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2015年度 情報エレクトロニクス概論
(情報論的)エントロピー
--- 様々な研究分野をつなぐキー・コンセプト ---
平成27年5月13日(水曜日 第1講時) @オープンホール
情報科学研究科 井上 純一
http://chaosweb.complex.eng.hokudai.ac.jp/~j_inoue/
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この講義の目的
○ 必ずしも事前知識を持たない受講生に
<<エントロピー>>の初歩について理解してもらう
○ 科学技術の様々な場面で<<エントロピー>>
が顔を出すことを見て行く
○ ある人にとっては<<エントロピー>>の「復習」に
なるかもしれないが、 この際、勘弁してもらう
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位置の散らばり (1/2)
札幌の初夏
札幌の秋
位置の散らばり「大」
位置の散らばり「小」
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位置の散らばり (2/2)
ある朝の私の机
位置の散らばり「小」
その日の夕刻の私の机
(本当はもっと「散らかって」ます)
位置の散らばり「大」
上の矢印が、整理整頓のための外からの仕事を与えることなしに
自発的に逆向きに進むことはあり得ない。
(一年間、整頓しないままならば、益々散らかって行くが、ある日突然
偶然にも左側の図の状態へ戻る可能性は「実質的にゼロ」である)
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速度のちらばり
利用可能な動力「大」
利用可能な動力「小」
全体として
車を構成する分子
走行する車
一つの(水素)分子の速さ
1気圧、室温での気体
もし分子達が揃って運動すれば、我々が即死するレベルのモーレツな速さ
⇒ 実際には、速度の散らばりが大きいお陰で悲惨なことにならない
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気体分子の散らばりが小さければ・・・
気体分子が
隅にかたまる
教室の天井が
吹き飛ぶ
我々は窒息死する
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人類は、このような出来事(事件)にお目にかかった試しはない
⇒ 自然界では、「散らばり」が自律的に大きくなるようになっているのではないか?
散らばりの度合い = エントロピー
散らばりが大きい = エントロピーが大きい
エントロピーの
(ミクロな)式
場合の数
=散らばり度
例) 熱機関
高温熱源 T1
Q1 = E_in
動力 (仕事)
入力エネルギー
利用可能な動力が小さい = エントロピーが大きい
エントロピー廃棄量 = Q2/T2 ≒ Q2
が大きければ、利用可能動力は小さい
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Q2 (廃熱)
低温熱源
T2
時間の向きとエントロピー増大
A
B
仕切りをとると
低温の「遅い分子」
高温の「速い分子」
適度に混ざる
何年待とうが、逆向きが
達成されることは「実質的に(確率的に)」
あり得ない (不可逆)
これは不思議だ ! ⇒ 「一分子」の運動方程式は「可逆」 (時間反転対称性)
において、t → -t とすると
つまり
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⇒ すなわち、x(-t)もまた解である
熱力学第2法則
系A、Bを接触させる
WA
WB
qA
qB
TA
第1法則 (エネルギー保存)
WA − qA + WB − qB = 0
TB
外から仕事は行われない
不可逆過程の例)
TA > TB
したがって
qA = −qB , qB > 0
ΔS A + ΔS B = qB
(
1
TB
第2法則
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熱が高温から低温へ移動
)
− T1A > 0
エントロピーは増加
ΔS A + ΔS B ≥ 0
熱機関: カルノー・サイクル
仮想的可逆過程の例
全エントロピーは不変
熱源
T1
q1 = +T1ΔS
q1
W
q2 = −T2ΔS
T2
熱効率
η=
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q2
W
q1
=
熱源
T1 −T2
T1
<1
カルノー効率
P
等温膨張
断熱圧縮
W
等温圧縮
T1
断熱膨張
T2
V
スターリング・エンジン
熱エネルギーからの変換効率は
カルノーサイクルに最も近い 例えば手のひらの温度
と室温との間の温度差で
仕事を取り出せる
「温度差」があれば
いいので、氷の上に
のせても良い
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燃料電池の最大効率(1/3)
(参考文献: 矢吹哲夫 先生 「酪農学園大学紀要」)
エネルギーも含めた燃料電池(化学反応によって電力を取り出す)の化学反応式は
エネルギー保存則(第1法則): 従って、燃料電池を「機関」とした場合の入力エネルギーは
エントロピー増大則(第2法則): 12/33
燃料電池の最大効率(2/3)
燃料電池(機関)に入るエントロピーは
従って、最大効率は
エントロピーの分だけ、効率が「劣化」する
実データより、T_out = 25℃=298[K]、1気圧において、下記を代入
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燃料電池の最大効率(3/3)
同じ効率0.8298を「熱機関」で達成しようとすれば
つまり、高温熱源の温度は、これを解いて
ここまでの高温では、熱機関の材質は持ちこたえることが
できず、融けてしまう。なので、実質的に不可能。
(鉄の融点は約1500℃)
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生命とエントロピー
η = Wq = 1
1
は達成されない。つまり、 q1
=W
とはできない。
すなわち、高温から受け取る熱を100%力学的エネルギーに変えることはできない。
低温側に
q2
の熱を捨てなければならない。
エントロピーで考えると
ΔS = Tq11
だけ増加したエントロピーを
「負のエントロピー」
ΔS = − Tq22
シュレーディンガー「生命とは何か」(1940)
「生命は活動するために、食物を食べることで
負のエントロピーを得ている」
実際には、「発汗」「排泄」によってエントロピーを廃棄している
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捨てる必要がある
エントロピーのミクロな定式化
場合の数(ミクロな量): 乗法性
・・・・
系1
W = W1 ×⋅⋅⋅× WN
系N
両者を満たすような関数形を探す
S = f (W )
S = k log W
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エントロピー(マクロな量): 加法性
S = S1 + ⋅⋅⋅ + S N
机の上の散らかり再考
エントロピー小
エントロピー大
それぞれの「場合の数」を計算してみよう
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k logWとQ/Tの関係(ラフな考察)
マクロな(熱力学的)定義式
ミクロな定義式
温度Tは分子運動論的に、分子一個あたりの平均運動エネルギーに比例する
つまり
=
出入りする熱エネルギー
分子一個あたりの平均運動エネルギー
= 出入りする分子の平均個数
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≒
出入りする分子の「速度の散らばり」
情報とエントロピー
情報理論(通信理論)の基礎はほぼシャノン一人によって確立された
“A mathematical theory of communication” (1948)
情報源符号化定理
エントロピー概念の導入
通信路符号化定理
今回
触れない
標本化定理
クロード・シャノン
情報量 :
− log p
p( E ) = p
はある事象Eが起こる確率
抽象的概念である「情報」の量の数学的な定義
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「通報」に対する「驚き度」と情報量
pが小さい「めったに起きない」通報を受けると
我々の「驚きの度合い」は大きい
pが大きい「ありきたり」の通報を受けても
我々の「驚きの度合い」は小さい
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情報論的エントロピー
エントロピー = 平均情報量
事象「i」の起こる確率
例) 事象「0」「1」のいずれかが起こり、それぞれの確率がp、1-pで与えられると
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シャノンの原著論文より
p=1/2
で最大
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2値エントロピー関数
乳児、成人の発話を例にして
赤ちゃん
「ダー、ダー、ダー、ダー、ダー」
驚きの度合い=0、エントロピー=0
「予測」しやすい
成人
「先日、小樽に行って、運河を見た、寒かったが、楽しかった」
○ 驚きの度合いは「文脈」に依存して決まる
○ エントロピー > 0
○ 計算には膨大なデータベースが必要
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「予測」しにくい
語彙の出現頻度と情報の圧縮
赤ちゃん
「ダー、ダー、ダー、ダー、ダー」
「ダー」( =ミルクが欲しい) しか言わないのだから、5回も必要なし⇒ 1回で十分
⇒ メッセージの長さが1/5に圧縮できる
○ 出現頻度が大きい言葉は短くし、頻度が低い言葉は
長くする (あいまいさを無くす)ことでメッセージの長さ(平均符号長)
を最適化できないか? ⇒ できる
○ できるなら、どこまで短くなるか? 24/33
圧縮の限界
秩序-無秩序の世界(1/2)
イジングモデル
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隣り合う者同士は同じ符号をとり易い
秩序-無秩序の世界(2/2)
真っ白 1
「相転移」近傍
= フラクタル構造
0.5
エントロピーSの
高い状態が有利
m
エネルギーEの低い
状態が有利
0
= +1のスピン
の割合
自由エネルギー
-0.5
を最小にする状態が実現
真っ黒
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-1
0
0.5
1
1/J
1.5
2
組み合わせ最適化
エネルギー
エネルギー関数: を最小とする配列: 解空間
を求める
01001010101001010
01011000001001000
01010001000010101
………..
…..
10111101000000000
GA等で
配列を更新
解候補のエントロピー大
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01001000000010010
01001000000010010 最良個体
01001000000010010 のみ
01001000000010010 生き残る
….
01001000000010010
解候補のエントロピー最小
= 確率1で解が求まる
マクスウェルの悪魔 A
B
仕切りをとると
低温の「遅い分子」
高温の「速い分子」
「窓」を制御して
分子を選別する
適度に混ざる
エントロピー増大
<反論例>
◇ 黒体放射
(分子を見れない)
◇分子間力の到達距離
◇不確定性原理
全能の悪魔が居て、早い分子と遅い分子を分別する
⇒ 仕事の消費無しに部屋Aの温度を下げることができるのでは?
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情報の負エントロピー原理(1/2)
L. ブリルアン「科学と情報理論」(Science and Information Theory) (1956)
等しい確率で生じるW0個の事象を考えるとき、将来起こりうる事象の
場合の数をW1<W0に減らすためには「情報」を必要とする。
はじめ: I 0 = 0 W0
おわり: I1 > 0 W1
W0 ⎞
⎛
I1 = k log ⎜
= S0 − S1
⎟
⎝ W1 ⎠
情報=エントロピーの減少量=負エントロピーの増加量
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情報の負エントロピー原理 (2/2)
ΔS1 ≥ 0
系のエントロピーを減少させたあと、系を孤立させると
W
I1 = k log ⎛⎜ 0 ⎞⎟ = S0 − S1
⎝ W1 ⎠
より
Δ ( S0 − I1 ) ≥ 0
カルノーの原理
エントロピーの増加はS0の増加、あるいは、-I1の増加
ΔI1 ≤ 0
孤立系では情報の損失が起こる
カルノーの原理に対応
例) ○ 自分の考え(情報)を英語でイギリス人の友人に話す
⇒ 英語への「符号化」の際に誤りが生じて情報損失が起こる
○ 通信手段によっては、通信系の熱雑音などにより、情報損失が起こる
○ 時間が経過し、自分の考えを忘れてしまった場合にも情報の損失が起こる
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マクスウェルの悪魔再考
Demers の議論
魔物に懐中電灯を持たせる(黒体輻射に対する対応)
魔物は分子の位置情報を得て、窓を開閉する
⇒ 負のエントロピーを生産する
しかし、
懐中電灯の負エントロピーの損失 > 得られる負エントロピー
結局、カルノーの原理を満たす
この他にSzilard の議論(1929年)等参照
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熱力学と情報理論
負のエントロピー N = 情報量 I 温度 T = 熱雑音 (ノイズ)
高温(ノイズ大)においては、ノイズに打ち勝つように
情報を伝達するために必要な仕事量は大きくなる
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おわりに
シャノン論文の参考文献
専門(電子工学)以外の研究分野の論文を参考としている
情報理論は今でいうところの「境界領域」の研究として創出された
エントロピーをキーとした、境界領域からブレークスルーが生まれるかもしれない
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