ERM Japan Newsletter 2015 年 4 月 20 日 発行 Headline 洪水デューディリジェンス 環境クライシスマネジメント 国際金融公社(IFC)コンプライアンス・アドバイザー/ オンブズマン(CAO) 欧州の紛争鉱物関連法案について 環境クライシスマネジメント 昨年の夏、アメリカのある大学でクライシスマネジメントのトレー ニングが開催されました。企業の事業活動に突然大きな影響を及ぼ 洪水デューディリジェンス す、サイバーアタック、パンデミック、爆発事故、テロ、大規模停 M&A の対象となる生産施設やサプライチェーン上の作物農園など 電などについて事例紹介や対応の考え方について講義があり、また、 が、河川や海岸近くの低地にあり、大雨や高潮の際に洪水被害に見 組織的な対応を迅速に進めるために重要なリーダーシップのあり方 舞われることがあります。洪水は、製造設備や製品に損害を与える やメディアとの関わりについて、ゲームを交えての実践的なトレー だけでなく、事業における輸送・物流にも長期間影響を与える可能 ニングが行われました。 性があり、タイやインドネシアなど地域によっては地震よりもビジ ゲームは参加者約 60 人が別々の部屋(経営層の部屋、工場の部屋、 ネスに対するリスク度が高い自然災害となっています。さらに、今 市行政の部屋、環境当局の部屋)に分かれ、その間を紙にかかれた 後は洪水時の対応の出来不出来が企業のレピュテーションにつなが メモ(情報)が飛び交います。2 つの事故が同時に起きます。1 つは ることも考えられます。 本社サーバーへの IT 攻撃、もう 1 つは工場での発砲事件と流れ弾に M&A における洪水デューディリジェンスは 3 つのフェーズでアプ よる硫酸タンクの漏洩、そして近隣河川への流入です。工場従業員 ローチします。 のツイッター情報に反応したメディアの取材を受け流し、現場から 《フェーズ1》洪水被害を受ける可能性があるかどうかについて、 上がってくる錯綜する情報を整理し、同時に市行政への報告や環境 一次評価として、生産施設等の水理学的な立地の確認、行政等が発 当局との連携をすすめ、本社がメディアに対応できるように適切な 行する洪水リスクマップのチェック等をおこないます。 被害状況報告と復旧プランを作成します。負傷者家族への連絡、河 《フェーズ2》相手事業者に対しインタビューや現地訪問を行うな 川水質調査の依頼やタンク修理のための業者への発注手続きといっ どして、洪水に対する備え(洪水対策施設(壁、遊水地、排水設備 た業務復旧作業も進められます。 等)の施工状況、製造ラインの上部階への設置、被災時マニュアル このゲームは 90 分で行われ、本物の ABC-TV News のレポーターに の整備、訓練の実施、保険の購入)に関する情報を収集します。そ よる模擬記者会見で終わります。マニュアルを読んで対応するよう の結果、今後の対応が必要となる問題点をデータギャップとして洗 な時間はありません。それぞれの場面で各リーダーが判断を下しつ い出します。 つ、ステークホルダーの協力を取り付けながら、組織として方向性 《フェーズ3》ERM 社内の水関連のエキスパートが洪水リスク評価 をもった動きをすることがクライシスマネジメントの要点であると を行ない、表層水モデリング、洪水対策のための提案や概算費用の 学びました。 評価を行ないます。 日本企業への影響 日本企業への影響 日本企業が経験あるいは想定するクライシスは、地震や風水害など IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の第 5 次評価報告書の の自然災害による事業中断と製品不良によるリコールや訴訟が上位 中でも「大都市部への洪水による被害のリスク」が重要な気候変動 にあり、環境関連のクライシスは中国や東南アジアに海外子会社を リスクとして認識されています。また、環境省の環境研究総合推進 持つ場合にウェイトが高くなっているようです(トーマツ News 費の 2014 年報告書の中でも、2100 年には洪水による年被害額が 3 Release 2015.2.16 倍程度に拡大すると予測されています。2011 年にタイのチャオプラ deloitte/articles/news-releases/nr20150216.html ) 。 クラ イシスは ヤ川で発生した洪水により、世界銀行の推定(2012 年報告書)で 起こるものであり、適切に対応できれば企業の価値やレピュテーシ 1.43 兆バーツ(USD465 億)の被害総額が生じ、日系企業にも多大 ョンを高めることができます。環境クライシスは国内海外を問わず な影響を与えました。投資対象先の洪水リスクのデューディリジェ 現場で起こる可能性が高く、企業のガバナンスが真剣に試される機 ンスは、事業に必要な水資源の持続可能性の評価とともに、環境デ 会になると考えます。 ューディリジェンスに加えて評価を行なうケースが増えてきていま す。これらの評価結果が M&A における企業価値算定に大きい影響 を与えたり、ビジネス判断に大きく影響を及ぼしています。 茂呂正樹 ERM 日本株式会社 〒220-8119 横浜市西区みなとみらい 2-2-1 横浜ランドマークタワー 19 階 Tel: 045-640-3780 Fax: 045-640-3781 e-mail: [email protected] URL: www.erm.co.jp http://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about- 坂野且典 国際金融公社(IFC)コンプライアンス・アドバイザー/ オンブズマン(CAO) 欧州の紛争鉱物関連法案について コンゴ民主共和国及び周辺国産の鉱物のうち、タンタル、タングス 前回(2015 年 1 月発行)の世界銀行のインスペクションパネルに続 テン、スズ及び金については武装勢力の資金源となっている可能性 き、今回は国際金融公社(IFC)のコンプライアンス・アドバイザ があり、2010 年に米国において成立した金融規制改革法(ドッド・ ー/オンブズマン(CAO)についてご紹介します。IFC の CAO は、 フランク法)1502 条では、これらの紛争鉱物の製品への使用につい 世銀グループ総裁の直下に置かれた、IFC と多数国間投資保証機関 て、上場企業に対して SEC(米証券取引委員会)に報告する義務を (MIGA )のプロジェクトにより影響を受けた人々の苦情に対処す 定めました。 る、独立したメカニズムです。プロジェクトの環境・社会面のパフ 欧州においても 2014 年 3 月に輸入者が紛争鉱物を輸入しているかど ォーマンス向上と、IFC /MIGA の公共への説明責任を強化すること う か 確 認 を 行 う た め の 仕 組 み を 定 め る 法 律 案 ( COM ( 2014 ) を目的とし、影響を受けたコミュニティと IFC 顧客との間の紛争解 111final)が提案されています。これは事業者の自主的な参加が可能 決、パフォーマンス・スタンダード(環境・社会基準)に対する IFC な枠組みを提供するものであり、責任ある輸入者として宣言を行う の遵守状況の独立した監視、そして世銀総裁と IFC 上層幹部への独 輸入者に対して、OECD デューディリジェンスガイドラインに基づ 立した助 言の提供を行なっ ています。 (出所: IFC 年次報告書 くマネジメントシステムの構築やリスクアセスメント、第三者の監 (2013 年)) 査の実施などを求めるものとなっています。 1999 年に設立されて以来、CAO が対応した案件は計 42 カ国 135 件、 この法案に対して、2015 年 3 月に発行された欧州議会の国際貿易に 2014 年度には 54 件(うち前年度からのキャリーオーバーが 38 件) 関する委員会のレポートでは自主的な枠組みが支持されていますが、 に対応し過去最多を記録しました。14 年間の全記録を地域別に見る 一方、欧州議会の開発に関する委員会からはこれを義務とするべき と、ラテンアメリカ及びカリブ諸国における案件への苦情が全体の であるという意見書が同月に発行されています。 31%と最も多く、次いで欧州及び中央アジア諸国 30%、サブサハラ また、提案されている法案では紛争鉱物の原産地を明確に限定せず、 アフリカ諸国 15%となっています。多くの苦情は地元の市民社会団 武力による紛争等の状況がある地域としており、この定義が不明確 体(CSO)やコミュニティから提出されており、影響を受けた個人 であるという意見も業界団体から呈されています。 や団体が直接 IFC に苦情を訴える場として機能しています。セクタ ー別に見ると、オイル・ガス・鉱業及び化学セクターが最も多く 日本企業への影響 47%、インフラセクターが 20%、アグリビジネスが 13%となってい 欧州において金属等の輸入に携わる関連企業を有する企業において ます。また、苦情内容の内訳としては、社会経済に関する苦情 は、これが義務となる法案が指示された場合、サプライヤーとのコ ( 69 % ) 、 IFC/MIGA の デ ュ ー デ リ ジ ェ ン ス に 対 し て の 不 満 ミュニケーションや社内体制の構築など、追加的なコスト・資源が (68%)、コンサルテーションの方法や情報公開への不満(65%) 必要になる可能性があります。また、自主的な仕組みが採択された などが最も多く、ついで用地問題(53%)、大気質等の汚染問題 場合でもステークホルダーからの要求や業界団体の自主的取り組み (47%)等が続きます(注:一事案が複数のテーマを含む場合があ として、同様の対応を実施することが求められる可能性があります。 ります)。2014 年度の傾向もこれまでとほぼ同じですが、従来カテ さらには、欧州へ金属等を輸出している企業においても、欧州の顧 ゴリ A(環境社会への重大な負の影響があると考えられる)案件が 客企業より、今後より多くの情報提供等を求められる可能性があり 苦情の対象となることが多かったものが、その対象がカテゴリ B ます。 (環境社会への負の影響があるが、限定的であり、緩和策を講じる 本法案に関しては、今後、欧州議会での投票等を経ることになりま ことにより影響を緩和できると考えられる)案件にも多く見られる すが、詳細についても今後修正される可能性がありますので、特に ようになったことが近年の特徴の 1 つです。(出所:CAO 年次報告 欧州において金属等の輸入に携わる関連会社等がある企業は、成り 書(2014 年)) 行きを注視されることが推奨されます。 高村比呂典 日本企業への影響 上記の通り、途上国の開発事業において IFC のパフォーマンス・ス タンダードに基づく計画の策定や実行がなされない場合、地域住民 ERM URL: www.erm.co.jp 等による苦情や異議申立てが起こることが想定されます。また、 IFC のパフォーマンス・スタンダードや環境・衛生・安全(EHS) Newsletter 全般に関するお問い合わせ [email protected] ガイドラインは日本の政府系及び民間銀行でも環境社会基準として 次回の Newsletter は、2015 年 7 月 31 日頃発行予定 参照されており、民間企業を含む事業者は、こうした国際スタンダ ードに沿った対応を行うことがよりいっそう求められているといえ ます。 加来智子 ERM 日本株式会社 〒220-8119 横浜市西区みなとみらい 2-2-1 横浜ランドマークタワー 19 階 Tel: 045-640-3780 Fax: 045-640-3781 e-mail: [email protected] URL: www.erm.co.jp
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