「調べてない物が危険!。」 (PDF 354KB

調べてないものが危険!
化学物質による大気汚染から健康を守る会 津谷裕子
空気の汚染から健康を守るための大気汚染防止法などで色々な物質についての
規制があります。
1.煤煙(亜硫酸ガス、NOx、一酸化炭素、煤煙等)、
2.有害物質 5 種(カドミウム&化合物、塩素と塩化水素、フッ素&フッ化水素&フッ化ケイ
素、鉛&化合物、窒素酸化物)、
3.粉塵、
4.自動車排気ガス、
5.特定物質・合成や分解等化学処理に伴い発生し健康や生活環境被害の恐れある物質
28 種(塩素、臭素、黄燐、三塩化燐、フッ化水素、シアン化水素、硫化水素、燐化水素、塩化水
素、二酸化窒素、二酸化硫黄、二硫化炭素、硫酸(三酸化硫黄を含む)、二酸化セレン、フッ化
ケイ素、五塩化燐、アンモニア、一酸化炭素、ニッケルカルボニル、ホルムアルデヒド、アク
ロレイン、メタノール、ベンゼン、ピリジン、フェノール、ホスゲン、クロルスルホン酸、メ
ルカプタン)、
6.有害大気汚染物質 248 種. そのうち、
6a.指定物質 3 種(ベンゼン 0.003mg/m3、トリクロロエチレン 0.2、テトラクロロエ
チレン 0.2、ジクロロメタン 0.15。)、
6b.優先取組物質 23 種、
7.室内ガイドライン 13 種(ホルムアルデヒド 100μg/m3:0.08ppm、トルエン 260:0.07、キ
シレン 870:0.20、エチルベンゼン 3800:0.88、スチレン 220:0.05、パラジクロロベンゼン
240:0.04、クロルピリホス 1(小児 0.1) :0.07(0.007)、フタル酸ジ-n-ブチル 220:0.02、テ
トラデカン 330:0.04、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル 120:7.6、アセトアルデヒド
48:0.03、ダイアジノン 0.29:0.02、フェノブカルブ 33:3.8)、
8.ダイオキシン類対策特別措置法
です。観点が違うために、同じ物質が別の規制でもたいしょうになっているのもあり
ます。これらの中 1.煤煙から 4.特定物質までは古い時代に主な公害であった物質で
す。5.特定物質は、主に工場での発生を問題にしたものです。
それに比べて 6.有害大気汚染物質 248 種は、日本の大気汚染原因となり長期吸入毒性
が知られているものです。しかし、それを規制しようとすると分析の方法や限界の濃度を決めるの
には研究資料が足りなくて、6a.指定物質 3 種と 6b.優先取組物質以外は何等の具体的な
対策も講じられていないのです。実際には、それらは急速に用途と使用量が増えて、工事現場
や新品の購入でも、また廃棄物処理場での作業でも発生量が多くなっています。
職場や家の工事など近隣の汚染や、廃棄物処理場などからの広範な空気汚染で健康が損な
われて原因調査の分析を頼んでも、たいていの場合には、上記の規制濃度が決まった 6a.指
定物質 3 種と 6b.優先取組物質と室内ガイドライン対象だけ調べて、それらの限界濃度
よりも薄いからという理由で、害がないものとみなされることが多いのです。その他に
大気汚染防止法でノミネートされている 6.有害大気汚染物質が 210 種以上もありなが
ら、その危険性は無視されてしまうのです。毒性情報を調べてみると、6a.指定物質 3
種と 6b.優先取組物質よりも、はるかに薄い濃度で健康影響が重大であり、かつまた身
近な空気から頻繁に体験されるものが少なくありません。
PM2.5のように昔からもあった空気汚染やダイオキシン、農薬のように良く調べ
られるようになった有害物質ばかりでなく、もっと身近でもっとはるかに高濃度に忍び
寄ってきている新しい空気汚染に気をつけないと私たちや次世代の健康は守れません。
民族を守るためにはどのような政治よりも、科学的な観点から空気を守る政治が一番重
要です。
具体的に、書いてみましょう。
1. バッファロー市の見えないゴミ
米国バッファロー市の新興住宅地で、元気いっぱいだった少女たちが次々と何時
とはなしに体調を崩し、何年も診断もつかないまま次第に重症化し力尽きて死んで
いったのです。子供相手の雑貨屋さんがその異常さに気づき、科学者を探して相談
し始め、誰も知らなかった廃棄物埋設がその地域の中にあったことを知ったので
す。健康被害者からは 210 種以上の化学物質が検出されました。そのどれが病気の
原因だと決めようもない多種類でした。日本ではそんな分析で診断してくれる病院
も全くないのです。被害は明るみに出ないでネグレクトされています。「免疫の逆
襲」ダイヤモンド社・参照。
2. 煙が見えない空気汚染
廃棄物を十分なな量の酸素・空気を送りながら十分な温度に十分な時間保持して
焼却すると、有害物を含む有機化合物も完全に無機化合物に変わります。ダイオキ
シンが無機化できて再生しない温度も分かっています。無機化してできるものは大
部分が水と炭酸ガスです。植物を育てれば炭酸ガスを酸素に変えてくれます。NO
xや塩化水素等も少しできますが、これらは昔の空気汚染物質だったし単純な化合
物なので除去の方法も知られています。そして、焼却しているときの排出空気は温
度が高く沢山の水を含むので、煙突から出て冷やされると黙々と煙が見えます。空
の上の雲が、白雲だったり黒雲だったりするのと同じように、光の具合と水滴の大
きさによっては黒っぽく見えることもあります。ところが合成樹脂系廃棄物を焼却
前に小さく砕いたり、掻き混ぜたりなど動かしていると、その物理的作用で有害な
有機物や粉塵の大気汚染物質が多量に発生します。リサイクルの目的は良いことで
すがその環境はほとんど調べられていません。健康被害が出て、相当な濃度の大気
汚染が少なくとも数キロメートルに及んだ杉並中継所の時は、被害者の症状は青酸
ガスかイソシアネートでなければ説明できないものであり、事実、精密分析で聞い
たこともない種類の有機青酸化合物もイソシアネートも検出されました。また、合
成樹脂の分解でできる炭化水素類が酸化したアルデヒド類、ケトン類、カルボン酸
エステル類の種類も品揃えしたように検出されました。高濃度のフロンやジクロロ
メタンなどの塩素化合物と、珍しい種類のダイオキシン類さえも都内でダントツの
濃度で検出されました。この排出空気は広く性質が離れた多種類の有害物の混合体
なので、きれいに除去することができません。燃やすことだけがきれいにする方法
です。この汚染空気は温度が低く水蒸気が冷えた水滴がないので目には見えませ
ん。この分析結果は公害等調整委員会で報告書になっているにもかかわらず、行政
では「杉並中継所の健康被害原因は下水中に腐敗によって生じた硫化水素のためで
ある」としか答えません。
3.臭わない空気汚染
空気汚染を防ぐのに悪臭防止法というのもあります。生物系廃棄物などから発生
する汚染には悪臭があります。また樹脂系塗料や接着剤を使う時には使い良くする
ためにトルエンやキシレンなどの有機溶媒で薄く溶かします。有機溶媒は匂いが強
くて、また多量に使うので分析でも分かりやすく、それが健康被害の原因と思いこ
まれることが多いのですが、実は、それに臭いもしない程度にうっすらと含まれて
いる合成樹脂が猛毒なのです。塗料や接着剤、防水材、舗装材などで多く使われて
いるアクリロニトリルやポリウレタンのモノマーは、分析でも分かり難いので有機
溶媒の陰に隠れた極悪人なのです。
4.規制がない空気汚染 248 種
市民感覚では、そんな極悪な化合物が広く使われているならば、当然規制がある
と思うでしょうが、実際には種類が多いポリウレタンモノマーには日本では環境規
制がありません。分析も難しくて、それらをまとめた分析が必要なのですが日本に
は分析用試薬の輸入さえもありません。そして国土面積当たりの使用量は開発国樹
の米国に比べて 10 倍も多いのです。欧米など国際的には 30 年も前から対策研究が
盛んで実際の対策も実施され、さらに対策を強めようと動き始めています。最近の
化学物質日会を調べるとほとんどがイソシアネート汚染です。街を歩けば新材料で
厚化粧したような家が並んでいます。規制が追い付かない有害化合物は次々と身近
に現れるでしょう。市民には自己責任で自衛が出来るでしょうか??
5.分析方法と報告書式によって見えない空気汚染
分析して調べればよいではないか、と思うでしょうが、それには二つの落とし穴
があります。まず最初に分析法の限界です。有害有機化合物の種類が多くて、その
構造や性質が広く違うので全種類を調べられないこと、また強い有害物は化学反応
しやすい上に濃度が薄くて分析作業の間に消え失せてしまうことです。(物質不滅
の法則は元素にだけ当てはまり、化合物は消滅するのです)。次には報告書の書き
方で、どんな有害物があったのか、大気汚染防止法だけでも248種あるのに検出
された種類を全部書かずに、指定物質と優先取組物質、良くてもそれにごく高濃度
な検出物質の濃度だけを記載して、「法令濃度よりも低いから安全」と説明するこ
とです。有害物の種類によって、有害な濃度は10万倍もの範囲で相違します。ど
んなに薄くても検出される濃度ならば有害なものもあります。それらを考慮してな
くて、非科学的な「安全だ」という分析報告書がほとんどです。それらを見分ける
市民の学習が自衛手段の一つになります。
6.変動が激しくて見えない空気汚染
有害かどうかは確かに濃度にもよりますが、実際の空気汚染は甚だしく濃度が変
動しています。10回やそこらの濃度測定では、年間の平均濃度も決められませ
ん。東京都では全国に先駆けて、1時間ごとの揮発性有機化合物100種類の連続
測定を実施しています。簡易測定器を手元に置いて空気汚染の状態を体調と見比べ
ながら監視するのも市民の自衛の一つの方法です。行政が民族の命の危機を守ろう
としてくれない現在は、市民が行政に代わって皆を守らないわけにはいきませんか
らね。悲しい現実ですけれども。
7.被害のネグレクト、差別され切り捨てられている被害者たち
新しい大気汚染の被害者たちは急速に増えています。行政も司法も対応する科学的な
基礎知識が足りません。研究者と医者は現在進行中の足元の有害物汚染とそれに苦しむ
市民の実情を感じ取っていません。被害者は医療からも疎外され、司法からも無視され、
健康で文化的な生活はおろか私有財産さえも失うという基本的人権ももぎ取られ、職にも
通学にも不自由で、市民としてネグレクトされ切り捨てられています。この問題を理解するに
は医者や分析化学だけでなく、毒性学は勿論のこと材料科学や機械工学、気象研究者た
ちの広範なジョイントが必要な筈ですが、日本の学会体質から見て望むべくもありません。
唯一頼りにするしかないのは、生活実態と被害実態を体感できる市民の科学調査活動で
す。
完