絆 Doctor`s File Vol.7 (会員インタビュー)

Doctor's File 「夜尿症専門医としての取り組み」
会員インタビュー
小児臨床現場で相談を受ける頻度が高い疾患
Vol.7
たむら小児科クリニック 院長
日 本 夜 尿 症 学 会 理事 田村 和喜
先生
一尿の浸透圧・比重、夜間尿量を測定すること
として、喘息、アレルギー疾患に次いで夜尿症が
で分類し、夜尿タイプに応じた治療を開始します。
挙げられる。水戸市にある
「たむら小児科クリニッ
抗利尿ホルモン、抗コリン剤による薬物療法が主
ク」は、2002 年の開業以来、夜尿症治療センター
となります。
として、
全国各地の夜尿症に悩む患者・家族を救っ
てきた。夜尿症治療の第一人者である院長の田
村和喜先生にお話を伺った。
― 治療をする上で、特に配慮していることはあり
ますか。
夜尿症は年月の経過により自然治癒することが
多い疾患です。
夜尿症の定義として、女児で 5 歳、男児で 6
歳以上で夜間のおねしょが気になる場合、が一応
の線引きとされていますが、何歳で治療を開始す
るかは症例ごとに異なります。
私自身は「夜尿症がこどもの健やかな社会的
発達を妨げる場合」
(周囲や本人がとても気にし
ている、夜尿により消極的になる、コンプレック
スを感じる、
など)を治療開始の目安としています。
1981 年:筑波大学医学専門学科 卒
1981 年:筑波大学病院 小児科
1985 年:茨城県立こども病院
2002 年: たむら小児科クリニック 院長
治療上配慮していることとしては、まず無理を
しないこと、絶対に副作用を起こさないことです。
― いつごろから夜尿症の治療を行っていますか。
自然治癒率は、年間 15%とされています。治
また、そのきっかけがあればお聞かせください。
療した場合はその 3 倍、45%となりますが、逆に
25 年ほど前、県立こども病院勤務時代に夜尿
言えば 1 年間治療をしても半数は治りません。夜
症の治療を始めました。現在の日本夜尿症学会
尿症の治療は家族も含め長期戦の構えで、生活
の前身である夜尿症研究会の第 1 回が開かれる
のリズムづけや水分制限、服薬が負担にならない
前後だったと思います。
ように進めることが大切になってきます。軽快し
小児の腎疾患を専門にやっていたので、尿やお
ねしょの問題を抱えて困っている患者さんからの
ました。
いただけますか。
今では学会やガイドラインがあるので疾患の理
解と診断はそれほど難しくありません。
夜尿症は①膀胱が膨らみづらく貯められる尿
の量が少ない「膀胱型」②夜間の尿を濃縮する
が、多くは1∼ 2 年の治療期間を要します。
― 印象に残っているエピソードがあれば教えてく
ださい。
こども病院時代、夜尿症の診療を開始して2∼
3年経ったころでしょうか、ひとりの外国人男性
そのほうが良い成果が得られるように感じます。
が訪ねてこられました。
たどたどしい日本語で、当時はまだ珍しかった
― ご本人とご家族が一緒に向き合っていくこと
が大事なのですね。
親御さんは「良くなってほしい」という焦りと期
― 夜尿症という疾患、治療方針についてお話し
最初の治療で劇的に改善する症例もあります
ていく過程をこどもの成長を楽しむように見守る、
相談がとても多く、また、当時は夜尿症を診てく
れる病院が少なかったため、やってみようと思い
のみして経過観察とすることも多々あります。
待を抱きがちですが、それがかえって児に対する
ストレスとなってしまう場合があります。
「おねしょアラーム(
」夜間の排尿に反応してブザー
で知らせる夜尿症治療器具)を「人の役に立ち
たいから」と無償で置いていってくれたのです。
今では「おねしょアラーム」はスタンダードな治
療としての地位を確立していますが、その頃はま
また、本人が全く気にせず治す意欲がないの
だ普及していない時代でした。半信半疑で使わ
も治療効果が出づらいので、ある程度自覚を持っ
せていただきましたが、薬物治療に反応しづらい
てもらいつつ、家族みんなで協力し合う、という
症例で効果を上げたことを覚えています。その後、
姿勢が大切だと思います。
その方が再び病院に訪ねてこられることはありま
抗利尿ホルモンの分泌が十分でなく、尿量が増え
夜尿症の治療では夜間の尿量を減らさなくては
てしまう「低浸透圧多尿型」③膀胱充満時に睡
なりませんので、夕∼夜の水分制限が必須です。
見知らぬ方のご厚意に感謝するとともに、ちゃ
眠相が浅くなる反応が未熟で深睡眠時無意識に
就寝前 2 時間は水分を取らないよう、食事は
んとお礼を申し上げられなかったことを残念だっ
排尿してしまう「覚醒反応未熟型」の 3 型が原因
薄味にして汁物や果物は控えるよう指導します
と考えられています。
が、一人だけ別メニューではなく、家族皆水分は
最大膀胱容量(最大我慢時の尿量)
、早朝第
控え、同じ味付け・同じメニューの食事にするなど、
家族と本人との関わり、協力体制が良い結果につ
ながります。
せんでした。
た、と今でも時々思い出します。
― 最後に、会員の先生方へのメッセージをお願
いします。
おねしょを心配し、不安に思いながらも相談
できずにいるご家族はたくさんいらっしゃいます。
― 来院される患者さんの年齢層、受診のきっかけ
などを教えてください。
今は夜尿症学会による検査項目や治療法のガイ
ドラインもありますので、地域のかかりつけ医の
小学校入学をきっかけに受診される 6 ∼ 7 歳
先生方もぜひ診療にご参加ください。その上で難
児、キャンプや修学旅行を契機に受診される小
治例は専門医にご紹介いただく、というのが理想
学校中∼高学年の児が多く見えられます。
的かと思っています。
4 ∼ 5 歳の小さなお子さんを連れて受診される
方もおられますが、あまり年少の児だと治療に対
する反応が良くないので、腎臓や膀胱の機能評価
― これからも先生のご活躍を期待しています。本
日は、ありがとうございました。