2015年2月20日 レーザー核融合による エネルギー開発へ向けた有識者会議準

2015.3.30
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2015年2月20日 レーザー核融合による
エネルギー開発へ向けた有識者会議準備会
原子力発電環境整備機構
近藤 駿介氏
レーザー核融合による
エネルギー開発へ向けた
有識者会議準備会
開催報告
大阪大学レーザーエネルギー学研究センター 教授 白神 宏之
レーザー核融合研究開発は、我が国内外において
有識者会議 趣旨
様々なアプローチで進められている。米国国立点火
施設(NIF: National Ignition Facility)
では最近大
きな進展が見られ、核融合点火が近い将来実現され
ると考えられている。国内では、大阪大学においてコン
パクトな方 式である高 速 点 火 核 融 合の実 証 実 験
(FIREX: Fast Ignition Realization Experiment)
が進んでいる。
このような状況を鑑み、
レーザー核融
合エネルギー開発に向けた有識者会議を発足するた
めの標記準備会が開催された。会議は、2015年2月
20日
(金)14:00∼16:45に世界貿易センタービル
(東京
都港区浜松町2-4-1)
3階WTCコンファレンスセンター
会議室Bで開かれた。
三間専門委員の司会により開会し、大森議員(IFE
フォーラム座長代理)
より開会の挨拶があり、エネル
ギー政策の重要性と核融合への期待が述べられた。
続いて、出席者(出席者リスト参照)の自己紹介が
レーザー核融合研究開発は、我が国内外において様々な
アプローチで進められている。米国国立点火施設(NIF:
National Ignition Facility)
では最近大きな進展が見られ、
核融合点火が近い将来実現されると考えられている。国内で
は、大阪大学においてコンパクトな方式である高速点火核融
合の実 証 実 験( F I R E X : F a s t Ignition Realization
Experiment)
が進んでいる。
しかし、
これらの研究開発は未だアカデミックな研究に留ま
っており、点火実証後にエネルギー源としての核融合実験炉
をどのように開発してゆくか、
またどのような研究体制で進める
かに関し検討があまり行われていないのが現状である。化石
燃料や原子力等エネルギー情勢が刻々と変化し、人類初の
制御された核融合点火が間近な現在、
エネルギー問題全体
を視野に入れた形での点火後の展開を策定することが必要
であり、継続してこれらの取り組みの必要性を学術、産業、政
界に訴えていかなければならない。
このような情勢を踏まえ、
レーザー核融合研究及び点火後
のエネルギー開発の在り方について有識者の意見をとりまと
め、学術界、産業界、政界の各方面へのアクションプランを作
成・実行していくことを目的として、
「レーザー核融合によるエネ
ルギー開発へ向けた有識者会議」
を組織する。
有った。引き続き、主催者からの提案により、本準備会
の議長に近藤駿介議員が推薦され、賛成多数により
いて報告が有った。
ロードマップの説明では、
レー
承認された。近藤議員の議長挨拶では、我が国のエ
ザー核融合実験炉LIFT実現に向けて、次期計画
ネルギー政策の現状から核融合エネルギーの研究開
で、高繰り返しレーザー核融合実験への第一段階
発の有用性等が言及された。
として10kJ級の繰り返しレーザー(1shot/min)
を
審議に先立ち、有識者会議の趣旨(囲み記事参
建設する提案が有った。
照)
を説明・承認すると共に、下記3件の報告がなされ
2)犬竹専門委員より、
日本学術会議、総合工学委
た。
員会「エネルギーと科学技術に関する分科会」に
1)疇地専門委員より、
レーザー核融合エネルギー
おける
「大型レーザーによる高エネルギー密度科学
研究の現状と展望および開発のロードマップにつ
の新展開 小委員会」での活動状況に関する説
・2・
明が有った。
術開発が最も困難。産業界への広がりを持ちなが
3)久間オブザーバー
(総合科学技術・イノベーショ
ら開発を進めるべきである。
・ ロードマップはシングルミッションではなく広がりを持た
ン会議議員)
より、第5期科学技術基本計画の検討
ねばならない。
状況の報告が有り、基礎科学研究を産業技術に睦
・ 国レベルで科学技術を横展開することが必要。他分
びつけるイノベーションの重要性や国家コア技術が
野の成果もレーザー核融合研究に取り入れよ。
説明された。
・ プロダクトイノベーションにレーザー核融合が入るよう
期待する。
以上の報告に基づき、
以下のように審議がなされた。
・ 学術会議小委員会は科学技術政策にフォーカスす
・ NIFにおける核融合点火とFIREX-1における点火
べきではないか。
温度達成により、
レーザー核融合研究は進展する
・ 総合科学技術会議は科学技術行政全般を見るべ
だろう。
く努力する。
・ 大学法人化の効果につき精査が必要。若手研究者
(特にポスドク)
の身分が不安定である。
・ 私学、
地方大学の人材育成が危うくなっている。
最後に、
この準備会構成メンバーを中心に正式な有
・ 運営費交付金と競争的外部資金のバランスが悪く、
識者会議を立ち上げること、
また本日議論された趣旨
基礎基盤研究が弱体化しており、改革が必要であ
が第五期科学技術基本計画に反映されるよう提言し
る。
ていくこと、が了解された。有識者会議は、今後2年間
は活動を継続すること、第1回の開催時期は改めて調
・ 我が国の優れた大型装置の維持が困難な状況にな
整すること、
引き続き議長を近藤議員にお願いすること
って来ている。対策を考える必要が有る。
が確認了承され、
閉会した。
・ レーザー核融合のロードマップにおいて、
レーザー技
レーザー核融合によるエネルギー開発へ向けた有識者会議
議 員
有馬 朗人
大森 達夫
神納祐一郎
近藤 駿介
塩谷 立
立花 隆
柘植 綾夫
永宮 正治
橋本 德昭
原田 憲 治
晝馬 明
森 英介
山地 憲 治
根津育英会武蔵学園 学園長・東京大学 名誉教授
三菱電機株式会社 役員技監(IFEフォーラム座長代理)
三菱重工業株式会社 技監・技師長
原子力発電環境整備機構 理事長・元原子力委員会 委員長
衆議院議員
ジャーナリスト
科学技術国際交流センター 会長・元総合科学技術会議議員
理化学研究所 研究顧問
関西電力株式会社 取締役常務執行役員(IFEフォーラム座長)
衆議院議員
浜松ホトニクス株式会社 代表取締役社長 (代理:川嶋)
衆議院議員
地球環境産業技術研究機構 理事・研究所長
オブザーバー
久 間 和 生 内閣府 総合科学技術・イノベーション会議 議員
中塚 淳 子 文部科学省 研究開発局 核融合科学専門官
準備会
出席
専門委員会委員
○ 疇 地 宏 大阪大学レーザーエネルギー学研究センター長
準備会
出席
○
○ 井 澤 靖 和 レーザー技術総合研究所 所長
○
○ 植田 憲 一 電気通信大学 特任教授
○
○ 犬 竹 正 明 東北大学 名誉教授
○
○ 岡野 邦 彦 慶應義塾大学 特任教授
○
○
○
○
○
○
○
加藤 義章
兒 玉 了祐
近藤 公伯
笹尾真実子
中 井 貞雄
緑川 克 美
三間 圀興
望月 孝 晏
光産業創成大学院大学 学長
大阪大学 教授
日本原子力研究開発機構 先進ビーム技術ユニット長
同志社大学 嘱託研究員・東北大学 名誉教授
光産業創成大学院大学 特任教授・大阪大学 名誉教授
理化学研究所 先端光科学研究領域長
光産業創成大学院大学 特任教授・大阪大学 名誉教授
兵庫県立大学 特任教授
○
○
○
○
○
○
アドバイザー
○ François Amiranoff École Polytechnique
○ Dimitri Batani
Université de Bordeaux
Ricardo Betti
University of Rochester
"Linac Coherent Light Source(LCLS)at the
Mike Dunne
Stanford Linear Accelerator Center(SLAC)"
Christopher Keane Washington State University
Justin Wark
University of Oxford
順不同、敬称略
・3・
大阪大学xナレッジキャピタル
研究ときめき*カフェ2014
「考える」を考える学校
大阪大学レーザーエネルギー学研究センター 准教授 藤岡 慎介
2014年10月24日の午後7:00から8:30まで大阪駅に
の男性・女性の方の参加が多く、大変驚きました。
この
あるグランフロント大阪内のナレッジキャピタルにて、
あたりは、大阪大学の大型教育研究プロジェクト支援
レーザーエネルギー学、
レーザー核融合に関するサイ
室の岩崎先生の狙い通りになったと思います。
エンス・カフェを開催いたしました。
ナレッジキャピタルは,
今回は「考える」を考える学校というテーマがあり、
人と人の知の交流を目指し、大小のオフィス、
サロン、
イ
私がレーザーエネルギー学に携わった経緯について、
ベントスペースを備えた場所です。
小学生の時にあった「チェルノブイリ原発事故」
と中
当日は、会場の定員一杯(70名程度)
の参加があり
学生の時にあった「常温核融合フィーバー」、高校生
ました。私の経験では、
アウトリーチ活動での聴衆の大
の時に見たNHKスペシャルを紹介しながら、人類社
半は、大学進学を考えている中高生か、
ちょっと失礼
会を支えるエネルギーへ深く興味を持った経緯を紹
かもしれませんが比較的時間に余裕のある年配の方
介しました。途中に休憩を挟んだ後、実際にレーザー
なのですが、大阪駅前で金曜日の午後7時からという
エネルギー学研究センターで行っている研究について、
ことで、
このような場でお話する機会が無い20∼40代
「レーザー核融合」
と
「強磁場科学」に絞って紹介しま
大阪大学レーザーエネルギー学研究センター 藤岡慎介氏
・4・
会場風景
した。
することで、新しい核融合プラズマの領域が生まれる
レーザー核融合に関しては、
レーザー核融合が必
かもしれないという期待を述べました。
要とする高密度プラズマ形成は本質的に流体力学的
質疑応答では、核融合エネルギー開発に関する
に不安定であること、
この不安定性を抑えながら、丸
ロッキード社からのプレスリリースが話題に出ました。
ま
いものを丸いまま小さく潰す難しさについて紹介しまし
た、考える上で必要なものは?という質問に対しては、
た。
「どうすれば丸いものを丸いまま潰せるか?」
という
私の経験も踏まえ、研究室だけでなく,
会議後の立ち
問いに対する一つの答えとして、パスカルの原理を
話、宴席など機会を見つけて議論を交わしてアイディ
使った方法をデモンストレーションしました。ペットボトル
アを交換することが重要ではないかと答えました。モ
の中に風船を入れ、ペットボトルを水で満たします。
こ
チベーションを維持する上でのポイント、研究している
の状態でペットボトルを踏みつけると、水の中の風船の
途上での怒りなど、様々な質問に対して答えました。膨
表面に均等に力が加わり、風船は丸く潰れます。
アイ
大なエネルギーを生み出す可能性を追求することは
ディアの根本はシンプルで、如何にそれを具体化する
正しいのか?というシビアな意見もあり、
カフェ終了後も
かが、知恵の絞りどころだと紹介しました。
また、最近
議論が続くなど、楽しい経験をさせて頂きました。
私が取り組んでいる強磁場に関しては、磁場が必要と
本サイエンスカフェの開催にあたり、IFEフォーラム
思うに至った発想と、磁場発生方法のアイディア等々
及びレーザー核融合技術振興会から頂いたご支援
について紹介し、今後、
レーザー核融合と磁場が融合
に感謝申し上げます。
・5・
John Edwards氏の
招聘報告
大阪大学レーザーエネルギー学研究センター 准教授 藤岡 慎介
レーザー核融合技術振興会におけるレーザー核融
ルスを照射すると、Low Footパルスよりも成長が緩和
合推進のための国際交流・調査活動の一環として、
されることが確認されています。更にLow Foot及び
2014年11月に米国ローレンスリバモア国立研究所・米
High Footとも、流体不安定性の成長過程がシミュ
国国立点火施設(National Ignition Facility:以下
レーションで再現できていると報告されました。
NIF)慣性核融合及び高エネルギー密度科学ディレ
その一方で、
シミュレーション予測よりも約4倍大きい
クターであるJohn Edwards氏を招聘いたしました。
流体不安定性の種は未だ不明であり、
その種を明ら
Edwards氏には大阪大学レーザーエネルギー学研
かにする研究も精力的に行われているということです。
究センター内コロキウム及び、新潟県で開催された
例えば、間 接 照 射 方 式においてX 線を発 生させる
PLASMA2014において、NIFにおける慣性核融合
ホーラム中に核融合燃料を保持するためにTentと呼
実験の進捗についてご講演頂きました。
ばれる厚さ50nmのプラスチック膜が用いられている
現在NIFで得られている核融合出力は1gの石炭
のですが、
このTentと核融合燃料の接触部が不安
を燃焼して得られるエネルギー程度であり、最終的に
定性の種となりうるということで、
これは実験・シミュレー
はこれを1kgの石炭に相当するエネルギーにまで増大
ションでの確認もされているそうです。
させることを目標としています。NIFが取り組んでいる
さらに、核融合燃料ターゲットの詳細な検査も行わ
間接照射方式では、
まずレーザーをX線に変換し、
そ
れにより核融合燃料を圧縮します。
さらに、全てのエネ
ルギーが核融合反応に使用されるわけではなく、最終
的に点火部のプラズマに届くエネルギーは元の0.25%
になります。現在議論されている点火を妨げる要因は、
流体不安定性による効率的な断熱圧縮の阻害と、流
体不安定性による冷たい核融合燃料と点火部の流
体混合です。
NIFでは現在、Nature誌等で発表されているよう
に、 High Footパルスを用いた爆縮が実施されてい
ます。High Footパルスとは、爆縮の初期に、比較的
強い衝撃波を発生させ、
アブレーターの密度を下げ、
流体不安定性の成長を低減させる手法です。意図的
米国ローレンスリバモア国立研究所 John Edwards氏
に擾乱を表面に印加した球殻シェルに High Foot パ
・6・
述べられました。
また、プラスチックよりも密
度が高い高密度炭素及びベ
リリウムをアブレーターに用い
たデザインも示されました。
ホーラム中では、核融合燃料
ターゲット表面及びホーラム
内面からアブレーションされ
たプラズマの膨脹を抑えるた
めに、希薄なガスが封入され
ています。高強度レーザーが
希薄なガス中を伝搬すると、
パラメトリック不安定性である
ブリルアン/ラマン過 程 で、
レーザー光から音波/電子波
へのエネルギー変換や、励起
された音波/電子波からレー
PLASMA2014におけるJohn Edwards氏の基調講演
ザーへのエネルギー逆変換
が起こります。
これらは、
レー
れ、上記の”
4倍”
の原因として、
アブレーター材である
ザー照射一様性の劣化や高速電子の発生を生むと
プラスチックへの酸素の混入が疑われています。NIF
危惧されています。
このパラメトリック不安定性を抑制
では、
アブレーター表面の平滑さの計測に加えて、
ア
するターゲットとして”
真空ホーラム”
が紹介されました。
ブレーターの光学濃度計測を行っています。現在計
アブレーターの密度を高くすることで、
アブレーターが
測されている光学濃度の揺らぎがプラスチック内部の
薄くなり、衝撃波を伝搬させるのに必要な時間が相対
非一様性に起因するものであれば、
アブレーターのス
的に短くなるため、
レーザービームのパルス幅も相対
ペックは要求値内に収まるはずなのですが、プラス
的に短くすることが出来ます。その結果として、
ホーラ
チック内に含有されている酸素が光学濃度の揺らぎ
ムを真空にした設計が可能になるということです。
また、
を生じさせていると仮定すると前者と比べて2.5倍大き
レーザービーム間でのエネルギー移譲を抑制するた
な擾乱が生じていることに相当するということです。
こ
め、仏国原子力庁が提案しているラグビーボール型
れについては、今後の詳細な解析が待たれるところで
ホーラムの実験も行われていることも報告されました。
す。
残念ながら、NIFは未だ点火に至っていませんが、
このように、NIFではHigh Footパルスでの実験が
点火を阻害する物理を明らかにし、要素となる物理を
進められているのですが、High Footパルスでは、燃
個々に解決しながら、点火に向けた統合デザイン・実
料の圧縮率が低いという問題点もあるため、点火実
験を行うというプロジェクト推進方法は大変参考になり
証に至るのは困難であると考えられています。
そこで、
ます。Edwards氏とは点火燃焼に関する密度の濃い
講演ではLow FootパルスとHigh Footパルスの中間
議論も交わすことが出来ました。今回の招聘に際し、
のデザインが示され、流体不安定性の成長を緩和し
IFEフォーラム及びレーザー核融合技術振興会から
つつ、比較的高い燃料圧縮率が得られるであろうと
頂いたご支援に感謝申し上げます。
・7・
編集後記
近頃、寒気もようやくゆるみはじめましたが、皆様いかがお過ごしで
しょうか。
今回の記事は、
レーザー核融合の国家プロジェクト化へ向けた活
動、世界の最先端核融合研究者の招待、一般の方々への核融合の
講演という三者三様の話題となりますが、実はこの3つのテーマは学
術研究において重要な課題であります。研究というものはそれぞれの
殻の中だけで完結するものではなく、外部との関わりが不可欠です。
特にエネルギー開発のような社会生活に係るものは、国レベルでの推
進体制、海外との技術交流、一般の方の理解・協力といったものが必
用です。我々IFEフォーラムやレーザー核融合技術振興会の役割の
一つもそのような所にあると考える方も多いのではないでしょうか。
まもなく、核融合点火後の議論も本格化すると思われます。
そのよう
な中ではこの3つの取り組みはより重要となることでしょう。我々も引き続
き活動に邁進いたしますので、今後も皆様方の厚いご支援のほど、
ど
うぞよろしくお願いいたします。
編集委員 横井 賢二郎(関西電力)、 乗松 孝好(大阪大学)
白神 宏之(大阪大学)、 椿本 孝治(大阪大学)
清水 俊彦(大阪大学)
連絡先
レーザー技術総合研究所
IFEフォーラム/レーザー核融合技術振興会事務局
公益財団法人
〒550-0004 大阪市西区靭本町 1‒ 8 ‒ 4
大阪科学技術センタービル4F
T E L(06)6443−6311
FAX(06)6443−6313
URL:http://www.ilt.or.jp/forum/index.html
・8・