ASEAN諸国に特許出願する際、何か注意すべきこと

藤本昇特許事務所 小山 雄一◇弁理士
ASEAN諸国に特許出願する際、何か注意すべきことはありますか?
1.はじめに
(奈良県 I.T)
特許庁)
による実体審査が行われます。
たはオーストラリアのいずれかにおけ
近年、中国のみならずASEAN
一方、
外国ルートの場合、
IPOSは実体
諸国にも製造販売拠点や研究開発拠点
審査を行わず、
対応外国出願等で
「特許
を置く企業が増加し、それに伴って
性
(新規性・進歩性)
あり」
と判断された
3.タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム
ASEAN諸国への特許出願件数も少し
クレームとシンガポール出願のクレーム
これらの国では、法律上MSE制度
ずつ増加する傾向にあります。
を対応させることで登録となります。
ASEAN諸国には、国ごとに特有の
したがって、
対応外国出願やPCT国際
制度が幾つかありますが、今回は審査
出願段階で
「特許性あり」
という結果が
手続きについて簡単に説明したいと思
得られれば、
外国ルートを選択すること
います。
で、
審査費用を抑えて権利化できます。
る対応出願です。
が規定されているわけではありません
が、実際にはそれに近い審査が行われ
ることが多いようです。
つまり、審査官は対応外国出願の審
査結果を提出するよう要求したり、そ
なお、
対応外国出願として利用できる
の結果を参考にしたりすることが多
のは、日本、米国、欧州、韓国、英国、
く、対応外国出願が登録となった場合
カナダ、
オーストラリア、
またはニュー
には、同じクレームで登録査定となる
よび審査を請求する際に、以下の3つ
ジーランドであり、
英語でない場合は、
ことがよくあります。
のルートから、いずれか1つを選択す
登録されたクレームや審査結果につい
る制度となっています。
ての英訳を提出する必要があります。
2.シンガポール、マレーシア
シンガポールでは、出願人が調査お
PCTの国際調査報告や見解書を参
考にし、それと同じ内容の指摘
(拒絶理
由)
を通知する場合も見受けられます。
①調
査と審査をシンガポール特許
このように、
対応外国出願やPCT国際
庁
(IPOS)
に依頼する現地ルート
出願段階で
「特許性あり」
と判断された
②対
応外国出願またはPCT国際出
クレームと同じクレームの登録をそのま
願段階での調査結果を提出し、
ま認める制度を、修正実体審査制度
このように、ASEAN諸国の審査実
審査のみをIPOSに依頼する混合
(Modified Substantive Examination制
務を考慮すると、日本で先に権利化し
ルート
度
〈以下、MSE制度〉
)といいます。
4.まとめと対策
ておくことによって審査を有利に進め
られるでしょう。
③対
応外国出願、またはPCT国際
マレーシアでもMSE制度が採用さ
出願段階での調査および実体審
れており、出願人は5年以内に通常審
また、ASEAN諸国への移行を予定
査の最終結果を提出し、補充審
査、または修正実体審査のいずれかを
しているPCT国際出願において否定
査を請求する外国ルート
選択し、特許付与を請求する必要があ
的な内容の見解書が作成された場合
ります。対応外国出願として利用でき
は、
予備審査請求を行い、
肯定的な予備
るのは、日本、米国、欧州、英国、ま
審査報告を得る方策も考えられます。
現地ルートまたは混合ルートでは、
IPOS
(もしくはIPOSが委託した外国
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