5月 6 日 2015 春風だより 63 井川 惺亮 朴南姫教授から退官

5月 6 日 2015
春風だより 63
井川 惺亮
朴南姫教授から退官記念展友情出品の依頼があり渡韓した。そのような出品
は通常は1点程度であり、40 号大で充分だと思っていたが、何と 15mの壁面が
与えられ戸惑った。自作は、まずデジタルアート専門の教授へのオマージュと
して私もプリントアート作品を考え、次に日ごろ小さな作品しか作ってないの
で、衛星風に見立ててみようと思った。会場は慶北大学校美術館で開催され、
学芸員から「壁面コーナーを利用するように」と私への配慮をしてくれた。そ
の周辺を観察していると床面が気になった。一般的に会場壁面は四角いものだ
が、多分来客もそう思い込んでいる。ところが各壁面コーナーは直角でなく、
やや広がっている。床の張り板もそれに伴って斜めに組み合わされていた。こ
の斜め線をインスタレーションに生かそうと思った。
オマージュ用としてポスター(長崎大学公開講座用 14 年度と 15 年度前期=
計3点、実は私のデザインで印刷プリント)とそのオリジナル作品を組み、先
ほどのコーナー左面からスタートさせ、右壁面へとポスターをオリジナルと共
にディスプレイした。その右には流し絵(曲線に色面で施す)作品を数点ラン
ダムに上下左右に並べ、その右に直線状に筆を走らせた紙箱作品へと展示した
が、これでは通常の展示なので、ここで右壁面全体の小品群を観客の視覚を混
乱(邪魔)させてみようと、その前面に輪っか(ハート形を描く)作品を天井
からぶら下げ壁面の作品を遮った。
更に言えば、前述のコーナーから右壁面より 1,5m ずれたところに床の板面に
線の溝が見える。その溝に沿って、輪っかを左方から低くしてクレッシェンド
的に右上りに 9 つ吊り、その輪っかで壁の面(パサージュ)を暗示させること
で、後方の作品群と闘わせ、結果はお互いの存在の響き合う色彩の三角コーナ
ーとなった。この角度は、あの松雪修好作の長崎原爆落下中心地碑(通称:三
角柱)の角度と同じ 30 度だった。図らずも出品自作タイトルが「Peinture 被
爆 70 年祈念」と構えていただけに、この偶然の重なりは、つまり私の絵画は宇
宙の法則や記念碑的(モニュメンタルな)形態も含め、どこかでつながるのだ
と確信した。
こうして先述の被爆 70 年にあたり、是非折り鶴作品も飾りたいと思っていた。
右壁面の端っこの最後のところに暗くて歪な空間があったので、ここに着彩折
り鶴を天井から輪(和)になるように吊り下げ8つ並べ、センターから 1 つ床
面すれすれまで吊り、8月9日と語呂あわせとした。
セレモニーなどが一段落し古都への旅となった。慶州の気となるものが感じ
る大きな山形の古墳が並木道から見え、その並木から 5 月のそよ風が吹いてい
る。この地でアートフェアーが開催されているからと言って、友人が車で案内
してくれた。どうしてこんなところでフェアーなのかと、私はむしろ「これは
フェアーでない!」と、古墳風景を見ながら深呼吸を繰り返した。この風を浴
びながら、2 ヶ月前の啓蟄が過ぎて、ようやく野の花が咲き始めたころグループ
展に参加したことを思い出した。
桜があと 10 日ぐらいで開花する頃、まつを龍伸氏の企画する「長崎アートパ
ーティ」展に誘われ出品した。案内状は印刷でなく、ネットによる新手の案内
だ。私は IT ができないから知人宛郵送用の DM ハガキが欲しかった。それに作
品を搬入するまでは、彼が発信するネットを見ない限り、進行状況が皆目分か
らない。だが展示会場に到着した私に、いきなりまつを氏から「作品はここに」
と指定されたので、私が一番いい場所かと思い、70 歳にしてちょっぴり味わっ
たのが、
「これがヒエラルキなるものか?!」と独り合点した。良くない感情と
思いつつ、展示時間がなく作品の飾り付けに急いだが、周辺作家らには申しわ
けなく展示風景が気にもなった。ちらっと見たら、展示にあれこれと皆さんは
迷われており、作品バランスよりも、ことによると作品ランク付けの様子かと
私が思ったとたん、私はくもの糸にすがるカンダタのような叫びを発した。
地獄へ落下したはずの私だが、展覧会の自作の場にいて、不思議な光景を眺
めていた。拙品(大震災と福島原発事故の鎮魂を込め)は天井からぶら下がる
着彩木枠群で、子どもらがそれらを揺らして遊んでいる。おまけに床に配置し
た輪っか(紙製)はハート形や花のような模様を無造作に着彩しているので、
「ぼ
くだってか(描)けるよ!」と、彼らがまた喜んでいた。ふと目を私の場と対
極の入口入ったすぐのところに向けると、テーブルがありナイフ作品群がとこ
ろ狭しと鋭く並んでいた。これは優れた職人芸のシャープで格好いい形状とデ
ザインとなっていたが、仮に暴漢がこのナイフで暴れたりしたらと気を揉んだ。
私の余計な心配をよそに、何事もなく展覧会は終わった。
さて、私はどこに向かって歩くのか?一瞬我を失いながらも、気を取り戻す
と近所の川のせせらぎが谷間から聴こる遊歩道を歩いていた。