7.1 液状化 「説明文」 地盤の地震時液状化現象は,大きな揺れを受けた

7.1 液状化
「説明文」
地盤の地震時液状化現象は,大きな揺れを受けた地盤があたかも液体のように振舞う現象である.古
文書にも液状化現象と見られる事実の記録はあるが,工学的には 1964 年 3 月 28 日に米国で起こったア
ラスカ地震と同年 6 月 16 日に日本で起こった新潟地震の液状化被害の甚大さから,その重要性が認識
され,本格的な研究が始まった.
液状化の被害に対処するためには,液状化現象で生じる被害や発生メカニズムを理解した上で,それ
を予測し,対策する必要がある.被害予測では,まず,対象となる地盤を構成する土の液状化抵抗評価
(材料特性)を行い,次に考慮している設計地震外力や実際の対象構造物や地盤の境界条件に対して地
盤の液状化被害の予測(境界値問題)を行う.被害が著しいと予測される場合には,その対象の重要度
等を考慮して適切な液状化対策を行う.以上から,ロードマップでは以下の 4 項目に大別して記述した.
①
液状化現象(全般)
「液状化現象」の説明をやや専門的に記すと,「飽和した緩い砂質地盤が,地震動によってある大き
さ以上の繰返しのせん断応力を受けると,土の過剰間隙水圧が上昇し,有効応力を失い,あたかも液体
のような振る舞いをする.過剰間隙水圧が上昇するのは,緩い砂質地盤が負のダイレイタンシー特性を
有しているからである.また,有効応力は,過剰間隙水圧の消散とともに回復し,砂質地盤は再び強度
を発揮する.細粒分含有率が増えるほど土は一般的に粘着力(有効応力に起因しないせん断強度)を発
揮するので,そのような土はせん断強度を完全に失うことはなく,液状化による被害は免れる.」とな
る.しかし,液状化現象の定義となると,現在でも研究者間で完全な合意が得られていない.実際,1960
年代 1970 年代から議論があった[Seed(1966), Casagrande(1971), Castoro(1975)他]ことは良く知られてい
る.
液状化研究の黎明期から 1995 年阪神・淡路大震災までは,液状化被害予測の目的は液状化に対して
地盤が安定であるか否かを判定することにあった.すなわち,いわゆる“安定問題”と認識されており,
もっぱら地盤が液状化するかどうか,安定を失うかどうかという問題設定であった.一方,1995 年阪神・
淡路大震災では,これまで経験していないほどの強大な地震動が作用した結果,多くの地盤に液状化被
害をもたらしたが,被害には程度の差があることが認識された.2011 年東日本大震災を経験した現在で
は,液状化に対しても完全に安全なものを目指すのではなく,液状化被害を許容範囲内で留める性能仕
様設計を目指す流れにある.すなわち,現在は液状化被害予測の問題設定が“安定問題”から“変形問
題”に移行している過渡期となっている.他の地震工学・耐震工学に関係する問題と同様に,液状化研
究も被害地震を教訓に,多くの課題が浮かび上がり,それに対応する形で技術開発が進歩している.ロ
ードマップの過去の部分では,過去の地震における液状化被害のトピックを記述した.
一方,将来的な展望に目を向けると,近年の情報社会の進展に伴って,液状化マップの高精度化やリ
アルタイムモニタリング技術への応用など,ソフト的な減災対応技術が益々進むであろう.地盤情報が
ビックデータとして取り扱えるようになった場合には,液状化危険度評価も各段に進展が期待される.
加えて,液状化のやっかいな自然災害の側面にスポットを当てるのでは無く,液状化の積極的な制御や
利用による新たな技術の展開も視野にいれた技術開発も考えられる.免震・制震技術への応用や土砂運
搬技術への応用などがその候補である.
②
土の液状化抵抗評価(材料特性)
土の液状化抵抗評価は,室内試験・原位置試験・構成式の 3 つの観点から展望した.
1) 室内試験:土要素の液状化研究は,きれいな砂を対象にした非排水繰返しせん断試験から始まって
いる.これまで,液状化強度に及ぼす様々な条件(密度,粒度,細粒分含有率,飽和度,堆積環境,
載荷特性,応力状態など)が要素試験から調べられている.ここ 50 年来の被害の経験から,きれい
な砂に留まらず,礫質土や細粒分を多く含む土,残積土,不飽和火山灰土など,液状化の検討対象
となる土の種類は広がっている.液状化に対する土材料の抵抗性能の評価としては,これらの様々
な土に普遍的に適用できる液状化抵抗性能の概念の構築が必要である.大きく区分けすれば,砂よ
り粒子の細かいシルトや粘土系の材料の液状化抵抗特性と砂より粒径の大きな礫のそれはメカニズ
ムが違うため,異なるアプローチが必要となる.また,しばしば液状化による変形は地震動が終息
した後にも発生していることから,地震後の浸透などの進行性破壊を考慮した特性の解明が待たれ
る.そのためには,せん断中からせん断後に体積変化を含めた液状化抵抗の評価が必要である.こ
れらの学術成果を実務の液状化対策へどのように活かすかも課題である.
2) 原位置試験:実際の原位置で地盤の液状化抵抗を評価する方法論としては,これまで N 値や CPT の
利用が主であった.N 値に対する地盤の良否の解釈は,主に粘性土系と砂質土系の地盤に大別され
ており,液状化で問題となるシルトや砂質ロームなど粘性土と砂質土の中間的な性質を持つ土に対
しての取り扱いが確立していない.力学的な貫入抵抗値の他,間隙水圧の応答なども合わせて計測
する調査法も開発されている.原位置での液状化抵抗試験などの開発も望まれる.原位置での試験
は,現地の応力状態や乱さない堆積環境での液状化抵抗性能を反映しており,年代効果も入った形
で評価できるものとして期待される.調査手法で得られる情報量と経費はトレードオフの関係にあ
るが,安い経費で広い範囲を俯瞰的に簡易に調査するニーズと経費はかかっても正確で高精度な調
査がほしいニーズの両方がある.
3) 構成式:数値解析に用いる液状化地盤の土の構成式の研究は着実に進展している.今後は,これま
で蓄積されてきたきれいな砂だけでなく,シルトを多く含む細粒土のモデルや堆積環境や年代効果
のモデル化の発展が望まれる.現在は弾塑性理論に基づくモデルが主流となっているが,流動のよ
うな大変形挙動への適用性は未確認であり,粒状体モデルなど他の理論にモデルの発展ものぞまれ
る.また,地盤の変形性能が問題となることから,土の耐液状化性能をどのように考えるかを明確
にした上で,1)の室内試験や 2)原位置試験の結果との対応関係が容易にできる構成側のキャリブレ
ーション技術が望まれる.
③
地盤の液状化被害の予測(境界値問題)
実際の境界条件の下である地震動を対象にしたある構造物や地盤の液状化被害予測は,実務上最もニ
ーズが高い.液状化の被害の予測や設計法はひと通り実務で供されるものになっているが,その精度は
現状では倍半分の世界であり,引き続き設計技術の精度向上が望まれる.液状化による被害のメカニズ
ムは画一的でないため,種々の被害パターンに対応した予測技術が必要になる.
液状化の被害予測は,二相混合体理論と複雑な構成式を駆使した高度な変形量評価,簡易な地震応答
解析による地盤内せん断応力の予測と原位置調査・室内試験による地盤の液状化強度把握を組み合わせ
た評価手法,過去の地震における統計データに基づく液状化履歴マップによる評価などの多種多様な方
法がある.それらの手法は相反するものではなく,互いに補完し,液状化評価を行う目的に応じて使い
分ければ良い.被害量の予測において,瞬間的な力の釣合に基づく安全率を模した FL 値がパラメータ
として予測手法に組み込まれている場合が散見され,その有効性もある程度確認されている.ただし,
その物理的意味から,本来は多様な地震動の特性(最大値,周期特性,継続時間など)を考慮した被害
量の予測に対して万能ではなく,液状化被害予測の目的が,被害率の低減にあるのか,個別重要構造物
の保全にあるのか明確に区別し,物理的メカニズムを熟慮して被害予測を行っていくことが今後の課題
と考えられる.
さらに,被害予測や危険度評価を事前の予防にどのようにリスクコミュニケーションしてゆくのか,
被災後の復旧技術関連での予測成果の利活用には様々な利用余地が残されている.
④
液状化対策
ロードマップでは,これまでに開発された液状化対策技術の対策原理毎に,工法の種類と特徴をまと
めた.また,それに関連する設計指針の整備も示した.液状化対策については,これまで様々な工法が
考案され実用化されてきている.液状化対策の3大原理である“締固め”,“固化”,“排水”の工法
の歴史を概略すれば,1960 年代にサンドコンパクションパイル工法,1970 年代にグラベルドレーン工
法,1980 年代に格子状深層混合処理工法がそれぞれ開発・適用されている.その開発の方向は,対象
となる土質・構造物の範囲拡大,適用地盤条件の範囲拡大,施工上の制約条件(振動,騒音,機材の搬
入スペース)の除去などに対応し,改良性能仕様の向上とともに低廉化・環境性能の向上などが図られ
てきた.この方向性は,今後も継続するであろうが,2011 年東日本大震災の教訓としては,復旧に関
連して民間や個人宅地への適応技術(小型化,低廉化)や設計技術が急務である.今後は,性能設計へ
の対応として個々の条件に対して,いくつかの考えられる対策技術の優劣の合理的評価技術も求められ
る.