Faculty Development

東京理科大学
教育開発センター
FD
Faculty Development
通信39
2015.3
Vol.
Contents
第11回FDセミナーを開催…
1
大学教育の質保証への学生参加… 2-3
コペンハーゲン大学理学研究科での
「高等教育教授法
(UP)」授業について… 4
※第11回のFDセミナーの動画は以下のページに掲載しています。
http://letus.ed.tus.ac.jp/course/view.php?id=11176
LETUSのトップページから入る場合は、
「コース→特別コース→FDセミナー」と進んで下さい。
講演会の様子
理工学部 教養
准教授
第11回FDセミナーを開催
今村 武
すでに昨年の催しとなってしまいましたが、10月2日(木)14時
科学教育専攻は、2014年の現在では博士課程の学生10名を
30分から神楽坂校舎2号館2階の教室にて「東京理科大学教育
含む35名体制で、毎年70名のファカルティのメンバー、250名
開発センター第11回FDセミナー」を開催しました。今回はコペン
以上の博士課程の学生に対し、高等教育における教授法に関す
ハーゲン大学大学院理学研究科科学教育専攻の博士課程に在
るコースを提供しているとのことです。吉田氏も、博士課程の学
学中の吉田実久氏をセミナー講師としてをお招きしました。
「大
生に自らの博士課程をデザインすることができるようになるた
学での教授法と教育の質保証〜コペンハーゲン大学博士課程の
めのコースIntroduction Course for New PhD Studentsに講
事例から学ぶ〜」と題し、同大学で実施されているいわゆるプレ
師として参加しています。博士課程の学生にとって必修の講座
FDに企画側として参加されている吉田氏の実践報告を中心とす
RCR(Responsible Conduct of Reserch)では、⑴責任ある研究と
るセミナーとなりました。
研究不正、⑵論文の著者、⑶研究結果の公表、知財、特許、さら
デンマークの高等教育
に⑷利害の衝突と科学コミュニケーション等について議論を重
デンマーク王国は、面積は九州と同程度、人口は北海道よりも
ねていくとのことです。科学教育研究科の博士課程は、大学教育
多少多い(約561万人)国です。大学はすべて国立で授業料は無
の一部を担っており、自らの研究と学生指導のバランスをとるこ
料となっており、コペンハーゲン大学は1479年に創立されたヨー
とも難しいとの説明もありました。
ロッパで最も古い大学とのことです。ノーベル賞受賞学者は8名
今回のセミナーは、東京理科大学の博士課程について振り
輩出しています。博士課程に在学する学生の立場は、プロジェク
返って考えるきっかけ(大学の役割、PhDのその後、大学の研究
トを遂行することで大学から雇用されています。コペンハーゲン
者はなにをするのか、大学院教育の質保証、社会のニーズへの対
大学の博士課程は専攻は様々でも、指導教官のもとで行う学生
応)を多く与えてくれるものとなりました。講演後の質疑応答で
自身のPhD研究プロジェクト、その成果となる学位論文執筆、授
は、非常に多くの質問が寄せられ、熱心にご対応いただいた吉田
業(約半年分)、サイエンスコミュニケーション、教育または他の
氏、今回のセミナーの企画にご尽力くださいました本学科学教育
アウトリーチ活動への参加、外部の研究機関での滞在(3〜6ヶ
研究科の北原和夫先生には、この場を借りて改めて御礼申し上
月)を共通の内容としています。
げます。なお、第11回FDセミナーの模様はLETUS上にて配信さ
科学教育専攻 Department of Science Education
れています。当日都合で出席がかなわなかった方、また今号の特
2007年に4名の職員でスタートしたというコペンハーゲン大学の
集記事でご興味をお持ちになられた方はぜひ御視聴ください。
1
大学教育の質保証への学生参加
科学教育研究科 科学教育専攻
教授
北原 和夫
平成26年度第11回FDセミナーでコペンハーゲン大
起こっているように思います。それで、大学における教育
学における「高等教育教 授法」のプログラムについて
と研究について、大学コミュニティーの構成員である教
コペンハーゲン大学に在学中の吉田実久さんに紹介し
員、職員、学生が基本的な考え方を共有することは大
て頂くことになりました。このFDセミナーを開催するに
切であると思っています。願わくば、日本においてもこ
到った経緯を述べたいと思います。
のような共通の学びの機会を実現したいと思いました。
帰国後、FD担当の方々に相談しましたところ、話が進
私は「科学コミュニケーション学の構築」をテーマと
み今回の企画となりました。
する調査研究のために、欧州で科学コミュニケーション
大学とは何か、学術とは何かを考えるときに、学生を
研究の拠点の一つであるコペンハーゲン大学大学院理
どう考えるか、ということとも関わってきます。大学にお
学研究科科学教育専攻を2014年3月に訪問しました。
ける学生の位置づけについては、1992年東工大に在職
そのときに同専攻が「高等教育教授法」を開講して、全
中に半年研究休暇を頂きオーストリアのヨハネスケプ
学の博士課程大学院生と教員が参加しているというこ
ラー大学(リンツ)に滞在したときの経験が、この課題
とを聞いて興味を覚えました。
に最初に私の目を向けさせたのです。共同研究者が理
学問が先端化、細分化してきて、大学において学問
工学部長であったこともあって教授会に出て私が教授
を担う共同体というアイデンティティーが薄れている現
会メンバーに紹介されることとなりました。教授会に出
在、教員と将来の学術のリーダーとなる大学院生とが、
て行きましたら、そこには直前まで研究室で議論をして
後 進の指導をどうすべきか、学問に関わるとはいかな
いた大学院生が学生代表として出席していたのです。共
ることであるかということについて、意識の共有がなさ
同研究者の話では、1960年代後半の大学紛争以降、
れていることは極めて重要であると常々考えていまし
欧州では教員、職員、学生がともに大学運営に参加す
た。実は,大学とは何か、学術とは何か、といった大きな
る仕組みを造り上げていったのでした。教員、学生がと
テーマはあまり意識にのぼることもなく、また日常のな
もに学術コミュニティーを担うのであるという考え方に
かのひとときに言葉として交わすこともありません。一
基づくということを、共同研究者の理工学部長が説明し
方で,研究者倫理、教育者倫理に関わる事件が頻繁に
てくれました。
講演者の吉田実久氏
2
当日は多数の学生も参加した
それから10年して、前任校である国際基督教大学で
職員、学生、行政者がともに討論する機会があること自
は、様々な改革が行われるときには,学生に対する説
体が驚きでしたが、さらに欧州における高等教育のリー
明会が開催される伝統がありました。2002年から2年
ダーたちはこのようなかたちで育っているのだというこ
間学生部長職にあったとき、学長の提案もあって、毎週
とを見て感動を覚えたのでした。大学院生たちが、在学
「大学論」という授業を昼 休みに開講しました。単位
中に、大学の在り方について考え、挑戦する機会を与え
認定をするものではありませんが、教員、職員、学生が
られているのです。この会議に参加した日本の関係者
それぞれ発題して討論することによって、大学観を分か
のご尽力により、2013年7月には日本で大学評価学位
ち合おうというものでありました。様々な専攻の学生た
授与機構のシンポジウム「大学評価フォーラム:学生か
ちがやってきて、議論は大いに盛り上がりました。この
らのまなざし:高等教育質保証と学生の役割」が開催
「大学論」を契機に、ある学生グループが独自に教養
され、大学教育の質保証における学生の役割について
教育についての学生の意識調査をおこなうようになり、
議論する機会が設けられました。
立派な提言をまとめて学生部に提出してきましたので、
このように日本でも、大学とは何かについて、教職員
私は学長の許可をえて、学生たちが教授会で15分ほど
そして学生たちがFD活動によって共に考える仕組みが
の報告をするようにいたしました。その報告はその後の
構築されつつあります。学生も大学の重要なステークホ
教学改革に少なからず影響を与えたと思っています。
ルダーとして大学 教育の質保証に参 与していくことに
2008年から私は日本学術会議の「大学教育の質保
よって、大学とは何か、学術とは何かについての広い意
証」のプロジェクトに関わることになり、大学における
識共有が図られ、次世代に引き継がれていくべきなの
各分野の学びの「芯」を明示する活動を進めています。
だろうと思うのです。
学術が高度に専門化し先端化している状況で、大学で
の学びにおいてもその分野の学びの「芯」が意識的に
詳しいことは吉田実久氏の説明に委ねますが、コペ
共有され伝達されるということが弱くなってきているよ
ンハーゲン大学では、大学院博士課程学生と教員に対
うに思われたからです。
して「教授法」のプログラムの受講が課されています。
この「大学 教育の質保証 」のプロジェクトの関連で
21世紀は世界的な課題に様々な要因が交差していて、
2011年暮れにブリュッセルで開催された欧州連合の大
むしろ様々な学問分野が協働してはじめて解決が可能
学教育の質保証に関わる国際会議に出席する機会があ
なのであると思います。このような時代に応えるべく、学
りました。そこには各国の政府高官、大学の副学長など
生と教員が「大学とは何か」
「教育とは何か」に関して共
に混じって学生、院生が多数来ていたのです。各大学の
通の認識をもつことは、諸学の協働に向けて極めて重
学生会のリーダーたちでした。そして、その国際会議で
要であります。そして学生は大学にとって単なる「顧客」
のハイライトであるセッションの議長は、欧州学生会連
なのか、同業者なのか、さらに言えば、人類の普遍的価
合の副会長である女子学生で、大学院で社会学を学ん
値に向かっての協働者なのか、その問いが我々に投げか
でいる若い女性でした。彼女は1時間半のセッションを
けられていると思います。
見事にまとめたのです。大学の在り方について、教員、
3
コペンハーゲン大学理学研究科〔ⅰ〕での
「高等教育教授法
(UP)
」授業について
コペンハーゲン大学
博士課程
吉田実久
10月2日のFDセミナーで、コペンハーゲン大学の博士課程に在
教育教授法の観点を支援するDepartment Supervisorです。この2
籍する学生から見たファカルティー・ディベロップメント(FD)につ
人のSupervisorからどんな教育活動に関してアドバイスを受けたい
いて紹介する機会を頂きました。コペンハーゲン大学の概要につ
かを受講者が決めます。ここで行われるSupervisorからの指導には
いてはセミナーでの配布資料を参照して頂き、ここでは当日あまり
様々な種類の教育活動を含まなくてはなりません。実験活動、講義
触れることが出来なかった大学教員に対するUP(高等教育教授法:
(執筆段階の支援、事後評価の支援)、臨床研修、メンタリングなど
Universitetspædagogikum/ Teaching and Learning in Higher
を観察・指導し、その振り返りを行います。全体で、約65時間分あり
Education Programme)の授業について紹介します。
ます。この2人のSupervisorにより、受講生は専門分野の特性も反映
コペンハーゲン大学の理学研究科(Faculty of Science)と健康
した理論および実践について学び、考え、実践し、そのフィードバック
医学研究科(Faculty of Health and Medical Sciences)では、准教
を得ることが出来るのです。
授以上の教育活動を行う大学教員に対して、UPあるいはそれに準ず
最後に、これらの活動は大学で教育活動に関わる博士課程の
る授業を履修することを義務付けています。そのため、コペンハーゲ
学生にも求められていることが、コペンハーゲン大学の大きな特
ン大学で教育活動に携わる者はすべて、高等教育の基礎とその実践
徴です。UPの受講条件として、事前にIUP(高等教育教授法入門 :
方法について学んでおり、これにより大学全体での教育の質を維持
Introduction to University Pedagogy)あるいは類似した教員講習
し、また高めていくことが出来ます。UPの目的は、明確に示された教
(teacher training)を履修していることが求められていますが、コ
育目標に関連づけた学生の学びを支援するために、授業を準備し、
ペンハーゲン大学理学研究科の博士課程に在籍した学生は、在学
実行し、評価出来るようになることです。また、履修者が所属する機
期間中にこれを満たすことが出来るのです。さらに、博士課程の段階
関で、一人一人が教えることと学ぶことの両方を発展させ続けること
から大学教育について学習者側と教授者側の両方の視点から批判
も求められています。
的に授業を観察し、実践・評価することが出来ます。このようなコペ
授業は理論と実践という2つの部分に分かれ、両方を合わせて
ンハーゲン大学の取り組みを見ていると、大学がこの先発展し続け
。授業を通じて「ティーチング・ポートフォリ
ていくためには博士課程終了後にアカデミアを目指す学生や若手の
オ」の作成が求められ、これが最終的な教育資格の基礎となり、大
研究者が、これからの大学教育について考え、実践へとつなげてい
250時間分あります
〔ⅱ〕
学水準で授業を計画、実行、評価出来る能力を鍛えていきます。
かなければならない、と考えさせられました。
理論部分は、全日の授業、宿泊を含むリトリート、授業外で行う課
〔ⅰ〕コペンハーゲン大学ではFaculty of Scienceの下に12の学科が配置されており、
その中に博士課程プログラムも含まれる。
〔ⅱ〕但し、この時間数には普段の授業を準備・観察・評価する時間も含められている。
題研究、に分かれ、全体でおおよそ110時間分あります。
実践部分は、Supervision及びGuidanceです。履修者1人に対し
て、Supervisorが2名付いて行われます。1人は通常同じ組織で働
く同僚であり、自分が教えている分野の専門的・学術的知識がある
Educational Supervisor、もう1人は、高等教育の資格を持ち、高等
授業
全日
宿泊
導入、IT支援型学習、事前プロジェクト、学生へのインタビューについて。
「事
前プロジェクト」
は自分の教育に関する問題であり、
この授業を通じて調べて
いきたいと思っている内容を検討する。
自習/
課題研究
個別
最終段階は個々人のプロジェクトであるが、最終プロジェクトの内容は冊子
にまとめられ、配布・公開される。次回以降の受講生/参加者へも提供され、
フィードバックを受けることが出来る。
(参照:“UP anthology”)
編集後記
平成26年度の最終となる
「FD通信」第39号をお届けいたします。
す
でに学内は、新年度に向けての準備が着々と進んでいる時期でしょう。
さて今号は、参加者各位より大きな反響を呼び、企画者側としても相当
の手応えを感じた第11回FDセミナーを特集いたしました。昨年10月
に開催したセミナーの報告を今頃になって、
という叱咤はもっぱら編輯
子の不徳に向けられるべきものです。
しかし、
この機会に振り返ります
と、理科大にとって参考にすべき点が多々あるFD活動のひとつであっ
たと思われます。
[お問合せ先]
4
“Teaching and Learning in Higher Education Programme” Teaching
development courses.
ht t p: / / w w w. i nd. ku. dk/ engl i sh/ course_overvi ew / up/
"UP anthology"
ht t p: / / w w w. i nd. ku. dk/ engl i sh/ publ i cat i ons/ knud/
グループに分かれて提示されたテーマに取り組み、発表する。
テーマ例:学生学習、教授法、評価、建設的連携、学生(論文)指導・管理、
ワー
クショップ。
リトリート
参考URL: University of Copenhagen. “Introduction to University Pedagogy”
PhD Courses at DSE.
ht t p: / / w w w. i nd. ku. dk/ engl i sh/ course_overvi ew / i up/
実践
理論
授業
●リトリート
●自習/課題研究
●
教育活動の観察、指導、
評価
●
Educational Supervisorと
Department Supervisor
●
250時間分
大学生のEU域内移動が活発で、
まさに群雄割拠の様相を呈してい
るのがヨーロッパの大学間競争です。その中できらりと輝き、
さらに世
界的規模での競争に参画するコペンハーゲン大学のFD活動は、すな
わち自らのアイデンティティを確立することを目標としています。
短期的な課題に追い回されてしまうことの多い吾が方のFD活動で
すが、将来の目標を見据えつつ、腰を据えての地道な活動を継続して
いきたいという想いを深める機会となりました。
(今)
東京理科大学 教育開発センター/FD啓発・広報小委員会(事務局:学務部学務課(葛飾)) 〒125-8585 東京都葛飾区新宿6-3-1 TEL.03-5876-1771 FAX.03-5876-1628 E-mail. [email protected] URL.https://oae.tus.ac.jp/fd/