ANN No.15 (アレルゲン免疫療法とMAD)

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△ 最近の話題
メールニュース No.15
:-アレルゲン免疫療法と Molecular based Allergen Diagnostics - ▽
△ 特異的 IgE 検査 :‐血中特異的 IgE の不均一性‐▽
ファディア株式会社 発行
(サーモフィッシャーサイエンティフィック グループ)
△ 最近の話題
:-アレルゲン免疫療法と Molecular based Allergen Diagnostics - ▽
1. ダニコンポーネント
粗抽出アレルゲン特異的 IgE 測定の臨床的感度または特異度の改善のため、アレルゲンコンポーネ
ント(以下コンポーネント)特異的 IgE の測定(Molecular based Allergen Diagnostics:MA-D)が有用
であることが、食物アレルギー領域で多数報告され、日本でも Ara h 2(2S アルブミン)、Tri a 19(ω-5
グリアジン)、Gal d 1(オボムコイド)など、いくつかのコンポーネントは、日常診療でも利用されるように
1)
なりました 。
一方、チリダニ、花粉、昆虫、ペットなどの吸入性アレルゲンでも多数のコンポーネントが、WHO/IUIS
アレルゲン命名データベースに登録されています。
表 1.に示すように、ヤケヒョウヒダニにおいて 17 種類のコンポーネントが登録されています。
Pittner らは、7 種の精製またはリコンビナントのヤケヒョウヒダニコンポーネントを用いて室内塵ダニア
レルギー患者のコンポーネント感作プロファイルを検討しました。その結果、95%の室内塵ダニアレル
2)
ギー患者は、Der p 1 または Der p 2 特異的 IgE により診断が可能と報告しています 。
Minami らは、ヤケヒョウヒダニ特異的 IgE が陽性の気管支喘息患者を対象に、イムノキャップを用いて
3)
Der p 1、Der p 2 および Der p 10 に対する特異的 IgE を測定しました 。その結果、ダニ吸入誘発試
験で即時型反応を呈した患者では、Der p 1 および Der p 2 特異的 IgE 抗体価が高く、即時型反応陰
性例は両コンポーネントが陰性または低値を示し、これら 2 種のコンポーネントが症状発現に関与して
いることが示されました。
これら 2 種のコンポーネントは治療アレルゲンエキス中の主要成分でもあることから、Der p 1 および
Der p 2 に強く感作された例では、チリダニに反応する可能性が高く、アレルゲン免疫療法の効果が期
2)
待できると考えられます 。
2. 花粉コンポーネント
実際に欧州では、シラカンバ花粉症、オオアワガエリ花粉症などにおいて、MA-D がアレルゲン免疫療
法施行例の選択に有用であると報告されています
1, 4-7)
。
Schmid-Grendelmeier は、746 例のシラカンバまたはオオアワガエリ花粉症患者を対象にしてアレル
ゲン免疫療法を実施した結果、主要コンポーネント感作例 655 例中 481 例(73%)の患者が有効また
は著効で、主要コンポーネントに感作されていなかった 91 例では、有効または著効は 15 例(16.5%)
であったと報告しました
4)
。すなわち、プロフィリン、ポルカルシンなど交差性マイナーコンポーネントに
対する感作は、他の花粉感作による交差性に由来すると考えられ、Bet v 1 または Phl p 1、Phl p 5 な
どの主要コンポーネントに感作された患者において当該アレルゲンによるアレルゲン免疫療法が有効
となる可能性が高くなります。このことから、MA-D により SIT の適応判断が可能となり、時間の損失だ
けでなくアレルゲン免疫療法による副作用の回避、医療経済的にも MA-D を実施することは有用であ
ると述べられています。
表 2. シラカンバ花粉コンポーネント
4)
主要コンポーネント
Bet v 1
交差性コンポーネント(マイナー)
Bet v 2* Bet v 4**
Bet v 1 は、花粉関連食物アレルギー症候群においては交差性コンポーネントとなり、
一方、シラカンバ花粉症においては主要コンポーネントとなる
表 3. オオアワガエリ花粉コンポーネント
4)
主要コンポーネント
Phl p 1 Phl p 5
交差性コンポーネント(マイナー)
Phl p 7** Phl p 12*
*Bet v 2、Phl p 12:プロフィリン 植物間の交差性に関与する
**Bet v 4、Phl p 7:ポルカルシン 花粉間の交差性に関与する
Sastre らは、花粉(イネ科、ヒノキ科、オリーブ、プラタナス)感作アレルギー性鼻炎/結膜炎、喘息 141
例を対象に欧州アレルギー臨床免疫学会(EAACI)の推奨のアレルゲン免疫療法の適応判定(病歴、
スキンプリックテストなどによる)と、これに ImmunoCAP ISAC の検査結果を加えたアレルゲン免疫療
法の適応判定の一致率を調べました。両者による一致率は 46%(141 例中 62 例)でした。これは、
ImmunoCAP ISAC においては、複数の花粉に感作されているような患者において、主要アレルゲンを
特定することで症状発現に関与している原因アレルゲンを推察可能であり、粗抽出アレルゲンを用い
たスキンプリックテストや特異的 IgE 検査では、いずれの花粉が症状発現に関与しているのかを判別
することが困難であることを示唆しています。従って複数の花粉の主要コンポーネントの結果から原因
5)
アレルゲンを診断してアレルゲン免疫療法適応を判定するのが有用であると考えられます 。
欧州では、下図のように、シラカンバ、オオアワガエリ花粉症において、MA-D がアレルゲン免疫療法
適応の可否に利用されるようになってきているそうです
6,7)
。
シラカンバ
Thermo Fisher Scientific ImmunoDiagnostics Division(Phadia 社)販促資材より抜粋
オオアワガエリ
Thermo Fisher Scientific ImmunoDiagnostics Division(Phadia 社)販促資材より抜粋
3. ハチ毒コンポーネント
ハチ毒アレルギーにおいて、アレルゲン免疫療法が最も有効な治療方法となるのは周知の事と思いま
す。ハチ毒アレルギー患者において、ミツバチ毒とスズメバチ/アシナガバチ毒の両者に IgE 検査が陽
性であった場合、両者またはいずれか一方のアレルゲン免疫療法を実施することになります。このよう
な場合、ハチ種特異的コンポーネントである Pol d 5、Ves v 5、Ves v 1 および Api m 1 や
Cross-reactive Carbohydrate Determinants(CCD)への特異的 IgE 測定が投与するハチ毒アレルゲ
ン種の選択に有用であったと報告されています
8, 9)
。
ハチ毒
Thermo Fisher Scientific ImmunoDiagnostics Division(Phadia 社)販促資材より抜粋
アレルギー疾患の治療、とくにアレルゲン免疫療法および抗原除去・回避の指導は、正確な原因アレ
ルゲン診断に基づいて実施することが重要です。今後、日本でもスギ花粉やヤケヒョウヒダニの SIT の
実施が増加する可能性があることから、これらアレルゲンの主要コンポーネント特異的 IgE 測定の開
発が期待されています。
参考文献
1. Canonica GW, Ansotegui IJ, Pawankar R, Schmid-Grendelmeier R, van Hage M,
Baena-Cagnani MC, Melioli G, Nunes C, Passalacqua G, Rosenwasser L, Sampson H,
Sastre J, Bousquet J, Zuberbier T, Allen K, Asero R, Bohle B, Cox L, de Blay F, Ebisawa M,
Maximiliano-Gomez R, Gonzalez-Diaz S, Haahtela T, Holgate S, Jakob T, Larche M,
Matricardi PM, Oppenheimer J, Poulsen LK, Renz HE, Rosario N, Rothenberg M,
2
Sanchez-Borges M, Scala E, Valenta R. A WAO-ARIA-GA LEN consensus document on
molecular-based allergy diagnostics. WAO Journal 2013; 6: 7.
http://www.waojournal.org/content/6/1/17
2. Pittner G, Vrtala S, Thomas WR, Weghofer M, Kundi M, Horak F, Kraft D, Valenta R.
Component-resolved diagnosis of house –dust mite allergy with purified natural and
recombinant mite allergens. Clin Exp Allergy 2004; 34: 597-603.
3. Minami T, Fukutomi Y. Lidholm J, Yasueda H, Saito A, Sekiya K, Tsuburai T, Maeda Y, Mori A,
Taniguchi M, Hasegawa M, Akiyama K. IgE abs to Der p 1 and Der p 2 as diagnostic markers
of house dust mite allergy as defined by a bronchoprovocation test. Allergol Int 2015; 64:
90-5.
4. Schmid-Grendelmeier P. Recombinant allergens. Routine diagnostics or still only science?
Der Hautarzt 2010; 61: 946-53.
5. Sastre J, Landivar ME, Ruiz-Garcia M, Andregnette-Rosigno MV, Mahillo I. How molecular
diagnosis can change allergen-specific immunotherapy prescription in a complex pollen area.
Allergy 2012; 67: 709-11.
6. Asero R. Component-resolved diagnosis-assisted prescription of allergen-specific
immunotherapy: a practical guide. Eur Ann Allergy Clin Immunol 2012; 44: 183-7.
7. Sastre J. Molecular diagnosis and immunotherapy. Curr Opin Allergy Clin Immunol 2013; 13:
646-50.
8. Muller U, Schmid-Grendelmeier P, Hausmann O, Helbling A. IgE to recombinant allergen Api
m 1, Ves v 1, and Ves v 5 distinguish double sensitization from crossreaction in venom
allergy. Allergy 2012; 67: 1069-73.
9. Carbrallada FJ, Gonzalez-Quintela A, Nunez R, Vidal C, Boquete M. Low prevalence of IgE
to cross-reactive carbohydrate determinants in beekeepers. J Allergy Clin Immunol 2011;
128: 1350-2.
監修)福冨 友馬 先生
国立病院機構相模原病院 臨床研究センター
△ 特異的 IgE 検査 :‐血中特異的 IgE の不均一性‐▽
前項でも示したように、ヤケヒョウヒダニにおいて少なくとも17種以上のアレルゲンコンポーネント(以下
コンポーネント)が存在します。また、各コンポーネント分子上には複数のIgE結合部位(エピトープ)が
存在します。すなわち、抗ヤケヒョウヒダニ特異的IgEといっても多数の抗体の集合体です(図1.)。さら
に、患者さんごとに産生する特異的IgEの種類およびその量が異なります。このように血中特異的IgE
の不均一性のため、特異的IgE検査において固相および固相上のアレルゲンが重要になります。
図1. 血中特異的IgEの不均一性 (ファディア社内資料)
血中の特異的IgE量は微量であることから、検査に使用する粗抽出アレルゲンは含有するコンポーネ
ントの存在およびその量だけでなく、固相上に結合させるこれらコンポーネントの量も重要になります。
イムノキャップには、タンパク質結合能力が高いセルロース誘導体を用いることで血中の微量な特異
的IgEを正確に捉えることが可能です(図2.)。また、臭化シアン活性化セルロースに固相化されたコン
1)
ポーネント(タンパク質)は変性しにくく、長期間アレルゲン活性が保持されます 。
図2. 種々の固相の固相単位当たりのタンパク結合能 (ファディア社内資料)
イムノキャップの固相当たり結合可能なアレルゲンタンパク量は、
ELISAなど試験管、ウェルなどの内壁に吸着させる方法に比較して150
倍以上である。
しかし、固相上のアレルゲン量は、過剰であれば、反応の低下や非特異反応などがみられるために、
最適なアレルゲン量を固相化します。すなわち、代表的な特異的IgEパターンの陽性血清を複数用い
て、固相上のアレルゲン量を変化させ、検討したいずれの陽性血清の反応がプラトーになるところを最
適量とします(図3.)。この評価はアレルゲンごとに実施されます。
図3. 固相上のアレルゲン量の決定 (ファディア社内資料)
ここで、試薬にアレルゲンが固相される表面積が小さい試薬Aと表面積が大きい試薬Bで、同一の血清
を用いて固相上のアレルゲン量を増やしていったとします。試薬Aは試薬Bに比して元来アレルゲンが
密集した状態ですが、アレルゲンの固相量を増やしていくと更にアレルゲンが密集した状態になり、固
相化されたアレルゲン間の距離が短くなります。アレルゲン間の距離が短くなることで、アレルゲン-特
異的IgE複合体が他のアレルゲンと特異的IgE抗体との結合を阻害し、結果的にアレルゲン過剰域で
は反応が極端に低下します(図4)。試薬Bでもアレルゲン過剰域で反応の低下がみられますが、固相
における表面積が広くアレルゲン結合能力が高いためそれほど顕著に低下しません。
試薬 A
試薬 B
図4. 試薬Aと試薬Bに固相上のアレルゲンを増量した際の模式図
この試薬Aと試薬Bにアレルゲンの固相量を添加していった際の、血清の抗体価の変化を表したのが
図5になります。試薬Aでは試薬Bに比べ、①血清の反応がプラトーになるアレルゲン濃度域が狭く
(①)、かつ高濃度域では急激に反応が低下します(②)。
80
①
70
UA/mL
60
50
40
B
30
②
20
A
10
0
抗原濃度
図5.試薬A/Bにおける血清抗体価の変化
実際にイムノキャップにおいて、固相上のオボムコイド濃度を変化させた時の陽性血清の抗オボムコイ
2)
ド特異的IgE抗体価の変動を示します(図6) 。
固相化に用いた抗原濃度が、0.010-0.100の範囲では、いずれの陽性血清の測定結果が一定となり、
この範囲の固相化抗原量であれば同様な結果が得られます。
60
UA/mL
50
40
30
血清1
20
血清2
10
血清3
0
抗原濃度
図6. 固相上の抗原濃度と測定値(ファディア社内資料)
抗原濃度0.01-0.100の範囲においては、測定される抗体価に大きな変動はない
以上のように、イムノキャップの固相が高いアレルゲン結合能力を備えており、それによってイムノキャ
ップが、より正確に抗体価を測定できるキットであることがわかります。この利点は、高い特異的IgEの
検出能力のみならず、最適アレルゲン結合量の多少の違いによる検査試薬の製造ロット間でのデータ
の変化を最小化でき、安定した試薬が供給できる事です。最適アレルゲン結合量の範囲が狭い、すな
わちアレルゲン結合能が低い検査試薬では製造ロットごとの管理が困難となると考えられます。
ファディア社が40年間培った特異的IgE検査に関するノウハウは、アレルゲンや抗ヒトIgE抗体のみな
らず固相やアレルゲンの固相化方法にも現れています。
参考文献
1. Yman L. Standardization of in vitro methods. Allergy 2001; 56 (Suppl 67): 70-4.
2. Sander I, Kespohl S, Merget R, Goldscheid N, Degens PO, Bruning T, Raulf-Heimsoth M. A
new method to bind allergens for the measurement of specific IgE antibodies. Int Arch
Allergy Immunol 2005; 136: 39-44.
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