1. 護岸の直背後に位置する海岸鉄道における越波の影響とその対策の

1. 護岸の直背後に位置する海岸鉄道における越波の影響とその対策の検討
Study on Measures against Wave Overtopping for a Coast Railway Located Directly behind a Seawall
秋田谷
公宏 (Kimihiro Akitaya)
ABSTRACT:The characteristics of wave splash at the time of relatively high waves in Gonō Line were observed by
the field survey. The wave pressure behind the seawall was examined by wave overtopping tests under the scale of
1/40. The ballast scouring due to wave overtopping was reproduced by the experiment of scale 1/4. The effect of
installing the net on the track bed and the upright wall were also revealed by the experiments.
1. まえがき
道床に被害を及ぼす可能性は低いと考えられた.し
海岸沿いを走る鉄道は車窓から風景を一望できる
かし,レールに越波飛沫が付着することによって制
ことから人気が高く,各地でリゾート列車が運行さ
動障害が発生する危険性があるため,運転上の注意
れている.しかし,海岸鉄道では高波時の越波によ
が必要となる.また,波高がさらに増大した場合は,
る被害を受ける危険性がある.本研究で対象とする
打ち上げられた越波水塊が線路に直接打ち込み,道
青森県川部と秋田県東能代を結ぶ JR 五能線では,
床の洗掘被害が発生することが考えられる.
高波時のソフト対策として運休を講じているが,そ
3. 打ち込みによる越波の再現
の基準となる明確な波浪条件は定められていない.
3.1 越波実験
本研究では,水理模型実験を行って現地の越波状
越波実験は,長さ 24.0m,幅 0.6m,深さ 1.0m の 2
況を再現し,道床被害を把握する.また,対策工に
次元造波水路(海底勾配 1/30)内に,図-2 に示す護岸
よる道床被害の低減効果を解明し,高波浪時におけ
模型と消波ブロックを縮尺 1/40 で再現した.実験波
る列車の運行の安全性を検討する.
は不規則波(1 波群 150 波)を用い,周期 T を 9,12
2. 現地における越波状況
および 15s,換算沖波波高 Ho’を 2~8m に変化させ
JR 五能線における越波発生危険箇所では,図-1
た.また,護岸天端上の 2 箇所で打ち込み波圧を計
に示すように鉄道線路が護岸直背後に敷設されてい
測した.ここで,波高 4m 以上では打ち込みによる
る.また,当該箇所での越波特性を把握するため,
越波が顕著となることを確認した.
現地観測を行った.観測時においては,波高が 3.53m,
3.2 落水実験
周期が 7.8s であり,写真-1 に示すような越波が発生
現地での道床被害を詳細に把握するため,縮尺 1/4
していた.当時の越波は,波面が消波ブロックに作
の大型模型実験を行った.図-3 に示すように,水路
用することによって斜め上方に飛沫が発生しており,
のフランジ上に設置した上部水槽のゲートを急開し,
水路上に打ち込むような水流を発生させることで越
道路部分
鉄道線路
3.0
3.0
波による落水現象を再現した.上部水槽の貯留幅 b
l=1.0
を 20 および 24cm,貯留水深 h を 20,25,30,32.5
0.6
および 35cm に変化させ,ゲートから線路までの距
1.0
N
道床
研究対象箇所
追良瀬駅~広戸駅
離が 250mm の位置での波圧を計測した.
波圧計
3.2
12.5
Scale:1/40
Unit : mm
15
青森
川部
五能線
25 25
90
H.H.W.L.(33mm)
消波ブロック
東能代
Unit : m
1:30
図-1 研究対象箇所の断面図
図-2 越波実験における護岸模型
ゲート
落水条件
貯留幅b
貯留水深h
b
Scale: 1/4
Unit:mm
20, 24 cm
20, 25, 30, 32.5, 35 cm
70
250
h
50
400
CH1 CH2
写真-1 現地観測時の越波状況
図-3 落水実験水路および上部水槽
3.3 打ち込み波圧
4.2 道床被害率
図-4 に,越波実験の T=12s,Ho’=8m と,落水実験
図-6 に T=12s,Ho’=7m での道床被害パターンを示
の b=20cm,h=35cm で得られた波圧の経時変化を示
す.無対策の場合は海側の道床が大きく洗掘され
す.ここで,波圧は最大値が得られた CH1 の値を採
D=44.7%となった.しかし,ネットを設置した場合
用している.両者の実験での傾向は概ね一致してお
はバラストの流出が抑制され D=3.2%まで低減され
り,他のケースにおいても経時変化が一致すること
た.図-7 に換算沖波波高 Ho’と道床被害率 D の関係
を確認した.また,現地での高波浪時に近い T=12s
を示す.無対策の場合は波高とともに被害率も増大
に対し,貯留水深を変化させて落水実験を行い,図
し,Ho’=8m で被害率は約 50%となった.ネットを
-5 に示すように越波実験での最大波圧を再現した.
設置した場合では被害率は大幅に低減されるが,
4. 落水による道床被害実験
Ho’=8m では約 17%の被害が生じている.
4.1 実験方法
また,波高 8m の条件に対して,図-8 に防波壁を
実験では,日本国内で採用されている規格をもと
設置した場合の l と D の関係を示す.無対策の場合
にして,写真-2 に示すように道床バラスト,枕木,
には距離の影響は小さいが,防波壁を設置すること
レールを再現した.
によって被害率は大幅に低減できることがわかる.
越波実験において 1/20 最大波に相当する波が 8 回
現地において D=10%が置石の発生限界であること
作用していたことから,同数の落水を線路上に作用
から,これに着目すると護岸から 3m の位置に線路
させた.ここで,道床断面積に対するバラスト流出
を敷設し,道床法先に高さ 45cm の防波壁を設置す
面積の比を道床被害率 D として定義した.無対策の
ることが最も安全と考えられる.
条件に対しては,護岸から線路までの距離 l を 1, 2
5. まとめ
および 3m(現地量)とし,道床被害率を算出した.対
策工としては,
まず l=1m においてネットを設置し,
バラストの流出防止効果を調べた.さらに,それぞ
本研究で得られた結論は以下の通りである.
(1) JR 五能線での越波状況を縮尺 1/40 の水理模型
実験によって再現し,その特性を明らかにした.
れの l の条件に対して,道床法先部に高さ hw=30 お
(2) 縮尺 1/4 の落水実験により,線路へ作用する打
よび 45cm(現地量)の防波壁を設置し,それによる道
ち込むような越波を再現し,道床被害率 D と換
床被害率の低減効果を検証した.
算沖波波高 Ho’の関係を明らかにした.
(3) 道床にネットを設置した場合と防波壁を設置し
30
越波実験(T=12s,Ho’=8m)
た場合の道床被害の低減効果を明らかにした.
落水実験(b=20cm,h=35cm)
20
:堆積部分
:洗掘部分
:ネット
15
ネット設置
D=3.2%
越波
越波
10
図-6 道床被害状況(T=12s, Ho’=7m)
5
100
0
1
2
時刻t(s)
3
4
道床被害率D(%)
0
図-4 波圧の経時変化
越波実験での最大波圧p(kN/m2)
無対策
D=44.7%
30
Ho’=8m, h=35cm
Ho’=7m, h=32.5cm
25
Ho’=6m, h=30cm
Ho’=5m, h=25cm
Ho’=4m, h=20cm
20
15
80
ネット(4mmメッシュ)
60
無対策
40
ネット設置
20
0
0
2
10
4
6
8
10
換算沖波波高Ho'(m)
図-7 換算沖波波高と道床被害率の関係
5
0
0
5
10
15
20
25
100
l
30
―現地量―
無対策
hw= 30cm
hw= 45cm
落水実験での最大波圧p(kN/m2)
図-5 最大波圧の比較
80
防波壁
hw
60
40
20
道床被害率D(%)
波圧p(kN/m2)
25
0
4
道床平面図
写真-2 線路模型の設置状況
道床断面図
3
2
1
0
距離l(m)
図-8 防波壁による道床被害率の低減(T=12s, Ho’=8m)