資料のダウンロード - 秋田県総合教育センター

第29回
秋田県教育研究発表会資料
【5日J会場①】
外国語活動・国語科を核とした,自己有用感を高める生徒指導
の年間計画の作成
ー 「学校いじめ防止基本方針」と関連させて ー
近藤
真由美
高学年になるにつれて自己有用感が低くなる傾向がある。これが,いじめにつながって
しまう可能性もある。自己有用感を高めることが,いじめの未然防止という視点からも生
徒指導上の課題である。いじめの背景にある要因として,人間関係と学習によるストレス
が挙げられる。自己有用感を高めるために,児童にとって学校生活の中心である授業を核
として人間関係づくりと関連させることが不可欠であると考えた。そこで,生徒指導の年
間計画に外国語活動・国語科を核とした授業の視点を取り入れ,人間関係づくりの段階的
な取組を授業や行事等と関連付け,「学校いじめ防止基本方針」に位置付けた小学校第6
学年の年間計画にまとめた。
キーワード:授業を関連付けた年間計画,自己有用感,いじめの未然防止,人間関係づくり
Ⅰ
主題設定の理由
生徒指導提要によると,児童生徒にとって,学校生活の中心は授業であり,教科において生徒指導
を充実させることは,生徒指導上の課題を解決すると示されている。また,国立教育政策研究所によ
る『生徒指導リーフ「いじめ未然防止Ⅱ」』では,授業や行事等の中で全ての児童生徒が活躍できる
場をつくりだし,彼らの「自己有用感」が高まれば,いじめには向かわないとしている。
本県では,いじめの発生率は高くないものの,自己有用感が低い傾向にあり,自己有用感を高める
ことが生徒指導上の課題となっている。研究協力校の児童も全国・県調査等のアンケートから,高学
年になるにつれ自己有用感が低い傾向にあり,授業や行事等で自己有用感を高めていく必要がある。
自己有用感を高めていくための授業改善には,分かる授業の他に,授業の中でコミュニケーション
を充実させるという視点が大切である。そのため,本研究では,豊かなコミュニケーションを目指す
外国語活動・国語科の授業を核にし,自己有用感を高めることを意識した授業を関連させた年間計画
を考案するものである。研究対象は,高学年の中でも学校のリーダーとして,下級生のモデルとなる
第6学年の児童とし,学習内容等と生徒指導の三機能(自己存在感・共感的人間関係・自己決定)を
生かした授業や行事等と関連付けた計画を,「学校いじめ防止基本方針」に位置付ける。その計画に
沿って実践をすることで,自己有用感が高まり,いじめの未然防止につながると考え,本主題を設定
した。
Ⅱ
研究目的
自己有用感を高め,いじめの未然防止に寄与するため,年間を見通した人間関係づくりの計画的・
段階的な指導を授業や行事等と関連付けた年間計画を作成する。
Ⅲ
研究内容
1
対象児童の意識調査と分析
6月に,協力校の第6学年児童89名(男子59名,女子30名)を対象に,国立教育政策研究所の社会
性測定尺度を参考に自作した調査用紙を用いて,「ふだん思っていることに関するアンケート」を実
施した。その結果,ほとんどの児童は,授業に主体的に取り組み,授業がよく分かると答えている。
-1 -
しかし,自分にはよいところがあると答えた児童は約7割,自分のことが好きである児童は約6割で
ある。このことから,集団の中で,自己を肯定的
わたしにはよいところがある
に考えることや自己有用感を高める工夫が必要で
自分のことが好きである
あると考えられる(図1)。
29%
24%
授業に主体的に取り組んでいる
人は自分の話を真剣に聞いてくれると感じている
みんなで何かをするのは楽しい
児童が84%に対して,クラスの人の役に立ってい
あてはまる
ると感じている児童が67%である。授業の中で,
17%
12%
25%
9%
52%
39%
1%
3%
57%
3%
33%
66%
どちらかといえばあてはまる
図1
42%
44%
授業がよく分かる
クラスの児童と関わる質問項目では,クラスの
42%
どちらかといえばあてはまらない
1%
1% 0%
あてはまらない
自己有用感に関する質問項目
自分の考えが役に立ったと感じるようなグループ活動の設定や友達との関わり方を工夫する必要があ
ると考えられる(図2)。また,クラスの中で感じる自己有用感より,他学年の人から褒められてい
ることがある,感謝されることがあるなどと感じる児童がやや低い。このことから,同学年の児童だ
けでなく,広く他者との関わりに自信をもち,第6学年の児童が成長する機会になるような学年の枠
を越えた行事等の工夫が必要なことが分かる(図2,図3)。
クラスの人が納得いくような意見を言うことがある
34%
クラスの人は私の話を真剣に聞いてくれると感じる
36%
クラスの人から褒められることがある
わたしはクラスの人の役に立っていると感じる 4%
22%
48%
43%
16%
38%
33%
5%
12% 2%
53%
8%
63%
25%
2
6%
29%
33%
42%
26%
13%
17%
54%
13%
11%
24%
47%
他の学年の人から「ありがとう」と言われることがある
わたしは他の学年の人の役に立っていると感じる
20%
39%
他の学年の人から褒められることがある 11%
6% 他の学年の人が困っているとき手伝ってあげることがある
8%
57%
31%
他の学の人が失敗したときに励ますことがある
4%
8%
19%
57%
23%
1%
7%
あてはまる どちらかといえばあてはまる どちらかといえばあてはまらない あてはまらない
あてはまる どちらかといえばあてはまる どちらかといえばあてはまらない あてはまらない
図2
他の学年の人に頼りにされていると感じる 12%
12% 4%
37%
48%
クラスの人から「ありがとう」と言われることがある
クラスの人が困っているとき手伝ってあげることがある
39%
クラスの児童と関わる質問項目
図3
他学年の児童と関わる質問項目
研究の構想
(1) 年間計画を作成する際の自己有用感の3要素
滝(2009)は,他者と関わり合うことが苦手な児童の問題を克服していく鍵が自己有用感にあると
し,自己有用感を「他者との関係で自分の存在を価値あるものとして受け止められる感覚」としてい
る。自己の存在を受け止められたり,他者から必要とされたりする感覚が高まると他者との関係を肯
定的に受け止め,他者との関係を積極的につくろうと努力し続けることができる。そのことが,いじ
め等の未然防止につながるとされている。
そこで本研究では,自己有用感を構成する要素として3点に着目した。1点目は,「~から褒めら
れる」や「~からありがとうと言われる」という他者や集団から自分の行動や存在が認められている
「状況」である。2点目は,「~の役に立っている」や「~から頼りにされている」という他者や集
団の中で自分は価値のある存在と感じる「実感」である。3点目は,「~の手伝いをする」や「~が
納得するような意見を言う」という他者や集団に対し自分が役に立つことをしている「行動」である。
この3点の要素が見られることが,自己有用感が高まった姿と捉える。言い換えるならば,自分には
よいところがある,自分のことが好きであるという姿や学校が楽しいと感じたり,授業に主体的に取
り組んだりする姿とも言える。そこで,年間を通して,この「状況,実感,行動」が含まれている学
習を設定し,行事等と関連付けを図る。
(2) いじめの未然防止と授業
いじめの背景として,対人関係の未熟さ,ストレス
要因の増大,ストレスを解消する手段の乏しさが指摘
されている。このような背景により,学校教育におい
ては,「いじめ問題」が生徒指導上の喫緊の課題となっ
ている。このため,各学校では,いじめの未然防止に
始まる一連の取組と年間計画等が盛り込まれた「学校
-2 -
豊かな心
道徳 人権 情報モラル教育
規律正しい態度
主体的に参加・活躍
好ましい人間関係
確かな学力
・互いを容認する
・互いの違いを認め合う
いじめが起きにくい学校
学校
授業づくり
いじめに向かわない児童
安全・安心
自己有用感
家庭
図4
地域
いじめの未然防止の取組
いじめ防止基本方針」を作成した。いじめの未然防止の基本は,全ての児童が安全・安心に学校生活
を送ることができ,規律正しい態度で授業や行事に主体的に参加・活躍できる学校づくりを進めるこ
とである。具体的には,児童が学校生活で感じるストレスの要因となる人間関係と学習を改善するこ
とである。このような点において,授業を関連付けるという考えは欠かせない視点である(図4)。
いじめ不登校の問題行動の未然防止
(3) 人間関係づくりの4段階
人間関係づくりとは,お互いのよさや可能性を認め合
自己有用感が高まる
人間関係づくり
える仲間づくりのことである。人間関係を築くためには,
人間関係づくり
多様な学びの場で,他者と豊かなコミュニケーションを
尊重し合う
通して関わることが重要になってくる。そのため,他者
協⼒し合う
授業
外国語活動
との関わりを通して児童が人と関わることの喜びや大切
認め合う
国語科
行事等
さに気付いていくこと,互いに関わり合いながら他の人
理解し合う
の役に立っている,他の人から認められているという自
児童の実態
己有用感を高めていくようにする必要がある。
図5 研究の構想図
本研究では年間を通して,ストレスの要因となる人間関係を改善するために,人間関係づくりを計
画的に配置する。人間関係づくりには,必ずしも固定された順序性があるわけではないが,理解し合
う段階・認め合う段階・協力し合う段階・尊重し合う段階の4段階を設定し,その順序で計画に位置
付けた。各段階に応じ,日常の授業や行事等で,目的を明確にして,他者と関わる機会を工夫し増や
すことで,他者との人間関係を豊かにしていくと考える。
(4) 外国語活動・国語科を核とした計画
外国語活動の目標が「コミュニケーション能力の素地を養う」ことであり,国語科の目標の1つが
「伝え合う力を高める」ことである。そして,どちらも学習内容が豊かなコミュニケーションへの積
極的な態度を育成することとなっていることから,生徒指導の機能を関連させた授業を,年間を通し
て行うことができると考え,授業の核として設定した。
Ⅳ
研究の実際
1
授業を関連させた生徒指導の年
間計画の作成
「学校いじめ防止基本方針」に基づ
いた生徒指導の年間計画に,人間関係
づくりの4段階,外国語活動・国語科
を核とした各教科,行事等,道徳を関
連付けた(図6)。具体的には,教科
や行事等の内容・配列を吟味し,自他
のよさに気付くことができる学習内容
・学習形態等を洗い出した。その上で,
そ の 組 合 せを 年間 計 画 上 に 位 置 付 け
た。その際,理解し合う段階に「自己
を見つめ,生命の尊さを考える学習」,
認め合う段階と協力し合う段階に「自
己の個性を発見し協力し合う学習」,
尊重し合う段階に「自己を振り返る学
習」を取り入れ計画した。
2
人間関係づくりの段階ごとの実践
月
人間関係
づくり
国
語
国語
外
国
外国語
語
活動
活
動
各
教
科
他教科
4
5
6
理解し合う段階
理解し合う段階
「カレーライス」 「感情」
自分の体験を重
ねて,感想を書
き,グループで
感想 を 交 流 す
る。
不安や後悔の必
然性に 気付く 。
Lesson1
Do you have"a"?
アルファベットの小
文字を持っているか
ペアやグループで尋
ね合う。
「生き物はつながりの中に」
自分を大切にすること
は他を大切にすることと
同じだと気付く。
「学級討論会をしよう」 「ようこそ、わたし
相手の立場を尊重 たちの町へ」
しながら意見を グループで協力
交換する。
し合い パンフレ
ットを作る。
Lesson2
When is your birthday?
互いに生まれてきたことを喜誕生
カードの交換で生命の大切さに気付
く。
8
11
12
「たのしみは」
「俳句を比べる」
短歌や俳句の表
現の効果や作者
らしさを 付箋紙
で交流し,修学旅
行短歌を作る。
Lesson4 Turn right.
リアクションのスキルを導
入することで,双方向のや
りとりをする。グループでク
イズを作る。
「平和のとりでを
「 や まな し 」
築く」
互いの意見文を
発表し合って表
現の仕方につい
て助言し合いよ
りよいものにし
ている。
書かれている内容
を読み取ることで
人の生き方に触れ
自分の生き方に生
か そ う とし て い
る。
Lesson5 Let's go to Italy.
グループを作り,それぞれ自分の
行きたい国を選び協力しておすす
めの国をクイズ形式で紹介する。
ジグソータスク
「この絵 私は
こう見る」
絵から感じたこ
とを文章にまと
め, 感想を伝え
合う。
Lesson6
What time do you get up?
グループで選択した国の子
どもになって,1日の生活
を紹介し合う。
体育「サッカー」「バスケットボール」
協力しながら工夫して練習やゲームを行う。
運動会
たてわり掃除
規律ある集団行動,責
任や連帯感を体得する。
1年生を迎える会
1年生を温かく迎える。
道
徳
2
3
尊重し合う段階
「自分を見つめ
直して」
表現の効果を確
かめたり工夫し
たりしながら推
敲している。
「海の命」
作品の中に描か
れていた生き方
をもとに, 自分
の生き方につい
て考えを広めた
り深めたりする。
Lesson7
We are good friends.
一人一人の個性を生かしなが
ら,協力して英語劇をするこ
とで,積極的に聞こう,伝え
ようとする。
「今,わたしは,ぼ
くは」
話し手の思いを受
け止めながら聞き、
自分の思いと比べ
感想をまとめる。
Lesson8
What do you want tobe?
夢を交流することで互いの
存在を大切にし合う。
社会「世界の中の日本」日本との
関係が深い国の生活の学習を通し
て,世界の人々と共に生活していくこ
との大切さを自覚する。
四小祭 同じ役割の友達と協力し合って,準備に取り組む。
修学旅行
< 帰りの会>「よいところ探し」 みんなのよさを見付けよう。
入学式
1
尊重し合う段階
音楽「ラバースコンチェルト」
算数 見通しを持ったり,筋道を立てて考えたりする。数学。的な考え方を養う。友達の考えを認め、学び合う。
道徳
家庭「考えよう
これ か ら の く ら
し」近隣の人々と
のかかわりから,
共に生きることの大
切さに気付く。
卒業式
他学年との関わりをもち,相手のことを考えて行動する。
自分のできることを見つめ直し,行事等を通しどんな自分になりたいか考え、主体的に取り組む。<学校行事
クラブ活動 学年で交流する。
等で>
生命尊重
かけがえのない自他の
個性の伸長
自分のよさを知り,
思いやり・親切
友情・信頼,助け合い
相手の立場に立 友達と関わり合って,お
役割と責任の自覚
自分の役割の意義を理解し,
個性の尊重
自分の個性や長所を知り ,
個性の尊重
自分の個性や長所を知
命を尊重しようとする。
積極的に伸ばしてい
って,温かい心 互いのよさに気付き,学
協力して主体的に責任を果た
それを積極的に伸ばして
り,それを積極的に伸ば
こうとする。
で接しようとす び合いながら友情を深め
そうとする。
将来に生かそうとする。
して将来に生かそうとす
る。わたしたち
ようとする。わたしたち
わたしたちの道徳 P141
わたしたちの道徳
る。わたしたちの道徳
の道徳 P62
の道徳 P75
わたしたちの道徳
P98~103
わたしたちの道徳
P50 ~ 51
日
常
10
協力し合う段階
行事等
行
事
等
9
協力し合う段階
「柿山伏」
お 気に 入 り
の とこ ろ を
根拠を述べ,
グ ルー プ で
演じる。
Lesson3
I can swim.
互いのよさや違いを認め合いながら
コミュニケーション図ろうとする。
理科「生き物と栄養(2)」
自然界の食物連鎖を通して,
生命を尊重しようとする態度を身
に付ける。
体育「リレー」
ルールを守り,協力
しながら運動する。
7
認め合う段階
認め合う段階
日常
QU アンケート
学習アンケート
このごろ生活アンケート 聞き取り調査
P50
P50
QU アンケート
このごろ生活アンケート
児童会によるいじめ防止標語作 成等
すこやか委員会(いじめ不登校対策委員会)定期および必要に応じて開催
気になる子ども情報交換・・・職員打ち合せ(週 1回)職員会議(月1回)
「あかしや点検表」(学級担任による月末学級の様子チェック票を学年部及び学校全体で共有する)の実施・・・月末
子どもを語る会
PTA 総会
授業参観
家庭訪問
地区訪問
子どもを語る会
授業参観 個人面談
「あかしやアンケート」
授業参観
授業参観
「あかしやアンケート」
PTA組織,学校評議員,あかしやっ子見守り隊等と連携を図る
図6 授業を関連させた生徒指導の年間計画第6学年
理解し合う段階,認め合う段階,協力し合う段階,尊重し合う段階それぞれの実践計画を作成し
た。ここでは,協力校において実践した認め合う段階と協力し合う段階について紹介することとする。
-3 -
(1) 認め合う段階:授業の学習内容と行事等を関連
月
国語科
付ける実践
①計画の作成
認め合う段階は,前の理解し合う段階の実践により,
児童相互の交流を通して,互いに理解し合う関係が育
ちつつある。それを踏まえて,自己の個性を発見し,
協力し合う学習内容と関連付けを図った。そこで,こ
の段階では,授業のねらいに認め合う内容を含む外国
語活動を核として計画を立てた(図7)。
外国語
活動
6
7
「学級討論会をしよう」
相 手の 立 場 を尊 重 し な が
ら意見を交換する
8
「ようこそ、わたしたちの町へ」
グループで協力し合いパンフ
レットをつくる。
Lesson3 I can swim.
互いのよさや違いを認め合いながらコミュニケーショ
ンを図ろうとする。
友だちかかわりマップの活用
つなぎ言葉の活用
行事等
たてわり掃除
「柿山伏」
お気に入りのと
ころを根拠を述
べ,グループで
演じる 。
自己の個性を
発 見 し、 協力 し
合う学習
<帰りの会>「よいところ探し」
道徳
個性の尊重
日常
各教科
領域
自分のよさを知り,積極的に伸ばそうとする。
※児童の一人一人の個性を表現できる場や機会を設定する。
※多様な観点から他者から自他のよさを認め合う。
図7
認め合う段階の実践計画
②実践
核
外国語活動 Lesson 3 I can swim.
単元のゴール みんなのできること発見!自己紹介をして,みんなのできることを伝え合おう
※学習のねらいが,お互いのよさや違いを認め合うこととコミュニケーションを図ろうとすることであり,自己を発
見し,協力し合う学習内容として適している。
<展開>
仲のよいペア→生活グループ→関わっていない人同士のグループ
と
人との関わりを広めるための手立て
す
“I
る
自己紹介の練習
can”を使って
“You
can”を使
って認め合う
授
業
【自己存在感】
【共感的人間関係】
自分のできることを
友達のよさを見付ける
見つめ直す
友達に認められる
振
り
返
り
の
記
述
○自分にはこんなよいと
ろがあるのだと分かっ
た。
(自己有用感の「状況」
縦
割
り
掃
除
カードの記述から
○自分は,下級生への指
示ができている。
(自己有用感の「実感」)
他者から認められ,自己有用感につながる状況
・
“You can”を使って認め合う場を繰り返し設定
他者から認められて,自己有用感につながる状況
・
「友達かかわりマップ」に,褒められた「うれしさ度」,
「友
達に紹介された自分のよさ」を記入できるようにし,認め
られている状況を視覚化・意識化
・友達がどんなことができているのか
インタビューをしてよく分かった。
・みんな特技をもっていて驚いた。
○友達によいところを見付けてもらっ
てすごくうれしかった。
(自己有用感の「状況」)
・~さんは,班長としての仕事をがんば
っている。
・みんなのよいところをほめる。
【自己決定】
○これからも自
分のよいとこ
ろをのばして
いきたい。
(自己有用感
の「行動」)
自 己 有用 感 の 「行動 」
を 広 める た め の手立 て
・ 授 業の 振 り 返りを 受
け ,同 じ 項 目で振 り
返 る場 の 設 定とカ ー
ドの活用
○みんなに優しくそうじを教え,リーダ
としてしてお手本になりたい。
○きょ年の6年生みたいになりたい。
・授業において“can”という言葉を使うことで,自己理解とともに他者理解ができると捉え,
“I can”
を使っての自己紹介をする活動の他に,“You can”を使って友達に認められる場を繰り返し設定し
た。認められて嬉しいという振り返りの記述が多く見られた。「私にはよいところがない。」と活動
にあまり意欲のなかった児童が,友達によいところを見付けてもらうことで,「~さんに褒められ
て最高。」と,「友達かかわりマップ」の「うれしさ度」では100%を超え,積極的に活動をするよ
うになった。また,他者との関わりの中で,「自分のことをこんなふうに見ている人がいるんだと
思った。」と感じたり,「ほめられてうれしかったので,私も友達のよいところもいっぱい見付けて
あげたい。」と積極的に関わりをもとうとしたりする姿も見られた。
・単元の最後に活用した「振り返りカード」では,自分がみんなのためにできていることとして縦割
り掃除のことに気付いた児童が見られた。それを受け,授業の「振り返りカード」と同じ「自己存
在感,共感的人間関係,自己決定」の項目を縦割り掃除の「振り返りカード」にも設定した。児童
は,自分の目指す姿をもち,行事や授業に主体的に参加しようとする意欲が見られた。
・その後の認め合う段階の計画に沿った実践が終わってから,協力校の学級担任から聞き取り調査を
すると,児童の関わりが広まり,帰りの会等で友達のよいところを発表したり,お互いを認め合っ
たりすることが増えたということであった。
-4 -
(2) 協力し合う段階:学習形態を工夫し行事等と関連付ける実践
①計画の作成
協力し合う段階は,前の実践により,互いのよ
さや違いを個性として認め合う関係が育ってきて
いる。それを踏まえて,自己の個性を発見し,協
力し合う学習(「状況」)において,グループの友
達に納得のいくような意見を言うという「行動」,
授業の中で自分の考えが役に立ったと感じる「実
感」が高まるような学習形態の工夫をし,行事と
関連付けた計画を作成した(図8)。
②実践
国語科
「短歌を作ろう」
KJ 法 外国語活動
Let's
<グループに伝える責任感をもたせる>
・2つの短歌のうち1つを選び,同じ短歌を
選んだ人同士課題グループで意見を交流し,
考えを元グループの友達に伝える。
月
国語
外国語
活動
行事等
道徳
9
10
「たのしみは」
「俳句を比べる」
短歌や俳句の表現
の効果や作者らし
さを付箋紙で交流
し,修学旅行短歌
を作る。
11
「平和のとりでを築く」
互いの意見文を発
表し合って表現の
仕方について助言
し合いよりよいも
のにしている。
Lesson4 Turn right.
リアクションのスキルを
導入することで,双
方向のやりとりをす
ることができる。グ
ループで協力してク
イズを作る。
Lesson5 Let's go to Italy.
グループを作り協力してクイズを
作る 。「もしも修学旅行自分が行
きたい国みんなで行きたい国をク
イズ形式で紹介しよう」ジグソー
タスク
四小祭
修学旅行
友情・信頼,助け合い
友達と関わり合って,お互いのよさに気
付き,学び合い友情を深めようとする。
日常
「この絵 私はこう見
る」
絵から感じたこと
を文章にまとめ,
感想を伝え合う。
Lesson6 What time do
you get up?
グル ープ で選 択し た国
の子 ども にな って ,1
日の生活を紹介し合う。
自己の個性を
発見し、協力し
合う学習
役割と責任の自覚
自分の役割の意義を理解し,協力し
て自主的に責任を果たそうとする。
児童会によるいじめ防止標語作成
図8
12
「やまなし」
書かれている内容
を読み取ることで
人の生き方に触れ
自分の生き方に生
かそうとしている。
QUアンケート2回目
協力し合う段階の実践計画
go to Italy.
みんなで夢の海外修学旅行へ Let's go!
~みんなで行ってみたい国をグループ
でクイズ形式で紹介しよう~
ジグソータスク
<役割,責任感をもたせる>
<一人一役の話合い>
・2つの短歌についてグループで付箋紙
を活用して交流し合う。
3人グループで1つのトラベルエージェンシー
になり,グループで紹介する国をリサーチす
る。その際,一人一人に担当を決める。
グループで考えを共有し,グループの
話合いを全体の場で共有し,みんなで
課題解決をする。
3人それぞれの情報を持ち寄り共有し,紹介
する国の発表カードを協力して作成する。
行事等 四小祭(学習発表会)
~一人一役で取り組んだ行事~
<「 四小祭カード」に「キャッ
チコピー」
「全体のめあて」
「自分
の役割のめあて」を記入させる>
行事に対するキャッチコピーを
みんなで考え,共通のめあてを
決め,その中で自分の役割のめ
あてをもつ。
自分の役割に責任をもち,みんな
で協力して四小祭を行う。
共通の目的を設定し,それに向かってみんなで協力し合う活動を設定
「自分の意欲」「学び方」「友達との関わり」という視点の振り返り
・国語科では,グループでの話合いをクラス全体で共有し,全員で協力
して課題を解決するという活動を行った。グループでの活動に積極的
に参加するために,自分で担当した短歌について,同じ短歌を選んだ
課題グループで意見を交流し,それを受けて,元グループの友達に自
分の考えを伝える活動を設定した。その際,付箋紙を用いて課題グル
ープで話し合わせた。児童は,元グループの友達に自分の考えを伝え
図9
KJ法での話合い
ようと,同じ短歌を選んだ人同士積極的に関わっていた。元グループでの話合いの際は,一人一役
としたため,それぞれの児童が役割に責任をもち,全員が活発に話し合っていた。全体の中で発言
の少ない児童が,元グループでの話合いの中で,「~さんのような考えがあることに気が付かなか
った。すごいね。」と認められ,笑顔になる姿や全体での話合いで,「おー,いいね。」とグループ
の考えを認められている姿が見られた。(自己有用感の「実感,行動」)
・外国語活動では,自分の担当したことについて進んで調べ,情報を持ち寄り,発表に適した情報を
グループで取捨選択して組み合わせ,グループで紹介する国の発表カードを作るという活動を行っ
た。振り返りカードには,「自分の担当したことをリサーチして,グループの人に伝えた。」「仲間
と協力して,グループの行きたいところのおすすめを考え出した。」という,記述が見られた。(自
己有用感の「実感」)
・四小祭(学習発表会)でも同じようにお互いの頑張りを認め合い,協力して行事に取り組むことが
できるように,
「四小祭カード」を活用した。このカードには,
「キャッチコピー」
「全体のめあて」
「自分の役割のめあて」の他に「同じ係の友達から」という欄を設け,同じ担当の係同士で,お互
いの頑張りを認め合えるようにした。児童のカードには,「他の学年が使う道具を準備した。大変
だったけれど友達と協力してやったので楽しかった。」など,多くの児童が協力して活動できたこ
と,全校のみんなのために頑張ることができたことの満足感が書かれていた。(自己有用感の「行動」)
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・行事等と関連させた部分の児童の様子を,学級担任から聞き取ったところ,自分の役割以外の仕事
でも助け合いながら活動に取り組み,みんなで協力し合うことができたということであった。
Ⅴ
考察
◇クラスの人からほめられることがある
(状況)
2回目の「ふだん思っていることに関するアンケー 6月
43%
37%
16% 4%
ト」を10月に実施した。その結果,全ての質問項目に 10月
40%
45%
14%1%
おいて,「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる
(実感)
という肯定的な回答をした児童の割合が向上した。自 ◇私はクラスの人の役に立っていると感じる
8%
6月
4
%
63
%
25
%
己有用感の「私はクラスの人からほめられることがあ
10月
る」という「状況」が80%から85%に,「私はクラス
20%
51%
23% 6%
の人の役に立っていると感じている」という「実感」
が67%から71%に,「クラスの人が納得のいくような ◇クラスの人が納得のいくような意見を言うことがある(行動)
6月
34%
39%
22% 4%
意見を言うことがある」という「行動」が73%から80
32%
48%
14% 6%
%と変容した。これらは,豊かなコミュニケーション 10月
あてはまる
どちらかといえばあてはまる
どちらかといえばあてはまらない
あてはまらない
を目指す外国語活動・国語科を,関連付ける教科の核
図10 児童の変容
とした成果であると考える。
アンケート結果の児童の変容,各段階ごとの実践を通した児童の姿や記述,学級担任の観察から児
童は人間関係が広がり,協力して物事を成し遂げる楽しさを知り,授業や行事等に主体的に取り組ん
でいることが分かる。
以上の分析から,本研究で構想した自己有用感の3要素に着目し,人間関係づくりを4段階と捉え,
授業や行事等と関連付け計画的・段階的に取り組むことは,他者との関わりを広げ,自己有用感を高
めることができると言えるものと考える。
Ⅵ
研究のまとめ
1
年間計画を作成する際の重要なポイント
自己有用感を高め,そのことによって,いじめの未然防止にも役立つ生徒指導の年間計画を作成
する際には,以下の2点が重要である。
①自己有用感を高めるために着目した「状況,実感,行動」の3要素が,外国語活動・国語科の授
業や行事等に位置付けられることが必要である。それは,次のような手立てによって,有効に機
能した。
・自己有用感の「状況」をつくるために,友達との関わりの中で自分ができていることに気付かせる,
友達から認められる,自分の役割があり積極的に参加することができる場などを設定したこと
・自己有用感の「実感」へとつなげるために,カードを活用し,友達に認められていることを視覚化,
意識化したこと
・友達との関わりの中で,自己有用感の「行動」へとつなげるために,自分の考えをもたせる工夫や
考えを伝え合う場の設定,カードの欄に自己決定を促す項目を設定したこと
②人間関係づくりを段階的に捉え,段階ごとにどんな学習内容等を関連付けることができるかなど,
授業を核として,年間を見通して授業と行事等とを関連付けることが必要である。
2 今後に向けて
アンケート結果から,児童によって,6月には肯定的な回答をしていたにもかかわらず,10月には
否定的な回答をしている児童もいた。このことの分析と対応については,要因を探り,全体を指導し
ながらも,個に応じた様々な手立てを検討する必要があり,今後の課題である。本研究は,外国語活
動と国語科を核としたが,道徳や総合的な学習の時間でも実践を重ねながら,改善を図っていきたい。
また,他の学年においても計画を立て実践につなげる必要がある。
<参考文献>
国立教育政策研究書生徒指導研究センター(2011)『校区ではぐくむ子どもの力』.
国立教育政策研究書生徒指導研究センター(2014)『生徒指導リーフ いじめの未然防止Ⅱ』.
滝充(2009)『ピア・サポートではじめる学級づくり 小学校編』金子書房.
文部科学省(2010)『生徒指導提要』教育図書.
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