2015年度介護保険制度改正で ケアマネが取るべき対応と ケアマネジメントの実務 2015年度介護報酬改定のねらいと 2018年度同時改定に向けた介護保険制度の行方 田中 元 TANAKA_Hajime 介護福祉ジャーナリスト 1962年生まれ。群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。立教大学法学部卒業後,出 版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・介護などをテー マとした取材・執筆・編集活動を行っている。現在,新聞や高齢者介護の専門誌な どで,現場の視点に立った記事を掲載。著書に『介護現場の事故・トラブル防止法― よくわかる 介護事故を防ぐプロの仕事術』 (ぱる出版) , 『速報 改正介護保険早わ かり』 (自由国民社) , 『現場で使える新人ケアマネ便利帖』 (翔泳社)などがある。 介護保険制度の位置づけが 変わってきたことに注意 整えることは,ケアマネジャーとしての職務の持 続性にも影響してきます。 まずは,制度改正から報酬改定・運営基準改正 2015年度から改正介護保険法が順次施行され, に至る「大きな軸」を確認しておきましょう。 運営面でも介護報酬の改定と運営基準の改正が行 今回の制度改正は,介護保険関連の部分だけに われます。しかし,わずか3年での大きな制度変 目を凝らしても,本質はなかなか見えてきません。 更ゆえに,現場の隅々まで理解を行き渡らせるの それは,川の上流にあたる高齢者医療のあり方に は簡単ではありません。 メスが入り,社会保障制度全般の中での「介護保 それでも,多職種連携の要となりつつ,利用者 険」自体の位置づけが変わってきたからです。 への説明責任の矢面に立たされるケアマネジャー 今回の制度改正を語る時,国が再三テーマとし としては,いつまでも首をひねっているわけには て掲げているのが「地域包括ケアシステムの構 いきません。新報酬や新運営基準などの細かい点 築」です。その構築時期の目標としては,いわゆ をチェックしていくことも大切ですが,まずは国 る団塊世代が全員75歳を迎える2025年としていま が描いている大きな流れをつかむことから始めま す(図1) 。その時期までに, 「どんなに重度化し しょう。大きな流れをつかむことで,さまざまな ても,住み慣れた地域で人生の最後まで過ごせる 改定の背景が見えてくれば,細かい点の理解が進 仕組み」として地域包括ケアシステムを構築しな みやすくなり,他職種や利用者への説明なども根 ければなりません。 拠を持って行うことができます。 確かに75歳となれば,一号被保険者の中でも内 それ以上に大切なのは,3年後の2018年に再び 部疾患の保有率は一気に高まり,容態の不安定度 訪れる改定の行方をある程度予測することが可能 は増します。厚生労働省の「世帯員の健康状況」 になる点です。3年後といえば,介護・診療報酬 に関する調査でも,10歳ごとの1,000人あたりの の同時改定となり(診療報酬はその前に,2016年 有訴者(身体の不調を訴える数)について,30代 度の改定という節目があります),現場にとって から60代に関しては10歳上がるごとに9~13%程 さらに厳しい改革になることが想定されます。そ 度の伸びとなっています。これに対し,60代から れを予測しつつ,今から順応できる体制や知識を 70代になると伸びが30%と跳ね上がります(表1) 。 達人ケアマネ vol.9 no.4 3 図1 75歳以上の人口は今後どうなるか? (万人) 14,000 10,000 8,411 2,979 9,008 3,012 9,430 2,843 6,000 4,000 2,000 実績値 ■75歳以上 ■65 ∼ 74歳 ■15 ∼ 64歳 ■0∼ 14歳 12,000 8,000 内閣府:平成26年版高齢社会白書(平成26年6月13日) 5,517 5,017 5.3 4.9 0 ● ● 309 107 338 139 6,047 5.7 ● 376 164 推計値 12,55712,69312,77712,80612,73012,66012,410 38.8 12,10512,361 37.7 12,066 1,639 11,706 ● 11,662 36.1 1,583 1,457 ● 11,194 11,212 (12.9%) 2,001 1,847 1,752 1,680 1,324 1,204 2,249 1,129 ● 10,467 2,603 ● 10,72810,221 9,708 9,921 2,751 30.3 ● 2,722 29.1 33.4 1,073 1,012 ● 939 2,515 31.6 26.8 ● 2,553 高齢化率(65歳以上人口割合) 23.0 25.1 ● ● 7,682 7,341 7,084 6,773 ● 20.2 6,343 5,787 7,901 6,353 5,001 ● 8,716 17.4 (62.1%) 8,590 ● 8,251 14.6 8,103 7,883 8,409 7,581 総人口(棒グラフ上数値) ● 12.1 7,212 6,744 10.3 8,622 ● 9.1 7.9 ● 1,600 1,383 7.1 ● 1,630 1,749 1,733 1,479 1,407 1,496 1,645 6.3 ● ● 1,517 (12.8%) ● 1,407 1,301 2,385 1,560 892 1,109 1,646 1,879 2,179 2,278 2,245 2,223 2,257 434 516 602 699 776 1,160 1,407 (12.3%) 597 717 900 471 366 189 224 284 39.4 ● 39.9 ● (%) 45.0 40.0 35.0 9,193 30.0 861 8,674 791 25.0 4,706 4,418 20.0 15.0 1,225 1,128 10.0 2,401 2,336 5.0 0.0 昭和25 30 35 40 45 50 55 60 平成2 7 12 17 22 25 27 32 37 42 47 52 57 62 67 72 (1950) (1955) (1960) (1965) (1970) (1975) (1980) (1985) (1990) (1995) (2000) (2005) (2010) (2013) (2015) (2020) (2025) (2030) (2035) (2040) (2045) (2050) (2055) (2060) (年) 地域包括ケアシステムの構築が一つの到達点としているのが2025年。75歳以上の人口の伸びがピークに 資料:2010年までは総務省「国勢調査」 ,2013年は総務省「人口推計」 (平成25年10月1日現在) ,2015年以降は国立社会保障・人 口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果 (注)1950年∼ 2010年の総数は年齢不詳を含む。高齢化率の算出には分母から年齢不詳を除いている。 表1 性・年齢階級別に見た有訴者数 年齢階級 平成25年 総数 男 (単位:人口千対) け入れることに対し,財務省などは「国民医療費 平成22年 女 総数 男 問題は,そうした重度者をすべて院内療養で受 女 総数 312.4 276.8 345.3 322.2 286.8 355.1 9歳以下 196.5 204.7 187.9 248.1 252.8 243.2 を引き上げている一つの要因」と見ていることで す。財務省の財政制度審議会でも, 「人口あたり病 10 ∼ 19 176.4 175.2 177.8 203.4 207.3 199.3 床数が多い都道府県ほど,一人あたりの国民医療 20 ∼ 29 213.2 168.7 257.6 221.9 178.5 264.7 費が高い」と指摘しています(図2) 。社会保障 30 ∼ 39 258.7 214.4 301.4 272.4 225.7 317.1 財政を健全化するためには,病床数と入院日数を 40 ∼ 49 281.1 234.3 325.7 292.1 246.0 336.5 50 ∼ 59 319.5 271.0 365.8 321.3 275.9 364.8 60 ∼ 69 363.0 338.5 385.5 381.6 350.9 410.1 減らし,ある程度状態が安定したら早期の在宅療 養への移行を進めることが必要というわけです。 70 ∼ 79 474.8 448.0 497.4 484.3 454.9 509.1 これを川上側の改革として具体化したのが, 80歳以上 537.5 528.1 542.9 525.1 518.4 528.9 2014年度の診療報酬改定です。今の介護保険を理 (再掲) 466.1 439.9 486.6 471.1 443.7 492.5 65歳以上 解するには,まずこの部分に注目しなければなり 75歳以上 525.6 506.1 538.8 517.5 500.0 529.0 ません。最初に川の最上流にあたる「高度急性期」 注:1)有訴者には入院者は含まないが,分母となる世帯人員数には 入院者を含む。 2) 「総数」には,年齢不詳を含む。 厚生労働省:平成25年度 国民生活基礎調査の概況(平成26年7月) これを基にすると, 「具合が悪い」と訴える国 民の割合は2025年に一つのピークを迎えます(国 の将来人口推計では,その後も75歳以上の人口は 4 を想定した「7対1入院基本料」 (患者7人につ き看護師配置を1人とする手厚い人員配置が要件) に着目します(表2) 。 「川上」からの流れは,次の 診療報酬改定でさらに加速!? 伸び続けるが,伸び自体は緩やかになる) 。高齢に この入院基本料を算定するには,もともと平均 なれば当然回復力は衰えるため,そのまま一定の 在院日数を18日以内とする上限が定められていま 医療処置を伴う療養へのニーズも高まるでしょう。 した。2014年度の診療報酬改定では,これにプラ 達人ケアマネ vol.9 no.4 図2 人口あたりの病床数が多い都道府県ほど, 1人あたりの国民医療費が高い 【人口10万人あたり病床数と1人あたり国民医療費・平均在院日数の関係】 (床) 3,000 (万円・日) 39.8 人口1人当たり国民医療費(万円) 都道府県間で約1.6倍の差 2,500 ● 2,476 2,000 30 人口10万人対病院病床数(床) 都道府県間で約3倍の差 ● 25.5 40 ● ● 23.0 20 平均在院日数(一般病床)(日) 都道府県間で約1.6倍の差 10 1,500 ● 14.8 1,000 ● 821 高知県 鹿児島県 熊本県 徳島県 長崎県 山口県 佐賀県 北海道 宮崎県 福岡県 大分県 石川県 富山県 愛媛県 島根県 香川県 鳥取県 岡山県 秋田県 広島県 和歌山県 福井県 京都府 岩手県 沖縄県 福島県 青森県 山梨県 山形県 新潟県 群馬県 全国 大阪府 奈良県 兵庫県 長野県 三重県 茨城県 宮城県 栃木県 静岡県 滋賀県 岐阜県 東京都 千葉県 愛知県 埼玉県 神奈川県 500 0 総務省統計局“e-Stat”政府統計の総合窓口ホームページ,財務省主計局:財政制度等審議会財政制度分科会資料(平成26年10月8日) スして「退院後の行き場所」が設定され,その「行 き場所」への送り出しが75%以上であることが算 定要件とされました。 その「行き場所」には,①自宅や居住系介護施 設といった「生活の場」のほか,②老人保健施設, ③一定の機能を持つ病棟が挙がっています。②に ついては,在宅強化型および在宅復帰・在宅療養 支援機能加算を算定しているものに限られます。 また,③の「一定の機能」とは,回復期リハビ 表2 一般病棟入院基本料(7対1)の算定要件に 「在宅復帰」機能強化 2014年度診療報酬改定で新設された要件 退院患者のうち,以下の「場所」へ 移った者の割合が75%以上であること ①自宅・居住系介護施設 ②介護老人保健施設(在宅強化型もしくは在宅復帰・在 宅療養支援機能加算の届け出あり) ③回復期リハビリテーション病棟(退院後の生活を見据 えた「入院時訪問指導加算」を創設) ④地域包括ケア病棟1・2(専任の在宅復帰支援担当者 配置,1の場合は在宅復帰率70%以上) ⑤療養病棟(在宅復帰機能強化加算を届け出ていること) リテーション病棟,新設の地域包括ケア病棟,在 宅復帰機能強化加算を算定している療養病棟と いきません。そこで,医療側の受け皿として,訪 なっています。いずれも「在宅復帰」を進めるた 問診療などを手がける在宅医療の機能強化も同時 めの要件レベルが高い病棟です。例えば,地域包 に図られているのです。 括ケア病棟においては,専任の在宅復帰支援担当 例えば,地域で在宅医療を担うことを強く義務 者を配置しつつより高い報酬を得るには, 「在宅 づけられた機関として,機能強化型の在宅療養支 復帰率7割以上」をクリアしなければなりません。 援診療所・病院があります。2014年度の診療報酬 要するに,川上の改革だけに着手するのではな 改定では,この医療機関の評価について, 「在宅 く,川上から送り出された患者の流れが,途中で 医療の実績」を引き上げる改定が行われています。 滞らずに在宅復帰への流れに乗れるような改革も 具体的には,過去1年間の緊急往診の実績が「5 同時に行われているわけです。 件」から「10件」に引き上げられました。また,過 この病床再編を含めた「川上」側の改革によっ 去1年間の在宅での看取り実績についても, 「2件」 て,「川下」にあたる地域療養体制への川の流れ から「4件」に引き上げられています。 は当然激しくなります。川の水量が増える一方で 医療だけではありません。在宅医療をカバーす 「川下」の受け皿をそのままにしておくわけには る大きな存在である訪問看護についても,2014年 達人ケアマネ vol.9 no.4 5 図3 「川上」からの在宅復帰の流れがますます加速 急性期病棟の再編 (高度急性期病床の絞り込み) 川上 療・介護を一体的に提供するための仕組みであり, 地域包括ケアシステムの具体的な姿と言えます。 一般急性期病棟における 早期の在宅復帰のミッション 在宅復帰を強化した 病棟や老健など 改正介護保険で設けられた 医療連携サポートの仕組み この新たな仕組みを構築するとなれば,当然のこ とながら,介護保険制度のあり方も見直さなければ 療養ニーズが高い状態での在宅復帰 訪問診療や訪問看護の機能強化 川下 介護保険サービスとの連携強化 (介護保険の中重度対応の「重点化」 ) なりません。つまり,川上からの重度者に対して, 介護側は医療・看護との緊密な連携の中でサポー トしていくという方向に重きを置くわけです。これ が,国の示す「介護保険の中重度対応の重点化」 策です(図3) 。 この緊密な連携に向けた「重点化」策は,今回 重点化からこぼれた軽度者は ゆくゆくは「総合事業」という流れ? (要支援者は,すでにサービスの一部が 総合事業へと移行) の法改正の中でも,随所に仕込まれています。そも そも今回は,医療法の改正なども含めた19本もの 法案を「地域医療・介護総合確保推進法」として 一括化しています。これ自体,医療と介護の提供 6 度の診療報酬改定で機能強化型が誕生しました。 体制を一体的に改革していくことを端的に示して その要件としては,常勤看護師の配置人数(算定 います。 1で7人,2で5人以上)に加え,24時間対応体 そのため,まずは,都道府県による地域医療計 制加算をとっていることが必要です。また,ター 画と介護保険事業支援計画(市町村の介護保険事 ミナルケア関連の加算についても,算定1で年20 業計画をいかに支援するかという計画)の策定サ 回以上,2で15回以上という高いレベルを求めて イクルを合わせました。これまでは地域医療計画 います。 は5年ごと,介護保険事業支援計画は3年ごとで こうした「川上」からの在宅復帰を強化した医 したが,前者を6年ごととしました。また,両者 療・看護側の改革は,スタートしたばかりです。 の計画を包括する基本方針の策定も義務づけられ 厚生労働省は,2018年度の診療報酬改定において, ています(図4) 。 さらなる病床再編を示唆しています。川上から送 こうした「計画策定」というベースを整えた上 られる水量,そして,その流れの速さはまだまだ で,介護保険の地域支援事業の枠を使い,在宅医 加速することになります。 療連携拠点の整備が2018年度までに全市町村で行 となれば,在宅における医療・看護側がどんなに われます。これが,在宅医療・介護連携支援セン 手厚くなろうとも,それだけで対応するのは難しい ター(仮称) (以下,センター)です(図5) 。 です。そこで必要になるのが,地域療養を介護側か 地域支援事業なので市町村が主体となって設置 らもサポートする体制です。それが,重度者への医 されるものですが,立ち上げに際しては市町村医 達人ケアマネ vol.9 no.4 ➡続きは本誌をご覧ください
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