航空宇宙工学における流体力学 - イレブン Monthly Chubu 中部大学

航空宇宙工学における流体力学
○中村佳朗(中部大学工学部)
Fluid Dynamics in Aerospace Engineering
Yoshiaki Nakamura(Chubu University)
Key Words : Fluid Dynamics, Aerospace Engineering, Vortex, Shock Wave、Hypersonic Flow
Abstract
In this paper several interesting and critical topics on fluid dynamics related with aerospace engineering are taken up and
described. In particular focus is put on studies that have been made at the Fluid Dynamics Laboratory at Nagoya
University, where the author had worked until March 2014, with students and collaborators.
1.はじめに
航空宇宙工学では、流体力学は随所で使用されて
いる。空気力学なくして航空機は成立しないし、ロ
ケットや宇宙往還機も空力の影響を被る。航空機の
空力で一番重要なのは、主翼周りの流れであること
は疑問の余地がない。主翼の周りに流れを発生させ
事実である。スパコンの貢献は大きいが、最近では
パソコンでも大きな計算ができるようになった。
2.代表的な流れ
2.1 ポテンシャル流
流れとして一番簡単なのはポテンシャル流れであ
る。定義は、渦度がない流れである。ポテンシャル
ることにより、揚力が発生する。流体力学ではこの
揚力をどのようにして大きくするかが重要である。
クッタ・ジューコフスキーの定理から、揚力は、
となるので、循環Γを大きくする必要があ
流は、簡単だと言ってバカにはできない。外部流で
は、流れのほとんどがポテンシャル流で、航空機の
流れでは重要である。この流れは、グリーンの定理
より、吹き出しと二重吹き出しを物体表面に分布さ
る。循環を大きくする一つの方法がスラット、スロ
ット、フラップなどの高揚力装置である。もう一つ
は、循環制御翼(CCW)である。翼面上にジェットを
吹いたり、後縁を丸くしてさらに循環を高めたりす
せて作ることができる。このような特異性を分布さ
せて数値的に解くのがパネル法と呼ばれ、航空機の
設計で使われている。これにより航空機の表面に沿
う流れの速度や圧力分布の情報が得られる。この圧
る。実際の航空機では、翼面上にジェットエンジン
を配置して排気ガスで循環を大きくする。NASAも
STOLでQUIETな実験機を開発したし、日本でもNAL
の飛鳥が開発された。非常に短い距離で離発着でき、
有用性は大きい。
空気力は、尾翼や補助翼、さらには方向舵でも使
われている。ただ大気があるところは空気力が使え
るが、大気が薄いところ(動圧が小さいところ)で
はこの空気力が使えなくなる。そこでは、RCS
(Reaction Control System)が使われる。ジェットを噴射
して、その反作用で姿勢を制御する。
本論文では、名古屋大学航空学科・航空宇宙工学
専攻で、著者が長年に亘って行ってきた研究をまと
めて示す。著者は、できるだけ風洞実験とCFDの両
方を行い、比較するなどして、バランスの取れた研
究を心がけてきた。名大の航空宇宙教室には、低速
風洞(自由傾斜風洞、楕円風洞)、遷音速風洞、超
音速風洞、衝撃風洞があり、かなりの実験を行うこ
とができた。その一方で、CFDの発展はすさまじく、
CFDにより、様々な現象が解き明かされてきたのは
力分布の情報は大変重要である。遷音速流において
もポテンシャルの数値計算が1970年代に盛んに
行われた。ちなみに、ポテンシャル流の計算でも衝
撃は発生するが、衝撃波が弱いためにエントロピー
の変化は小さいとみなされ、ポテンシャル流でも解
くことができる。
2.2 渦流れ
流れ場中に渦度が分布した状態である。渦度分布
が分かれば、速度場が決定される。物体から大きく
剥離した流れ場では、その中に渦度が分布している。
数値シミュレーションでは、これらの渦度を正確に
捉えなければ、流れ場は再現できない。数値計算で
は、往々にして渦度が拡散してしまう。渦法(Vortex
Method)は、渦を追跡していく方法なので、これは問
題ないが、物体との干渉や粘性の考慮など、複雑な
流れには向かない。
2.3 境界層
粘性のため、物体表面付近に渦度の詰まった厚さ
の薄い領域が存在する。外部流では非常に重要で、
航空宇宙機では、これにより摩擦抵抗が発生する。
摩擦抵抗は、航空機の抵抗の約半分を占めるぐらい
実験である。デルタ翼形状を種々変化させて、多く
重要である。残念ながら、境界層は途中から乱流に
遷移し、摩擦抵抗はさらに大きくなる。今後は、こ
の摩擦抵抗を以下に小さくするかが課題である。ち
なみに、摩擦抵抗を減らすために、できるだけ層流
の実験データを取得してきた。
また、学生実験で得られた流れに対して、JAXAが
開発した計算ソフトFASTARを使用して計算し、比較
している。具体的には、小型ジェット機の周りの流
状態を保つ方法もある。
2.4 流れの剥離
流体機械では、剥離は禁物である。所望の性能が
得られなくなる。また衝撃波も関係してくるバフェ
ットなどの非定常現象が発生する。物体に沿う流れ
は、剥離する運命にある。これは境界層と関係して
おり、特に逆圧力勾配の場合に剥離が起こる。剥離
が起こる場所は、境界層の排除暑さと運動量厚さの
比である形状係数(shape factor)が大きくなると、つ
まり相対的に排除厚さが大きくなると(なった場所
で)発生する。ちなみに、層流は剥離が起こりやす
く、乱流は剥離が多少抑えられる。このことから、
航空機では、vortex generatorなどのデバイスを使って、
渦や乱れを強制的に作って剥離を抑制することが多
々ある。
2.5 衝撃波
れについて比較検討しているが、一致しないデータ
もある2)。しかし、一致しないということは大変良い
ことで、我々にいろいろ考えせてくれる。
航空宇宙機は本来高速で飛行するので、マッハ数
が0.3を超え、圧縮性が効いてくる。また流れが超音
速になると、衝撃波が発生する。圧縮性流では、機
械的エネルギーと熱力学エネルギーの間でエネルギ
気を用いて行った3)。もう一つは、スパイラル型崩壊
で、この場合は、水を用いた4)。これらにより縦渦が
崩壊していく様子が明らかにされた。
さらに、前者の軸対称型の崩壊の実験データに対
ーのやり取りが起こる。また、流れが衝撃波を通過
すると、総圧が損失し、抵抗となる。したがって、
航空宇宙機では、衝撃波を弱める工夫も必要である。
超音速機では先端は尖らせたりする。しかし極超音
して、渦法(vortex method)を用いて数値シミュレーシ
ョンし、実験と大変良く一致した結果を得た5)。最初
に軸対称型の崩壊が現れ、その後スパイラル型が起
こるところも再現できた。また、Navier-Stokes方程式
速になると、熱流束が前縁半径のルートに逆比例す
るので、すぐ溶けてしまう。それで先端部は鈍頭と
なる。
また航空宇宙機の流れにおいて、衝撃波の干渉問
題は重要である。干渉には、衝撃波・衝撃波干渉
(shock/shock interaction)と衝撃波・境界層干渉
(shock/boundary layer interaction)の2種類がある。これ
らは、航空宇宙機の随所に発生し、物体表面上の圧
力や熱流束が上昇するなど悪い影響を引き起こす。
3.デルタ翼
航空機や宇宙機は物体であるので、物体周りの流
れを考えることは、航空宇宙工学では必須である。
つまり、外部流である。航空宇宙機の物体周りの流
れの基本の一つは、デルタ翼まわりの流れである。
この流れの特徴は、前縁剥離渦の発生である。また、
この剥離渦(縦渦)は、崩壊を起こす。これをvortex
breakdownと呼ぶ。ちなみに、名古屋大学の航空宇宙
工学専攻流体力学研究室では、3年生の学生実験で、
低速風洞、遷音速風洞、超音速風洞を使った実験を
行っている1)。この中の一つのテーマが、デルタ翼の
を直接解いて、周方向渦度成分の符号変化が渦崩壊
の条件であることを示した6)。
Fig. 1: Vortex breakdown
3.1 Vortex Breakdown
デルタ翼面上で発生する縦渦の崩壊(vortex
breakdown)を詳細に調べるために、著者らは、円管内
に旋回流を発生し、当時出始めたレーザー流速計を
使用し、その崩壊現象を実験的に調べた。2種類の
実験を行った。一つは、軸対称型崩壊で、これは空
Fig. 2: デルタ翼上面の渦の可視化
3.2 前縁剥離渦の可視化
渦を正確に可視化するのはそう簡単ではない。著
者らは、ユニークな可視化方法を考案して、風洞中
のデルタ翼の周りに発生する縦渦を可視化した7)。デ
ルタ翼の一部を液体窒素で冷却し、流れ場中にwater
vaporを発生させた。この方法により、縦渦の中心や
前縁付近の二次渦も精度よく捕まえることができた。
さらに、渦崩壊現象も可視化できた。
3.3 Wing Rock
デルタ翼の前縁剥離渦は、デルタ翼にロール運動
を発生させる。これをwing rock現象と呼ぶ。通常は
けを動かすことができるようになれば、この方法は
後退角の大きい薄いデルタ翼に対して観察されるが、
後退角45°の前縁の厚い(前縁形状は半円)デルタ翼
(翼弦長に基づく厚み比9.1%)でも、このwing rock
現象が起こることを明らかにした8,9)。また運動の軌
実用化が期待できる。
ちなみに、航空宇宙では、揚力と対をなすのが抗
力である。揚力は大きい方が良いが、抗力は小さい
方がよい。著者らは、鈍頭物体の後半部の剥離域に
跡も考慮する必要があることを示した。
タブを付けることにより、大きな抵抗減少が得られ
ることも示した14,15,16)。
5.ジェット流れおよびロケット噴流
ジェットは流体力学おいては基本的流れの一つで
ある。航空宇宙工学では、ジェットエンジンの排気
流で観察される。ジェットは一見簡単なように見え
るが、実に複雑な流れである。
5.1 ジェットからの音発生
先ず圧縮性の円形ジェットを非振動の4次精度の
スキームで計算した17)。マッハ数M=0.5の亜音速ジェ
ットでは、軸対称型の不安定が4D(Dはジェット直径)
付近に現れ、M=1.5の超音速では、それより下流で3
次元性の不安定が現れた。
さらに、M=1.5の適正膨張ジェットを軸対称計算と
して4次精度で詳細に計算した18)。超音速ジェットで
は、せん断層の成長が抑えられ、また、ジェット軸
Fig. 3: 前縁剥離渦の再構築
3.4 デルタ翼の揚力増加
デルタ翼は、迎角が増加すると、前縁剥離渦が発
生して、揚力が増加する。これを渦揚力と呼ぶ。し
かし、さらに迎角を増すと、前縁剥離渦が翼上面か
ら剥がれて、揚力が低下する。前縁剥離渦をできる
だけ翼上面付近に留めるために、ここでは、前縁を
回転させる新しい方式を考案した10)。一定回転だと、
いずれ縦渦はなくなるが、回転に周期性を持たせる
と持続する。その結果、揚力が40%以上増加した。
の下流方向から約30度の角度で、マッハ波による音
が下流方向に伝播するのが観察された。さらに、せ
ん断層内のroll-up渦の周りに衝撃波が発生し、速度発
散分布から、渦は四重極であることも分かった。
Fig. 4: スラット・フラップ周りの流れ
4.高揚力装置
航空機において、高揚力装置は、離着陸において
必須の装置である。20世紀初頭においてすでにヨ
ーロッパで多翼素の翼が考案されていたのは驚きで
ある。フラップを下すのは、循環を大きくするのと
同時に、翼弦長を大きくする効果がある。
著者らは、かなり以前、スラット・フラップの付
いたある翼周りの流れを計算した11)。この計算では、
スキームとして、当時著者らが開発した3次精度の
一般座標QUICK法を適用した12)。また、複雑形状の
流れ場を解くために、領域を分割して、部分的にオ
ーバーラップさせて解いた。結果として、スラット
やフラップ周りの流れが捉えられ、スモークワイヤ
ー法による可視化実験とも定性的な一致を見た。ま
た揚力係数も合理的な一致が得られた。
高揚力装置に関して、著者らは、フラップの翼表
面を動かす方法を考案した13)。物体表面が動くことに
よるせん断力の効果で、フラップを下げても剥離が
抑制でき、循環も増加することを明らかにした。将
来マイクロ・ナノ技術がさらに進歩し、物体表面だ
Fig. 5: ジェットと平板の干渉
また、ジェット軸に平板を平行に置いた場合の流
れも調べた19)。不足膨張の円形音速ジェットの場合、
流れの可視化とともに、平板上の圧力分布、遠方場
での音圧分布が測定された。平板とジェット軸が近
づくと、スクリーチ音が消失することや、平板が薄
い場合には、平板は固有振動とスクリーチ音による
音を放射することが明らかになった。
さらに、vortex generatorとして、ジェットの出口周
辺部に取り付けられた、自由に回転する矩形のベー
ンタブを使って、ジェットからの音を抑制する方法
も提案した20)。Jet spreading rateも増大した。
Fig. 6: ロケットエンジンスタート時の圧力波
5.2 Overpressure
現れることが明らかになった。
ジェットと類似した性質を持つのが、ロケットの排
気である。ロケットエンジンスタート時に、ロケッ
トノズルから発生する大きな圧力波の発生と伝播を
数値シミュレーションし21)。対象として、Space Shuttle
の補助ロケット(SRB)の場合を取り上げた。比熱比は、
燃焼ガスを考慮して、γ
とした。軸対称計算
では、地面は水平とし、3次元計算では、地面は斜
めとした。計算結果は、STS-1ミッションの測定デー
タとよく一致した。また、地面を斜めにする効果も
得られた。
6.極超音速流
スペースシャトルの事故でも分かるように、極超
音速流では、空力加熱率分布の予測が一番重要であ
る。著者らは、名古屋大学のマッハ数M=8の流れを
作り出す衝撃風洞(duration:50msec)を用いて、種々の
極超音速の流れを実験した。最近、極超音速の研究
が下火になったのは残念である。
Fig. 8: Side jet
6.3 Side Jet
RCS (Reaction Control System)で使用されるSide Jet
の研究を行った。Space Shuttleのような宇宙往還機に
おいては、大気上空では、動圧が小さいため、control
surfaceの効きが悪くなる。そこで、サイドジェットを
噴出して、その反作用で、姿勢を制御する方法が採
用されている。ここでは、M=8の名古屋大学の衝撃
風洞を用いて、球頭円錐模型に対して、極超音速流
中にサイドジェットを出したときの流れ場への影響
を可視化と圧力測定により調べた26)。サイドジェット
は、円形の音速ジェットで、迎角のある場合は、風
下側(leeward)で壁面に垂直に噴射した。迎角の増
加とともに、その影響領域は上流側に広がるが、圧
力変化の大きさは減少する。またジェットの
interaction amplification factorは増加する。
Fig. 7: Bow shockでの衝撃波・衝撃波干渉
6.1 Bow Shockとの衝撃波・衝撃波干渉
衝撃風洞に大きさの異なる2個の半球円柱(軸は主
流方向)を挿入し、大きい方(親機)で発生するbow
shockが小さい方(子機)のbow shockに衝突させ、衝
撃波・衝撃波干渉を起こさせた22)。衝撃波・衝撃波干
渉は、Edney23)によって6つのタイプにクラス分けさ
れているが、ここでは一番強い干渉が起こるタイプ
4の場合を調べた。衝撃波が干渉する辺りから物体
に向かってジェットが発生し、これにより、物体表
面で圧力と加熱率が大きく増大する。
これに関連して、極超音速の非平衡流における衝撃
波・衝撃波干渉の数値シミュレーションを行い、反
応のない流れと同様な流れのパターンが得られた24)。
6.2 ロケットとSRBの干渉
ロケットとSRBの空力干渉は実際に起こり得る現
象である。SRBのノーズから発生するbow shockがロ
ケット本体の表面に衝突することにより、衝撃波・
境界層干渉が発生する。その結果、衝突した付近で、
圧力や空力加熱率の上昇が起こる。この現象を、特
に3次元分布特性を調べるために名古屋大学の衝撃
風洞を用いて実験した25)。そこでは、発生する剥離渦
に起因する複雑な分布が得られた。また、圧力分布
に比べて、空力加熱率の方がより周方向への影響が
6.4
Fig. 9: TSTO模型と親機・子機での圧力分布
TSTO (Two Stage To Orbit)
軌道まで2段のロケットで行くTSTOの研究もシリ
ーズで行った。親機をデルタ翼、子機を半球円柱で
モデル化して、親機と子機の間で発生する空力干渉
流れ場について調べた27)。ここでは、圧力分布は、PSP
(Pressure Sensitive Paint)で、温度分布は、TSP
(Temperature Sensitive Paint)で可視化した。空力加熱
率は、白金薄膜ゲージと同軸熱電対で測定した。こ
の流れ場では、衝撃波・衝撃波干渉と衝撃波・境界
層干渉の両方が発生する複雑な流れパターンとなる。
子機の先端では、空力加熱率が、子機単体の場合の
27倍も大きくなる。一方、子機先端の下方のデルタ
翼面上では、最大加熱率が子機単体の澱み点と同じ
ぐらいになる。
また、この流れに対して、数値シミュレーション
を行い、空力加熱率分布を計算した28)。空力加熱率は、
温度の物体表面に垂直方向分布の勾配に依存するの
で、その計算には注意を要する。
抗力係数は、CD =-0.35となった。つまり、推力が発
生し、分離を加速させる効果が出てくることが明ら
かになった。さらに、このデイスクの周に沿ってフ
ェンスを付けると、推力が70%も増加することが分か
った31)。
Fig. 10: 極超音速人型ロボット
6.5 極超音速人型ロボット
将来的に宇宙空間で運用される人型ロボットが大
気圏に再突入する場合の、ロボット周りの干渉流れ
場や、ロボット関節部などに生じるCavity周りの流れ
場を実験的に調べた29)。人型ロボットの模型には、市
販のガンダム模型を補強して使用した。人型ロボッ
トの姿勢として、2種類採用した。一つは、手を後
方に腰の位置に持ってくるフィンランドスタイル、
もう一つは、手を前に出すレックナーゲルスタイル
である。PSPで圧力分布を可視化した。さらに、人型
ロボットが被る空力加熱率を減少させるために、サ
フィンボードのようなボードの上に乗る方法を調べ
た。この場合、流れにむき出しのフィンランドスタ
イルに比べて、空力加熱率が53%減少させることがで
きた。
Fence
( mm )
1.48D
Cavity
5
Capsule
h
10
Rocket
Fig. 11: 空力干渉を利用した緊急分離
7.空力干渉を使用した緊急分離
超音速流で、空力干渉を利用して、ロケットの乗
員カプセルの緊急分離を加速させる研究を行った30)。
今後スペースシャトルにとって代わるカプセル型
(アポロやソユーズのような)が考えられているが、
その場合は、abort systemが必要となる。ここでは、
capsule (Launch Abort System)とrocket (Service
Module)からなるCEV (Crew Exploration Vehicle)をそ
れぞれ円錐と円柱でモデル化し、マッハ数M=3で、
実験と計算の両方を行った。ロケット先端にデイス
クを付けた場合、間隔がh/D=0.4の場合、カプセルの
また、この分離にして移動する現象を数値シミュ
レーションした32)。Dynamic simulationの結果、フェ
ンスがない場合には、h/D=2.05まで、フェンスがある
場合には、h/D=2.23まで分離することが分かった。そ
こまで行くと、また戻ってくる。
8.運動する物体周りの流れ
制止している物体周りの流れではなく、物体が運
動している場合の流れを研究した。
8.1 スピン現象
名古屋大学の自由傾斜風洞の出口を上向きにして、
スピンの研究を行った。先ずは、平板翼について実
験を行った33)。Free rotation modeでspin rateを測定した。
Spin rateは、横滑り角(sideslip angle)が大きくなるにつ
れて増大する。加えて、横滑り角が付いていると、
windwardの翼半分における上面の圧力分布は、
leeward側のものに比べて、減少することが分かった。
また、平板翼ではなく、デルタ翼についても、同
様な実験を行った34)。この場合には、迎角が小さい時
には、平板翼と同様に、横滑り角(sideslip angle)が大
きくなるにつれて増大する。しかし、失速角近くに
なると、逆に減少することが分かった。
8.2 竹とんぼ
CFDと飛行力学を連成させて、竹とんぼの飛行を
数値シミュレーションした35)。ここでは、擬似時間内
で強連成させて、流体計算と飛行計算を実行してい
る。目的は、風洞実験では得られない運動を行う小
さな航空機の飛行特性を解析することである。流体
計算は、3次元ナビエストークス方程式を、擬似圧
縮性法、移動格子法、一般座標を用いて計算する。
運動は、小さな航空機を剛体とみなし、3次元の位
置と姿勢を含めた6自由度の方程式を用いて数値計
算した。重心の並進運動に関しては、慣性座標系成
分を、重心周りの回転運動に関しては、慣性主軸座
標系成分を用いている。また、ジンバルロック現象
を回避するために、クオータニオン用いている。竹
とんぼのシミュレーションを実行し、棒がついいて
いる場合には、ピッチとロールの安定性があり、さ
らに軸周りの回転も安定する。その結果、到達高度
がより高くなる。
凧は、キャンバーが付いており、また紐も付いてい
る。凧が安定に上がる様子が模擬された。特に、凧
は、横方向に行ったり来たりしながら、一定の高度
を維持した。また、実験ともよく一致した。
8.6 ダウンバースト中の小型機の飛行
ダウンバースト中での小型機の飛行がCFDと飛行
力学を使って解析された39)。
9.構造との連成問題
空気力を受けて、物が変形する現象を、流体・構
造連成問題として、計算した。
Fig. 12: 鳥の飛行
8.3 鳥の飛行
実際の鳥をモデル化して、シミュレーション上で
飛ばすことに成功した36)。この問題の特徴は、鳥の羽
ばたきを模擬するために、物体形状が非定常に変形
することである。結果として、鳥が空中を飛ぶこと
ができるだけの揚力と推進力を発生することができ
Fig. 14: 矩形翼の上面の圧力分布(迎角2°)
9.1 板との連成
最初に、低速でのデルタ翼のフラッター現象を、
流体と構造の連成問題として、数値シミュレーショ
ンした40)。また実験も行った。実験では、低周波の振
た。羽ばたきの周波数を調整することにより、鳥の
レベル飛行が可能であることが分かった。
8.4 ブーメランの飛行
小さなブーメランを空中に回転させながら投げる
動と高周波の振動が観測された。これらの現象が切
り替わる遷移速度は、デルタ翼の迎角に依存した。
また、航空機の胴体についているアクセスドアー
のような曲面パネルに関するフラッターのシミュレ
ことによって、投げた場所に戻ってくる現象に空気
力学が関係していることを明らかにする数値シミュ
レーションを行った37)。この研究でも、CFDと飛行力
学がカップリングされている。ここでは、並進速度、
ーションが、CFD-CSDカップリング法を用いて実行
された41)。低超音速のマッハ数M=1.2で計算が行われ
た。曲率が大きくなると、高次モードのフラッター
が発生することが分かった。
回転速度、初速が水平面からある角度で運動する場
合を考えている。Roll angleは、付けていない。飛び
立った後、ブーメランの翼面上での圧力分布により、
ロール角やピッチ角が変化し、その結果、元の場所
に戻ってくる。空気のない場合(月面上のような)
も計算した結果、ブーメランは元の位置に戻ること
なく、行きっぱなしであった。空気力が関係してい
ることは明らかである。この結果を検証するために、
これに対する実験も行い、良い一致が得られた。
Fig. 13: 凧の運動
8.5 凧の運動
空力を受けて運動する凧のシミュレーションを行
った38)。空気力学と飛行力学がカップリングされた。
特に、空気力学、姿勢、安定性について調べられた。
Fig. 15: 超音速パラシュート
9.2 パラシュートの流れ
パラシュートを減速装置とし、航空宇宙では大変
重要な装置である。まず最初に、低速でのパラシュ
ートの研究を行った42). パラシュートの開傘過程に
おけるパラシュートの変形と運動を流体と構造の連
成問題としてシミュレーションした。キャノピーが
最初一様流に垂直方向に広がり、そのあと、頂点が
渦輪によって引っ張られることが分かった。その後、
キャノピーは横方向に移動する。パラシュートの最
大開傘荷重は、ペイロード荷重の約2倍で、実験と
よく一致した。
名古屋大学で研究してきた航空宇宙工学に関連す
その後、超音速パラシュートを取り扱った。宇宙
機の火星への突入においては、超音速から減速させ
る超音速パラシュートが必要となり、ここではその
数値シミュレーションを行った43)。パラシュートは3
次元で、キャノピーはflexibleである。
計算には、immersed boundary methodを使用した。キ
ャノピーの構造計算には、マス・バネ・ダンパーモ
デルが適用された。キャノピーの形状が非定常に変
化することが明らかになった。
10.模型飛行機による空力データ取得
最近では、実際に模型飛行機を飛ばして空力を観
察・測定することを行っている。
る研究の概要を述べた。詳細は参考文献を参照され
たい。
参考文献
1) http://fluid.nuae.nagoya-u.ac.jp/stexp/2013/index.ht
mal
2)
3)
4)
5)
Fig. 16: Quad-rotor
10.1 QUAD-ROTORの空力
10年ぐらい前からQUAD-ROTORを自作してき
た。今では簡単に手に入るが、著者らは一から自分
たちで作ってきた。それまで不安定であったQUAD
が2013年に安定よく飛ばせるようになった。これは
新しい模型飛行機用の制御基板を手に入れたことで
うまくいった。上空から写真(ビデオ)を撮り、周
りの景色を眺めるのは楽しいものである。今後の発
展が期待される。また、このQUADに対して、数値シ
ミュレーションを実行し、QUADが横風に対して不安
定であることを示した44)。横風を受けたQuadrotorは、
正のピッチングモーメントにより頭上げになり、こ
れにより不安定になる。
6)
7)
8)
9)
蒲池智宏、吉田健太、森 浩一、北村圭一、中
村佳朗:模型飛行機の空力特性に関する数値シ
ミュレーション及び実験研究、第27回数値流
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10) 東 大輔、中村佳朗:回転する前縁部によるデ
ルタ翼の揚力増加、日本航空宇宙学会論文集、
51, 589, 2003, pp.52-60.
Fig. 17: 小型模型飛行機による空力測定
10.2 固定翼模型飛行機による空力測定
風洞試験では取得困難な機体の運動とカップリン
グした空力データを、ラジコン飛行機に測定機器を
搭載して、測定した45)。模型飛行機を用いて、実際に
飛行中の航空機の失速・スピン特性を解析した46)。
その結果、スピンでは、内側の翼は失速し、外側の
翼は失速しないことが分かった。
11.おわりに
11) 賈 為、中村佳朗、保原 充、桑原宏成:スラ
ット・フラップ翼まわりの流れの計算、日本航
空宇宙学会誌、37, 428, 1989, pp.430-440.
12) Y.Nakamura and Y.Takemoto: Solutions of
Incompressible Flows Using a Generalized QUICK
Method, Proc. of ISCFD Tokyo, ed. K.Oshima,
1986, pp. 285-286.
13) 汪 運鵬、田中潤治、轟木 峻、土井克則、
中村佳朗:表面移動法によるフラップ表面の剥
離制御、日本航空宇宙学会論文集、57, 679, 2010,
pp. 239-244.
14) T.Layukallo, D.Hayashi and Y.Nakamura: Passive
28) 北村圭一、中村佳朗:極超音速干渉流れにおけ
Separation Control on a Body at Transonic Flow,
Trans. Japan Soc. Aero. Space Sci., 44, 146, 2002,
pp.229-237.
15) T.Layukallo and Y.Nakamura: Passive Separation
Control on a Square Cylinder at Transonic Flow,
Trans. Japan Soc. Aero. Space Sci., 44, 150, 2003,
pp.236-242.
る空力加熱率の数値解析、日本航空宇宙学会論
文集、56, 653, 2008, pp. 269-277.
29) 松本宗一郎:極超音速人型ロボットの再突入空
力干渉について、2009年度修士論文、名古屋大
16) 橋本 敦、小林貴広、中村佳朗:遷音速鈍頭2
次元物体でのタブによるベース抵抗低減、日本
航空宇宙学会論文集、56, 648, 2008, pp.15 -21.
17) 前田一郎、中村佳朗:高次精度計算法による空
間発展圧縮性ジェットの解析、ながれ、16, 1997,
pp.271-282.
18) Y.Nakamura and H.Yamaguchi: Compressible Jet
and its Sound Emission, Computational Fluid
Dynamics Journal, 8, 2, 1999, pp.250-256.
19) K.Obase and Y.Nakamura: Aerodynamic and
Aeroacoustic Interactions of a High-Speed Jet with
a Flat Plate, AIAA Paper 2004-2404, 2004.
20) M.K.Ibrahim and Y.Nakamura: Effects of Rotating
Tabs on Flow and Acoustic Fields in Supersonic Jet,
AIAA Journal, 39, 4, 2001, pp. 745-748.
21) T.Saito, T.Nakamura, M.Kaneko, I.Men’shov and
Y.Nakamura: Numerical Investigation of SRB
Ignition Overpressure, AIAA 2004-2342, 2004.
22) T.Nagashima, Y.Nakamura, M.Yasuhara and
K.Tsuboi, Shock Interaction Induced by Two
Hemishere-Cylinders, IPAC, SAE P-246, 1991, pp.
581-589.
23) B. Edney: Anomalous Heat Transfer and Pressure
Distribution on Blunt Bodies at Hypersonic Speeds
in the Presence of an Impinging Shock, FFA Rep.
115, 1968.
24) N.Hamamoto, M.G.Lee, Y.Nakamura and
I.Menshov: Heat Transfer Calculation of Blunt
Bodies in Nonequilibrium Air Flow, AIAA 97-2055,
1997.
25) Y.Tanahashi, T.Ohara and Y.Nakamura:
Three-Dimensional Shock/Boundary Layer
Interaction Between a Rocket and a Booster, J.
Spacecraft and Rockets, 36, 5, 1999, pp. 681-687.
26) 栗田 充、岡田拓己、中村佳朗:極超音速鈍頭
物体におけるサイドジェット空力干渉、日本航
空宇宙学会論文集、50, 585, 2002, pp. 394-401.
27) 西野敦洋、石川尊史、岡田拓己、中村佳朗:極
超音速におけるデルタ翼・球頭円柱間の空力干
渉流れ場、日本航空宇宙学会論文集、52, 606,
2004, pp. 289-294.
学工学研究科航空宇宙工学専攻、2010。
30) 小澤啓伺、北村圭一、花井勝祥、三好理也、
森 浩一、中村佳朗:超音速空力干渉を利用し
たカプセル型宇宙輸送システムの緊急分離、日
本航空宇宙学会論文集、57, 664, 2009, pp.
175-182.
31) 香山寛人、汪 運鵬、小澤啓伺、土井克則、中
村佳朗:フェンスによる超音速空力干渉を利用
したカプセル分離、日本航空宇宙学会論文集、
60, 2, 2012, pp. 10-15.
32) Y.P.Wang, H.Ozawa, H.Koyama and Y.Nakamura,
Abort Separation of Launch Escape System Using
Aerodynamic Interference, AIAA Journal, 51, 1,
2013, pp. 271-276.
33) 山田貴史、一之瀬敬之、中村佳朗:スピンする
平板翼の空力特性について、日本航空宇宙学会
論文集、50, 576, 2002, pp. 15-21.
34) 山田貴史、中村佳朗:スピンするデルタ翼の空
力特性について、日本航空宇宙学会論文集、51,
591, 2003, pp. 7-14.
35) 河村耕平、上野陽亮、中村佳朗:数値流体力学
と数値飛行力学の連成に基づく竹とんぼのフラ
イトシミュレーション、日本航空宇宙学会論文
集、57, 667, 2009, pp. 26-32.
36) 上野陽亮、中村佳朗:空気力学と飛行力学に基
づく鳥の飛行に関する数値シミュレーション、
日本航空宇宙学会論文集、57, 667, 2009, pp.
9-14.
37) 土井克則、Mohad FADHLI, 川島 渉、中村佳
朗:CFDを用いたブーメランの飛行シミュレー
ション、日本航空宇宙学会論文集、59, 693, 2011,
pp. 15-22.
38) S.Mano, K.Kitamura, K.Doi and Y.Nakamura:
Numerical Simulation Based on CFD for
Aerodynamic Characteristics of Kite in Flight,
Trans. JSASS Aerospace Tech. Japan, 12, 2014, pp.
1-10.
39) 前山洋介:空力・運動連成数値シミュレーショ
ンによるダウンバースト中の航空機の飛行特性
について、2012年度名古屋大学工学研究科
航空宇宙工学専攻修士論文、2013.
40) 橋本 敦、古田泰之、八木直人、中村佳朗:低
速デルタ翼現象における大変形振動流れ場の解
析、日本航空宇宙学会論文集、55, 637, 2007, pp.
104-110.
41) 橋本 敦、八木直人、中村佳朗、伊藤博文、海
田武司:曲面パネルの流体構造連成計算法によ
るフラッター解析、日本航空宇宙学会論文集、
55, 638, 2007, pp. 150-155.
42) 三好理也、森 浩一、中村佳朗:Immersed
Boundary法を用いたパラシュート開傘過程の流
体・構造連成シミュレーション、日本航空宇宙
学会論文集、57, 670, 2009, pp. 1-7.
43) X.P.Xue and Y.Nakamura: Numerical Simulation of
a Three-Dimensional Flexible Parachute System
under Supersonic Conditions, Trans. JSASS
Aerospace Tech. Japan, 11, 2013, pp.99-108.
44) H.Yasuda, K.Kitamura and Y.Nakamura: Numerical
Analysis of Flow Field and Aerodynamic
Characteristics of a Quadrotor, Trans. JSASS
Aerospace Tech. Japan, 11, 2013, pp. 61-70.
45) 安井一平、吉田健太、中村佳朗:STOL機におけ
る飛行中の空力特性について、第49回飛行機
シンポジウム講演論文集、2B05、2013.
46) 安井一平:模型飛行機による飛行中の空力デー
タ測定と失速特性の解析について、2013年度
名古屋大学工学研究科航空宇宙工学専攻修士論
文、2014.