世界の潜在成長率低下に思うこと(PDF

世界の潜在成長率低下に思うこと
資源高騰や気候変動など次第に厳しさを増してきている環境劣化から判断し、現在の科
学技術レベルでは、有限な地球上で生活する人間の活動にはおのずと制約が生じるのは避
けられないようです。そう考え、現在の延長線上の安易な消費拡大に慎重にならざるを得
ないと感じる人々が増え出していると思われます。このことが、世界の経済成長率低下の
遠因として有るのではないでしょうか。
厳しさを増す環境条件を肌身で感じ、世界経済の成長率が高くなる度に資源の高騰で悩
まされることを経験すれば、もはや今までのような容易な量的拡大で経済を成長させ、豊
かさを得ることは難しいとの認識が先進国の人々の間で高まって来ていても不思議はない
と思われます。今までのような容易な量的拡大が望めない以上、豊かさを追求する人々が
少子化に向かうのはある意味では自然なことなのかもしれません。今後、ある程度豊かさ
を得た国々でも少子高齢化は避けられない動きとなると思われますので、少子高齢化は世
界の趨勢となると考えられます。地球規模の制約(人口増大、環境劣化、資源枯渇等)を抜本
的に解消する技術見通しが当面得られそうもない現状では、地球全体として持続可能な社
会を構築するために、少子高齢化は避けられない対応と言えますので、このインパクトを
いかに緩和し、ソフトランデイングさせるかが問われていると思われます。
これを緩和するのが生産性の向上で、それに必要な技術革新と産業構造改革が強くもと
められています。その達成に最も強力な武器となるのが急速に進歩するコンピュータ技術
と思われます。実際にコンピュータは人間の作業効率を格段に上昇させていますので、一
人当たりの生産性は、今後も著しく上昇して行くと思われます。しかし一方では、コンピ
ュータの進歩で先進国から新興国への技術移転が容易になったことで、賃金の高い先進国
から賃金の安い発展途上国へ工業生産が移転し続けることで、先進国の経済成長抑制要因
になっています。更にコンピュータ技術導入による生産性向上で、必要とする人員が大幅
に減少する場合には、賃金の高い就労人口の減少を引き起こし、企業の利益は著しく向上
しても、消費拡大に結び付かなくなり、国全体としての GDP 上昇にはあまり寄与せず、格
差拡大に寄与してしまう懸念が有ります。新興国への生産移転は、新興国に有利に働きま
すが、コンピュータ技術導入による必要人員減少は、新興国にとっても経済成長抑制要因
と格差拡大要因に今後なって行くと思われます。
このコンピュータのマイナス要因を、高齢化社会の到来に伴う生産年齢人口の減少とい
うマイナス要因とうまく掛け合わせプラス要因にする道を探る必要が有りそうです。これ
を実現するためには、将来を見据えた新しい勤務形態、教育システム、更には、新しい価
値観に基づいた社会経済システムの構築が必要と思われます。
(注記)IMF は、世界の経済成長を高めるために各国に構造改革を強力に進める様促してい
ます。しかし、企業別、国別にみれば、構造改革推進は、成長率向上に直結すると思われ
ますが、世界全体が地球的制約(環境や資源の制約)を強く受け、様々な工業生産設備が
過剰な状態では、勝者と敗者のゼロサムの世界に近くなり、世界全体の経済成長にあまり
寄与しないのではと懸念されます。もはや、地球的制約を抜本的に緩和する革新的な技術
が実現されない限り、世界全体が高い経済成長率に戻ることはないのかもしれません。そ
う考えれば、各国が個別に構造改革を推進するだけでなく、世界が協力して気候変動問題、
資源枯渇問題等地球的制約から生じる諸問題を抜本的に解決する技術の開発に最大限の努
力をする必要が有ると感じられます。