4.2.15-1 くみひもと 意匠権 4.2.15 三重県上野市立成和中学校 教諭 藤

4.2.15 くみひもと 意匠権
三重県上野市立成和中学校
教諭
藤
山
秀
公
1 .はじめに
くみひもは三重県伊賀地方 の伝統的工芸品 の一つであり 、現在もなお手 組みの生産量は
全国第一位で あ る。く み ひ も の授業実践はこれまでにも報 告されているが 、知的財産権を
テーマにした内 容のものはなく、小学校お よ び中学校でも 知的財産権についての学習自体
が 系統的に取り扱われないのが現状で あ り 、未だ研究段階であるといえる。一 昨 年 度に「 早
期 ものづくりに 関する研究」 を行い、小 中 学 校におけるものづくり教育の 重要性を「モデ
ルロケット」を 教材として授業実践を行っ た が、これは早 期における知的財産教育の導入
の 必 要 性を示 唆したものでもある 。そ こ で 、「 くみひもと意匠権」を テーマ に取りあげ、
くみひもの歴史 や生産工程、 職場見学、聴き 取り調査お よ び新しい組み方 等の内容を盛り
込 み、授業を構 成し展開したいと考えた。本実践では、くみひもの一連の 学習を通して、
くみひもの流通 ルートの中で の意匠権との関 わりについて 調査したので、 その内容につい
て 報告する。
2 .研究方法
研究方法は、次のように考えた。
①伊賀くみひもの 歴史を知る。
②くみひも台(高 台・丸台・綾竹台) を製作する。
③製作したくみひも台を使って基本的 なくみひもを製作 する。
④知的財産権について学習し、報告書 を作成する。
⑤職場見学および 聴き取り学習をし、 感想をまとめる。
⑥各自がオ リ ジ ナ ルの組み方を考えくみひもを製作し、 一つの作品を作りあげる。
尚 、知的財産権 についての学 習は、経済産業省特許庁企画 の「あなたが名 前をつける本」
および「ア イ デ アを活かそう 未来へ」とCD−ROM「特 許ってなんだ」 および「発明っ
てなんだ」を利 用した。また 、職場見学お よ び聴き取り学 習は、三重県組紐協同組合の松
島俊策(三重県上野市緑ヶ丘西町)さ ん に依頼して行った 。
対象は、中学校2 年生選択教科「技術 ・家庭科」受講生女子5名である。
3 .研究結果
( 1)伊賀く み ひ も の歴史について
伊賀くみひ も の歴史に つ い て、三重県組紐協同組合出版 の「伝承の譜」 やWebより情
報 を収集し、交 流することから学習を始めた 。それによると、伊賀におけるくみひもの歴
史 はかなり古いものがあると 推察されるが、 現実には資料 は乏しく残存されていない。最
も 古いものとしては、古墳よ り発掘された副葬品として4 ∼5世紀の も の が発見されてい
る 。歴史を経て 、武具に用いられていたくみひもが、衣服 の変遷に伴って 帯締めに発達す
る が、明治時代 になり、その 製造は途絶えた 。ところが、 明治中期に広澤徳三郎氏が、江
戸 くみひもの技 術を習得し、 これを伊賀地方 に伝え、地 域 性の要因もあり 、大きくくみひ
も の製造を定着 させることになった。こ れ ま で、和装品が 中心であったが 、ジャンルをと
わ ず、アクセサリー や生活用品として様 々な製品が開発されていることがわかった。
くみひもの製 品は、生活でもいろんな場面 で見たことがあり、これまでにも小学校やく
みひもセンター 等で体験学習 をした者が い る が、その歴史 については、意 外に知られてい
ないことが多く、興 味をもって交流ができた。
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( 2)くみひも台の 製作
現 在も 手組 みの 生産 に多 く使 用さ れ て い る 代 表 的な く み ひ も 台の 「丸 台 」「高 台 」「綾
竹 台」を製作し た。設計は、 現物を参考にしながら寸法取 りし、加工、仕 上げ、組み立て
に つ い て、生 徒と共 同で行 った。 く み ひ も台は 、「ほ ぞ組み 」による 接合を 用いており、
高 い加工精度が要求 されるが、大変興味 をもって製作に取 り組むことができた。
写真1,写真2、 写真3に製作したくみひも台を示す。
写 真 1 製 作 し た く み ひ も 台( 丸 台 )
写 真 2 製作 し た く み ひ も 台 ( 高台 )
写真 3 製 作 し た く み ひ も台 ( 綾 竹 台)
( 3)くみひも製作 (基本組)
次に 、製作 したくみひも台を使 ってくみひもの基本組を練習し 、キーホルダーを 作った 。
丸 台では江 戸 八 組み、高台で は高麗組み一 枚 物、綾竹台で は綾竹16玉組 みを基本課題と
し て練習した。 規則的な動作 を繰り返すことにより、きれいに組ま れ て い く様子を目にし
ながら取り組んでいた。完成 したくみひもは 、適当な長さ に切断し、形を 整え、金具に取
り 付けキーホルダー にした 。また 、この 作品は 、2学期に行った九州見学調査旅行の中 で 、
案 内や聴き取り 学習でお世話 になった方々へ メッセージを 添えてプ レ ゼ ン トすることにし
た 。写真4に丸 台の江戸八組み 、 写真5に高台の安田組25玉 、 写真6に綾竹台の 綾竹 16
玉 組みの様子を示す 。
写真4
丸台(江戸八組み)
写真5
高 台 ( 安 田 組 2 5 玉)
写 真6
綾竹台 ( 綾 竹1 6 玉 )
( 4)知的財産権について
知的財産権について学習することは、生徒 にとっても全 くはじめてのことである。そこ
で 、「 あ な た が名前 を つ け る本」 と「アイデア 活か そ う未来 へ」やCD−ROM「 発明っ
て 何だ」と「特 許って何だ」 を使って学習を 進めた。歴史上重要な発明や 発見となるとと
て も難しい感覚 をもってしまうが、知 的 財 産 権について、 音楽やビデオの 著作権、人の肖
像 権、インスタントラーメン 、シャープペンシル等、これまでいろんな場 面で見たことの
あ る題材や発明 にふれることにより、それが 意外に身近なところにあることが理解されて
く る。学習が深 まるとともに 、テキストを利 用しながら知的財産権に つ い て各自が興味の
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あ る事柄をテ ー マにして、報告書を作成し交 流した。次の 「くみひもと意匠権」について
学 習をする上で 大切な内容となった。各自が 作成した報 告 書を図1、図2 、図3に示す。
図1
報告書1 「御木本幸吉と特許 」
図3
報告書3 「著作権について」
図2
図4
報告書2「知的財産 について」
報告書4「知的財産の種類と保 護の隊形」
( 5)職場見学と聴 き取り学習
職場見学は、 今回の聴き取 り学習に配慮し て特別に機会 を設けて頂き実 現したものであ
る 。ビデオや書 籍、パソコン の画像では目にしたことのある生徒たちであるが、実際の作
業現場を見学することははじめての経験で あ る。今回は、 手作業の場面と 機械を利用した
作業現場を見学 させて頂き自 分たちが想像していた以上に 複雑で多い工程 に驚いていた。
また 、聴き 取り学 習のテーマは 、「く み ひ も と意 匠 権」についてで 、自分 の経 験 談をも
とにした話であった。く み ひ も問屋で勤務していた時代か ら、現在に至るまでのくみひも
の 実用新案権や 意匠権に関わるお話で、実際 に実用新案を 申請中の製品やその後の動向に
ついてであった 。とりわけ強 調されていたのが、問屋同士 の信頼関係の重要性で、くみひ
も のデザインや 組み方で意 匠 権や実用新案権 をとることは 可能であるが、 実際の権利取得
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についてはこれまでに聞いたことがないということであった。その背景に は、商品として
の 価格競争の激 しさ、流通ルートの重要性、 お客と店との 信用問題、権利取得までに同じ
商 品が出回ってしまうという 実態、権利取得 した商品が在 庫することも多 い等の難しい現
実 が存在し、そのために失う 不利益も多いということであった。生徒たちには、社会の現
実 的な話であり 、商売や取引 の難しさを感じるとともに、 くみひもと意 匠 権はもとより知
的財産権に つ い て関心をもてたようであった 。写真7に作業現場の様子、 写真8に機械に
よるくみひも作業の 様子、写真9、10 に聴き取り学習の 様子を示す。
写真7
作業現場の様子
写 真8
写真9 聴き取 り学習の様子1
(帯締めを使った 流通ルートの説明)
機械によるくみひも作業の様子
写真10 聴き 取り学習の様子2
(く み ひ も と 知 的 財 産 権 に つ い て )
聴き取り学習の感 想を以下に示す。
特許って大切 だけど、ややこしいものなんだとあらためて思いました 。けど、
「くみひも」で は 、”信頼 ”が大切っていうことを話してくれました。信頼っ
ていうのは、どこの場面、場所でも 大切なものだと思 います。くみひもという
取引の中で、信 頼の大切さがすごくわかりました。
意 匠 権のお話の中で、申請中でストップしてしまい、認定されることはめっ
たにないということを聞き、申請す る意味があるのだろうかと思ってしまいま
した。意匠権をとることはとても難 しいことなんだと 感じました。
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( 6)オリジナルのくみひも製作
現在、丸台を 使って自分で 考えた組み方でくみひも製作 を行っている。 規則的にひもを
動 かすことによりひもの目は 規則的に配列される。目の出 方は、予想がつきにくいが、自
分 で考えた組み 方でくみひもできあがっていく様子を確認 し完成す る こ と は、喜びも大き
く 、自分で意 匠 権、実 用 新 案 権を獲得することにつながる 確かな行為であるといえる。ま
た 各自が組んだくみひもを使って 、創意工夫をこらして独 自の作品を製作す る予定である 。
写 真11、12にオリジナルのくみひも 製作に取り組む様 子を示す。
写真11
オリジナル なくみひもに挑戦する生 徒
写真12
オリジナルなくみひもに挑 戦する生徒
4 .まとめ
くみひも台の 製作およびくみひもの製作を 中心に据え、 知的財産権の学 習を交えながら
授 業を構成し た が、知識的な 理解を深めると 共にくみひもの意匠権に つ い て、業界の中で
の 重要なルール やモラルが存 在することがわかった。産 業 界での技術開発 に関わる特許に
ついて様々な情 報が聞か れ る が、聴き取りを 通して、くみひも業界については、業界内で
の 信頼関係が強 く根付い て お り、独自の組み 方を開発して 実用新案権や意匠権を獲得する
以 上に技術を共 有していくことがより重要であるといえる 。これは、各 分 野で自分たちの
独創的なア イ デ アを考え技術 を開発す る こ と の重要性と、 それを共有することの意義につ
い て考えを深め る機会に な っ た。また、くみひも以外の様 々な分野においても、知的財産
権 が存在し、その重要性を認識することができたと考える 。
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