2013.10.7 「キャピタス ERM サーベイ 2013」の実施と結果概要 キャピタスコンサルティング株式会社 このたび弊社では「キャピタス ERM サーベイ 2013」を実施し、わが国保険業界の ERM の現状や 取り組み状況を調査いたしました。ご協力いただいた皆さまには厚く御礼申し上げます。調査結果が まとまりましたので、その概要をご紹介いたします。 本サーベイは ERM に関するアンケート調査に加え、各社の ERM 推進部門に確認インタビューを 行わせていただきました。この結果、保険会社の「意識調査」を超えた、わが国保険業界の ERM の 現状を示す包括的な調査となりました。対象は生命保険会社や損害保険会社など 37 社(グループベ ースでは 24 グループ)。日本で活動する主要な保険グループを網羅しています。確認インタビュー は主にリスク管理部門(一部の会社では経営企画部門や収益管理部門等も同席)にご対応いただきま した。 わが国でも ERM の構築に取り組む保険会社が増えつつあり、行政当局も ERM を重視する姿勢を 強めているなかで、本サーベイの結果が何かのご参考になれば幸いです。 ※ 当サーベイにおける「ERM」とは、損失の回避・抑制を主眼とした従来型のリスク管理、あるい は、リスクの種類ごとに捉える個別のリスク管理活動ではなく、あらゆるリスクを統合的に捉え、 戦略目標の達成を図ろうとする全社的な活動を想定しています。 <キャピタスコンサルティングについて> ・ キャピタスコンサルティング株式会社は、金融機関および事業法人に対して、財務・リスク管理に関するア ドバイスを提供する経営コンサルティング会社です。 ・ 特定の企業・団体と関わることなく、中立な立場からのアドバイスを提供します。 ・ 財務・リスク管理に関する実務、理論的研究およびコンサルティングの経験を有する専門家によって構成さ れています。 ・ 金融の理論と実務を融合させて、戦略的かつ経済価値と整合的な、これまでにない革新的なコンサルティン グを提供することを目指しています。 ・ 2007 年 1 月の設立以降、30 社以上の企業に対するコンサルティングを実施してきております。 「キャピタス ERM サーベイ 2013」結果概要 1.リスクガバナンス (1) ERM(または金融庁検査マニュアルの「統合的リスク管理態勢」)の担当部署について、最も近 いものを 1 つお選び下さい。 1 主にリスク管理部門(=リスク管理を統括する部門)が担当 2 主にリスク管理部門が担当しているが、必要に応じて経営企画部門、収益管理部門(収 益管理部、経理部、主計部など)等と連携を図っている 3 リスク管理部門と経営企画部門、収益管理部門など複数の部門が共同で担当 4 主に経営企画部門が担当 5 資産運用リスク管理部門、保険引受リスク管理部門など、個別リスクの管理部門が担当 6 個人保険部門、企業保険部門など、各事業部門のリスク管理機能が担当 7 その他 22% 51% 24% 3% 0% 0% 0% ・ 回答の半数が「主にリスク管理部門が担当し、必要に応じて関連部門と連携」となっているが、 インタビューで確認したところ、関連部門との連携状況は様々であり、実質的にリスク管理部門 だけが推進していると思われる会社もみられた。 ・ 国内系の場合、ERM 構築を積極的に進めている会社で「複数の部門が共同で担当」という回答 が多く、インタビューによると、経営企画部門が深く関与するようになる傾向が確認できた。 ・ 加えて、委員会組織等の活用状況についても確認したところ、大半の会社でリスク管理委員会等 を定期的に開き、リスクや資本十分性に関する議論を行っていた。また、全体の 3 割程度の会社 では、ERM 構築を目的とした委員会や PT を別途設置し、議論を進めていた。 (2) ERM における活動領域について、当てはまるものを全てお選び下さい。 1 統合リスク量を計測して自己資本等と対比し、モニタリングを行っている 2 予めリスク許容度を定め、超過した(または超過が見込まれる)場合には、リスク削減策 や資本増強策を検討し、超過状態を回避する規定となっている 3 ERMの枠組みを方針・規程等で文書化している 4 リスク管理委員会をはじめ、ERMにおける重要な判断や行動を記録している 5 ERMの現状に関する報告書を定期的に作成している 95% 89% 73% 92% 51% ・ 「4(=ERM における重要な判断や行動を記録)」に○を付けた会社の多くは、「経営会議(常 務会など)やリスク管理委員会等の記録を残している」という回答であり、その範囲を超えた取 り組みではなかった。 ・ これらの質問に加え、国内に本社があり、海外保険事業を行っているグループに対し、内外にお ける ERM の枠組みについて確認したところ、「海外も国内とほぼ同じ枠組み」という会社は少 -1- なく、本社と海外保険事業のリスク管理部門のレポーティングラインが直接つながっていないと ころも多かった。 (3) 経営陣の理解を深めるための取り組みについて、当てはまるものを全てお選び下さい。 1 経営会議やリスク管理委員会等の中で、十分な時間を確保して議論するようにしている 2 経営会議やリスク管理委員会等の前に、担当部門が報告内容(案)を個別説明している 3 経営会議やリスク管理委員会等とは別に、経営陣がERMに関連した議論を行う機会(例 えばリスクの洗い出し、ストレスシナリオの検討など)を設けている 4 ERMに関する勉強会やワークショップなどを年に数回開いている 5 経営会議やリスク管理委員会等のメンバーはERMに関する十分な理解があり、特段の 取り組みを行う必要はないと考えている 86% 54% 32% 35% 0% ・ 「3(=経営陣が ERM 関連の議論を行う機会を別途設けている)」「4(=ERM に関する勉強 会等を開催)」という回答も一定程度見られたが、その他の会社では、担当部門からの説明に依 存しているケースが多いようであった。 ・ ただし、ERM 構築を積極的に進めている会社のいくつかでは、担当部門からの報告や受け身の 勉強会ではなく、トップを含めた経営陣どうしで議論を行う機会を設け、理解を深めていた。 (4) 社内に向けた ERM に関する情報発信について、最も近いものを 1 つお選び下さい。 <経営トップの取り組み> 1 経営トップ自らが経営戦略におけるERMの重要性や取り組み状況について、全社に向け た情報発信を行っている 2 経営トップ自らが主に財務健全性の現状について、全社に向けた情報発信を行っている 3 トップ自らではないが、トップに代わり、経営陣または経営企画部門がERMの重要性や取 り組み状況について、全社に向けた情報発信を行っている 4 特段行っていない <リスク管理部門の取り組み> 1 ERMの重要性や取り組み状況について、全社に向けた情報発信を行っている 2 全社に向けた情報発信を特段行っていないが、関連部署に向けた情報発信や意見交換 等を行っている 3 特段行っていない 32% 24% 14% 30% 43% 57% 0% ・ トップによる ERM に関する情報発信や、経営企画部門やリスク管理部門による ERM 関連の情 報発信を行う会社が一定程度見られたが、その他の会社では社内での情報発信は限られていた。 ・ 上場保険グループに限って見ると、「トップ自らが全社に向けた情報発信」「リスク管理部門が 全社に向けた情報発信」という回答が多かった。 -2- (5) リスク選好を設定し、明文化している場合、次のうち貴社・グループの現状に当てはまるものを 全てお選び下さい 1 2 3 4 5 明文化した「リスク選好ステートメント」を全社に向けて示している 設定したリスク選好に基づいて中期経営計画や年度計画等を策定している 資産運用方針が設定したリスク選好を反映したものとなっている 保険引受方針や料率決定が設定したリスク選好を反映したものとなっている 販売計画が設定したリスク選好を反映したものとなっている 65% 70% 70% 39% 35% ・ 全体の 6 割がリスク選好として何らかの方針を定め、明文化しているとの回答だった(格付の維 持・向上や財務健全性の確保を主眼とした方針を含む)。おそらく、ここ数年でリスク選好を定 めた会社が多いとみられる。 ・ ただし、インタビューによると、経営として従来のリスクのとり方を再認識しただけの会社も多 く、部門ごとの事業運営やリスクカテゴリーごとの管理などに必ずしも十分結び付いていないケ ースが目立った。一部には、経営陣が現実にコントロールしたいと考えているものとのギャップ が生じているケースもみられた。 「リスクガバナンス」のまとめ ・ 本項目では、「ERM の推進役と推進体制」「社内外に ERM を浸透させるための取り組み」「リ スク選好の設定」などを確認することで、ERM を推進する体制の整備状況や、ERM が機能する リスク文化の醸成に向けた取り組み状況を分析した。 ・ 金融庁の ERM ヒアリング(2013 年 9 月公表)では、「前回のヒアリングにおいて、リスク管理 に対する経営陣の意識が総じて高まりつつあることや、リスク管理のプロセス改善に向けた継続 的な見直しに取り組んでいることなどを確認できた」ため、リスクガバナンスに関するヒアリン グを縮小した模様である。また、「平成 25 事務年度 金融モニタリング基本方針」には、大手生 損保等に対する水平的レビューでの検証項目として「リスクアペタイトフレームワークの経営計 画における活用状況」が盛り込まれており、早くもリスク選好の設定が前提となっている。 ・ しかし、今回のサーベイからは、複数の部門が共同で ERM を推進している会社が一定程度みら れるものの、実質的にリスク管理部門だけで推進していると思われる会社が少なくなかったうえ、 リスク文化の醸成に向けた取り組みも会社によって差がみられた。リスク選好に関しても、確か にここ数年で設定の必要性に関する認識が浸透し、実際に設定した会社が増えたとはいえ、総じ て導入段階にあることがうかがえた。 ・ なお、ERM 構築を積極的に進めている会社(複数)では、形式的な取り組みに陥らないよう、 経営陣どうしで何度も議論し、トップダウンでリスク文化の醸成に努めていた。 -3- 2.リスクコントロールプロセス ・ まず、会社が直面するリスクのうち、影響額が大きいと認識しているもの上位 3 つを挙げてもら ったところ、全体の 70%が「金利/ALM リスク」を、60%が「株式リスク」を、43%が「保険 引受リスク(自然災害等を除く)」を挙げた。 - 損保事業が中核を占めているグループでは「国内自然災害等のリスク」が上位となった。 (1) (影響額が大きいリスクとして「金利/ALM リスク」を挙げた会社に対し、)最も近いものを 1 つお選び下さい。 <3年前に比べ、当該リスクはどう変化しましたか> 1 大きく増えた 2 それほど大きな変化はない 3 大きく減らした 4 その他 12% 42% 38% 8% <現状は当該リスクについてどう認識していますか> 1 過大だと認識しており、削減する方向にある 2 過大だと認識しているが、何らかの理由により削減が進んでいない 3 概ね適切だと認識しており、大きく動かす予定はない 4 当該リスクを増やし、リターン拡大を追求したいと考えている 5 その他 35% 12% 35% 0% 19% ・ 同じ「金利/ALM リスク」でも、経済価値ベースの管理に軸足を置く会社では「金利低下による 価値の減少」、会計ベースの場合には「金利上昇による損失発生」を意識している点に留意。 ・ 「過大と認識しているが、削減が進んでいない」という回答の主な理由としては、「負債の伸び に資産の長期化が追いついていない」「これ以上長期化を進めるのは困難」「計測数値の信頼性 にやや欠ける」などが挙げられた。 <当該リスクを定量化していますか> 1 自社開発モデルにより定量化している 2 主に外部から購入したモデルを活用している 3 リスク係数(ソルベンシー規制のリスク係数を含む)により定量化している 4 定量化していない 5 その他 <計測を担当する部門について> 1 リスク管理部門が自ら当該リスクを計測している 2 リスク管理部門は、主としてフロント部門(資産運用部門、業務部門など)が計測したリス ク量を活用している 3 リスク管理部門は、主として収益管理部門(経理部、主計部など)が計測したリスク量を 活用している 4 その他 -4- 77% 15% 0% 0% 8% 88% 8% 0% 4% ・ 定量化したリスクの活用状況について聞いたところ、「定量化したリスクがリスクリミット等の 範囲内に収まっているか、定期的に確認している」「複数のリミット(例えばアラームポイント など)を設定し、管理している」という回答が多かった。 ・ インタビューによると、金利リスクのコントロールに際してはリスク量だけではなく、各種の金 利感応度に着目する会社が多いようであった。 ・ 金利リスク(や株式リスク等のリスク種類)に対するリミットを設定する会社と、市場リスク全 体(または資産運用リスク全体)でリミットを設定し、それよりも細かい単位のリミットは設定 しない会社に分かれた。 (2) 統合リスク量を計測して自己資本等と対比している場合、最も近いものを 1 つお選び下さい。 <自己資本等の十分性を判断する基準について> 1 ある信頼水準のもとで統合リスク量を算出し、自己資本等と対比 2 ある信頼水準のもとで統合リスク量を算出し、それに一定のバッファーを上乗せした額 と、自己資本等を対比 3 特定のストレスイベントによる自己資本等の毀損が生じてもなお、ある信頼水準のもとで 統合リスク量に相当する自己資本等を維持しているかを確認 4 その他 72% 16% 16% 0% ・ まず、「1」「2」「3」いずれも実施していない会社が 1 割強あった。 ・ 実施している会社の 7 割が「1(=統合リスク量と自己資本等を対比)」だったが、信頼水準を 高める方向のほか、「3(=特定のストレス時損失を踏まえて資本十分性を確認)」を導入する会 社が増えているようにうかがえた。 <計測を担当する部門について> 1 リスク管理部門が自ら統合リスク量を計測している 2 リスク管理部門以外の部署で統合リスク量を計測している 3 その他 97% 3% 0% <リスクコントロールプロセスの課題が明らかになり、改善に取り組んだことがあるでしょうか> 1 ある 2 ない 3 その他 66% 31% 3% ・ 計測を担当する部門としては、「1(=リスク管理部門)」が大半を占めた。ただし、一部の会社 では「個別リスクは各委員会で計測」「負債評価はグループ本社(または数理部門)で計測」と いう回答もあった。 -5- ・ 全体の 6 割以上が「リスクコントロールプロセスの改善に取り組んだことがある」という回答だ った。「リーマンショック時にリミット運営を強めた」「リミット超過時の経験を踏まえ、機動 的に動ける仕組みとした」など、特定の事象を契機にとした見直しのほか、「継続的に見直して いる」「経済価値ベースの枠組みにシフト」という回答も多かった。 「リスクコントロールプロセス」のまとめ ・ 本項目では、重要なリスクカテゴリーにおける管理プロセスや管理手法、PDCA サイクルの機能 状況などを分析した。 ・ わが国保険業界が直面する重大リスクの代表的なものは、リスク削減が進んだとはいえ、引き続 き「金利/ALM リスク」(=主に生保会社)と「株式リスク」、損保事業では「国内自然災害等 のリスク」が上位であり、様々な制約はあるものの、当該リスクを定量化し、モニタリングやコ ントロールを行い、必要に応じてプロセスの改善に取り組んでいた。 ・ 資本十分性の確認プロセスについても、過去の経験を踏まえつつ、多くの会社が継続的な見直し に取り組んでいた。従来は信頼水準を高める方向での見直しが目立っていたが、VaR の限界など を踏まえ、最近では信頼水準だけに着目するのではなく、特定のストレス時における資本十分性 の確認も行うなど、評価の枠組みを工夫する動きが目立った。 3.リスクプロファイルの把握 (1) リスクプロファイル把握の枠組みについて、最も近いものを 1 つお選び下さい。 1 専ら定量化したリスクの管理に注力しており、定量的に捉えにくいリスクへの対応は限ら れている 2 定量的に捉えにくいリスクを含め、自社・グループのリスクプロファイルを把握する枠組み がある。ただし、「現在は存在していない(あるいは認識されていない)が、環境変化等に よって顕在化するリスク」には対応していない 3 定量的に捉えにくいリスクを含め、自社・グループのリスクプロファイルを把握する枠組み があり、さらに、「現在は存在していない(あるいは認識されていない)が、環境変化等に よって顕在化するリスク」にも対応している 4 その他 5% 38% 57% 0% ・ 「リスクの洗い出し」「リスクの特定」といった、リスクプロファイル把握の枠組みについて聞 いたところ、「1(=定量化したリスクの管理に注力)」という回答はほとんどなく、いわゆる「エ マージングリスク」まで対応しているという回答が最も多かった。インタビューによると、こう した潮流はここ数年で見られるようになっているようだった。 -6- ・ ただし、やはりインタビューによると、リスク認識の網羅性を確保するために全社レベルでのリ スクの洗い出しを行うという状態にとどまっている会社が多く、十分機能するかどうかは今後の 取り組み次第と思われる。 (2) 統合的なストレステストの活用状況について、当てはまるものを全てお選び下さい。 1 自己資本等への影響度を確認し、経営陣に報告している 2 自己資本等への影響度を確認し、自己資本等が不足する場合には、リスク削減や資本 増強等のアクションを行う規定となっている 3 自己資本等への影響度を確認し、次年度の計画等に反映させる規定となっている 4 ストレステストの結果はあまり重視せず、むしろシナリオ設定プロセスを重視している 5 統合リスク管理ツール自体に特定のストレスシナリオを組み込んでいる 6 統合的なストレステストは行っておらず、必要に応じてカテゴリーごとのストレステストの 結果を合算している 7 統合的なストレステストの一環として、リバース・ストレステストを行っている 8 その他 94% 32% 21% 0% 21% 9% 56% 0% ・ ストレステストの活用状況について質問したところ、大半の会社が「1(=影響度を確認し、経営 陣に報告)」を選んでいた。 ・ それ以外の回答は一定割合の会社が選んでおり、ストレステストの結果を次のアクションに結び つける取り組みが出てきているようであった。また、「4(=結果よりもシナリオ設定プロセスを 重視)」という回答はなかった。 「リスクプロファイルの把握」のまとめ ・ 本項目では、エマージングリスクを含めたリスクプロファイルの把握手法や、把握したリスク情 報の活用状況について分析した。 ・ ERM に関する概念が浸透する以前は「リスクの洗い出し」に取り組んでいる会社は少なく、異 なるリスクカテゴリーをまたいだ統合的なストレステストも普及していなかったと思われる。 ・ しかし、今回のサーベイによると、ボトムアップまたはトップダウンによるリスクの洗い出しを 開始した会社が急速に増え、統合的なストレステストも大半の会社が実施していた。これは、金 融庁 ERM ヒアリングの「前回よりも、より多くの社で深度あるリスクプロファイルに関する取 り組みが進展していることが確認できた」という記述とも整合的である。 ・ ただし、このような取り組みは、導入当初はいいが、回数を重ねるごとにルーティン化し、形式 的な取り組みに陥りがちであるため、継続にあたっては工夫が必要と思われる。 -7- 4.内部モデル (1) 統合リスク管理ツールについて、最も近いものを 1 つお選び下さい。 <統合リスク管理ツールとして活用している指標> 1 主に規制資本や格付資本そのもの、あるいはそれを修正した指標を活用している 2 部分的に内部モデルを活用している(例えば、資産運用リスクは内部モデルを活用し、そ れ以外は規制資本のリスク係数を使う、など) 3 概ね内部モデルを活用している 4 その他 8% 30% 59% 3% ・ 統合リスク管理ツールとして活用している指標に内部モデルがどの程度使われているかを質問。 なお、ここで言う「内部モデル」には、自社開発モデルと同等の信頼性を確保している外部モデ ル(外部から購入したモデル)を含む。 ・ 回答によると、大半の会社が何らかの形で内部モデルを活用していた。 <経済価値ベースと現行会計ベース> 1 経済価値ベース(またはそれに準じた)評価に基づいた管理に軸足を置き、補完として規 制資本など現行会計ベースの指標のモニタリングを行っている 2 現行会計ベースに基づいた管理に軸足を置き、補完として経済価値ベース(またはそれ に準じた)評価に基づいた管理指標のモニタリングを行っている 3 経済価値ベース(またはそれに準じた)評価に基づいた管理と、現行会計ベースに基づ いた管理が併存しており、いずれかに軸足を置いてはいない 4 現行会計ベースに基づいた管理を行っている <現行会計ベースに基づいた管理に軸足を置いている場合、今後の予定> 1 当面変える予定はない 2 近い将来、経済価値ベース(またはそれに準じた)評価に基づいた管理に軸足を移す予 定 3 近い将来、経済価値ベース(またはそれに準じた)評価に基づいた管理を導入する予定 4 その他 41% 24% 27% 8% 25% 50% 25% 0% ・ 「現行会計ベースに基づいた管理のみ」という回答は 8%のみで、大半は「経済価値ベースに基 づいた管理」を導入しており、「経済価値ベースに軸足」という回答は 4 割に達していた。 ・ 「現行会計ベースに基づいた管理のみ」という状況を今後も継続するという会社は少数だったが、 経済価値ベースのソルベンシー規制や会計基準の導入が遅れるなかで、経済価値ベースに加えて 現行会計ベースの管理も考慮することが必要と考えている会社が過半数を占めていた。 -8- (2) 次のうち当てはまるものを全てお選び下さい。 <モデルの妥当性検証の状況について> 1 専門組織を設置し、モデル高度化の取り組みを行っている 2 外部専門機関と提携し、モデル高度化の取り組みを行っている 3 開発したモデルを審査する仕組みがある 4 モデルを定期的にレビューし、環境変化等を踏まえた見直しを継続的に行っている 5 代替的手法と比べた場合のモデルの特徴を把握している 6 特定の計算手法やパラメータを採用した理由を明確化している 7 経営陣が当該モデルの弱点や限界について認識する機会がある 8 第三者レビューによるモデルの検証を継続的に行っている 9 外部モデルを採用している場合、外部モデルが持つ特徴や限界を把握している 10 外部モデルを採用している場合、自社開発モデルと同様の水準で、外部モデルに対する 妥当性検証を行っている 34% 72% 9% 66% 16% 50% 50% 25% 28% 6% ・ モデルの妥当性検証の状況について質問したところ、自社の採用しているモデル化手法が、考え うる他の手法と比べてどのような特徴を持っているかを把握するための取り組みは、経営におい て ERM を積極的に活用する会社では進んでいるものの、全体としては十分に広がっていないよ うだった。 ・ バックテストや文書化についても確認したところ、7 割強の会社が何らかのバックテストを実施 しており、7 割弱の会社がモデルの概要に関する文書化を完了しているとのことだった。 「内部モデル」のまとめ ・ 本項目では、ERM を定量面から支える内部モデルについて、経営における活用状況やリスク統 合手法、モデルの妥当性検証や文書化の状況などを調査した。 ・ 近年、経済価値ベース(またはそれに準じた)評価に基づき、概ね内部モデルを活用していると いう会社は増加傾向にあるようだ。多くの会社が内部モデルの高度化を継続的に進め、必要に応 じて見直しを行っており、遅れていたとみられる「モデルの文書化」も進展していることがうか がえた。 ・ ただし、規制当局による内部モデル承認を視野に入れた場合には、モデル検証による統計品質確 保や文書化のほか、ユーステストを満たさなければならない。例えば、今回のサーベイでは、経 営陣が内部モデルの概要を理解し、弱点や限界について認識するための社内コミュニケーション には改善の余地が大きいことがうかがえ、重要な意思決定にかかわる多くの経営陣にとって内部 モデルがブラックボックス化しないための取り組みが十分かどうか、疑問が残った。 -9- 5.経営戦略と ERM (1) ERM の活用に関して、最も近いものを1つ選び、ご記入ください。 4:十分に組み込んでいる 3:ある程度組み込んでいる 2:部分的に組み込んでいる 1:組み込んでいるとは言い難い <ERMの活用状況> 1 資産運用方針の決定・見直しプロセス 2 保険引受や料率設定のプロセス 3 商品開発プロセス 4 出再保険スキームの決定・見直しプロセス 5 販売計画の策定プロセス 6 毎年度の予算策定プロセス 7 中期経営計画等の策定プロセス 8 大型新規投資案件の判断プロセス 9 経営陣の報酬決定プロセス 10 資本政策(株主配当を含む)の決定プロセス 11 契約者配当の決定プロセス 平均値 3.1 2.3 2.2 2.5 1.7 2.2 2.5 2.1 1.4 2.5 1.5 ・ ERM の活用状況について 4 段階で評価していただき、これを基にインタビューを実施した。 ・ 最も自己評価が高かったのは「資産運用方針の決定・見直しプロセス」だった。ただし、判断基 準は会社により大きく異なっているため、例えば同じ「4」であっても、次のような違いがある。 - 経済価値ベースでの「リスク」「資本」「リターン」運営を実施 - 体制整備ができており、(経済価値ベースの)リスク対リターンを確認 - サープラスの増減を見て計画を決定 - 厳しいルールのもとに運営され、(会計ベースの)リスク・リターンを管理 - リスク管理部門が投融資委員会に参加し、ERM の観点から指摘 - 経営会議に上げる際、リスク管理部門が評価を実施 など (2) 将来にわたるリスクと自己資本等の評価について、最も近いものを 1 つお選び下さい。 1 現在進捗中の中期経営計画に基づいて、定期的に将来にわたるリスクと自己資本等の 評価を行っている(ストレス時の分析を含む) 2 中期経営計画の策定時に、将来にわたるリスクと自己資本等の評価を行っている 3 中期経営計画とは別途に、定期的に将来にわたるリスクと自己資本等の評価を行ってい る 4 現在のところ、将来にわたるリスクと自己資本等の評価を行っていない 5 その他 - 10 - 24% 54% 8% 11% 3% ・ ORSA の重要な要素である継続性分析を意識して、将来にわたるリスクと自己資本等の評価につ いて質問した。 ・ 「4(=将来にわたるリスクと自己資本等の評価を行っていない)」という回答や、「1(=中期 計画に基づいて将来分析を実施、すなわち、中期経営計画を所与として、後追いで将来分析を実 施)」という回答は少なかった。ERM 構築に積極的な会社を中心に、中期計画の策定時におい て、将来にわたるリスクと自己資本等の評価を実施し、計画に反映させるという流れが定着しつ つあることがうかがえる。 ・ 具体的には「中計策定時に中計シナリオに沿った 3 年後の統合リスク量の状況を確認」「中計策 定時にメイン&ストレスシナリオに基づく 5 年シミュレーションを実施」といった取り組みが多 かったが、「(中計シナリオだけでは)継続性分析としては不十分」という声もあった。 「経営戦略と ERM」のまとめ ・ 本項目では、経営における現在および将来の活用状況に焦点を当て、事業運営や経営計画策定な ど、経営の意思決定プロセスに ERM がどの程度組み込まれているかを分析した。 ・ ERM 構築を積極的に進めている会社を中心に、リスク選好フレームワークのもとで、将来にわ たる経済価値ベースでの「リスク」「資本」「リターン」を確認したうえで経営計画や資産運用 方針を決定し、事業投資判断を行う会社も徐々に現れている。 ・ 他方で、ERM 高度化として優先的に取り組んでいる項目には、どちらかといえばリスク管理部 門(または関連部門)で完結できる技術的なものが多く、現状の枠組みを大きく見直すような取 り組みは将来課題と位置付けられていることが多いように感じられた。経営陣が ERM 構築に積 極的な会社と、そうではない会社とで取り組み姿勢に差が生じている可能性がある。 以 - 11 - 上
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