わが国ベンチャー・ファイナンス 研究の現状と課題 -ベンチャー・キャピタルと新規公開市場を中心に- 神戸大学大学院経営学研究科 忽那憲治 Email: [email protected] URL: http://www.b.kobe-u.ac.jp/kutsuna/index.htm 1 新規公開コストと長期パフォーマンス 1.新規株式公開のコスト 2.直接的コストの分析視角 3.間接的コスト(アンダープライシング)の分析 視角 4.新規公開制度(入札方式とブックビルディン グ方式)とアンダープライシング 5.新規公開時期とアンダープライシング 6.長期株価パフォーマンスの決定要因 7.長期業績パフォーマンスの決定要因 2 1.新規株式公開のコスト 直接的コスト 新規株式公開に伴って公開企業が直接負担す るコスト(証券会社の引受手数料、監査手数料、 印刷費等他) 間接的コスト 公開価格と初値の乖離 投資家からみれば初期収益率(Initial Return) 企業からみればアンダープライシング(過小値 付け) 3 直接的コスト 『新株式発行並びに株式売出届出目論見書』 引受手数料率=(発行価格-引受価額)/発 行価格 引受価額:引受人が買取引受を行う 発行価格(公開価格):この価格で売り出しを 行う 発行価格と引受価額の差額=引受人の手取 金 4 直接的コスト 新規発行による手取金の額 払込金額の総額-発行諸費用の概算額 =差引手取概算額 払込金額の総額は、引受価額の総額。 発行諸費用の概算額には引受手数料は 含まれない。 5 間接的コスト (初期収益率とアンダープライシング) 200円のリターン 初値(1200円) 初期収益率20%(公開価格 1000円で購入した投資家 は、初値1200円で売却すれ ば200円のリターンを得られ る) 200円の過小値付け 公開価格(1000円) アンダープライシング 20%(公開価格1000円 で発行した公開企業は1 株1200円で資金調達で きたが1000円で調達し た) 6 新規公開コストに関する先行研究 発行方法別、発行証券別、発行規模別に 分析 Ritter (1987) Jenkinson (1990) Aggarwal and Rivoli (1991) Zhao (1996) 7 2.直接的コストの分析視角 引受手数料 アメリカは7%水準で固定:なぜ? 証券会社の名声と引受手数料水準との関連性 Chen and Ritter (2000) Carrow (1999) 日本:入札方式採用期とブックビルディング方式採 用期 入札期は約3.1%に固定(3.1%+2円) BB期はスプレッドは自由に決定可能 8 引受手数料(日本の入札方式期) 基本的には、3.1%+2円に低位固定 アンダーライターの視点からすれば、引受 手数料によってリスクをとることは困難。 アンダープライシングによるリスク回避。た だし、発行企業に対する価格交渉力が必 要。 9 図1 引受手数料率の分布状況 (入札方式採用期) 100 80 企 業 数 60 40 標準偏差 = .14 20 平均 = 3.39 有効数 = 321.00 0 3.13 3.25 3.38 3.50 3.63 3.75 3.88 4.00 3.19 3.31 3.44 3.56 3.69 3.81 3.94 引受手数料率 (出所)各企業の目論見書のデータ をもとに作成。 10 図2 スプレッドの分布状況 (ブックビルディング方式採用期) 80 70 60 50 企 業 40 数 30 標準偏差 = .49 20 平均 = 5.68 10 0 有効数 = 159. 00 4.75 5.25 5.00 5.75 5.50 6.25 6.00 6.75 6.50 7.25 7.00 7.50 スプレッド (注)スプレッド={(公開価格-引受価額)/公開価格}*100で算出。 (出所)『株式店頭公開白書』のデータをもとに作成。 11 引受手数料とアンダープライシング との関連性 公開価格が低く設定される可能性につい てIbbotson (1975)が指摘した理由の1つ 「引受のスプレッドがリスクを想定した費用の すべてを含まず、その結果、引受業者がこれ らのリスクを最小にするため低い価格を付け なければならなくなる場合」 わが国の入札発行採用期には、引受手数料 (スプレッド)は 3%強の低い水準でほぼ固定 された状況にあった。 12 3.間接的コスト(アンダープライシ ング)の分析視角 アンダープライシングに関する先駆的研究 (1960年代後半) Tinic (1988)の整理 情報の非対称性(非対称情報仮説) Adverse Selection Models (The Winner’s Curse) Signaling Models Principal-Agent Models 13 アンダープライシングに関する 先駆的研究 1960年代後半から70年代初頭(Reilly and Hatfield (1969)、McDonald and Fisher (1972)、Logue (1973)、Ibbotson (1975)) その後30年間の研究の蓄積→海外の多く の実証研究において高い初期収益率が観 測されている(Loughran et al. (1994)、 Keasey and McGuinness (1995)) 14 Tinic (1988) 危険回避的引受業者仮説(Risk-AverseUnderwriter Hypothesis) 買い手独占仮説(Monopsony-Power Hypothesis) 投機的バブル仮説(Speculative-Bubble Hypothesis) 非対称情報仮説(AsymmetricInformation Hypothesis) 保険機能仮説(Insurance Hypothesis) 15 わが国引受市場における寡占 Logue (1973) :「発行者側の価格交渉力 が強ければプレミアムは小さくなるが、需 要独占の業界である引受業界においては、 アンダーライターの強い交渉力によって価 格設定が行われる」 Jenkinson (1990):わが国証券市場にお ける4社寡占との関連性に言及 16 情報の非対称性(非対称情報仮説) 投資家間の情報の非対称性(逆選択仮 説:Rock (1986)) 公開企業と投資家間の情報の非対称性 (シグナリング仮説:Allen and Faulhaber (1989), Grinblatt and Hwang (1989), Welch (1989)) 公開企業と引受業者間の情報の非対称性 (プリンシパル-エージェント仮説:Baron (1982)) 17 非対称情報 レモンの市場 逆選択(隠された情報) モラルハザード(隠された行動):注意深い 行動をとる誘因が欠落していること シグナリング(マイケル・スペンスの教育市 場のモデル) 分離均衡と一括均衡 18 Adverse Selection Models Winner’s Curse Model Informed Investors & Uninformed Investors アンダーライターは、Uninformed Investorsを新規公開株の購入へと向かわ せるために過小値付けする。 Rock (1986), Beatty and Ritter (1986) 19 Signaling Models High Quality Firm & Low Quality Firm High Quality Firmは、質が高いというシグ ナルを送るためにアンダープライシングを 行い、その後の増資において、より高い価 格での資金調達を行う。 Allen and Faulhaber (1989), Grinblatt and Hwang (1989), Welch (1989) 20 Principal-Agent Models 投資家の需要に関するアンダーライターの 優れた情報を用いる代償として、発行企業 はアンダーライターに対して過小値付けす ることを求める。 Baron (1982), Muscarella and Vetsuypens (1989) 21 アンダーライターの名声と アンダープライシング McDonald and Fisher (1972)、Logue (1973)、Neuberger and Hammond (1974)、 Block and Stanley (1980)、Baron (1982)、 Neuberger and LaChapelle (1983)、Beatty and Ritter (1986)、Johnson and Miller (1988)、Carter and Manaster (1990)、 Carter et al. (1998) 高い名声のアンダーライターは、名声の低い アンダーライターに比べて、アンダープライシ ングの程度が小さい 22 VC投資とアンダープライシング Barry et al. (1990)、Megginson and Weiss (1991) 高いモニタリング能力によって、VCの投資 がアンダープライシングの低下(間接的コ ストの低下)をもたらしていることを実証。 23 4.新規公開制度と アンダープライシング 類似会社比準方式(~1989年3月) 入札方式(1989年4月~1997年9月) 2度の変更 入札方式とブックビルディング方式の選択 (1997年9月~現在) 実質的にはブックビルディング方式(全企業が BBを選択 24 類似会社比準方式 (1989年3月まで) 公開価格は、日本証券業協会および証券取 引所のフォーマットに基づき決定される。 アンダーライターは類似会社数社を選び、そ れら企業の利益、配当、純資産をもとに公開 価格を算出する。 アンダーライターは、この算出された公開価 格で株式を市場に提供する。 引受手数料は約3.5%に固定(3.5%+2円) 25 入札方式 (1989年4月~1997年9月) 発行企業は、公開株式の一定部分を入札に よって直接提供する。 アンダーライターが入札の価格帯を設定す る。ただし、下限価格は前述の算出式に基 づいて決定される。 公開価格は、入札落札加重平均価格に設 定される。 引受手数料は約3.1%に固定(3.1%+2円) 26 入札方式における2度の変更 1992年4月:入札の上限価格が廃止。下限価格は 算出式に基づく価格の85%に引き下げ。 1992年12月:アンダーライターの公開価格決定にお いて一定に自由裁量が認められる。落札加重平均 価格からの割引が可能となる。 1995年1月から97年9月までに入札発行方式によって新 規公開した企業321社のディスカウント率を、ディスカウン ト率={(落札加重平均価格-公開価格)/落札加重平均 価格}*100として算出すれば、平均7.10%(標準偏差 4.43%、最小値0%、最大値18.06%) 27 ブックビルディング方式 (1997年9月~現在) 世界レベルでもっとも標準的な価格決定方 式: Sherman (2000) アンダーライターが、投資家の需要を探り ながら(ロードショーなど)、公開企業との 間の交渉によって公開価格を決定する。 アンダーライターの引受手数料(スプレッ ド):自由に決定可能 28 「市場実験」の効果に関する 実証分析 入札方式への移行を対象(日本) ブックビルディング方式への移行を対象(日本) Pettway and Kaneko (1996) ; Hebner and Hiraki (1993); Kerins, Kutsuna and Smith (2003) Kaneko and Pettway (2001); Kutsuna and Smith (2002); Kutsuna, Smith and Smith (2003) 海外市場の試み ギリシャ:Kazantzis and Thomas (1996) フランス:Darrien and Womack (2000) 29 ブックビルディング方式は高コスト? 公開価格決定方式の変化と新規公開コストの関連性 引受手数料率 アンダープライシング (スプレッド) (初期収益率) 入札方式 (A) (B) (321社) 小さい/固定 小さい ブックビルディング方式 (C) (D) (163社) 大きい/変動 大きい 30 入札方式期とブックビルディング 方式期の公開企業の属性比較 Kutsuna and Smith (2002) 設立後年数と従業員数の比較 入札方式期においては、設立後間もな い小規模企業の参入を排除? ブックビルディング方式の導入により参 入が可能 31 Estimates of Number of Non-Issuers During Auction Period Estimates are derived based on the assumptions that (1) distributions of issuer firm ages or numbers of employees during the auction method period would have been the same as the actual distributions during the book building period, (2) book building enables IPOs to be priced on the basis of true firm quality and all potential issuers elect to do so, and (3) the requirement to use the auction method does not affect the issue decisions of firms in the highest two age and employee quintiles. Estimates in Panel (a) are based on firm age for the entire period and for the sub period from 1996 through 1998. Estimates in Panel (b) are based on numbers of employees. The "Actual Minus Expected" column is an estimate of the reduction in IPOs due to the auction method requirement. Estimates in the "Implied for Full Sample" column are constructed by scaling up the actual number of auction method IPOs from 184 to 321, and are included to facilitate comparisons of estimates based on the full period and the 1996 through 1998 period. Panel (a) Projections Based on Distributions of Firm Age Using Data for the Entire Sample Period Book Actual Expected Actual Age Quintiles of Building Auction Auction Minus Book Building IPOs IPOs IPOs IPOs Expected 0.00 to 12.09 years 33 24 94 -70 12.10 to 19.06 years 32 51 92 -41 19.07 to 26.06 years 33 60 94 -34 26.07 to 36.11 years 32 77 92 -15 Over 36.11 years 33 109 94 15 Totals 163 321 466 -145 Age Quintiles of Book Building IPOs 0.00 to 13.05 years 13.06 to 18.40 years 18.40 to 25.40 years 25.41 to 35.10 years Over 35.10 years Totals Using Data from 1996 though 1998 Book Actual Expected Actual Implied Building Auction Auction Minus for Full IPOs IPOs IPOs Expected Sample 18 26 49 -23 -39 18 22 49 -27 -46 18 39 49 -10 -17 18 41 49 -8 -13 18 56 49 8 13 90 184 243 -59 -102 Panel (b) Projections Based on Number of Employees Using Data for the Entire Sample Period Book Actual Expected Actual Employment Quintiles Building Auction Auction Minus of Book Building IPOs IPOs IPOs IPOs Expected 0 to 130 employees 33 30 92 -62 131 to 189 employees 32 54 90 -36 190 to 281 employees 33 55 92 -37 282 to 494 employees 32 93 90 3 Over 494 employees 33 89 92 -3 Using Data from 1996 though 1998 Book Actual Expected Actual Implied Employment Quintiles Building Auction Auction Minus for Full of Book Building IPOs IPOs IPOs IPOs Expected Sample 0 to 120 employees 18 20 52 -32 -56 121 to 169 employees 18 26 52 -26 -45 170 to 273 employees 18 34 52 -18 -31 274 to 618 employees 18 72 52 20 35 Over 618 employees 18 32 52 -20 -35 Totals Totals 163 321 456 -135 90 184 260 -76 -133 32 ブックビルディング方式の効果 Kutsuna and Smith (2002) ブックビルディング方式は、大規模で成熟した公 開企業にとってコスト的にメリットがある。 小規模な公開企業にとって入札方式はコスト的 にメリットがあったが、質の高いベンチャー企業 を市場から排除した。→入札方式期に比べて高 コストではあるが、ブックビルディング方式は新 規公開市場から排除されていた質の高い企業の 公開を可能にした。 33 5.新規公開時期と アンダープライシング Hot IssueとCold Issue Ibbotson and Jaffe (1975) Ritter (1984) 株価指数の推移状況 初期収益率の推移状況 34 JASDAQ Stock Index with Auction and Book Building Sample Periods 140.00 120.00 100.00 1995 Post-1995 Auction Pre-1999 Book Building 1999 2000 80.00 60.00 40.00 20.00 1/ 4/ 19 5/ 95 4/ 19 9/ 95 4/ 19 1/ 95 4/ 19 5/ 96 4/ 19 9/ 96 4/ 19 1/ 96 4/ 19 5/ 97 4/ 19 9/ 97 4/ 19 1/ 97 4/ 19 5/ 98 4/ 19 9/ 98 4/ 19 1/ 98 4/ 19 5/ 99 4/ 19 9/ 99 4/ 19 1/ 99 4/ 20 5/ 00 4/ 20 00 0.00 Date 35 -100 95 19 012 95 4 19 031 95 3 19 041 95 8 19 061 95 2 19 072 95 5 19 083 95 1 19 092 95 8 19 102 95 0 19 111 95 5 19 122 96 2 19 032 96 8 19 061 96 3 19 080 96 2 19 090 96 6 19 100 96 2 19 110 96 1 19 121 97 2 19 031 97 9 19 060 97 5 19 072 97 4 19 090 97 4 19 092 97 5 19 102 97 2 19 120 98 8 19 060 98 5 19 080 98 5 19 100 98 2 19 120 99 9 19 041 99 4 19 072 99 3 19 100 99 1 19 110 99 2 12 16 19 Percentage Returns Initial Returns of IPOs 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0 Listing Date (YYYYMMDD) 36 6.長期株価パフォーマンス 先駆的研究 VC投資の役割との関連性 アンダーライターの役割との関連性 新規公開企業の属性との関連性 実証研究(米英以外) 実証研究(日本 37 先駆的研究(1) Ritter (1991) 1975-84年のアメリカの新規公開企業をサンプルとし て、公開後3年間の長期株価パフォーマンスを分析。 株価パフォーマンスがナスダック指数他いくつかのベ ンチマークと比較して相対的に悪いこと(long-run underperformance)を指摘。 その原因として、投資家が設立後間もない成長初期 段階の企業の収益について楽観視しすぎていたこと、 公開企業もこうした機会の窓(Windows of Opportunity)に便乗したことを指摘。 38 先駆的研究(2) Loughran and Ritter (1995) 1970年から1990年までの期間に新規公開も しくは増資をした企業のその後5年間の長期 株価パフォーマンスを分析。 新規株式公開企業では5%、増資企業では 7%のリターンしか投資家にもたらしていない ことを指摘。 こうした現象を「株式発行のパズル(New Issue Puzzle)」と呼んでいる。 39 先駆的研究(3) Levis (1993) 1980年から1988年までの期間にロンドン証券 取引所に新規公開した企業を対象に3年間の 長期パフォーマンスを分析。 Ritter等によって指摘されたパズル現象がアメ リカに限られたものではなく、イギリスにおい ても同様にみられることを指摘。 40 VC投資の役割との関連性 Brav and Gompers (1997):アメリカ VC投資先企業はVC非投資先企業を上回るパ フォーマンスを示し、新規公開企業の低パフォー マンスは小規模なVC非投資先企業によってもたら されていると指摘。 Espenlaub, Garrett, and Mun (1999):イギリ ス アメリカを対象としたBrav and Gompers (1997)の 分析結果と同様、両者の間に正の関連がみられ ることを実証的に明らかにした。 41 アンダーライターの役割との関 連性 Carter, Dark, and Singh (1998) アンダーライターと長期株価パフォーマンスと の関連性を分析し、長期パフォーマンスの悪 化は、名声のあるアンダーライターによって引 き受けられた新規公開においてはそれほど深 刻ではないとの実証結果を提示。 42 新規公開企業の属性との関連性 Brav, Geczy, and Gompers (2000) 1975年から92年の新規公開企業と増資企業 の長期株価パフォーマンスを分析。 低パフォーマンスが時価/簿価比率の低い小 規模企業に集中している実態を明らかにした。 新規公開企業はこうした小規模企業が大半で あり、これらの性格を反映しているのでは? 43 実証研究(米英以外の市場) Aggarwal, Leal, and Hernandez (1993) Firth (1997) ニュージーランドを対象 Ljungqvist (1997) ブラジル、チリ、メキシコといった中南米の新 規公開企業を対象 ドイツを対象 米英同様にアンダーパフォーマンスが観察 44 実証研究(日本市場)(1) Hwang and Jayaraman (1995) 1975-89年の間に東京証券取引所に新規上場した企 業182社を対象 アメリカ企業を分析対象としてオーバーリアクション仮 説を主張したRitter [1991]とは大きく異なる実証結果 を提示 長期パフォーマンスが、ベンチマークとするインデック スによって大きく影響される点については同様の結果 長期パフォーマンスが業種によって大きく異なること、 公開直後に初値がついた企業と公開後しばらくの期 間初値がつかなかった企業の間で極めて大きなパ フォーマンスの違いがあることを指摘 45 実証研究(日本市場)(2) Cai and Wei (1997) 1971-92年の東京証券取引所への新規上場 企業180社の長期株価パフォーマンスを公開 後1年、3年、5年の3期間について分析 長期パフォーマンスの測定が、採用するベン チマークによって大きく影響されるという先行 研究の結果を受けて、8つのベンチマークを用 いて分析。1年後と3年後の2つの期間に関し ては8つすべてのベンチマークで、5年後に関 しては8つのうち6つのベンチマークでアン ダーパフォーマンスが観測 46 実証研究(日本市場)(3) Hamao, Packer, and Ritter (2000) 1989年から1995年までの新規店頭公開企業 を対象に、VCタイプと長期株価パフォーマンス との関連性を分析 海外および独立系のVCを除いては、VC投資 先企業の長期株価パフォーマンスがVC非投 資先企業に比べて良好であるとは言えないと の実証結果を提示 47 実証研究(日本市場)(4) 新規店頭公開企業の長期株価パフォーマンス(平均超過収益率AR) 0.1 平 0 均 超 -0.1 過 収 益 -0.2 率 ( A R ) -0.3 -0.4 -0.5 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 新規公開後の経過月 ベンチマーク調整前 日経店頭平均による調整後 (出所)忽那 (2001). ジャスダック指数による調整後 日経平均による調整後 48 決定要因(1) 公開所用年数(-) 新規公開までの所要年数が長い企業ほど株価パフォーマン スが悪い。 公開株数の発行済株式数に占める比率(-) 発行済株式の大きさに比して公開株式数の大きな発行にお いては、株価パフォーマンスが悪い。 公開前後における筆頭株主の保有比率の変化(-) 筆頭株主保有比率の公開後の減少幅が小さいほど(筆頭株 主による持分放出の程度が小さく、公開後も相対的に筆頭 株主が高い保有比率を維持している企業ほど)、株価パ フォーマンスが悪い。 49 決定要因(2) VC投資 統計的に有意ではないが、係数の符号はいずれにお いてもマイナス VC投資先企業のパフォーマンスがVC非投資先企業 よりも悪い傾向にある。 アンダーライターとの関連性 野村証券ダミーと大和証券ダミーの係数がプラス 日興証券ダミーと山一証券ダミーの係数がマイナス 50 7.長期業績パフォーマンス 先駆的研究:Jain and Kini (1994) IPO後の業績パフォーマンスの低下。な ぜ? パフォーマンスと株式保有構造との関連性 実証分析(日本) 51 パフォーマンスと株式保有構造と の関連性 (1)経営者と株主間の利害の対立 (2)VCのモニタリング (3)銀行のモニタリング 52 (1)経営者と株主間の利害の対立 Jensen and Meckling (1976) 経営者(エージェント)と株主(プリンシパル)の 利害は、経営者の持ち分が減少し、株式保有 が分散するにつれて大きく対立することになる と指摘。 彼らの主張に基づけば、企業の業績は新規 公開後低下することを意味している。 53 先行研究(アメリカ) Jain and Kini (1994) 業績パフォーマンスが新規公開後大きく低下 している状況の一部については経営者のイン センティブの低下によって説明できると指摘。 Mikkelson et al. (1997) 新規公開企業の業績パフォーマンスと役員の 株式保有比率との間に関連性はみられないこ とを明らかにした。 54 先行研究(日本) 米澤・宮崎 (1996) 株式保有構造が集中化し、経営者の持ち分 が増加するに伴ってパフォーマンスの上昇が みられることを明らかにした。 広田 (1996) 日本企業の株式保有構造と事業の効率性と の間に関連性はないことを指摘。 55 (2)VCのモニタリング VCは、投資先企業に付加価値を与え、高 成長企業を輩出するという重要な役割を 期待 Gorman and Sahlman (1989) Sapienza (1992) Lerner (1994) Sapienza et al. (1996) 56 先行研究 Jain and Kini (1995) VC投資先企業がVC非投資先企業に比べて相 対的に良好な業績パフォーマンスをあげてい ることを明らかにした。 57 (3)銀行のモニタリング メインバンク・システムの有効性(株式保有、 貸出、役員の派遣を通じたモニタリングの 有効性) Aoki and Patrick (1994) Kang and Shivdasani (1995, 1999) 58 先行研究 米澤・宮崎 (1996) 広田 (1996) 銀行の株式保有と企業の生産性との間に有 意に正の関係があることを明らかにした。 銀行の株式保有は企業の経営上の効率性と は関連性がないと指摘。 Weinstein and Yafeh (1998) 同様に、メインバンクの顧客企業は収益性が 低いことを指摘。 59 実証分析(日本) Kutsuna, Okamura and Cowling (2002) 新規公開前後の株式保有構造 上位10大株主 銀行 公開後に保有比率を大きく減少させているが、依然として 60%を上回る高い比率を保有 公開後に保有比率を高める VC 公開後に保有比率を大きく低下 60 新規公開前後の株式保有構造 Ownership Structure of JASDAQ Firms Before and After IPO: Shareholdings of Top Shareholder, Top 10 Shareholders, Banks and VCs Sample Before After Changes in Wilcoxson-Tests Size IPO IPO Shareholdings Z-statistic (1) Top shareholder’s stakes 247 Median 29.82 22.87 -6.95 ***-13.563 Mean 34.44 27.13 -7.31 (2) Top10 shareholders' stakes 247 Median 80.54 63.7 -16.84 ***-13.624 Mean 78.89 63.45 -15.44 (3) Top bank's stake (a) 194 Median 2.79 3.41 0.62 ***-8.695 Mean 2.83 3.29 0.46 (4) Banks' total stakes (b) 194 Median 4.29 6.66 2.37 ***-10.415 Mean 5.23 7.39 2.16 (5) Top VC's stake (c) 123 Median 2.73 0.77 -1.96 ***-9.258 Mean 4.08 1.58 -2.5 (6) VCs' total stakes (d) 123 Median 4.69 0.66 -4.03 ***-9.533 Mean 6.72 1.91 -4.81 (a) Shareholdings by the bank that has the largest share among banks on the top 10 Shareholders List. (b) Shareholdings by all banks on the top 10 Shareholders List. (c) Shareholdings by the venture capital firm (VC) which has the largest share among VCs on the List. (d) Shareholdings by all VCs on the List. 61 業績パフォーマンス(公開前後の 9年間) Operating Performance of JASDAQ IPO Companies (Net Sales, Ordinary Profits, and Net Profits) Before IPO After IPO Operating Performance Year -5 Year -4 Year -3 Year -2 Year -1 Year 0 Year +1 Year +2 Year +3 Mean (Million Yen) 14,736 16,034 16,190 17,547 18,569 20,286 21,927 22,430 22,747 Net Sales Median (Million Yen) 9,792 10,467 11,588 11,651 12,224 13,463 14,450 14,344 13,857 S.D. (Million Yen) 14,870 15,544 14,641 19,800 21,592 23,994 27,396 30,098 33,840 Mean (Million Yen) 785 748 740 1,083 1,430 1,655 1,688 1,836 2,073 Median (Million Yen) 456 452 505 567 701 769 770 690 732 Ordinary Profits S.D. (Million Yen) 1,154 978 840 4,527 7,039 7,794 9,496 11,772 13,513 Negative ordinary profits (No. of Companies) 5 6 4 0 0 1 13 18 17 % to Sample Size 2.7% 2.9% 1.7% 0.0% 0.0% 0.4% 5.4% 7.7% 7.4% Mean (Million Yen) 358 313 305 489 663 776 764 820 973 Median (Million Yen) 205 201 202 239 333 384 374 304 316 Net Profits S.D. (Million Yen) 562 430 413 2,658 3,052 3,590 4,357 5,576 7,544 Negative net profits (No. of Companies) 8 7 5 5 0 1 14 30 27 % to Sample Size 4.3% 3.3% 2.2% 2.0% 0.0% 0.4% 5.8% 12.8% 11.7% Sample Size 188 209 230 246 247 247 241 235 23062 経常利益/売上高 Figure 1 Ratio of Ordinary Profits to Net Sales of IPO Firms For Nine Years 7.00 6.25 6.04 6.00 5.50 5.26 5.00 4.65 4.60 4.64 4.41 4.50 4.00 3.00 2.00 1.21 0.85 0.74 1.00 0.06 0.07 -0.04 Year -5 (188) Year -4 (209) Year -3 (230) 0.75 0.46 0.53 Year +2 (235) Year +3 (230) 0.00 -1.00 Raw (Median) Year -2 (246) Year -1 (247) Year 0 (247) Year +1 (241) Industry-median-adjusted (Median) 63 当期純利益/売上高 Figure 2 Ratio of Net Profits to Net Sales of IPO Firms For Nine Years 3.50 2.88 3.00 2.99 2.66 2.50 2.16 2.00 2.00 1.93 1.92 1.91 1.90 1.50 1.00 0.72 0.46 0.50 0.44 0.48 0.21 0.18 0.00 -0.16 -0.08 -0.09 -0.50 Year -5 (188) Year -4 (209) Year -3 (230) Raw (Median) Year -2 (246) Year -1 (247) Year 0 (247) Year +1 (241) Year +2 (235) Year +3 (230) Industry-median-adjusted (Median) 64 売上高成長率 Figure 3 Growth Rates of Net Sales Before and After IPO 9.00 8.00 7.86 6.97 7.00 6.00 6.84 7.02 6.38 5.29 5.40 5.25 4.77 5.00 4.30 3.68 4.00 3.00 2.00 0.62 1.00 0.790.90 0.68 0.00 -0.24 -1.00 From -5 to -4 (188) From -4 to -3 (209) Raw (Median) From -3 to -2 (230) From -2 to -1 (246) From -1 to 0 (247) From 0 to +1 (241) From +1 to From +2 to +2 (235) +3 (235) Industry-median-adjusted (Median) 65 決定要因(1) 筆頭株主の保有比率 筆頭株主保有比率の公開前後における変化 公開後の売上高成長率および経常利益成長率(プラ ス) 経常利益対売上高比(プラス) 公開後に株式保有の集中度が低下した企業の業績 パフォーマンスが悪い 上位10大株主の保有比率 経常利益成長率および経常利益対売上高比(プラス) 66 決定要因(2) 銀行の保有 すべてについて統計的に有意ではない VCの保有 公開後のパフォーマンスに関して有意 公開前のパフォーマンスに関しては有意では ない 67 決定要因(3) 新規公開企業の属性の影響 業績パフォーマンスの悪さが、大規模で成熟 した企業と密接に関連していることを示唆 時価総額(プラス) 企業規模(従業員数)(マイナス) 企業の設立後年数(マイナス) 68 参考文献 忽那憲治『中小企業金融とベンチャー・ファ イナンス』東洋経済新報社、1997年。 忽那憲治「店頭市場改革と新規公開引受業務 ―入札方式とブックビルディング方式の新規 公開コスト比較―」日本証券経済研究所・証 券経営研究会編『証券会社の組織と戦略』日 本証券経済研究所、2001年2月、pp.267-291. 忽那憲治「ベンチャー企業向け証券市場間競 争のグローバル展開と成長企業の輩出―わが 国新規店頭公開企業の長期株価パフォーマン ス分析―」大阪市立大学経済研究所・中尾茂 夫編『金融グローバリズム』東京大学出版会、 2001年3月、pp.139-168. 69 参考文献 Kutsuna, K., Cowling, M. and Westhead, P. (2000) The Short-Run Performance of JASDAQ Companies and Venture Capital Involvement Before and After Flotation. Venture Capital: An International of Journal of Entrepreneurial Finance, Vol.2. No.1, pp.1-25. Kutsuna, K., Okamura, H. and Cowling, M. (2002) Ownership Structure Pre- and Post-IPOs and the Operating Performance of JASDAQ Companies. Pacific-Basin Finance Journal, Vol.10. No.2. pp.163-181. Kutsuna, K. and Smith, R. (2002) Why Does Book Building Drive Out Auction Methods of IPO Issuance? Evidence and Implications from Japan, Kobe University, Discussion Paper Series, No.5. Kutsuna, K., Smith, J.K. and Smith, R.L. (2003) Banking Relationship and Access to Equity Capital Markets: Evidence from Japan’s Main bank System. Mimeo. Kerins, F., Kutsuna, K. and Smith, R.L. (2003) Why Are IPOs Underpriced? Evidence from Japan’s Hybrid Auction-Method Offerings. Mimeo. 70
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