第 43 回「日本の書展」東京展公募臨書 審査所感

第 43 回「日本の書展」東京展公募臨書
審査所感
【 漢字作品 】
有岡
(ありおか しゅんがい)
日展会員 読売書法会常任理事
謙慎書道会常任理事
全国書美術振興会理事
今年も数多くの臨書作品が寄せられました。内容を見てみますと、対象となる古典の題材は多岐に及
び、篆・隷・楷・行・草・木簡類等とほぼ書道史を網羅していて、その技量や、作品としての表現方法
も多彩でした。書の学習における臨書が果たす意義と役割が充分理解され、実践されていることを実感
できたことは嬉しい限りです。
臨書は、書者の感性で対象となる古典をどのような切り口で臨書するかによって各々異なった表情と
なるわけですが、とは言え、表現過多となり、古典が有する特徴と匂いが全く感じられない作も応募作
品の中には見られたことも事実です。
臨書にあたって最も大切なことは、客観的な観察眼です。全体としてどのような雰囲気と趣を持った
臨書対象の古典であるのか!それはどの様な造形と用筆又は紙面に対しての文字の大きさなのか!文
字の大小の変化がそこにあるのか等々、細部に至るまでの観察が必須条件となります。従って、筆を握
る以前にこの視覚的臨書に充分時間を割いて欲しいものです。このことが、今度は創作作品制作上必ず
や役にたってくれるものと確信します。
次回も数多くの秀作が応募されんことを切に願っています。
【 かな作品 】
村上 俄山(むらかみ がざん)
日展会員 読売書法会参事
全国書美術振興会参事
今回、初めて「日本の書展」東京展公募臨書の審査に参加しました。種々感じたことを簡単にまとめ、
次回に出品される皆さんに参考になればと報告します。
最初に驚いたのは、漢字 720 点の出品に対して、仮名が 191 点と少ないこと。これは、宣伝不足によ
るものでしょうか。
審査は清水透石と師田久子の両先生と 3 人で行いました。作品は力作揃いで優劣つけがたく、苦慮い
たしました。
作品は関戸本古今和歌集が 33 点と最も多く、続いて香紙切が 11 点、中務集・一条摂政集・寸松庵色
紙がそれぞれ 9 点、元永本古今集が 5 点と目につきました。中には拡大臨書もありましたが、ほとんど
が原寸臨書でした。
私たちの時代には、
「1 つの古典を 3 年かけて学べ」と指導され、臨書に明け暮れる日々でした。繰り
返し、たくさん書くことで、目と手が覚えるのです。そして、自信がつく。自信がつけばリズムも生ま
れる。たくさん書くことで、一番大切な線が鍛えられるのです。その正確な臨書力が、自分の作品づく
りへと高まるのです。量を書いている人の作品ははつらつとしています。今年入選できなかった人は 1
年かけて 1 つの古典に集中してほしいものです。投げたら終わりです。
最後に、出品には決まりがありますが、10 点ばかり規定違反がありました。次回は気を付けてくださ
い。そして、出品者は入落にかかわらず必ず会場へ足を運んでいただきたいと思います。
【 篆刻作品 】
内藤 富卿(ないとう ふけい)
日展会員 読売書法会常任理事
謙慎書道会常任理事
全日本篆刻連盟会長
全国書美術振興会理事
今回は、出品数がだいぶ減少し、当然のことながら入選数も少数になった。
審査にあたって気付いた事は、せっかく丁寧に刻られた中に、原印より縮小した印や鈐印(※1)が今一
息など、残念な印も見受けられた。今後の課題であろう。
陳列作品に選ばれた印は、清朝の名家や漢銅印(※2)などの特長を掴み、鈐印もしっかり出来ていた。
模刻は、手本にする印をそっくりに刻られるようになることが第一段階で、多くの古典や名家の印を学
び、模刻し、長所を自分なりにとらえる。学んだものでないと理解できない場合がある。
名家の印人に少しでも迫る勢いで努力し、情熱を傾け大いに学んで自作に生かしてほしい。
ほ
けんいん
けんいん
ほ
けんいん
※1 鈐印…紙に直接印章を押すこと。 ※2 漢銅印…中国古代の銅印