<理科> 自然のすばらしさを実感しながら,科学的な見方や考え方を表現できる子の育成 ~「学んだから賢くなった!」を実感できる指導の在り方~ 大垣市立小野小学校 概 教諭 高 橋 純 子 要 前年度,4年生を担任し, 「科学的な見方や考え方を身に付けていくために」をテーマに実践を重ねて きた。その結果,NRTの結果では,科学的な思考・表現は 103%と全国比を上回った。しかし,授業 を進めていく中で, 「なぜそう思うのか?」との問いに自信をもって答えられる児童が少なかった。そこ で,身近な自然事象や生活と関連付けて表現できる児童を増やしたいと願い,研究を始めることにした。 そこで,今年度は,前年度培った理科の学び方を土台にしながら,科学的な見方や考え方を表現でき る指導のあり方を究明したいと考え,主題を設定した。具体的には,1つ目に児童の興味・関心を高め る事象提示の工夫と児童の願いを重視した単元指導計画,2つ目に学ぶ楽しさを実感できる指導の工夫, 3 つ目に児童の科学的な見方や考え方,問題解決の能力を高めるための個に応じた指導について実践し た。特に, 「個に応じた指導・援助」では,抽出児を決め,どのような手立てをうったら,どのように変 容していったかを考察しながら研究を行った。 1.主題設定の理由 (1)昨年度の実践の成果と課題より の楽しさを感じるのではないか,自分で課題を見 小野小学校区は、東中学校と星和中学校に進学 つけて追究する楽しさを味わえるのではないかと する。昨年度、小野小学校に赴任してきたとき、 思い,自然に触れる機会を増やすだけでなく,科 東小中学校で研究してきた実践(資料 1)を小野小 学的な見方や考え方を高めようと考えた。目の前 学校の児童に教えれば、理科の学びの楽しさや科 の事象から問題を見つけ、自分なりの予想をもっ 学的な見方や考え方が継続して伸びていくのでは て観察・実験をし、解決していく楽しさや成就感 ないかと考え、研究を実践してきた。 は理科の楽しさを実感できる第一歩である。例え、 (資料 2) その結果、自分なりの実験の見通しをもって取 予想や結果が違っていても,仲間と学び合い,高 り組み、 「誰がやっても、いつやっても、何度やっ め合っていく喜びもある。そんな科学的な見方を ても、同じことが言える!納得!」と記述できる 高め,自己の学びが実感でき、学ぶ楽しさを味わ 児童が増えてきた。単元テストでも、科学的な思 うことができる実践を行おうと考えた。 考力の評価がB以上であった。 そこで,まず,理科の学び方の徹底や単元のは しかし、今年、5 月に行ったNRTの学習状況 じめにその単元をつらぬく課題設定ができる導入 調査結果では、科学的な思考・表現の評価は 103% の工夫,児童の実態に応じてTT指導を行いなが と全国を少し上回った。この調査で把握した児童 ら,科学的な考え方を育てていきたいと考えた。 の実態から,自分で実験方法を考えることや結果 (2)指導要領より を基に規則性を見いだすことを問う設問の正答率 小学校理科の目標は, が低いことが分かった。これらを分析すると,児 自然に親しみ,見通しをもって観察,実験 などを行い,問題解決の能力と自然を愛する 心情を育てるとともに自然の事物・現象につ いての実感を伴った理解を図り,科学的な見 方や考え方を養う。 童が調べてみたいという必然性がなかったこと, 学んだつもりになっていて、自分の本物の知識や 考えに至っていなかったことが考えられる。 そこで、学んだ知識や考えを身近な自然や日常 生活と関連付けていけば、子どもたちはもっとも である。この目標の中には、「実感を伴った理解 っと身近な自然のすばらしさに興味をもって理科 を図り」という文面が新たに追加された。実感を -1- 伴った理解につなげるためには、まず、自分なり 2.研究仮説と研究内容 の「見通し」をもって観察や実験を行い、解決過 (1)研究仮説と研究内容 (研究構想 資料 3) 程や結果について相互に話し合う中から,結論と して科学的な見方や・考え方をもつようにする過 程が大切である。「科学的」は,実証性や再現性, 客観性を大切にし, 「見方や考え方」は問題解決の 活動によって児童が習得する方法や手続きとそれ によって得られた結果及び概念である。自分の考 えが合っていても、違っていても、自分の中で納 得するものであり、また、それらが、実生活で生 児童の興味・関心を高める事象提示の工夫 と児童の願いを重視した単元指導計画や学 ぶ楽しさを実感できる指導を工夫すれば,自 然のすばらしさを実感する子が育つ。 また,「一人1観察・1実験」や学びが実 感できる個に応じた指導・援助の工夫をすれ ば,児童一人一人に科学的な見方・考え方を 身に付けさせることができる。 かされていると考えたら、学んだことによってま た一つ賢くなったという実感が生まれてくること であろう。いずれにしても,理科の学習は,児童 の既有しているさまざまな自然についての素朴な 見方や考え方を,観察・実験などの,「問題解決」 の活動を通して少しずつ科学的なものに変容させ ていくことだと考える。 (3)児童の実態 ○よさ ●課題 ①つかむ段階 ○教師の事象提示に興味をもち,「自分で確かめたい。」 と前向きに取り組もうとする児童が多い。 ●事象提示からどのように課題に結び付けて行けばよ いのかが分からない児童が多い。 ②考える段階 ○問題を解決しようと楽しんで観察・実験などに取り組 もうとする。 ●予想はもてるが、なぜそういう予想になるのか,根拠 とつなげて自分の考えを表せない児童が多い。 ●何を重点にして,実験を行うのか,また,その記述方 法がわからない児童がいる。 ③深める(仲間との交流)段階 ●結果は言えるが、事実と自分の考えをつなげて考察 し、表現できる児童が少ない。 ●仲間の意見から共通点やよりよい考えを見つけてい こうとするなど練り上げていくことが苦手である。 ④まとめる段階 ●学んだことを自分の言葉で書ける児童が少ない。 (図1) 児童の興味・関心を高める事象提示の工夫 と児童の願いを重視した単元指導計画の作 成 (1)事前アンケートの位置付け (2)調べてみたいという願いがもてる導 入時の事象提示の工夫 (3)児童の願いや思考の流れに沿った学 習過程 学ぶ楽しさを実感できる指導の工夫 (1)自己選択、自己追究できる場の設 定 (2)予想と実験の見通しがもてるよう にするための工夫 (3)事実と思考をつなげるためのモデ ル実験セットの工夫 (4)学習内容を仲間に伝える場の設定 (5)児童の追究を支える,情報機器の 活用や電子黒板による支援 (4)目指す児童の姿 ①つかむ段階 ・事象提示から,疑問見つけ、調べてみたいという願い をもって課題をつくることができる児童 ②考える段階 ・根拠をもとに,自分の考えを表現できる児童 ・課題解決の方法を学びのキーワードをもとに解決でき る児童 ③深める(仲間との交流)段階 ・自分が見つけた事実や結果をもとに,実証性,再現性, 客観性を大切にして進んで表現できる児童 ・仲間が見つけた事実やいろいろな意見の中から共通し ていえることは何か,また,そこからよりよい意見(一 般化)進んで見つけようとする児童 ④まとめ段階 ・自分が今日学んだことを、課題とつなげて自分の言葉 この姿に近づけるために, でまとめることができる児童研究主題を設定した。 ・今日の学習内容や終末の事象提示などから,次なる課 題を見つけられる児童 (図2) -2- 児童の科学的な見方や考え方,問題解決の 能力を高めるための個に応じた指導 (1)児童の学ぶ意欲を重視した一人1観 察・1実験 (2)学習の足跡がわかる,学びのキーワ ードを意識したレポート(ノート) の工夫 (3)科学的な見方や考え方をした児童を 認め,広げる場の工夫 3.研究内容1にかかわって 長さは、重心までの距離だから、答えは、上から、 研究内容1 ③、②、③だ。簡単だ!」とすらすらと解き、学 児童の興味・関心を高める事象提 示の工夫と児童の願いを重視した 単元指導計画の作成 んだからこと分かる自分の学習の伸びを実感する ことができた。(資料 4) 単元導入前に「この単元を学んだらすべて明ら (2)調べてみたいという願いがもてる導入時の 事象提示の工夫 かになる」事前アンケートを位置付けた。この事 単元導入時に驚きがあり,またその単元をつら 前アンケートは、その単元に関わる理科クイズと ぬくことのできる事象提示をすると、この単元で なっており、児童の考えの実態を調査する物であ こんなことを学びたいのかという学習課題をもつ る。単元の学ぶ視点や見通しをもつことができ、 ことができる。 (1)事前アンケートの位置付け また,児童が自分で学びたい学習を選択してい 単元終了時に、もう一度クイズを解くことによっ て、学習の伸びを実感することができた。 くことは,児童の主体性が発揮され,学ぶ楽しさ 実践①5 年「ふりこのきまり」 も味わえる。このように,児童の実態や単元構成 児童には、成績とは関係がなく、みんながどん に応じて柔軟に理科専門教師によるTT指導や少 な考えをもっているのか調べたいからと話して行 人数指導を生かした授業改善をしていくことが大 っている。 切である。そこで次のような導入を行った。 実践① 5 年「ふりこのきまり」 ふりこのひみつをブランコやターザンロープであばけ! 事前アンケートとつなげ、 「座って乗る方がブラ ンコは速いのか?体重が重い人の方が速いの か?」などの疑問を自分たちの体で検証を行った。 ブランコやターザンロープで 自分の仮説を検証するようす (図4) 自分の仮説を検証しようと,進んで検証実験に 取り組んだ。 「もう少し前だよ。」 「ひもを持つとこ (図3) ろは同じにして。」と見ている児童も正確なデータ クイズの答えは教えないが、全問正解した児童 を出そうと声をかける。1回だけでなく、何度も と設問に関する人数を紹介(全問正解した児童に 行ったり、誰がやっても同じ結果が言えるのかと は、答えをみんなに公表しないことを約束)する 教師が言わなくても、自分たちでチームを変えた ことで、「早く学びたい!」という意欲が高まり、 りして実験を行っていた。 「あれ?重さが違っても 近くの公園で試したという児童もいた。 同じみたい…」 「やっぱり立った方が速い。」 「微妙 単元の終わりには、回収していたアンケートを なので、もっと正確に調べたい。」と次につながる 配り、もう一度クイズに答えさせた。それにより、 願いを出すことができた。ターザンロープでも、 学習前は、不正解だった児童が、学習後には、 「分 ひもの長さに着目し、意欲的に調べる姿が見られ かる!重さや振れ幅は1往復する時間には関係が た。(資料5) ないのだから、ふりこのひもの長さを見ればいい。 -3- (3)児童の願いや思考の流れに沿った学習過 (1)自己選択、自己追究できる場の設定 実践① 5 年「植物の発芽と成長」 程 発芽には、何が必要なの? 第1時に、アサガオやへちまなどの種を提示し、 「発芽には、絶対これが必要だと思うものは何?」 と投げかけた。児童は今までの経験から、 「水、空 気、肥料、適当な温度、土、日光」と6つの中か ら、自分が調べたい条件で、自分なりの方法で条 件制御を意識して進んで調べることができた。 単元指導計画 (図5) 第1時で調べてみたいと思った課題を出し合い、 分類・整理して学習過程を組み立てていく。それ により,みんなの課題や学習の流れがわかり, 「ガ リレオの本が図書室にあったよ。」「ふりこのおも ちゃ、うさぎとかめにしたよ。」とお互いに声をか けるなど学ぶ意欲が高まった。また,どのように 学習を進めていくか計画を立てることにより,今 日は何を学ぶのかが事前にわかり,実験の予想を 朝から話し合ったり、ふりこのおもちゃを家で作 ってきて紹介したりする姿が見られた。また、評 価基準と共に付けたい力を明記し、意図的な指導 を行った。(単元指導計画 資料6) 実践② 5 年「魚のたんじょう」 課題ごとの結果の掲示物 身近な命をすてきな教材に大変身! (図6) 課題別チームごとにテープの色を分けたり、い 単元導入時に,教室で飼っているメダカの卵と つでも観察できるよう、低温機器や酸素ポンプコ 人の卵の写真を提示し, 「一つは,みんなが大事に ーナーも廊下に配置したりしたので、誰もが観察 育てているメダカの」卵の写真で,もう一つは人 結果を一目で比べることができた。また、同じチ の卵の写真だよ。わかるかな?」と投げかけた。 ーム内でも、発芽時間の差はあったが、 「○○あり 子どもたちは, 「えっ,すごい!人にも卵があるん なら、どの種も発芽している。」と実証性、客観性 だ。顕微鏡でメダカの卵がこんなふうに見えるん だ!観察したい。」と自然のすばらしさに感動し, 自分の課題をもって意欲的に追究することができ を意識することができた。(資料8) ( 2)予想と実験の見通しがもてるようにするた めの工夫 た。指導計画は,児童が調べたいと願った課題を 実践① 5 年「植物の発芽と成長」 整理し,これを解決していこうと指導計画を作成 発芽には、何が必要なの?成長には? した。単位時間の指導のねらいや課題とまとめ, 課題に対しての自分の考えを、必ず「わけは」 学ぶ楽しさを実感するための手立て、評価規準と というキーワードを意識させて、表現するように 評価の窓、付けたい力を明確にした単元指導計画 指導した。それにより、自分の考えの確かな足が (単元指導計画 資料7)の作成を行った。 かりとなるだけでなく、仲間にも科学的な考えが 4.研究内容2にかかわって 研究内容2 学ぶ楽しさを実感できる指導の 工夫 広がっていく。また、条件制御を意識して考えた 実験に対する考えにも「だから」や「きっと○○ -4- になるはず」という言葉を使って自分の予想を実 験結果とつなげさせることで、見通しをもって観 察をすることができた。(資料9) 観察結果を仲間に知らせる掲示板 (図8) 実践② 5 年「ふりこのきまり」 観察カード(上)と観察するようす(下) (図 7) 1往復する時間は、何に関係があるの? 「1往復する時間は、長さによって変わるのか」 では、自分の予想がどんな結果になるのかを見通 すために、 「きっとこんなグラフになるはず」を電 子黒板に書き込んだ。(資料11)これにより、自分 の考えと違ったデータが得られたときは「もう一 度やってみよう。」確かなデータを得ようと正確に 実験をする姿が見られた。また、ノートにも「前 とちがった」「やはり○○だった。」と自分の考え を表現できる児童が増えてきた。(資料12) 第3時では、発芽に対するクラス全員の予想を、 フラッシュカードの下に人数を書き、全部の実験 を共有できるように位置付けた。課題の下には、 メンバーのネームプレートを貼り、発芽に対する その児童の予想を白チョークで○、×で記し根拠 を簡単なキーワードで位置付けた。それを観察セ ットの横に固定し、発芽したら赤、しなかったら 予想結果をグラフ化する (図9) 青のチョークで書き直していく手法を取った。そ れにより、 「あ、今日は、水チームの○○さんのが 発芽している。」と言うのが、おはようのあいさつ の後の会話になるほどであった。結果が出たら、 すぐに赤や青のチョークで書き直し、仲間に広め る姿が見られた。この掲示板により、発芽の条件 がだんだんと明らかになっていき、 「やっぱり土は いらない。テレビで水だけで育てているのを見た もの。」と納得したり、「じゃあ、なんで種をまく とき、肥料も入れるのかな?」と成長条件につな <キーワードで論ずるノート> がる考えを見せたりする児童もいた。(資料10) -5- (図10) 3)事実と思考をつなげるためのモデル実験セッ トの工夫 実践② 5 年「人のたんじょう」① 赤ちゃんがお腹に!お母さん体験! 3000 g の 赤 実践① 5 年「流れる水のはたらき」 上流の石は、どんなふうに丸くなっていくの? ちゃんがお腹 上流の石が転がって、角が取れて小さく丸くな (子宮)の中に っていく様子を実感させるために、下の実験セッ いる嬉しさと大 トでモデル実験を行った。(資料13) ←百均で買った広口ビン ←オアシス 変さを実感させ 3㎝の立方体 るために、お腹 に装着し、消し 8個 <赤ちゃんの大きさ& ←わりばし 重さを体験> ←あみ 授業を受けたり した。 蛍光灯の箱→ このセットは、廊下に展示し、いつでも体験で 長さ 1/2 を上下に きるようにした。それにより、 「双子だったら6㎏ 1/2 カット <石が丸くなる実験セット> (図 13) ゴムを拾ったり、 なんだよね。羊水の重さも入れるともっと重いよ (図11) (図 11) ね。」「お腹が大きいと下も見えにくいんだ。だか ら、妊婦さんを見たら、進んで助けてあげたい。」 ビンを振ることで、石が川底を転がり、削られ と考える児童が増えた。(資料14) ていくイメージを想像させた。50 回振るごとにオ 実践③ 5 年「人のたんじょう」② アシスを一つずつはしで取り出し、並べていった。 羊水ってすごい!赤ちゃんを守るんだ! すると、どんどんオアシス(石)が丸みを帯びて 羊水のはたらきを実感できるよう、流れる水の 小さくなっていくのを見て、 「削るはたらきで角が はたらきで使用したビンとオアシスで作った赤ち 取れていくんだ。」と指で示しながら違いに気付く ゃんのモデルを使って実験を行った。水を羊水に ことができた。 見立て、羊水なし・羊水1/2・羊水満タンの3 つを同時に同じ回数だけ振って行った。(資料15) ←結果を展示し確認 <羊水あるなしモデル実験> (図 14) 羊水満タンの中の赤ちゃんは顔の表情が残って いるのに対し、水なしの赤ちゃんは影も形もない。 この驚きの事実から、羊水によって赤ちゃんが大 切に守られていることを実感することができた。 (図 12) <石が削られる働きをモデル化し一般化> -6- (3)学習内容を仲間に伝える場の設定 (5)児童の追究を支える,情報機器の活用や 電子黒板による支援 自分がこの単元で学んだことを,仲間に伝える 実践① 5 年「魚のたんじょう」 ことは,確かな実験・観察のもとに培った技能や 知識であるから,自信をもって伝えることができ 継続観察ができるデジタルカメラ付き顕微鏡と る。また,この場を設定することにより,この事 電子黒板の活用 写真だけでな く動画も撮れ、 保存ができる。 これにより、ス ケッチが苦手な 児童も細かく観 察することがで きた。電子黒板 と顕微鏡をつな げ、リアルタイ ムな生き物の動 きを伝えたり、 書画カメラとつ ないで発見を書 き込みながら話 したりすること ができた。 (資料 17) 実からこの結果になりこう考えたという科学的な 見方や考え方を使って伝えることができる。その ため,単元の出口には,仲間と交流する場を必ず 設定し,学ぶ楽しさを,伝える楽しさを実感させ ようと試みた。 実践①5年「ふりこのきまり」 マイふりこで,3年生に理科の楽しさを教えよう! 「マイふりこ作り」で作った物を生かして,ペ アの3年生に「理科っておもしろい!」と感じて もらうために以下の 3 つを意識して行った。 ① 不思議に思うような話術をつかう。 ② 必ず体験させてふりこのひみつを伝える。 ③ 3年生のよいところを見つけて伝える。 5 年生の児童は,3年生の子にふりこのひみつ を見つけてもらおうと、 学習したことを活用し て作った、ブランコ型 < <顕微鏡と電子黒板の活用例> (図 16) 実践② 5 年「ふりこのきまり」 ビー玉ふりこ、ふりこ 表計算ソフトを使ってグラフ化した電子黒板の活用 が揺れるとモグラが出 てくるかわいいふりこ、 ふりこの長さを変える ことができるふりこな どで,クイズを出した り、具体的な操作をし たりして、優しく教え る姿が多く見られた。 <自分のデータを打ちこむ> 3年生も実験の楽しさ だけでなく,自分のよ さをカードに書いても らうことで楽しんで学 ぶことができた。 「○○ さんの教え方がすごく 上手でよく分かりまし た。」と笑顔で話す3年 生の姿に5年生の児童 は「やってよかった。 <マイふりこで伝える> (図 15) 次の学習でも教えた い。」と喜んでいた。(資料 16) -7- (図 17) テンキーを使って、自分たちの班の所にデータ を打ち込むと、グラフ上に点がプロットされる。 全部の班の入力が終わると、実験の方向性が一目 で分かる。どんなにおもりが重くなっても、1往 復する時間は変わらない結果を、色ペンで丸を打 ったり書き込んだりすることで、「誰がやっても、 いつやっても、何度やっても同じことが言える」 ことを確認することができた。また、このグラフ 結果は、個々のノートと同じなので、自分の記録 と比べながら「どの班も同じことが言える。納得。」 とまとめることができた。(資料 18) (2)学習の足跡がわかる,学びのキーワードを意識し 5.研究内容3にかかわって 研究内容3 た輝きレポート(ノート)の工夫 児童の科学的な見方や考え方,問 題解決の能力を高めるための個に 応じた指導 (1)児童の学ぶ意欲を重視した一人1観察・1実験 児童の科学的な見方や考え方,問題解決の能力 を高めるには,個々に応じた一人 1 観察・1実験 をし,個に合った指導を行っていくことが大切で ある。そこで, 「植物の発芽と成長」では,条件制 <マイ卵を継続して観察できるチャック式観察袋>(図 19) 御を考えた1観察(資料 19),「魚のたんじょう」 実践① 5 年「魚のたんじょう」 では,一人1マイ卵観察(資料20), 「花から実へ」 では,花別による 1 観察(資料21)を行ってきた。 小さな生命に関心をもち,愛情豊かに観察ができ るマイ卵とマイメダカ成長記録 「ふりこのきまり」や「流れる水のはたらき」で は,グループ実験(資料22)で行ったが、1人1役 を位置付けたり、一人1個おもちゃづくりなどを 行ったりして、個の能力を高めるよう実践してき た。より定着度を図るために,抽出児を追って研 究を進めることにした。 ①単元前の児童の実態 観察・実験はわりと好きだが、何を書いていい <成長が一目で分かる観察記録カード> のかわからないという評価Cの児童①とさらに科 この記録カードを活用すること 学的な考えが書けると評価がAになる児童②を抽 で、児童はマイ卵の中のメダカが 出児として,意図的に指導した。 次にどのように成長していくのか 児童①(C→Bにする児童)の意図的な指導 T:「発芽には土が必要だと考えて実験した ら発芽した?みんなのはどう?」と意識して 声をかけた。 「どの種も発芽している。」と気 付いた所で、「つまり、土は…?」と結論に 導く一言をかけた。「あっ。」と閃いたので、 「どの種も」というキーワードのよさをみん なに広げた。観察の視点が分かり、自分の発 見や考えを残す喜びを味わえるようにした。 すごい!友達 綿でも発芽した。だから、 の結果から考 発芽には、土はなくても えられたね。 よい。 児童②(B→Aにする児童)の意図的な指導 T:「冷蔵庫の種は発芽しなかったけど、段 ボールの種は、白くて長いし細いね。何でみ んなのと違うのだろう。」と暗さに視点がい くように声をかけた。「すごい。○○さんの 実験結果で,もやしの育て方とつながった ね。また一つ賢くなったね。」と認め、仲間 に広げることで、科学的に考える楽しさを味 わえるようにした。 確かにも 冷蔵庫だと芽が出 やしと同 ず,室温で覆いをした じ。生活 方は芽がでた。土をか とつなげ ぶせるのと同じ。やっ て考えら ぱり発芽には温度が れたね。 必要なんだ! (図20) を考える手がかりにもなるし、前 時との成長の変化をとらえやすい。 さらに,学習の視点を「学びのキ 学びのキーワ ード (図 21) ーワード」の中から, 「正確に」 「「比 べて(前・友達)」と選択することで,今日の学習 の学びがわかり,観察結果を学びのキーワードと つなげて考察できるようになった。(資料24) また、評価の低いノートに「○○するといいよ。」 とコメントを書き,直したら評価をレベルアップ することで記録を書こうとする児童が増えた 児童②(B→Aにする児童)のノート変化 <植物の発芽と成長より> (図 18) (資料23) -8- (図 22) いつでも自分のマイ卵を継続して観察できるよ 6.成果と課題 うチャック式の透明の袋に名前(自分とメダカ)、 卵が受精した日を書いて観察コーナーに設置。 「私 <成果> ①2 学期を終えた児童の変容(診断テストより) 児童①(C→Bにする児童)の変化 の○○○、心臓が動いている!」 「すごい!私の○ ○は…」とデジタル顕微鏡で進んで観察すること ができた。 (3)科学的な見方や考え方をした児童を認め,広げ る場の工夫や設定 理科掲示物による認め励まし (足跡の掲示) 児童の考えや活動の様子・輝 きノートなどを位置付ける。 1 学期 2 学期 1 学期は,「魚のたんじょう」でマイ卵を 観察したのが楽しかったと答えた。2学期は 「その予想に対して,結果はどうなると思 う?」と見通しを意識して声をかけてきた結 (図 25) 果である。 児童②(B→Aにする児童)の変化 2 学期 1 学期 1 学期は, 「魚のたんじょう」でノートが A が増えたのがうれしかったと答えた。2 学期 は,「事実から自分の考えとつなげて考察し ている!科学者だね。」と意識して声をかけ, 誉めてよさを認めてきた結果である。 (図 26) (図 23) 児童の活動の様子や発言,輝きノートでの児童 のよさを掲示物に位置付けることにより,どんな ふうに課題を解決するのか,どんなふうにまとめ 科学的な思考・表現 到達率の変化 たらよいのかということがわかり,活動やノート 作りが意欲的となった。 (評価テストによる1.2学期の変化) (資料 25) この結果より科学的思考力・表現力の到達 率が上がったことがわかる。BからAに上が (図 27) った児童は10人も増加。 これらの結果から、児童の実態を把握し,個に 応じた指導をしたり,単元に応じて指導方法を工 夫したりすれば,個だけでなく、クラス全体の科 学的な思考・表現力が高まっていく。個で追究し た一人1観察・1実験の結果をクラス全員で共有 したことが効果的であったと考える。 学びの足跡が残る児童のノート (図 24) -9- ②研究内容ごとの成果 研究内容1 研究内容3 児童の科学的な見方や考え方,問題解決 の能力を高めるための個に応じた指導 ・理科クイズにより,学ぶ視点が分かり,本などで調 べたり,実験して確かめたりする姿が見られた。 ・自分の考えを立証できる確かな時間と実験器具 により,試行を繰り返すことで,実験の技能だ けでなく,事実から考える力がついてきた。 児童の興味・関心を高める事象提示の工夫と 児童の願いを重視した単元指導計画の作成 (1)事前アンケートの位置付け (1)児童の学ぶ意欲を重視した一人1観察・1実験 (2))調べてみたいという願いがもてる導入時の教材・教具の工夫 (2)個々の学習の足跡がわかる,学びのキーワードを意識した レポート(ノート)の工夫 ・自分たちが育てているメダカの卵,赤ちゃんの超音 波映像,身近な遊具を使ってなどの導入は,子ども たちの学ぶ意欲を高めることができた。 (3)児童の願いや思考の流れに沿った学習過程 ・児童たちは見通しをもって学習に取り組むことがで き,「今日の実験はこうなるはず。お父さんもそう 言っていた。」と家族と話し合ってきた児童もいた。 研究内容2 学ぶ楽しさを実感できる指導の工夫 アンケート結果から 理科が好きと回答した 児童が6%増加し,嫌い は0%となった。5つの 手立てが効果的だったと 言える。 ・学ぶ観点を与えることにより,五感を使って書 き表すだけでなく,前時や友達などと比べて書 き表すことができるようになった。 (3)科学的な見方や考え方をした児童を認め,広げる場の工夫 ・「すごいノートだ。こうすればAになるんだ。」 と仲間のよさを見付け,自分も見習おうと学びの キーワードやつなぎ言葉を使って,発見や考えを 図や記号なども使って表すようになった。 <課題> 研究内容1より ・児童が学びたいという意欲がもて,課題追究の 助けとなる教材・教具になっているか。付けた い力をつけるための手立てをさらに明確にし て,感動のある理科教育を実践していく。 (1)自己選択,自己追究できる場の設定 ・自分の学びたい課題を自分の調べたい方法で問題解 決していくことにより,主体的に取り組む姿が見ら れた。 研究内容2より ・交流では, 『科学的な見方や考え方』を練り上げ ていく時に,児童の考えを引き出す発問や切り 返し,助言を「いつ・どの場面でするのか」を意 識して,さらに深まりのある場にしていく。 (2)予想と実験の見通しがもてるようにするための 工夫 ・ 「きっとこうなるはずだ。」と予想と結果を比べなが ら実験を行い,予想と違う結果が出た場合には,再 実験して確かめる姿が見られた。 研究内容3より ・一人一人の実態や学習状況,定着状況を見届け, この児童は,どんな願いがあり,苦手意識はどこ にあるのかを把握し,その児童がどのような考 えをしていくとよいのか,そのためにはどのよ うな手立てが必要なのかなど,具体的に思い描 いて継続して指導・援助を行っていく。 (図 31) (3)事実と思考をつなげるためのモデル実験セット の工夫 ・「石は削られて丸くなる」「羊水は 赤ちゃんを守る」というモデル実 験を行うことで,自分の目で見え なかった部分が,具体物でイメー ジ化され,事実と学んだ知識をつ なげる確かな手立てとなった。 羊水のはたらきの正解率は, 100%であり,アンケートの 結果でも82%の児童がよく分 かったと答えている。 <実践を終えて> (4)学習内容を仲間に伝える場の設定 ・「教科書に書いていなかった発見が○○さんのおか げで分かった。」と仲間の中で認められ,新しい観 察・実験を行う児童もいた。3年生との交流では, 学んだ知識を伝えるために,話し方や事象提示の工 夫を繰り返し行うことで,確かな学びとなった。 (5)児童の追究を支える,情報機器の活用や電子 黒板による支援 ・情報機器の活用により,仲間の発見から学べたり, リアルタイムな生き物の動きに感動したりと,自然 のすばらしさを実感する児童が増えた。スケッチが 苦手な児童も,写真や映像が残せる顕微鏡やカメラ の活用により,その写真や映像を手がかりにして, 前と比べて考えることができた。 ・電子黒板を使って,自分の考 えを書き込みながら発表した り,表計算ソフトを使って自 分たちが得た実験データで グラフ化したりすることで, 見る視点や実験結果の方向性 が一目で分かり,「この結果 から」と事実とつなげて考察 できる児童が増えてきた。 (図 28) - 10 - 去年に引き続き,継続して 5 年生の実践を 行って思ったことは,教師が何か楽しそうに 準備をしていると, 「ぼくもやりたい。」とキ ラキラした目で訴える。1 学期のとき, 「一人 でできるかな。」と1観察1実験に不安げだ った女子も「自分の考えで工夫できるから楽 しい。友達の結果と比べられるし,考えが広 がる。」と学ぶ楽しさを実感する姿が増えて きた。 実践して嬉しかったのは,命を大切にする 児童が増えたことだ。植物の茎が折れたとき には支柱をつけたり,マイメダカが死んだと きはお墓を作ったり,人のたんじょうでは, 生まれたことに感謝して自分やみんなの命 を大切にしたいと記録したりする児童が多 くいて,私自身とても楽しくなった。「教師 のもち方一つで子どもたちは変わる!」を実 感した。 実践にあたり,忙しい中,よりよいアイデ ィアを提供して一緒に教材を作って下さっ たり,メダカの卵を分けて下さったりした先 生方の温かい心遣いのおかげで,子どもたち も輝いてきたと感じられる。これからも,さ らに「理科大好き!学ぶって楽しい!」と笑 顔で話せる子どもたちを目指して,実践に取 り組んでいきたい。 参考文献 ・小学校学習指導要領解説(理科編)
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