連体修飾節におけるテンスと構文特徴の関係

連体修飾節におけるテンスと構文特徴の関係
1)
唐 亮**
<目 次>
1.
2.
3.
4.
はじめに
形式レベルと構文レベルの解釈
絶対テンスと主題構文
相対テンスと「が」格構文
5. 絶対テンス・相対テンスの使い分け
と構文特徴
6. 構文特徴とテンスからの解放
7. 終わりに
Key Word : adnominal clause(連体修飾節), absolute tense(絶対テンス), relative tense
(相対テンス), syntactic features(構文特徴)
1. はじめに
現代日本語の連体修飾節におけるテンス性の解釈について、主節事態発生
時1)を基準とする相対テンスの解釈が多い。つまり、連体修飾節における
「ル形」2)と「タ形」 は主節時を基準として以前なのか以後なのかを表すことに
なる。このように、主節時に視点を置いて、連体修飾節の時間的位置を捉え
るテンス解釈は相対テンスと呼ばれる。例えば、次の例文を見られたい。
(1)
始めて飛行機に乗った人は、空を飛んでいる自分におどろく。
(石川達三(1971)󰡔青春の蹉跌󰡕)3)
* 北京外国語大学博士課程 文教大学大学院付属言語文化研究所準研究員
1) 以下主節時と略称する。
2) 本稿では、述語の非過去形をル形と呼び、過去形をタ形と呼ぶ、以下同じような言い
方をする。
72 日本言語文化……第30輯
(2)
疎開をする人々は、道端に持ちきれぬ家財道具を並べて売っていた。
(北杜夫(1964)󰡔楡家の人びと󰡕)
例文(1)の連体修飾節事態は発話時ではなく、主節時を基準としている。
つまり、「乗った」という述語の「タ形」は「自分に驚く」ときに、すでに「乗っ
た」ということを表す。例文(2)も同様、主節時を基準として、それより以後
を表すことになる。このように、連体修飾節の時間性は主節時への依存が高
くて、相対テンスの解釈は優位的である。しかし、連体修飾節におけるテン
ス性について、相対テンスで解釈できない場合もある。例えば、次は多く検
討されている例文である。
(3)
越前海岸で自殺した女性はそこへ行くのにタクシーを使った。
(三原1992:p12)
例文(3)の場合、「自殺」が発生したのは、「タクシーを使った」という事態より
以前ではなく、発話時を基準としてすでに発生した事態の解釈しかできない。
このように、連体修飾節のテンスは主節時視点より以前を表さず、発話時を基
準とする絶対的な時間関係も存在している。この場合のテンスは絶対テンスと
呼ばれる。従来の研究で指摘されたように、絶対テンスと相対テンスの使い分
けは連体修飾節の中にも見られる。この絶対テンスと相対テンスの使い分けは
どのような要因によって導かれるのかを検討しなければならない。
しかし、連体修飾節の述語の「ル形」と「タ形」は必ずテンスを表さず、テン
ス性から解放されて、時間関係を表さない「ル形」と「タ形」も存在している。
次の例を見られたい。
(4)
腰が曲がった白髯の老僧が、地面に坐って、われわれの方にむかって合
掌して、大きな声でお経をあげました。(竹山道雄(1948) 󰡔ビルマの竪琴󰡕)
3) 本稿で使われる例文は新潮文庫100冊CD-ROM版からテキストを抽出し、ひまわり
コーパスを利用して、筆者が作ったコーパスからのものである。