新年度に発表された 関係省庁の発表内容のご紹介

マイナンバー 社労士業務への
インパクトとその備え
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新年度に発表された
関係省庁の発表内容のご紹介
マイナンバー制度検討部会(兼SRP認証制度検討部会)
部会長 立岩 優征
平成27年10月の番号通知開始まで残すところ半年
常に大きな意味を持つ可能性があります。お会いし
となります。4月に入ってから主務省庁である厚生
た関係者の話を総合すると「民間側に負担を増やし
労働省と国税庁から重要な発表がありましたので、
てまで返戻物にマイナンバーを記載する必要がな
本号にてご紹介します。
い」ということで、自然な理由であると思います。
1
これは、マイナンバーを使って情報連携等をするた
厚生労働省の発表
めにマイナンバーを必要としているのは行政機関等
で、申請書類等を提出する国民側は特に必要として
厚生労働省より発表があった主な事項は表1の通
いる訳ではありません。よって、当該申請者本人と
りです。
紐づいたマイナンバーが正しく提供されれば基本的
なお、当該情報は厚生労働省のホームページに掲
にその目的は達成するので、その申請者本人にマイ
載されている「社会保障・税番号制度の導入に向け
ナンバー付きの返戻書面を提供する必要はないとい
て(社会保障分野)~事業主の皆様へ~」からの抜
う判断であると思われます。ただし、正しく申請で
粋ですが、一度全編をご覧ください。
きたかを確認するために申請者自身がマイナンバー
の記載された返戻書面をもってその番号を確認した
●表1
分野
内容
Ⅰ
通知書等返戻関係
原則様式変更なしでマイナンバ
ーは記載されて返戻されない※
Ⅱ
労災保険関係
療養費用申請においてマイナン
バー記載を要しない
Ⅲ
企業年金関係
平成29年1月からマイナンバー
利用は行わない(開始時期未定)
いということも考えられますが、返戻時に「そこま
で必要ありません」ということだと考えられます。
本件は多くの事業者から問合せがあったので、厚
生労働省はあえて変更のない届出書式を提示したと
のことですが、これは実務上重要であるから問合せ
が多かったと思います。後述しますが、返戻物にマ
イナンバーの記載があれば、マイナンバー法適用の
特定個人情報に当たるため、保管制限における廃棄
の問題が出てきます。しかし、マイナンバーの記載
Ⅰ 通知書等返戻関係
がない返戻物に関しては特定個人情報とならないた
雇用保険、健康保険及び厚生年金関係の資格通知
めマイナンバー法の適用がなく、法施行前の取扱い
書や保険証等返戻に関しては表2のように殆ど様式
と変わらない事務処理を行うことができます。
の変更はなく、個人番号(以下「マイナンバー」と
同様に国税関係においては、本人(受給者)交付
いう。
)の記載なく返戻されるということになりそ
用の源泉徴収票が、図1のように、現段階の案とし
うです。予想はされていましたが、これは実務上非
た上で国税庁から提示されていますが、個人番号欄
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新年度に発表された関係省庁の発表内容のご紹介
●表2 様式変更のない申請書類一覧
※なお、厚生労働省の4月発表資料の中に離職票1は、様式変更の対象としてマイナンバー
記載予定となっているので注意が必要です。しかし、様式には個人番号欄が存在しても、
マイナンバーは印刷されずに返戻される可能性もあると思われます。つまり厚生労働省の
方針を勘案すると、失業手当申請時に本人が個人番号欄に記載する等の運用をする対応に
なるのではないかと、本号が発行される時点では明らかになっているものと思われます。
窓口
様式名
1
育児休業給付金支給決定通知書(被保険者通知用)
2
育児休業給付次回支給申請日指定通知書(事業主通知用)
3
介護休業給付金支給・不支給決定通知書
4
雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書・所定労働時間短縮開始時賃金証明書
5
雇用保険被保険者氏名変更届受理通知書(被保険者通知用/事業主通知用)
6
雇用保険被保険者資格取得確認通知書(被保険者通知用/事業主通知用)
7
雇用保険被保険者資格喪失確認通知書(事業主通知用)
8
職安
9
雇用保険被保険者証
雇用保険被保険者転勤届
10
雇用保険被保険者転勤届受理通知書(事業主通知用/被保険者通知用)
11
雇用保険被保険者離職証明書(安定所提出用/事業主控用)
12
雇用保険被保険者離職票-2
13
雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書(安定所提出用/事業主控用)
14
高年齢雇用継続給付支給決定通知書(被保険者通知用)
15
高年齢雇用継続給付次回支給申請日指定通知書(事業主通知用)
16
介護保険適用除外等該当・非該当届
17
健康保険育児休業等取得者確認通知書
18
健康保険育児休業等取得者終了確認通知書
19
健康保険育児休業等終了時報酬月額改定通知書
20
21
健康保険限度額適用・標準負担額減額認定証
健保組合
健康保険被保険者標準賞与額決定通知書
22
健康保険被保険者証
23
健康保険被保険者報酬月額改訂通知書
24
被保険者氏名変更確認通知書
25
被保険者資格取得確認および標準報酬決定通知書
26
被保険者資格喪失確認通知書
27
厚生年金保険 適用証明書
28
健康保険 標準賞与額決定通知書(訂正)
29
健康保険 標準賞与額累計申出書
30
健康保険・厚生年金保険育児休業等取得者確認通知書
31
健康保険・厚生年金保険育児休業等取得者終了確認通知書
32
健康保険・厚生年金保険産前産後休業等取得者確認通知書
33
健康保険・厚生年金保険資格喪失確認通知書
34
35
年金事務所
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得・資格喪失等確認通知書
健康保険・厚生年金保険被保険者住所変更届
36
健康保険・厚生年金保険被保険者標準賞与額決定通知書
37
健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬改定通知書
38
健康保険・厚生年金保険資格取得確認および標準報酬決定通知書
39
厚生年金保険70歳以上被用者育児休業等終了時報酬月額相当額改定のお知らせ
40
厚生年金保険70歳以上被用者該当・不該当および標準報酬月額相当額のお知らせ
41
厚生年金保険70歳以上被用者産前産後休業終了時報酬月額相当額改定のお知らせ
42
厚生年金保険70歳以上被用者標準報酬月額相当額改定および標準賞与相当額のお知らせ
43
年金手帳
44
労働者災害補償保険 業務災害用 療養補償給付たる療養の費用請求書(同一傷病分)
45
労働者災害補償保険 業務災害用 療養補償給付たる療養の費用請求書(同一傷病分)
(はり・きゅう)
46
労働者災害補償保険 業務災害用 療養補償給付たる療養の費用請求書(同一傷病分)
(柔整)
47
48
監督署
労働者災害補償保険 業務災害用 療養補償給付たる療養の費用請求書(同一傷病分)
(薬局)
労働者災害補償保険 通勤災害用 療養給付たる療養の費用請求書(同一傷病分)
49
労働者災害補償保険 通勤災害用 療養給付たる療養の費用請求書(同一傷病分)
(はり・きゅう)
50
労働者災害補償保険 通勤災害用 療養給付たる療養の費用請求書(同一傷病分)
(柔整)
51
労働者災害補償保険 通勤災害用 療養給付たる療養の費用請求書(同一傷病分)
(薬局)
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が設けられています。源泉徴収票は現在複写式にな
人情報でなくなるため保管以降のプロセスにおける
っているので、わざわざ受給者交付用にその欄が設
マイナンバー法の適用がなくなることも考えられま
けられているとなると、離職票1のように独立書式
す。真ん中の横点線部より上部が今まで可能性があ
でないため、その欄にマイナンバーが入る可能性が
った取扱いです。雇用保険の資格取得の場合、まず
高いと思われます。
マイナンバーを①取得した後、雇用保険被保険者資
この場合、実務上問題が想定されるのは、退職し
格取得届を作成し、そのコピーを取って(②利用
た社員に対する関係事務です。人事部門等は退職し
し)、その届書をハローワークに③提供し、その後
た社員へ、退職後に退職月の給与明細と共に今後離
雇用保険被保険者資格取得確認通知書と雇用保険被
職票や源泉徴収票を送付することが多いと思われま
保険者証が返戻されて、④保管してある申請書のコ
すが、これらの様式にマイナンバーが記載されてい
ピーとその返戻書類の内容が正しいか確認して、そ
ると特定個人情報となりマイナンバー法の対象とな
のまま確認通知書等は法定保存期間である4年間保
りますので、郵送時の確実な授受や記録等今まで以
管して、その後必要なくなったと判断し正しく⑥廃
上に厳重な取扱いが必要となり、時間とコストがか
棄するというものです。
かる可能性があります。
それが、点線の下の「今後」のように、そもそも
●早めの廃棄でリスクの軽減
返戻時に通知書等にマイナンバーが記載されていな
もう一点、今回の厚生労働省の発表が、実務上意
ければ、それらは特定個人情報ではなく単に今まで
味を持つのが取扱いにおけるリスクが軽減される可
と同じ書類なので、法定保存期間内は保存(④の保
能性があるからです。3月号で取得から廃棄までの
管ではなく)するのは当然ですが、それ以上保存し
プロセスをわかりやすくするために一部順番を入れ
ても基本的にマイナンバー法の⑥廃棄等の制約はあ
替えて記載しましたが、この図2において、特定個
りません。そうなると、②の利用時に作成した申請
書類等の控えを取る場合に、例えば書類のコピーを
取った後、マイナンバー部分を黒塗り等で復元でき
●図1 給与所得の源泉徴収票改正案(国税庁HPより抜粋)
ない状態するか、印刷等により控えが出力される場
合にはマイナンバーが印刷等されないようにすれば、
その控えは特定個人情報ではなくマイナンバー法の
対象とはならないため、通知等が返戻された時に確
認してその後の保存等は従前通り行えることになり
ます。なお、電子申請等電子処理してある場合の考
え方も同様で、控えのPDF出力時にマイナンバー
が含まれないようにする等の対策が考えられます。
よって、④保管の縦点線以降にマイナンバー法の適
用がなくすことができるということになります。
●廃棄とシステム化
このようにマイナンバーを含んだ書類等を一切保
管しないとなれば、別の手続が発生した時に、その
都度、マイナンバーの取得が必要となってしまいま
す。そこで、包括的に利用目的を通知等して①取得
した通知カード等をコピーしてマイナンバー自体の
控えを④保管して、必要な都度②利用することとな
ります。ただし、これらは社会保障や税等関連法令
に関する法定期間保存する必要のない書類であり、
退職時に必要処理が終了後、保管する必要は原則な
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新年度に発表された関係省庁の発表内容のご紹介
●図2 取得から廃棄までのプロセス図
くなり、廃棄が必要となりますが、それは一度で済
書類には原則マイナンバーが記載されないので⑥廃
むことになります。
棄という懸念がなくなったということで、税務関係
マイナンバー制度導入後は従来通りの手作業での
以外にそのような懸念が残ることはなくなったため
処理が難しいと考えられてきましたが(コンピュー
(※税務関係は27年12月ごろに様式確定の予定)、社
タの電子的処理でなければ難しい)、その理由の一
労士の扱う分野としては少なくとも廃棄問題は軽減
つがマイナンバー法第20条による保管制限により⑥
されたことになります。
廃棄を要求されているためです。表3のような各種
しかし、マイナンバーの取得・利用・提出・廃棄
法令による複数の保存期間後の廃棄が必要とされま
等取扱状況の記録保存や外部移動における安全性確
す。つまり、返戻書類にマイナンバーが記載されて
保等で、電子申請も含めたシステム化による電子的
いれば、例えば雇用保険被保険者資格取得確認通知
処理を行わなければ依然業務が今より煩雑になるこ
※
書は完結の日である退職日 後4年、健康保険・厚
とに変わりはないと思われます。
生年金保険被保険者資格取得確認通知書は同2年経
●管理区域と取扱区域のリスクヘッジ
過したら廃棄しなければならなくなります。さらに
マイナンバー①取得後のマイナンバー自体の控え
年末調整時に提出される給与所得者の扶養控除等申
の④保管を自己事務所内で行わず、図2下部横点線
※
告書の場合は、法定申請期限の翌年1月10日 から7
のようにクラウドサービスのような事務所外で④保
年間の保存期間が定められているため、別々の管理
管することも選択肢の一つです。そうすれば、申請
をその都度全て手作業で管理するのは難しく、コン
書作成等の②利用時に一時的にマイナンバーを取扱
ピュータに管理させないと難しいのではないかとい
うことがあっても、申請書の控えにマイナンバーを
う理由もその一つでした。そのような理由から厚生
残さなければ、それ以外は事務所内でマイナンバー
労働省関係の返戻書類に関して様式の発表がなかっ
を④保管することは事実上なくなり、⑥廃棄の問題
たため問合せが多かったものと思われます(※各法
が発生しなくなります。
律において起算日の考え方が違うので注意)。
マイナンバー法では管理区域と取扱区域という空
ただし、厚生労働省関係の確認通知書等返戻関係
間概念が以下のようにあるのですが、この場合はこ
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●表3 法定保存期間一覧
種別
書類例
保存期間
起算日
根拠法令
源泉徴収関係
給与所得者の扶養控除等(異動)
申告書、配偶者特別控除申告書、
保険料控除申告書等
7年
法定申告期限
国税通則法70~73条
雇用保険被保険者資格関係
雇用保険被保険者資格取得等確認
通知書、同転勤届受理通知書、同
資格喪失確認通知書、離職証明書
の事業主控等
4年
完結の日
雇保則143条
その他雇用保険関係
雇用保険被保険者関係届出事務等
代理人
選任・解任届等
2年
完結の日
雇保則143条
徴収
労働保険徴収・納付関係
労働保険概算・確定保険料申告書、
一括有期事業報告書等
3年
完結の日
徴収則72条
労災
徴収法を除く労災保険関係
療養補償給付たる療養の費用請求
書、休業補償給付支給請求書等
3年
完結の日
労災則51条
健康保険・厚生年金関係
被保険者資格取得確認、標準報酬
決定通知書、標準報酬改定通知書
等
2年
完結の日
所得税
関係書類
雇用
健保
厚年
健保則34条
厚年則28条
個人情報ファイル」を事務所外のクラウド上に保管
の2つの空間を分けた運用ということになります。
し必要な時に呼び出して利用してしまえば、事務所
内に特定個人情報ファイルは存在しないためは管理
特定個人情報等の情報漏えい等を防止するた
区域ではなく取扱区域とすることができ、セキュリ
めに、特定個人情報ファイルを取り扱う情報
ティレベルは軽減されることにになるからです。
システムを管理する区域(以下「管理区域」
●情報単位の概念
という。
)及び特定個人情報等を取り扱う事務
ここで特定個人情報ファイルという情報に関する
を実施する区域(以下「取扱区域」という。
)
用語が出てきましたが、図3を使って空間概念と共
を明確にし、物理的な安全管理措置を講ずる。
に情報単位の概念を合わせてご説明します。
(特定個人情報保護委員会:ガイドライン事業者編より)
図3は⑴「個人情報」から⑼の「特定個人情報フ
ァイル」ができるまでのプロセスを表しています。
つまり、ガイドラインでは管理区域と取扱区域を
まず⑵住民票コードを変換して⑶生成された⑷個
明確に分けてそれぞれのレベルに応じた安全管理措
人番号(マイナンバー)を含む⑴個人情報が⑹特定
置を行うことを要求しており、管理区域には例とし
個人情報となります。ここで⑴個人情報とは「生存
てICカード等による厳密な入退室管理をするよう
する個人に関する情報であって、当該情報に含まれ
求められています。しかし、今まで通り事務所は通
る氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人
常事務を実施するだけで「特定個人情報ファイル」
を識別することができるもの(マイナンバー法第2
を取り扱うことがないと、取扱区域としてのみ扱う
条第3項)」を意味します。
ことが可能であるということです。今回返戻書類に
次に右横の⑺個人情報ファイルとは、個人情報を
マイナンバーが記載されないということは、返戻書
含む情報の集合物であって、特定の個人情報につい
類をキャビネット等にファイルにまとめても「特定
て電子計算機を用いて検索することができるように
個人情報ファイル」には該当せず、同様に申請書の
体系的に構成したもののほか、特定の個人情報を容
控えにマイナンバーを記載せずファイルにまとめて
易に検索することができるように体系的に構成した
いても「特定個人情報ファイル」には該当しません。
ものとして「個人情報の保護に関する法律施行令
よって、マイナンバー自体の控えを集約した「特定
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(平成15年政令第507号)(以下「個人情報保護法施
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新年度に発表された関係省庁の発表内容のご紹介
●図3 情報単位の考え方
行令」という。
)で定めるものを個人情報データベ
通りの申請を可能にしています。ただし、表1に記
ース等といい、行政機関及び独立行政法人等以外の
載のない労災年金請求については、引き続きマイナ
※
者 が保有するものをいう(マイナンバー法第2条
ンバーの利用をすることとなりますので、その他労
第4項)
」とガイドライン(事業者編)に用語の定義
災申請でマイナンバーの記載が必要な書類は今後明
がしてあります。そして⑺個人情報ファイルに個人
らかになるものと考えております。なお、労災給付
番号を⑻含むものが⑼特定個人情報ファイルという
は事業場単位で適用を考えるために、個人単位で適
ことになります。
用になるその他の制度とはマイナンバー利用の考え
方が若干異なるようです。
※ここで注意が必要なのはマイナンバー法第2
また企業年金に関しては、多くの年金基金の解散
条第4項をよく見ると個人情報ファイルの定
が5年以内に見込まれることや、事業における大量
義は行政機関及び独立行政法人が保有するも
の事務負担が想定される等を考慮し当面マイナンバ
のも含まれていますが、事業者向けのガイド
ー対応は行われない見込みです。ただし、平成28年
ラインのため、あえてその部分を割愛してい
1月から源泉徴収に関するマイナンバー収集が必要
るものと考えられ、本来は国も民間も関係な
とされるため、企業年金連合会を通じて源泉徴収事
く特定個人情報ファイルを扱います。
務に必要なマイナンバーを取得できるようにする予
よって、検索できるファイルという状態となると、
定です。
複数(よって大量の可能性大)の特定個人情報が取
以上が、厚生労働省が発表した概要でありますが、
扱いの対象となるため、重要性のより高い位置づけ
これからご説明する国税庁の告示や取扱規定及び
となっていると考えられます。
Q&A等のガイドラインが示されておりませんので、
現在早期に情報を収集して皆様にお伝えできるよう
Ⅱ 労災関係及びⅢ年金基金関係について
にしていきたいと考えております。
この2点も事業者から問合せが多い事項ですが、
②の労災関係の書類に関して、療養給付に関する費
用申請書にはマイナンバーの記載を要せず、今まで
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2015.5
2
個人番号利用事務実施者が適当と認めるもの【 告
国税庁の発表
示1 】」とあります。
その「告示1」というのが図5であり、つまり
国税庁は本年1月末、国税庁長官より本人確認に
「本人から個人番号を提供される際に、運転免許証、
関する告示を発表しましたが、4月1日同庁ホームペ
運転経歴証明書、旅券等身元確認を証明するものが
ージにこの告示に関して例示をするとともに、より
ない場合、「告示1」にある税理士証票、写真付き
具体的な理解を促進する「国税分野におけるマイナ
学生証・身分証明証等書面の確認をして身元確認が
ンバー法に基づく本人確認方法【事業者向け】 平
行える」ということです。(この中で、運転免許証
成27年3月国税庁」というものを公表しましたので
やパスポート等社会通念上常識となっている身元証
以下に説明します。また、この告示は税務関係の取
明書の代わりに、国税庁は「税理士証票」を身元確
扱いに関するものですが、今後、厚生労働省も国税
認書類として一番最初に認めるとしている点は、同
庁に近い解釈を行っていくということが推測される
じ士業として認識する必要があると思います)
ため、このような取扱いに関する厚生労働省からの
なお、写真付き学生証・身分証明証等公的機関が
告示等の提示前にも、早めにご参考としていただい
発行しているものでなくても、写真付の身分証明書
た方が良いと判断しご説明いたします。なお、国税
があればそれで足りるとしてあり、この段階でかな
庁の当該告示及び説明冊子に関しては内容が多岐に
り幅広い書類が認められることがわかり、身元確認
わたるので、重要な一部を抜粋してご説明いたしま
書類の提示に関してその有無による書類提示の懸念
す。
は大きく減少したと思います。
●写真付きの本人確認書類と同等のもの(=写真の
懸念の例示でよく紹介されていたのは、平成28年
表示等の措置が施され認めるもの)
1月の年賀はがきを配達する主力は例年通り想定さ
まず図4(国税庁HPより)についてですが、本
れる高校生配達員ですが、その身元確認書類の有無
人確認に必要な確認書類等に関して、マイナンバー
の問題でした。告示前は写真付きの身分証明である
法、政令、主務省令の3つの根拠により何をもって
運転免許証やパスポートを持っていない場合、2つ
行えば良いのかを構造化してあるものです。本誌で
以上の公的書類である(健康)保険証と年金手帳が
は小さいので、国税庁HPをご覧いただきたいので
主たる確認手段とされていました。高校生は運転免
すが、マイナンバー法を深く理解する段になったら
許証やパスポートを持たない場合も多いだろうし、
是非読み込んでいただきたいと思います。
また保険証を持っていても年金手帳を持たないので、
1月末の告示で出ていたものですが、本人から個
制度開始の平成28年1月に本人確認はどうなるかだ
人番号の提供を受ける場合で、身元確認に必要な確
ろうと懸念されていました。しかし、この告示によ
認書類等が示されています。左からマイナンバー法
り、在学する高校の写真付き学生証の提示で確認が
においては個人番号カード、主務省令で定める書類
できるので、実務上は非常にやりやすく現実的にな
もしくは政令で定める書類のいずれかもってすれば
ったことになります。
良いとなっています。
ただし、文部科学省所管の教育機関の発行する学
具体的に見ていきますと、個人番号カードがない
生証という証明書であれば身元確認に使うことには
場合は、その下の主務省令で定めるという項目に移
妥当性を見いだしますが、社員証という民間事業者
ることになりますが、その横に結んである実線に従
が発行する証明書にどれだけ身元確認に対しての妥
い右欄の主務省令という欄に移り内容を確認するこ
当性を見いだせるかは、本制度に対する懸念が根強
とになります。
い中、以下ご説明する内容も併せて、今後の運営に
そして、最初の項目を確認すると、「運転免許証、
課題を残すのではないかと思われます。
運転経歴証明書、旅券……」とあり、その他下段に
●写真付き証明書提示が困難な場合の健康保険証や
「官公署から発行・発給された書類その他これに類
年金手帳と同等なもの
する書類であって、写真の表示等の措置が施され、
2015.5
次に写真付き証明書である運転免許証等の原則的
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新年度に発表された関係省庁の発表内容のご紹介
●図4 国税庁本人確認方法【事業者向け】(国税庁HPより抜粋)
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2015.5
●表4
用語
内容
当該事務を扱う者※
個人番号
利用事務
行政機関、地方公共団体、独立行政法人等その他の行政事務を処理する者が
マイナンバー法第9条第1項及び第2項の規定によりその保有する特定個人
情報ファイルにおいて個人情報を効率的に検索し、及び管理するために必要
な限度で個人番号を利用して処理する事務
個人番号利用事務実
施者(主に行政)
個人番号
関係事務
マイナンバー法第9条第3項の規定により個人番号利用事務に関して行われ
る他人の個人番号を必要な限度で利用して行う事務
個人番号関係事務実
施者(主に民間)
書類の提示が困難な場合の身元確認書類として、
両者の総称
個人番号利
用事務等実
施者
味する「個人番号関係事務実施者」の両方を合わせ
「ア公的医療保険の被保険者証、年金手帳、児童扶
た意味になります。特に「個人番号利用事務等実施
養手当証書……」の中からが2つ以上の書類が必要
者」という言葉に利用と言いながら等の中に「個人
としてあり、それらがない場合には図6の告示2の
番号関係事務実施者」も含まれることにご注意くだ
写真の表示のない書類をもって本人確認書類として
さい。よって、その右の具体例に「個人番号関係事
います。
務実施者」から送付される個人識別事項(氏名及び
告示2の内容を見ると写真なしの学生証・身分証
住所又は生年月日)がプレ印字された書類を可能に
明書等や、行政等から発行された領収証や印鑑登録
しているということになります。
証明書等の書類等となっています。
この記述が興味深いのはその横にある図5の例示
さらに図6の右にその例示として、「例3 対面
「例4 個人番号の提供を依頼する書面を活用した
で個人番号の提供を受ける場合の本人確認③」が解
本人確認」が実務で有効になると思われます。それ
説してあり、写真付きでない2つ以上の書類で印鑑
は、上記の通り個人番号関係事務実施者とは企業や
登録証明書と健康保険証の提示をいただき身元確認
委託先であろう社労士等が考えられますが、個人番
することが例示してあります。
号関係事務実施者が名前や住所を印刷した書類を送
戻って図5の告示1に興味深い身元確認方法があ
ることによって、身元確認を行うということができ
ります。それは5段目の「個人番号利用事務等実施
るからです。図5の例示4では顧客となっています
者が個人識別事項を印字した上で本人に交付又は送
が、これを新規採用者と読み替えて以下のようなこ
付した書類で、当該個人番号利用事務等実施者に対
とが可能になります。
して当該書類を使用して提出する場合における当該
書類」ですが、具体例として「個人番号関係事務実
新規採用予定者(以下「新規採用者」
)から個
施者から送付される個人識別事項(氏名及び住所又
人番号の提供を受ける場合に、新規採用者に
は生年月日)がプレ印字された書類」とあります。
対して個人番号の提供を依頼する書面を送付
なお、ここで「個人番号関係事務等実施者」及び
し、新規採用者がその書面に通知カードや個
「個人番号利用事務等実施者」という言葉が出てき
人番号カードの裏面(通知カード等)の写し
ましたが、告示1の左欄の説明には、これらの書類
を貼付して返送する方法。
は「個人番号利用事務実施者が適当と認める書類
等」として「個人番号利用事務実施者」という言葉
も記されています。よって、まずこの3つの類似の
自分の住所地に送られてきた個人番号の提供依頼
用語の整理を簡単にしたいと思います。
書類に、新規採用者が通知カード等の写しを貼付し
この表4の右欄に「個人番号利用事務等実施者」
て返送することで、通知カード等の写しで番号確認
という言葉が出てきます。つまり、主に行政等を意
を行うとともに、依頼書類に印字した住所及び氏名
味する「個人番号利用事務実施者」と主に民間を意
と貼付されている通知カード等の写しの住所及び氏
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新年度に発表された関係省庁の発表内容のご紹介
●図5 国税庁本人確認方法【事業者向け】(国税庁HPより抜粋)
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●図6 国税庁本人確認方法【事業者向け】(国税庁HPより抜粋)
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新年度に発表された関係省庁の発表内容のご紹介
名が同一であることを確認することにより、身元
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(実在)確認を行うという理解になります。よって、
顧問企業より委託を受けて個人番号関係事務実施者
罰則規定の正しい理解
となる社労士が直接新規採用者に当該行為を行うこ
マイナンバー制度において厳しい罰則を適用する
とによって、本人確認ができることになり、マイナ
ことで、その安全性の担保を図ることが特徴の一つ
ンバーを一切社内で取扱いたくないという企業ニー
ですが、「厳しい」という言葉が若干先行している
ズを満たす方法になる可能性があります。それは、
ので、実際どのような場合にどのような罰則がある
その他保険手続等入社関連手続業務に必要な書類も
かを具体的に理解する必要があると思います。しか
含めて、新規採用者に当該書類を送ってしまえば、
し、政府資料の罰則一覧表には専門用語を含んでい
マイナンバーの本人確認も含めてすべて社労士に委
るために、そのまま理解するのはなかなか難しいと
託するということも考えられるからです。
思われるので、その「厳しさ」も含めてわかりやす
以上用語の解説も含めて今年度初めに発表があっ
く整理して以下ご説明します。
た主務省庁の内容をご紹介いたしました。なお、罰
まず、政府資料の罰則一覧表を以下表5のように
則規定に関して2月号で言葉足らずがありましたの
「L」「誰が」「何を」「どうした」「どうなる」の5
で最後に補足をして、今回にて本連載の担当を終了
つに分解しました。なお、「L」はレベルの意味で、
とさせていただきたいと思います(次回以降は別の
L1から一番厳しいレベルの罰則となりL9までの9段
部会委員により連載は継続いたします)。5回にわ
階があります。しかし、L2とL3及びL5とL6は同じ
たり貴重な誌面をいただきましたこと感謝申し上げ
罰則内容なので、実質7レベルということになりま
ます。
す。つまり、「誰が」「何を」「どうした」「どうなる
=どんなレベルと内容の罰則が適用されるか」とい
●表5
L
誰が
何を
どうした
どうなる:法定刑
L1
個人番号利用事務等に従事
する者又は従事していた者
特定個人情報ファイル
正当な理由なく提供
4年以下の懲役or 200万以
下の罰金or 併科
L2
同上
個人番号
不正な利益を図る目的で、
提供又は盗用
3年以下の懲役or 150万以
下の罰金or 併科
L3
情報提供ネットワークシス
テムの事務に従事する者
情報提供ネットワークシス
テムに関する秘密
漏えい又は盗用
同上
L4
記載なし(全ての人)
個人番号
人を欺き、人に暴行を加え、
人を脅迫し、又は、財物の
3年以下の懲役or 150万以
窃取、施設への侵入等によ
下の罰金
り取得
L5
国の機関の職員等
特定個人情報が記録された
文書等
職権を濫用して収集
2年以下の懲役or 100万以
下の罰金
L6
委員会の委員等
職務上知り得た秘密を
漏えい又は盗用
同上
L7
委員会から命令を受けた者
委員会の命令
違反
2年 以 下 の 懲 役or 50万 以
下の罰金
L8
記載なし(全ての人)
委員会による検査等
虚偽の報告、虚偽の資料提
出をする、検査拒否等
1年 以 下 の 懲 役or 50万 以
下の罰金
L9
記載なし(全ての人)
個人番号カー ド
偽りその他不正の手段によ
り取得
6月 以 下 の 懲 役or 50万 以
下の罰金
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う見方ができます。
ものと思います。
例えばレベル1における「どうなる:罰則」欄を
つまり「誰が」欄で社労士を含めて一般の民間人
ご覧いただきたいのですが、「4年以下の懲役or
が対象になるのは、L1、L2、L4、L7、L8、L9の6
200万以下の罰金or 併科」とあり非常に厳しい罰則
つで、それぞれ「どうした」という欄を確認すると
となっています。特に懲役刑に対して「4年以下」
※
「不正提供 」「利益目的提供・盗用」「強要取得等」
という意味は刑法でいう執行猶予の対象が「3年以
「命令違反」「虚偽申請等」「虚偽取得」の6つの行
下」が対象になるので、「執行猶予なしの実刑」が
為に対してということになります。よって、マイナ
下る可能性があるということです。そのような強い
ンバー法の罰則において通常の取扱いをしている限
メッセージが含まれているとも読み取れ、「マイナ
りは、罰則はあまり想像できないということがわか
ンバー法は厳しい」という話が特に法律に詳しい方
ると思います。ただし、これらは刑事に関してであ
の間で語られるのはそれが故と考えられます。
り、民事においてはマイナンバー制度の社会的影響
よって、執行猶予のない実刑がいきなりあり得る
度等が高いことから漏えい等の事故により損害賠償
レベル1に、委託先である社労士は該当するのかを
等の訴えや信用の社会的失墜は十分あり得るため、
確認したくなると思います。そこでまず対象者であ
万全の備えが必要なことには変わりありません。ま
る「誰が」欄を確認すると「個人番号利用事務等に
た、社労士事務所内で内部関係者である従業員等の
従事する者又は従事していた者」となっていますが、
L1の不正提供は両罰規定で使用者側の社労士も罰
前述の通り個人番号利用事務等実施者を意味し企業
せられることになる点は留意が必要です。(※内閣
からマイナンバー関係事務を委託される社労士は当
官房からマイナンバー法の逐条解説という資料が提
然個人番号関係事務実施者となり個人番号利用事務
示されていますが、その中で「正当な理由なく提
等実施者に該当します。
供」に関して、正当な理由がある場合として、「例
しかし、
「どうした」欄を見ると「正当な理由な
えば、第19条により他者への提供が例外的に許され
く提供」とあるので、自分は少なくとも正当な理由
ている場合」とし、提供とは「他者が利用できる状
なく提供はしないだろうと思って少しは安心するの
態に置くことをいう」とし、ファイルを交付するこ
ではないでしょうか。
とが該当すると具体例としてあげています。よって、
ところで、
「どうした」という点で現実的に一番
解釈次第では広い行為が考えられますが、その他の
心配なのが、色々な対策を講じたにもかかわらず、
5つの行為を考慮すると通常の業務では限定的に考
えることが可能と考えられます)
「うっかりFAXやメールを違う相手に送ってマイナ
ンバーが漏れてしまった」や「外部から不正アクセ
スがありマイナンバーが漏れてしまった」等の「万
が一漏れてしまったらどうなるのか?」という不安
ではないか思います。
そこで「どうした」欄で、このような「漏えい」
が記載されているレベルがあるかを確認すると、レ
ベル3と5に漏えいに関する記述があります。次に
その左の「誰が」欄を確認すると「情報提供ネット
ワークシステムに事務に従事する者」及び「委員会
立岩 優征(たていわ まさゆき)
の委員等」とあります。つまり、「漏えい」事案で
1989年名古屋市立大学経済学部卒業後、日本電気株式会社(NEC)入
社。PC98のチャネルプロモーションや大学等教育機関におけるIT化支
援を行う。1999年以降開業社労士として、主に中堅企業の人事労務コ
ンサルティング・人事労務システム構築支援及び海外進出企業の労務管
理支援を行っている。連合会電子化委員として10年ほど電子申請の普
及促進を図り、本年度よりマイナンバー制度検討部会兼SRP認証制度検
討部会長としてマイナンバー制度対策を担当。社会保険労務士法人日本
人財化センター代表社員。
社労士も含め一般の事業者・従業員等が対象になる
ことはないであろうと推測がつくと思います。さら
には「漏えい又は盗用」とあるので、「漏れてしま
った」という懸念とは違いこの「漏えい」という言
葉自体に作為的な意味が含まれていると推測できる
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新年度に発表された関係省庁の発表内容のご紹介
社会保障・税番号(マイナンバー)制度
マイナンバー制度に関する
最新の各種情報は、
以下のサイトよりご確認ください。
内閣官房
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/
マイナンバー制度全体にかかる概要、法令及び制度に関するQ&A等を公開しています。
特定個人情報保護委員会
http://www.ppc.go.jp/
マイナンバー制度導入に伴い、講じるべき対策について示した以下のガイドライン等を公開しています。
①「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」 ②「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)Q&A」
厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000063273.html
マイナンバー制度導入に伴い、改正される労働社会保険諸法令の届出書等の一部が公開されています。
国税庁
https://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/mynumberinfo/index.htm
マイナンバー制度導入に伴い、国税関係手続の情報及び法人番号についての情報を公開しています。
●全国社会保険労務士会連合会
http://www.shakaihokenroumushi.jp/social/topics/mynumber.html
マイナンバー制度の解説及び各種情報を公開しています。
連合会の
情報発信
●社会保険労務士研修システム
http://www.training-sharoushi.jp/
『マイナンバー制度に関する説明会』2/19実施の動画を配信しています。
①内閣官房より、マイナンバー制度の概要
②特定個人情報保護委員会より、ガイドラインの概要
③厚生労働省より、改正される届出書等について
④連合会「マイナンバー制度検討部会」より、社労士へ与える影響について
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