12. 護岸背後への越波による盛土洗掘の再現実験

12.
護岸背後への越波による盛土洗掘の再現実験
Hydraulic Model Tests on Scouring of Embankment behind Seawalls due to Wave Overtopping
上坂 直也(Naoya Uesaka)
Irregular
waves
tests
under
1/40
scale
were
conducted
in
2-D
wave
channel to make clear wave
ABSTRACT :
overtopping characteristics at the time of scouring of embankment behind vertical seawalls which was happened on
August in 2004 . The maximum wave overtopping of irregular waves was reproduced under 1/4 scale by rapid flow
from upper water tank. Furthermore, the scouring pattern of model embankment reinforced by cement was confirmed to
be similar as the scouring in prototype.
1. まえがき
我が国の海岸道路および鉄道においては,護岸背
後に盛土を施工することにより,越波に対する安全
性を向上させている.2004 年 8 月,北海道の太平洋
に面した A 海岸において,図-1に示す直立護岸の
背後に施工された盛土が越波により洗掘被害を受け,
通行規制が行われた.こうした盛土の洗掘被害によ
る車両の 2 次災害を防ぐためには,その洗掘メカニ
ズムの解明が重要である.
本研究は,この盛土被害発生時の越波状況を水理
模型実験により再現し,その越波特性および洗掘特
性を明らかにすることを目的としている.
2. 被災時の越波状況の再現実験
2.1 実験方法
図-2に示す 2 次元造波水路(長さ 24.0m,高さ 1.0
m,幅 0.6 m)において,現地の海底地形および護岸
模型を縮尺 1/40 で再現した.実験波は,すべて不規
則波を用い,150 波を 1 波群とし,同図中の表に示
す 1 潮位,1 周期,4 波高の計 4 種類の実験波を作成
した.
護岸模型背後には,図-3に示す 3 ヶ所に流速計
および波圧計を設置し,越波による護岸背後への最
大越流流速と最大打込み波圧の計測を行なった.ま
た,護岸模型の横断方向中央部に幅 10 cm の樋を設
置して越波量を計測し,単位時間および単位幅あた
りの越波流量 q を計測した.
2.2 越波流量および最大越流流速
図-4に換算沖波波高 Ho’と越波流量 q の関係を
示す.計測された q は,1.0×10-3 ~ 1.0×10-2 m3/m/s の
範囲に分布している.一般に護岸背後を通行する車
両に対する許容越波流量は,1.0×10-5 m3/m/s と定義
されている.よって,被災当時の現地では,盛土洗
掘の発生に十分な越波流量を有していたことがわか
る.
図-5に換算沖波波高 Ho’と不規則波中の最大越
流流速 v の関係を示す.現地において盛土が位置す
る流速計 No.3 では,Ho’ = 3.00 m のとき v = 5.00 m/s
程度が生じている.また,図-6に Ho’と最大打込
み波圧 P の関係を示す.P は,v の結果と異なり,
1ch で最大値を示していることがわかる.以上より,
打上げられた越波水が護岸直背後に落水し,そのま
ま速い水脈が盛土周辺まで作用することがわかる.
20.0 cm
( 8.0 m )
流速計
15.0 cm
( 6.0 m )
10.0 cm
( 4.0 m )
5.0 cm
( 2.0 m )
No.3
No.2
No.1
11.30
6.00
2.50
0.50
1ch
車両通行部
2ch
3ch
波圧計
2.00
1.80
3.30
H.W.L + 1.50m
実 験 量
(現地量)
0.80
C.D.L + 0.00m
図-3
流速計および波圧計の配置
1.00E+00
: 洗掘箇所
Unit : m
越波流量 q (m3/m/s)
1.00E-01
図-1
被災断面図
現 地 量
実 験 量
潮 位 h
潮 位 有義波周期 T
有義波周期 1/3
換算沖波波高 H
換算沖波波高 o'
1.50 m
16.0 sec
1.00 , 2.00 , 3.00 m
3.75 cm
2.52 sec
20.00 cm
2.50 , 5.00 , 7.50 cm
2.00 cm
波 高 計
造 波 機
3.75 cm
消
60.0 cm
波
工
2.50 cm
消
1.00E-02
1.00E-03
1.00E-04
1.00E-05
波
工
1.00E-06
0.00
1.00
2.00
3.00
換算沖波波高 Ho' (m)
図-2
2 次元造波水路
図-4
越波流量
4.00
3. 盛土の洗掘特性
3.1 実験方法
2 章で得られた流速計 No.3 の最大越流流速 v (Ho’
= 3.00 m)が盛土前面に作用した際の洗掘特性を検証
するため,図-7に示す上部水槽水路を用いて実験
縮尺 1/4 で移動床実験を行った.図-8に 2 次元造
波水路と上部水槽水路の落水水脈で再現した v の経
時変化を示す.両者は,ほぼ一致していることがわ
かる.また,実験盛土は,一般的な砂質地盤の盛土
強度 N 値を参考に作成した 1) , 2).さらに盛土には,
再現した v の現地 1 時間当たりの発生頻度より,10
波の落水水脈を作用させた.
3.2 盛土の洗掘パターン
図-9に落水水脈の作用回数 2 波ごとの洗掘状況
を示す.洗掘は,作用水脈 1~4 波目により,盛土法
8.00
: Ho’
Ho' = 1.00 (m)
最大
最大越流流速
越流流速 v (m/s)
: Ho’
Ho' = 2.00 (m)
6.00
: Ho’
Ho' = 3.00 (m)
4.00
2.00
0.00
0
1
2
3
先部を中心に大きなノッチを形成する.その後作用
水脈 5~10 波目により,ノッチへ流入した水脈が波
返し効果を受け沖側に戻されると同時にノッチ内部
で速い水流が発生し,より多くの盛土を洗掘する.
以上の洗掘状況は,前出図-1の盛土洗掘断面とほ
ぼ一致していることがわかる.
4. まとめ
本研究で得られた結論は以下の通りである.
(1) A 海岸の再現実験より,被災当時の海象条件に
よる越波の危険性を明らかにした.
(2) 水理模型実験の結果から,現地盛土へ作用する
打込み型越波が盛土を洗掘するのに十分な外力
を有していることを明らかにした.
(3) 上部水槽による落水水脈により,対象とした現
地盛土の洗掘現象を再現し,その洗掘メカニズ
ムを明らかにした.
参考文献
1) 杉山友康・岡田勝也・野口達雄・村石尚:盛土表
層部における土の強度の鉛直・平面方向の空間分布
特性,土木学会論文集,No.457,Ⅲ-21,pp.33-40,
1992.12
2) 川村志麻・栗林正樹・三浦清一:波の浸食作用を
受ける海岸斜面の力学特性とその評価,海岸工学論
文集,第 55 巻,2008.11
4
流 速 計 No
6.00
: 上部水槽
図-5
最大越流流速
5.00
70.0
最大越波流速 v (m/s)
: 2次元造波
: Ho’
Ho' = 1.00 (m)
最大打込み波圧 P (kN/m2)
60.0
: Ho’
Ho' = 2.00 (m)
50.0
: Ho’
Ho' = 3.00 (m)
40.0
4.00
3.00
2.00
30.0
1.00
20.0
0.00
0.4
10.0
0.6
0.8
1.0
1.2
time (s)
0.0
0
1
2
3
4
図-8
最大越流流速の比較
波 圧 計 ch
図-6
最大打込み波圧
: 2波目
波目
: 4波目
波目
波目
: 6波目
: 8波目
波目
: 10波目
波目
図-7
盛土洗掘実験に使用した上部水槽水路
図-9
盛土洗掘状況
1.4
1.6