1 <「校長室便り」44> 1 年 生 入学式後半月が過ぎた

<「校長室便り」44>
1
年
生
入学式後半月が過ぎた。桜の最後を飾った八重桜も終わりに
近づきつつある。代わってツツジやフジ、山吹やハナミヅキが
咲き出した。
毎日、校内を回っているが、主として高校生、中学生、それ
に小学生も含めて1年生の教室を覗いている。おもしろいこと
に、高校1年生が一番緊張していて、中学1年生、小学1年生
はそうでもない。
しかし、先週あたりから高校1年生も緊張がほぐれてきた。
小学校父母の会の総会で話したのだが、1年生の最初の算数の授業を参観していると、
数字の書き方をやっていた。1から始めまって数字を先ず指でなぞっていくのである。
8まで来て、アレッと思った。先生の教える8の字の書き方と私の書き方がちがうので
ある。勿論、私の書き方が間違っていたのである。それにしても60年間まちがって書
いていたのだからひどいものだ。
私は小学校の保護者の方々に良い習慣を身につける
ことの大切さを述べたのだが、それは学習であっても、
生活であっても大変重要なことだ。
「心の習慣」につい
ても話したのだが、これは学習、生活にも増して、大
切だろう。
学習でも、生活でも、また心の習慣でも、よい習慣
は極めて合理的にできているし、それを身につけた人
間を助けてくれる。道徳 moral はラテン語の「習慣」
mores(フランス語だと moeurs)から出ているが、これは示唆的である。
また、いい習慣を身につけること、一般的には知識でも習慣でも学び、身につけるこ
とは喜びではないだろうか。小学校1年生はほとんど数字の書き方を知っていたが、こ
れからどんどん新しいことを覚えてゆく。それは児童にとって楽しみだろう。これは中
学1年生、高校1年生にとっても同じだし、1年生でない他の学年の生徒にとっても無
論同じである。
ところで、私は数字の書き方も知らなかったが、字もまた下手である。これも小さい
時きちんと学ばなかったせいである。そこには字の上手下手など学ぶことの本質には変
わりないなどという勝手な思いこみがあった。
ところが60を過ぎて、それも半ばに達する頃から、急に書に目覚めてしまった。前
から興味がなくはなかったが、書道、と言うより手習いが楽しみになってしまった。
1
書道の先生にお手本を書いてもらい、それを写すことから始
め、時々書いたものを見てもらい批評してもらう。まだ、2年
足らずなのに、臨書だけでなく、創作的なものにまで手を出し
始めた。少し生意気かとも思っているのだが、とにかくおもし
ろい
漢字も楷書から始まって、行書に草書も練習してみる。また
仮名も書く。仮名を書けば、当然変体仮名を知らなければなら
ない。変体仮名とは今のひらがなとは異なるものだ。やや詳し
く言えば、1900年(明治33年)の小学校施行規則改正以
前に用いられていた仮名と言うことになる。現在のひらがなよりも原漢字により近い。
これが読めないと、平安時代から明治大正までのオリジナルのものは読めないことにな
る。江戸時代の版本も当然この変体仮名なので、それも読めない。
ところで、私の現在住んでいる家は4、50年前に建て替えたものだが、その時物置
から江戸時代の版本が出てきた。そのようなものに多少興味があったので、私は取って
おいたのだが、これを取り出してみた。一冊は『実語教童子教證注』、もう一冊は『古状
揃證注』。前者は天保10年(1839年)の刊行、後者は奥付の部分がはがれてしまっ
ていてはっきりしたことはわからぬが、天保4年(1833年)のものらしい。
本校の前身は成田英漢義塾にさかのぼるが、これは成田市土室に
あった北総英漢義塾と関係する。当時の三池照鳳貫首は北総英漢義
塾の塾主小倉良則と親しかったが、小倉氏から北総英漢義塾を閉じ
るが、英漢義塾の名を残してくれないかと依頼され、学校設立に当
たって成田英漢義塾と名付けたと言う。前記2冊の版本はどうもこ
の北総英漢義塾関係者の所有だったようだ。
それはともかく、この版本は変体仮名ではあるが、江戸時代特有の御家流というスタ
イルで書かれている。歌舞伎や相撲の文字は勘亭流と言うが、この御家流から派生した
ものである。これを取り出してよく見ていると、またまねして書いてみると、なるほど
この字はこの字をくずしたものなのか、これはこう読むのか、と言うことがよくわかる。
この前の日曜日は、午前中は用事があって出かけたが、午後から夜まで、この版本を
読んだり、またそれを実際自分で紙に書いてみたりして過ごした。いつも11時頃には
寝るのに、この日は12時を回ってしまった。これがいつまで続くかわからないが、変
体仮名もこれで少しは覚えるだろうし、行書や草書にも慣れるだろう。
以上、書道1年生の感想であるが、本校小中高の1年生たちも早く学校に慣れ、それ
ぞれのレベルで学ぶことの楽しさを感じてくれればいいと思っている。
(2015.4.23)
2
3