没費用化 ハブ・プレミアム、ハブ・スロットの混雑 莫大な初期広告支出 コンピューター予約システムの費用非対称化 アポロ・セーバー他の寡占化とハロー効果 予約手数料の重い負担 イールド・マネジメントの戦略的差別化 多様な運賃格差・略奪的価格設定 常顧客優待プログラムの需要非対称化 旅客のブランド効果・大口顧客割引 12 3.3 「コンテスタビリティ=規制緩和説」の検証 ボウモルは規制緩和論者? 思慮のない規制緩和・反トラスト撤廃には反対 コンテスタビリティはガイドライン 航空産業はコンテスタブルにあらず カーンはコンテスタブル論者? 航空産業は寡占化の方向 不愉快な驚き、少なくとも一時的には誤った コンテスタビリティの観念論を批判したい 戻る 13 若き伝道者ドン・バー ピープル・エクスプレスの設立 低運賃・ノーフリル・事前予約なし 誇るべき規制緩和の成功例(カーン) メガキャリアの対抗的措置とフロンティアの買収失 敗 テキサスエアへ吸収される 乗っ取り屋ロレンゾ コンチネンタル買収 全労働者解雇、半分の給料で30%を非組合を条件に 再雇用 イースタン買収 1700名によるスト潰し、再売却、失業者と自殺者 14
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