安倍内閣提出の安全保障関連法案に反対する ―山形大学九条の会の声明― 安倍政権と与党は 2015 年 7 月 15 日衆議院特別委員会、翌 16 日の本会議で、11 本に及 ぶ安全保障関連法案を強行採決し、衆議院を通過させた。私たちはこの暴挙に対し怒りを もって抗議する。 これらの法案は、以下に述べるように、日本国憲法第 9 条に違反する規定を含む違憲の 法案であり、日本国憲法の精神に照らして考えると、法改正を行う合理的な理由も見いだ すことはできない。速やかに全ての関連法案を廃案にすべきである。 「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」の改正 案は、我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態に際し、合衆国の軍隊、米軍以外 の外国の軍隊や軍隊に類する組織に対して、後方支援活動等を行うことにより外国との連 携を強化することを目的としている。 「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」 といっても直接の武力攻撃を受けている事態でもなければ、直接の武力攻撃に至るおそれ のある事態に限定されているわけでもない。現行法の周辺事態法が一応有していた地理的 限定が完全に削除されて、世界中のいかなる地域であっても、後方支援活動等の戦争協力 を開始できる法案である。現行法の周辺事態法では、後方支援活動に対応するものとして 後方地域支援活動が定められているが、 「我が国領域並びに現に戦闘行為が行われておらず、 かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる 我が国周辺の公海及びその上空の範囲」と活動範囲が限定されている。これに対して、法 案は「現に戦闘行為が行われている現場」以外であれば、いかなる場所でも、いかなる時 期においても、後方支援活動を可能にするものである。現行法の周辺事態法では、支援内 容も物品の提供には武器(弾薬を含む。 )の提供ができないこと、戦闘作戦行動のために発 進準備中の航空機に対する給油及び整備を含まない旨、明示されている。これに対し、法 案は「物品の提供には、武器の提供を含まないものとする」とのみ定めている。中谷防衛 大臣は国会審議において、ロケット弾の提供も爆撃に向かう米軍の戦闘機に空中給油する ことも否定しなかった。こうした後方支援は戦闘行為に不可欠な「兵站活動」であり、 「他 国による武力行使と一体化した行動であって、自らも武力の行使を行ったと評価を受けざ るを得ない行動であるということができる」(名古屋高判平成 20 年 4 月 17 日)活動であ る。日本国憲法 9 条 1 項は「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求 し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段 としては、永久にこれを放棄する」と定めている。重要影響事態に関する日本による武力 の行使は、国際連合憲章第 51 条の定める個別的自衛権の行使に当たらないことも明白で ある。したがって、後方支援活動は憲法 9 条に違反する活動を可能にするものであり、憲 法違反の法案は速やかに廃案にすべきである。 「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活 動等に関する法律案」は、これまでは特別措置法を制定して自衛隊を米軍等の支援のため に海外に派遣していたのに対して、自衛隊を随時派遣できるようにする恒久法である。諸 外国の軍隊等に対する協力支援活動等を行うことを定めているが、その活動内容は後方支 援活動など、上述の重要影響事態法と同様なものとなっており、日本国憲法 9 条 1 項に違 反する活動を可能にするものであり、憲法違反の法案である。国際平和共同対処事態がい 1 かなる事態であるかについて、法案には定義規定すらなく、要件がなんら明確化されてい ない。イラク特措法による自衛隊の活動に対してすら、名古屋高裁(名古屋高判平成 20 年 4 月 17 日)が憲法 9 条 1 項に違反すると判示していた。自衛隊による憲法違反の武力 の行使が繰り返される現実的な可能性が最も高い法案であり、速やかに廃案にすべきであ る。 「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」の改正案は、いわゆるPKO5 原則による厳重な歯止めがかかっている現行法を改正するもので、国連が管轄しない国際 連携平和安全活動を組み込み、安全確保活動や駆けつけ警護と任務遂行のための武器使用 を認めるなどの、抜本的な改正案となっている。新設の国際連携平和安全活動とは、国連 以外の国際機関の決議や当該国の要請でも自衛隊を派遣することとなり、国連が統括しな い多国籍軍の活動であって、国連の統括下にあることを本質とするPKO活動とは全く性 格が異なるものである。また、安全確保活動や駆けつけ警護と任務遂行のための武器使用 を認めることは、場合によっては武力の行使に発展する危険性を伴うものである。そもそ も日本国憲法 9 条 1 項は、国際連合憲章が定める集団安全保障にすら、武力による威嚇又 は武力の行使により参画することを禁じている。我が国は 1992 年のカンボジアPKOか ら現在の南スーダンPKOまで、自衛隊の派遣を継続してきた。我が国のこうした抑制さ れた活動が国際社会から非難を受けている事実はない。我が国は国際連合の分担金を世界 で 2 番目に多く負担しており、国際連合の行う活動に現に多大な貢献をしている。国際連 合が行う平和維持活動に対する協力は憲法の許す範囲内で行うべきであり、現行法を改正 する必要はない。改正案は速やかに廃案にすべきである。 「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する 法律」の改正案は、現行法の武力攻撃事態等と並列する形で存立危機事態への対処を追加 するものである。集団的自衛権の行使を可能にする法案であり、国家意思に基づき積極的 に武力の行使を主体的に行うことを目的とする法案である。現行法は、武力攻撃予測事態 (武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態) ですら、「武力攻撃の発生が回避されるようにしなければならない」と定めるのみであり、 武力攻撃事態(武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫してい ると認められるに至った事態)に対しても、 「武力攻撃事態においては、武力攻撃の発生に 備えるとともに、武力攻撃が発生した場合には、これを排除しつつ、その速やかな終結を 図らなければならない。ただし、武力攻撃が発生した場合においてこれを排除するに当た っては、武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなけれ ばならない」と定めており、自衛権の行使としての武力の行使を武力攻撃が発生した場合 に限定している。これに対して、改正案の存立危機事態は「我が国と密接な関係にある他 国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及 び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう」とされている。安倍 首相は国会審議の答弁で、集団的自衛権を使って南シナ海で機雷除去を行う可能性も認め ているが、南シナ海には迂回路があり、機雷敷設が日本に経済的破綻をもたらすものでは ないにもかかわらず、存立危機事態に該当し得るとするものであり、この規定が恣意的な 解釈を許すもので法的安定性を欠いていることを如実に示している。存立危機事態を根拠 にした武力の行使が、他国に対する武力攻撃を排除するための武力の行使であることも明 2 らかである。国際紛争を解決する手段として、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又 は武力の行使を放棄し、国の交戦権を認めない日本国憲法 9 条に違反することは明らかで ある。この改正案及び関連する米軍支援法改正案等の個別法案は速やかには廃案とすべき である。なお、砂川事件最高裁判決(最大判昭和 34 年 12 月 16 日)は駐留米軍の合憲性 を争点にした判決であり、集団的自衛権の判断は下しておらず、合憲の根拠にはならない。 自衛隊法の改正案には、アメリカ合衆国の軍隊その他の外国の軍隊その他これに類する 組織の部隊であって自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動に現に従事しているもの の武器等を職務上警護するに当たり、武器の使用を認める規定が含まれている。合衆国軍 隊等から要請があった場合で、防衛大臣が必要と認めれば可能であり、本格的な武力の行 使に発展する高い危険性をはらむものであり、集団的自衛権の行使を可能にする隠された 規定とも言えるものである。自衛隊法の改正案も速やかに廃案とすべきである。 安倍首相は国会の審議において、法案が成立しても我が国が戦争に巻き込まれることは 絶対にないと断言している。しかしながら 2015 年 5 月 16 日の日米防衛協力の指針は、日 米が地球規模で防衛協力を推進することを定めている。今回の法改正を通じて憲法 9 条に よる歯止めを日本政府が自ら放棄し、武力の行使を可能にする法律を制定した場合に、政 策判断によりアメリカ政府の要求を拒むことは安倍政権のような政権ではとうてい無理で あろう。今後、オバマ政権に比して好戦的な政権がアメリカ合衆国に登場した場合に、日 本が求めに応じて武力の行使を行う可能性は極めて高いものと考える。 安倍首相は法案が成立すると抑止力が高まり、日本が戦争に巻き込まれることはなくな るとの考えを述べている。だが、抑止とは、相手に耐えがたい損害を与える意志と能力を 示し、相手にそれを認識させることによって軍事力の使用を差し控えさせることである。 戦争には戦争をもって答えるということで軍拡の覚悟があることが前提となる。これは相 手方に対しても同様な意図に基づく軍拡を進めるように刺激するもので、かえって国際緊 張を強めるものである。安倍政権は武器輸出三原則を武器装備移転三原則に根本的に転換 し、経済界の一部の支持を得て、軍産学共同で民生技術の軍事技術への転換を進める等の 軍拡政策を進めている。軍需産業には製品の需要を増やすことになる戦争の勃発を望む傾 向があり、こうした日本経済の軍需産業化は日本を戦争に駆り立てる危険な要因になるも ので、容認できない。 私たちは法案の速やかな廃案を求めるものであるが、仮に法案が強行採決等によって最 終的に成立して公布された場合でも、日本国憲法に違反する違憲立法の廃止に向けて粘り 強く国民的な運動を展開してゆく決意である。 2015 年 8 月 7 日 山形大学九条の会 (連絡先:事務局長 藤田稔) 3
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