49. 高波による海岸鉄道の道床被害とその対策の検討

49.
高波による海岸鉄道の道床被害とその対策の検討
A study on ballast damage at a coastal railway by storm waves and its countermeasures.
橋田
雅也(Masaya Hashida)
ABSTRACT:Ballast at a coastal railway of Gono Line was often damaged by storm waves. Wave overtopping and
ballast damage were reproduced by experiments of a scale of 1/40 and 1/4. Based on the experimental results, the
standard safety operation was shown for the railway administration. Effects of widening the wave-dissipating block
were also clarified by the experiments.
1. まえがき
海岸沿いを走る鉄道は車窓から風景を一望できる
現地の対象周期に近い 12s の結果を示している.
越波流量(m3/m/s)は現状の消波ブロックの場合には
ことから人気が高く,各地でリゾート列車が運行さ
波高 3m で 1.0×10-3 ,6m で 1.0×10-2 となっている.
れている.しかし海岸鉄道では高波時の越波による
これに比べ越波流量が 1.0×10-2 (m3/m/s)となるのが,
被害を受ける危険性がある.本研究で対象とする青
拡幅した場合では 8m,消波ブロックが無い場合では
森県川部と秋田県能代を結ぶ JR 五能線では,高波
5m であることがわかった.
時のソフト対策として運休を行っているが,その基
準となる明確な波浪条件は現在定められていない.
本研究では,水理模型実験を行って越波による道
図-5 に現状の消波ブロックにおける打ち込み波
圧の最大値 pmax と沖波波高の関係を示す.波圧は最
大値が得られた CH1 の値を採用している.周期 T
床被害を再現し,これを用いて運休基準について明
および沖波波高 Ho’とともに最大波圧は増大してい
らかにする.さらに,ハード対策としての消波ブロ
る.これは越波流量の増大に伴うものと考えられる.
500
図-1 に平成 14~20 年の五能線における越波によ
435
400
300
214
200
149
107
109
74
100
145
0
る運休本数を示す.年に 100 本前後が運休となって
H14
いるが,平成 20 年は高波の発生頻度が高く運休本数
H15
H16
H17
年度
H18
H19
H20
図-1 五能線における運休本数
10
6
有義波高H1/3(m)
は 400 本を超えている.図-2 は JR 五能線広戸海岸
に近接した深浦港における平成 17 年 12 月の波浪デ
ータを示している.12 月 3 日は終日運休となったが,
その間の波高は 4.2~5.0m であった.その他の運休
波高
周期
5
4
9
8
7
3
運休期間
2
6
5
1
有義波周期T1/3(s)
2. 五能線における運休状況
運休本数(本)
ックの拡幅の効果について検討する.
4
0
時の波浪データ 5 例を分析したところ,波高が 5m
2日
程度の場合に運休になっていることがわかった.
|
3日
|
4日
図-2 運休時の波浪データ例
95
縮尺
1/40
3. 越波特性
3.1
12.5
波圧計
15
実験方法
越波実験は長さ 24.0m,幅 0.6m,深さ 1.0m の 2
25 25 25
90
H.H.W.L.(33mm)
1:30
岸模型と現状の消波ブロックの断面形状を縮尺 1/40
図-3 護岸模型
で再現した.さらに,消波ブロックが無い場合と拡
1.0E-01
無し
幅した場合についても検討を行った.
せた.実験はすべて不規則波を用い,越波流量と波
返し背後における打ち込み波圧を 3 箇所で計測した.
現状
越波流量 q(m3/m/s)
高 Ho’が 2,3,4,5,6,8m の 6 種類の計 18 種類に変化さ
単位
mm
現状消波ブロック
次元造波水路(海底勾配 1/30)内に,図-3 に示す護
実験波は周期 T が 9,12,15s の 3 種類,換算沖波波
拡幅消波ブロック
拡幅
1.0E-02
1.0E-03
以下,実験結果は現地換算値で示す.
3.2
越波流量および打ち込み波圧
図-4 に沖波波高と越波流量 q の関係を示す.ここ
では,越波が顕著であった周期 12s と 15s のうち,
1.0E-04
0
2
4
6
換算沖波波高 Ho’(m)
8
10
図-4 消波ブロックの状態別の越波流量(T=12s)
4. 落水による越波の再現
の大型模型実験を行った.図-6 に示すように,可傾
斜水路上部に設置した貯留水槽から落水させ,道床
前面に設置した波圧計により打ち込み波圧を計測し
た. 貯留水深を 5 種類に変化させたときの打ち込み
T =12s
20
15
CH 1
10
5
波圧計
0
0
波圧の最大値を図-7 に示す.これと前述の図-5 を用
いることにより,越波実験(縮尺 1/40)における打
T =15s
25
最大波圧pmax(kN/m2)
現地での道床被害を詳細に把握するため,縮尺 1/4
30
2
4
6
8
10
換算沖波波高Ho'(m)
図-5 波高に対する最大波圧(現状の消波ブロック)
ち込みを落水で再現することができる.
ゲート
100
600
5. 道床被害実験
5.1
h
縮尺:1/4
単位:mm
実験方法
実験で用いた鉄道線路は日本国内で採用されてい
400
250
る規格をもとに道床バラスト,枕木,レールを再現
80
した.貯留水深を 5 種類に変化させて道床バラスト
の移動状況を調べた.ここで,道床前面の台形の面
図-6 道床被害実験水路
積に対する流出面積の比を被害率として定義した.
道床被害率
図-8 に代表的な被害パターンを示す.h=20cm で
は法肩のバラストがレール付近まで堆積し,h=25cm
ではレールを越えて堆積することがわかった.以上
のことから安全側の判断として置石の発生限界を被
最大波圧pmax(kN/m2)
5.2
30
25
20
15
10
h
5
害率 10%と定義した.
0
越波実験と道床被害実験の結果に基づいて,換算
0
5
10
沖波波高 Ho’と被害率 D の関係を図-9 に示す.現状
の消波ブロックでは,被害率 D=10%に相当する波高
15
20
貯留水深h(cm)
25
30
35
図-7 貯留水深に対する最大波圧
は 5.7m であり,現地における運休時の波浪データよ
h=20cm,D=9%
りやや大きい値となった.消波ブロックを拡幅した
h=25cm, D=19%
場合では波高 6.5m が被害率 10%に相当する.消波
ブロックが無い場合では波高 4.7m が被害率 10%に
図-8 貯留水深に対する道床被害状況
25
相当する.ここでは被害率 10%に相当する波高を安
無し
全側に判断して,現状および拡幅後における運休基
図-10 は波高 4,5,6 m の 3 つ条件に対して,これを
上回る波高の発生日数を年ごとに示している.これ
被害率D(%)
準波高を,それぞれ 5m および 6m とする.
現状
20
拡幅
15
10
により,消波ブロックを拡幅した場合には運休の発
5
生日数を平均で約 70%減少できる可能性があり,対
0
0
策としての有効性が明らかとなった.
2
4
6
換算沖波波高Ho'(m)
8
10
図-9 波高に対する被害率(T=12s)
6. まとめ
35
30
本研究で得られた結論は以下の通りである.
算沖波波高の関係を明らかにした.
(2) 五能線における高波時の運休基準として波高
5m を提案した.
(3) 消波ブロック拡幅の効果を明らかにし,対策と
しての有効性を示した.
25
発生日数
(1) 越波によって生じた道床バラストの被害率と換
波高4 m以上
波高5 m以上
波高6 m以上
20
15
10
5
0
H15
図-10
H16
H17
年
H18
H19
各年における運休基準発生日数
H20