義務履行地と専属管轄

義務履行地と専属管轄
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− 「保険金・‥は、会社の本社(店)で支払います」との定めがある約款に基づいて保険l
契約が締結されている場合に、保険金受取人は保険金の支払を求める訴訟を保険会社の本社.
所在地以外の裁判所に提起することは可能か、につき次の点から考察して下さい(参考、民:
訴法上、土地管轄については原則として被告の住所地(法人にあっては主たる事務所またはl
i 営業所の所在地)の裁判所の管轄となる(1−4)。それに加えて5条以下に競合的にそれ以l
i外の裁判所に管轄が認められる場合が規定されている)。 :
1 1.保険会社が保険金を通常保険金受取人の住所地の支社の窓口や、保険金受取人の指定l
: 口座に振込む方法によって支払う取扱いをしている場合には、当該支社を「義務履行:
i 地」(民訴5)とみる余地はあるか
1 2.保険会社の支社は、「事務所又ハ営業所」(民訴9)に該当するカ
3.判例3、につきその当否を検討して下さい。
判例1.熊本地裁昭和50.5.12(判タ327−250)
[事実の概要]
XはY保険会社に対して生命保険契約に基づく死
亡保険金請求の訴えをⅩの住所地であり、かつ本件
契約締結事務を取り扱ったYの支社の所在地でもあ
る熊本地裁に提起した。
Yの主張
本件保険契約約款には「保険金・・・は会社の本
社で支払います」との定めがあるので、保険金支払
義務の履行地はYの本社所在地である東京都であり、
またYの熊本支社は民訴法9条にいう「事務所又は
営業所」にあたらないから、結局本件訴えにつき土
地管轄を有するのは、東京地裁(民訴法1条、4
条)のみであるとして、事件を東京地裁に移送すべ
き旨を申し立てた。
[決定要旨](移送申立却下)
(訪約款の内容が保険契約者、被保険者、保険金受取
人の利益保護の見地から不合理である場合には、司
法的判断によって右約款を合理的に理解できるよう
解釈し、もし解釈の限度を越えるほど不合理であれ
ば、その拘束力を否定すべきである。
②Yは全国38箇所に支社を有し、保険の勧誘、契
約の締結の代行、保険料の徴収等をすべて支社にお
いて行なっていながら、ひとたび保険事故が発生し
た場合には、支社所在地居住の保険金受取人はY本
店まで赴いて保険金の支払をうけなければならない
ということとなり、これでは保険契約者、保険金受
取人の法的利益は著しく無視される。
③しかし、現実には、Y熊本支社においては保険金
受取人の希望に従って、同社の窓口にて支払うか、
8
(
または受取人の指定する銀行または郵便局の口座に
振込む方法によって保険金を支払っており、約款の
規定をたてにY本社で受領するよう要請した事例は
全くない。
⑥してみれば、当該約款規定は、保険金の支払場所
を限定したものと解することは、約款の合理的解釈
からも、また現行の保険業務の慣行からも妥当でな
く、むしろ右規定は保険金の原則的支払場所を例示
したにすぎず熊本支社が行っている支払方法を否定
する趣旨ではないと解するのが相当であり、保険金
受取人の住所が被告の支社の所在地にある場合には
当該支社も保険金支払場所とする旨の保険契約が慣
行的に成立していると認めるのが相当である。
判例2.福岡高裁昭和50.9.12(判時805−76,判タ
332−243)
判例1の抗告審
[決定要旨](原決定取消、東京地裁へ移送)
(p本件保険契約申込書には「Y会社の定款及び新総
合保障保険普通保険約款を承知のうえ契約の申込を
なす」旨の記載があり、約款第26条に「・・・会
社の本社で支払います。」と定められていることが
認められ、契約締結に際し右約款によらない旨(例
えば熊本支社においてとられている現実の支払方法
による等)の意思が明らかにされていれば格別かか
る意思表示が表明されたことが窺いえない本件にお
いては、保険金支払場所については前記保険約款記
載のとおりY会社本社とする旨の合意が成立してい
たものと認めるのが相当であり、義務履行地による
裁判籍は、Y会社本社を管轄する東京地方裁判所に
(
あるものといわねばならない。
②尤も、Y会社熊本支社においては、保険金の支払
については、保険金受取人の希望にしたがって同支
社の窓口で支払うかまたは受取人の指定する銀行、
郵便局等の口座に振込む方法によって支払っている
のが通常の取扱いであって、その例外は殆どないこ
とが認められるけれども、このことから直ちに熊本
支社を保険金支払場所とする旨の保険契約が慣行的
に成立しているものと速断することはできず、右通
常の支払方法は、本社を保険金支払場所とする特約
を前提とし、あくまで顧客に対するサービスとして
とらえてきているものであることが認められる。
③事務所、営業所所在地の裁判籍(民訴法9条)に
つき、民訴法9条にいう事務所または営業所とは、
( 業者の全部または ̄部について独立して統括経営さ
れている場所であることを要するものであり、単に
業務の末端あるいは現業が行われているに過ぎない
場合は、仮に独立して業務を行ないうるような外観
を備えているからといって直ちに同条にいう事務所
または営業所ということはできないと解されるとこ
ろ、Y会社熊本支社には、支社長以下内勤者16名、
支部長2名、外務月約80名がいて外観は独立して
業務を行っているようにみえるけれども、その業務
の内容は、新契約の募集、保険料の集金、契約の保
全その他契約者に対するサービス、本社への取次業
務をなしているに過ぎず保険業務の基本的業者行為
である保険契約の締結並びに解除、その復活の承諾、
保険事故があった場合の保険金の支払業務を独立し
て行う権限を有しないことが認められるから、Y会
社熊本支社を目していまだ保険契約に関する業務を
独立して統括経営している場合ということはできず、
したがって、右業務についての同条にいう事務所ま
′ ̄\たは営業所にあたるということもできない。
判例3.高松高裁決定昭和62.10.13(判時
1275−124)
[事実の概要]
Ⅹら(保険金受取人又は保険金受取人の相続人)
は、Y保険会社に対し、生命保険契約に基づく死亡
保険金請求の訴えをⅩらの住所地であり、かつ本件
して民訴法30条1項により訴訟を東京地方裁判所
に移送する旨の決定をした。
この移送決定に対し、Ⅹらより即時抗告。
[決定要旨コ(原決定取消、Yの移送申立却下)
①Yを保険者とする生命保険金の支払いは、その支
払について契約当事者間に争いがなく任意にこれが
なされる限り、受取人の住所地の支社、営業所の窓
口で交付されるか、受取人の指定する金融機関の口
座に振り込まれるかいずれかの方法によっているの
であるから右約款による支払場所の定めは契約関係
者間において右支払いについて紛争が生じ、これが
裁判で争われる場合を予想したもので、右は実質上
専属的合意管轄を定めたものにほかならない。
②保険は営業的商行為であり、Yが保険を営業とす
る会社であるから、保険金の支払場所は商法516条
1項により保険金受取人(またはその相続人)であ
るⅩらの住所となるところ、右支払場所については
約款11条によってY本店とする特約が成立してい
るため、右約款が有効である限り、前記法条の適用
が排除され、本件保険金支払の義務の履行地はY本
店所在地であり、その裁判籍は東京都渋谷区という
ことになる。
③しかしながら、約款11条による義務の履行地の
定めは実質上専属的会意管轄を定めたものにほかな
らないところ、およそ右専属的会意管轄のように、
Yと対等の立場にない経済的弱者ともいうべき保険
契約者に不利に、しかも同人が十分にその意味を理
解することなくしてなされたものと推測されるもの
については、その効力を有しないものとみるのが相
当である。なぜならば、約款は保険契約のように大
量処理の必要上附合契約によらなければならない性
質のものについて定められるものであって事柄の性
質上必ずしもその内客について具体的合意を要しな
いものとされるのであるから、当然その内客が合理
性・妥当性を備えなければならないと解されるとこ
ろ、本件約款11条は右要件の具備について疑問な
しとしないからである。このことは本件約款11条
と同旨のものが生命保険業界において保険契約者の
利便を考慮して漸次改善されつつあることに加え、
もし保険会社において従来の約款に固執するときは、
保険契約の締結事務を取り扱ったYの支社(松山支
社)の所在地である松山地裁に提起した。
Yは自己の本社は東京都渋谷区にあり、また保険
金の支払場所も約款11条「保険金は・・・本社で
支払います。」により本社となっているから普通裁
判籍も義務履行地の特別裁判籍も東京都渋谷区にあ
そうすると、本件約款11条はYがその説明をなさ
ず、しかも保険契約者がこれを知らなかったことを
前提に存続可能なものと言っても過言でなく、この
り、松山地裁には管轄権がないと主張して東京地裁
に移送するよう求めた。松山地裁はYの主張を採用
ような約款は附合契約としての許容限度を超えたも
のと解きざるをえない。
その説明をなす限り、契約申込者は既に右約款を改
めた同業他社との契約締結に流れるであろうと考え
られることによっても裏付けられるところである。
9
⑥したがって、本件各保険金支払義務の履行地はⅩ
らの住所地であり、その特別裁判籍は松山市にほか
ならない。
[研究]
I.管轄
(1)管轄の種類
わが国には多種多数の裁判所が設置されてい
るが、これら多種多数の裁判所間で裁判権を分
担する定めを管轄という。すなわち、ある特定
の事件からいえば、これについて、またその関
係人に対して裁判権を行使できるのは、どの裁
判所かの問題である。
管轄はそれが生じる根拠の差異により、法定
管轄(法律の規定)指定管轄(裁判)合意管轄
(当事者間の合意)応訴管轄(被告の応訴)に
分けられる。法定管轄はさらに分担を決める基
準の差異により職分管轄、事物管轄、土地管轄
に分けられる。
(2)土地管轄
ある事件を所在地を異にする同種の裁判所の
どれに分担させるかの定めを土地管轄という。
この土地管轄を定める基準となる関連地点を裁
判籍というが、これには、事件の種類内容を問
わず一般的に認められる普通裁判籍と限定され
た種類内容の事件についてだけ認められる特別
裁判籍がある。普通裁判籍は当事者間の公平
(訴訟は原告が被告のもとに出向いて訴えるの
が公平)のため、被告との関係で定められ(民
訴1)、被告が自然人の場合はその住所・居所
(同2)、法人の場合は主たる事務所または営業
所(同4)である。
特別裁判籍としては、本件で問題となった財
産上の訴につき義務履行地(同5)、当該事務
所・営業所における業務に関する訴につき、事
務所・営業所の所在地(同9)などが定められ
ている。
(3)合意管轄
合意管轄とは、管轄の定まる根拠が当事者の
合意によるものをいう(民訴法25粂)。法定の
任意管毒削ま、主として当事者間の公平および訴
訟追行上の便宜を考慮して規定されているので、
専属管轄に反しないかぎり、当事者が合意に
よって特定事件につき選択した裁判所・に管轄が
認められる。
(4)合意の要件
(訂第一審の管轄裁判所に関するものであること
Ⅶ
(25条1項)
②一定の法律関係に基づく訴訟に限定して定め
ること(25粂2項)
③書面による合意であること(25粂2項)
⑥起訴前に合意すること
(5)合意の態様
付加的(競合的)会意と専属的合意とがある。
付加的(競合的)合意とは法定管轄裁判所のほ
かに管轄裁判所を創設するものであり、専属的
合意とは特定の裁判所だけを管轄裁判所として
定め、他の法定管轄裁判所の管轄を排除するも
のである。
専属的な合意には、経済的弱者を圧迫して正
当な権利行使を放棄させる危険があるし、また
事件を大都市に集中させて大都市裁判所の著し (
い負担増加とそれにともなう訴訟遅延の拡大を
もたらす可能性がある。これらの弊害は前者は
民法90条を、また後者については民訴法31条
をそれぞれ類推適用して個別的に処理されるべ
きである(谷口)。
(6)合意の性質
管轄の合意は、私法上の契約と同時に締結さ
れる場合もあるが、その場合でも私法上の契約
とは別個を訴訟行為であり、仮に同時に締結さ
れた司法上の契約が取り消され、または解除さ
れても当然にはその影響を受けない。管轄の合
意の効力は、直接かつ即時に管轄を発生させま
たは消滅させる。後の合意によって前にした合
意を変更することは可能である。
(7)応訴管轄
合意を無視して、合意管轄外の裁判所に訴を
起こした場合でも、被告が応訴すれば、応訴管
轄が生じる(民訴法26条)。なお、専属的合意
管轄も法律上の専属管轄の効力をもつものでは
ないから、応訴管轄が生じる余地がある。
Il.支社は義務履行地か
(1)熊本地裁昭和50年5月12日判決
当該約款規定は、保険金の支払場所を限定し
たものと解することは、約款の合理的解釈から
も、また現行の保険業務の慣行からも妥当でな
く、むしろ右規定は保険金の原則的支払場所を
例示したにすぎず、・・・保険金受取人の住所
が被告の支社の所在地にある場合には当該支社
も保険金支払場所とする旨の保険契約が慣行的
に成立していると認めるのが相当である。
(2)福岡高裁昭和50年9月12日判決
契約締結に際し右約款によらない旨の意思が
(
明らかにされていれば格別、かかる意思が表明
されたことが窺いえない本件においては、保険
金支払場所については、前記保険約款記載のと
おりY会社本社とする旨の合意が成立していた
ものと認めるのが相当であり、・‥右通常の
支払方法は、本社を保険金支払場所とする特約
を前提とし、あくまで顧客に対するサービスと
してとらえてきているものであることが認めら
(
〆「
′、
の統一的な指揮命令がそこから発せられるだけ
でなく、その成果がそこにおいて統一され、外
部的にも活動の中心として現われる場所である。
(法律学小辞典)
(2)福岡高裁昭和50年9月12日判決
(支社の)業務の内容は、新契約の募集、保
険料の集金、契約の保全その他契約者に対する
サービス、本社への取次業務をなしているに過
れる。
(3)法律は、債務履行の場所を債権者の住所とし
(持参債務)、当事者が別の取り決めをすればそ
れが履行の場所となるとしている(民法484条、
商法516条)。これに対して、生命保険約款で
は、この持参債務の原則をくつがえして支払場
ぎず保険業務の基本的業務行為である保険契約
の締結並びに解除、その復活の承諾、保険事故
所を会社の本店(本社)とし、取立債務に変更
している。このため、支社は、義務履行地とは
ならないことになる。
(4)約款規定の理由
生命保険の性質上、保険契約者が全国各地に
及び、支払免責事由に該当するか否かの判断が
区々になるのは妥当ではないので、一点集中に
して処理をなすのが経営上得策であるし、支社
※その他の判例(消極的)
徳島地裁昭和47年4月21日判決、最高裁昭和
37年5月1日判決
等で支払うとすると支払いのための事務態勢確
立への対応が困難であると共に、無用の粉糾を
生じさせる可能性が大きいことに基づく。
(5)保険金支払に関しては保険会社自身が限定的
とはいえ、約款の規定通りの処置を必ずしもし
ていないのであり、この点から第8回国民生活
可能性を標準」とするならば、契約者一般は知
るはずはなく、また知らなかったことについて
審議会消費者政策部会報昔で指摘されているよ
うに、保険金支払そのものに関する支払場所と
して本社のみに限定する約款条項の合理性は疑
わしい(石原)。
(6)私見
約款上あくまで保険金・給付金は会社の本社
に支払権限があり、支社等での支払は単なる
サービスにすぎないとして、「会社の本社で支
払う」.と規定されているのであるが、最近では
会社によって多少の差はあるもののシステム化
が進行し、現実には支社等でオンラインによる
支払が可能になっている事情がある。このこと
から、保険会社側で履行場所を会社の本社に限
定することを主張することは信義則に反するよ
うに思える。
日.保険会社の支社は「書務所又ハ営業所」に駿当
するか
(1)事務所または営業所
商人の営業活動の中心となる場所で、経営上
があった場合の保険金の支払業務を独立して行
なう権限を有しないことが認められるから・・
・事務所または営業所にあたるということはで
きない。
(3)反対説1
それらの権限の分配は、会社内部の問題にす
ぎない。生保会社がいかに特殊な業態だからと
言っても、かかる会社内部の事柄を、「その適
用が予定された保険契約者一般の合理的な理解
不利益をこうむらねばならないという事柄では
なかろう。・・・少なくとも外見的には、「其
ノ事務所又ハ営業所二於ケル業務二関スルモ
ノ」という民訴法9条の要件を充足すると考え
られる。(富川書衛「保険金支払債務の履行地
と裁判藷」)
(4)反対説2
訴訟の場においてもいわゆる表見法理ないし
外観信頼者保護の法理を採り入れるべきものと
すれば、営業所の外観を生ぜしめた者はその地
で訴えられることを忍従しなければならないと
することはむしろ理にかなっていると考えられ
る。(谷口知平)
(5)私見
契約者側の利益を図るために表見法理を採り
入れることは理解できるが、生命保険会社の支
社の実態はあくまで営業所とはいえないと思わ
れる。事業所が外観的に支店とみられるだけで、
その外観信頼者を保護しようとする趣旨ならば、
外観の作出につき帰責事由のない場合にまで営
業主に責任を負わせることになり疑問がある。
Ⅳ.判例3.についての検討
(1)本決定は、保険金支払場所を本店(本社)と
11
する約款条項は実質上専属的合意管轄を定めた
ものにほかならないとする。学説は、約款によ
る合意は民訴法25粂2項の要件を充足しない
とする見解もあるが(水谷)、一般には、約款
による合意も有効になしうるとされる。
(2)専属的合意管轄か付加的会意管轄か
①法定管轄裁判所の1つを指定しているときは専
属的であるが、そうでなければ付加的合意と解
する。(通説)
②特に付加的と解すべき特別の事情のない限り専
属的合意と解すべきであるとする説が有力であ
る。(基準としての明確さや通常の当事者の意
思に沿う)
③この種の条項が約款上に存する点から、当事者
間の交渉力の格差、契約締結当時には現実化の
薄い手続条項には十分な注意が払われないのが
通常であることを考慮すれば、不明確な条項に
強い効果を与えるのは疑問で、当事者の合意と
して成立しているのは付加的な意味の限度にお
いてであり、少なくとも契約相手方には専属と
する意思は欠落していると観るのが常識的な理
とする規定は、その効力を有しないと解される
(吉川)。
結論としては判旨と同じであるが、付合契約
としての許容限度を超えたものであると焼成す
るのではなく、不意打ち条項として契約に組み
込まれないと構成するのが適切であると考えら
れる(石原)。
(6)私見
専属的会意管轄であるとすれば、書川教授の
いう①効果の予見可能性、②効果の強制可能性
が期待しかたいのであるから、判旨のように約
款中管轄に関する部分については効力を有しな
いとする考え方に賛成である。
(7)参考
昭和57年11月の国民生活審議会の約款適正
解といえるから、付加的合意と解すべきとする
見解が主張されている。
⑧札幌高裁昭和45年4月20日判決
約款の性質上、一般契約者の利益に解すべきで
あるとして付加的合意と解する。
⑤私見
合意管轄条項を付加的合意と解することは、管
轄の会意をした意味がなくなると思われる。し
かし、保険金支払場所を本店(本社)とする約
款条項によって管轄の合意をするのであれば、
(参考文献)
・谷口 生命保険判例百選160頁
・石原 金融・商事判例803−45
・吉川 文研所報51号「保険金支払債務の履
行地と裁判籍」
のと推測されるものについてはその効力を有し
ないものとみるのが相当である。」と判示して
いる。
(4)移送制度の活用
特に著しい遅滞を避ける公益上の必要がある
場合に限って移送できると解されている。しか
し、契約者の保護は十分ではない。
(5)訴訟契約の適法性の問題
意思決定の自由の確保(①効果の予見可能性、
②効果の強制可能性)の観点から検討すれば、
(
化報告の中で裁判管轄について指摘され、業界
でプロジェクト・チームを作り検討され、昭和
58年4月に約款が改定された。
現在の約款は、大きく分けて次のいずれかの
規定となっている。
(a)保険金受取人の住所近在の地方裁判所を
もって合意による管轄裁判所とするもの
(b)保険金等の支払場所を会社の本社または
支社とするもの
上記③と同じ理由で付加的合意と解することも
可能かと思う。
(3)専属的合意管轄と考えた場合
この判決は、「およそ右専属的合意管轄のよ
うに、Yと対等の立場にない経済的弱者ともい
うべき保険契約者に不利に、しかも同人が十分
にその意味を理解することなくしてなされたも
12
生命保険約款のなかで、保険金支払債務の履行
地したがってまた裁判籍を、会社の本社所在地
[講師のコメント]
(河村弁護士)
(訂現在約款が改定されており、このような事例はあ
まり問題にならなくなったが、将来全くこのような
事件が起こらないともかぎらない。また約款が改定
されるには、いろいろな経緯があった。従来、約款
については、保険金受取人は弱者であるという前提
で論じられてきた。しかし、裁判になるような事例
の場合は、必ずしも保険金受取人は弱者ではない。
訴訟になるような場合は、相当悪質な契約者の場合
もあり、必ずしも弱者強者の関係ではない。判例1
・判例2は、控訴審で一審の決定をくつがえし、移
送が認められた事例である。支社所在地での裁判が
必ずしも契約者または保険会社にとって有利である
かどうか疑問である。生命保険を扱う弁護士は大都
会に集中していたこともあり、悪質な契約者に有利
(
になる懸念があり、保険会社として適切な対応がで
きるかどうか疑問があった。
②普通裁判籍は、法人にあっては本店の所在地であ
るが、特別裁判籍として、財産上の訴訟は義務履行
地に、事務所または営業所を有するものに対しては、
事務所または営業所の所在地に訴えを提起すること
ができる。財産上の義務履行地は、一般的には債権
者の住所地であるが、保険約款によって保険金は会
社の本社で支払うので、会社の本社が義務履行地と
なる。事務所または営業所については、最高裁昭和
37年の判例があるが、保険業法によって商法の42
条の規定が準用されており、生命保険会社の場合は
事務所とされているが、この判例によれば生命保険
(岡野谷先生)
(9裁判の当事者にとって、どの土地で裁判をするか
ということは非常に重要な問題である。民事訴訟法
は、私益的見地からと公益的見地から管轄の規定が
定められている。私益的見地は、両当事者間の訴訟
追行上の負担の公平性からの定めであり、端的には
民訴法の1条から4条までの規定で、原則として被
告の住所地で訴訟を提起しなければならないとする
ものである。ただ、ある種の事件、ある範囲・ある
性質の事件については特別裁判籍が認められている。
これに対して公益的見地というのは、審理とくに証
拠調べをする際の便宜(迅速性)、裁判所間の事務
の公平負担からの規定である。
会社の事務所も営業所と同様に考えてよいとされて
②合意管轄とは、お互いの合意によって管轄裁判所
を定めることができるというもので、当事者の負担
合志孟這履行地についていえば、保険金は会社の本社
の公平を勘案したものである。典型的な管轄合意と
は、「本契約の履行にあたって紛争が生じたときは
東京地方裁判所をもって合意による管轄裁判所とす
る」との定めである。本件について言えば、義務履
行地を定めたものであって、直ちに管轄そのものの
で支払う旨の約款の場合にはそのような定めがある
以上、やはり本社が義務履行地である。現実の問題
として保険金を支社で支払うという慣行があるが、
これはサービスであって、あくまで法律上の義務履
行地は会社の本社である。
⑥保険会社の支社が商法上の支店と同じものかどう
かについては問題がある。かつての支社はそれほど
権限があたえられていなかったし、支社の場合は独
立して営業活動の根拠となっているわけではない。
合意であるといえるかどうかは問題である。ただ学
説によっては、実質的には管轄の合意であるとの見
解もある。普段は保険金は各支社で支払っており、
その場合にはこの条項は無力化されているが、実際
ただ、名称ないし設備から営業所らしい外観を呈す
るにすぎない。この間題は、支社長の行為について、
商法42条(表見支配人)の適用の問題にもつなが
る。
裁判になったときには会社の本社で訴訟を提起させ
るように規定しているのであるから、この条項は管
轄の合意であると言えなくもない。民訴法5条をな
んとか無力化しようとして規定されたものであると
いえなくもない。
⑤民事訴訟法9条についてまで、外観保護の法理が
通用されるのかどうか疑問である。外観保護の法理
というのは取引の安全に主眼があるが、訴訟という
 ̄■\ものまで外観保護の法理が適用できるかどうかには
、
疑問がある。
③管轄の合意について、紛争が起こった後の管轄の
合意は問題がおこらない。ところが、約款による合
意の場合は当事者がそれほど意識していないので問
題となるケースが多い。ひいては、約款自体の拘束
力の問題につながる。そこで、不意打ち条項理論が
⑥高松高裁の判決は、約款の内容が合理性・妥当性
を備えていることが必要であるとし、合理性・妥当
でてくる。従来は、原告の言い分にある程度の合理
性がある場合は応訴管轄で対応してきており、必ず
しも本店所在地の裁判所のみで応訴してきたわけで
はない。しかし、これでは原告は保険会社の好意に
すがる方法によらざるをえないというので、慣行上
性を備えていなければ約款は無効であるとしている。
約款の拘束力については古く大審院の判例があるが、
保険契約の約款というのは当事者の知・不知にかか
わらず拘束力がある。約款の内容が不利だからと
いってその内容が無効だとするのは乱暴である。ま
た、他社の約款との比較を引き合いにだすのもおか
しい。
⑦財産上の義務履行地の約定をただちに専属管轄の
合意と解するのも乱暴であり、相当の飛躍があると
おもわれる。保険会社によっては営業所の実態を備
える支社があるかもしれず、その場合にはその支社
の所在地でも訴訟を提起することができる。
義務履行地は支社であるとか、事務所・営業所であ
る支社所在地の管轄裁判所の理論がでてくる。しか
し、これについては、支社での保険金の支払いは
サービスにすぎないこと、支社が必ずしも営業所の
実態を備えていると認められないこと、表見法理を
訴訟法に持ち込むことについて評価が固まっていな
いという難点がある。
⑥判例3について、他社の約款を引き合いにして約
款の合理性を論じているのは問題がある。その約款
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自体の合理性を検討すべきである。また、この事例
では被告は相互会社であるから、根拠法令として商
法516条を引用しているのは適当ではなく、むしろ
民法484条を引用すべきであったといえる。
(松R弁護士)
①義務履行地と裁判籍との関係について、民訴法5
条は、紛争の起こっている場所で、その紛争を解決
しようとする趣旨だと考えられる。本件では約款中
の履行地の問題と管轄との問題を一緒に無効として
いる。
②このような定めが無効だとしている理由として、
経済的弱者の保護とか、説明がなされていないとか、
このような条項は漸次改善してきているとか、他社
の約款との比較をあげているが、当該条項を無効と
するにはその無効原因を明確にすべきであると考え
↑
る。公序良俗違反なのか、合意の有無については錯
誤のようにも考えられるが、明確ではない。無効を
主張するのであれば、どの条文に該当するのかを明
らかにすべきであった。
③保険契約は保険契約者と保険会社の間で契約を締
結するが、契約者と異なる者が保険金受取人であっ
た場合、当該条項に拘束されるかどうかが問題であ
る。しかし、これは保険金受取人の権利であっても
保険約款に基づくものであるから、第三者である保
険金受取人の権利もやはり保険約款に拘束された権
利である。これは、保険金受取人の相続人について
も、同様のことが言える。
(東京:H3.3.7)
報告:三井生命 野口正孝氏
出題:弁護士 河村 寅氏
指導:河村弁護士、松岡弁護士、岡野谷弁護士
編 集 ・発行 者 財 団法 人 生命保 険文 化 研 究所
叫
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