女子力測定のための情報処理システムに関する一考察 - KMD Network

女子力測定のための情報処理システムに関する一考察
徳山 眞実†1
山 内 正 人†1
廣 井 慧†1
砂 原 秀 樹†1
components that is necessary for the quantification. Also, we discuss about
the necessity of assigning weights to the elements composing ambiguous words,
and also about the procedure for quantifying these words. In order to do this,
we considered the term ’Jyoshiryoku’ as an illustration and investigated how
it is used by the media, analyzed what words it is used with, and conducted
an opinion poll. As a result, we were able to extract superficial and objective
keywords through the investigation and analyzation, along with the internal
and subjective evaluation standards through the opinion poll.
1. は じ め に
昔から「もっと可愛くなれる!」
「より美しくなれる!」等といった曖昧な言葉を用
いて効果を謳った商品の販売が行われている.しかし,消費者にとっては分かり辛い
指標であり,効果についての誤解を生む場合もある.そこで,このような曖昧な言葉
を数値化することで,具体的な効果を示す事ができ購買意欲をあげることが出来ると
考えられる.本研究ではこのような曖昧な言葉の構成要素を明らかにし,言葉の重み
付けを行い数値化するシステムの構築を目的とする.本稿では,消費者にとっては分
かり辛い指標である,曖昧な言葉を数値化する感性情報化システムの提案を行い,数
値化する際必要な構成要素の抽出過程を考察した.また,構成要素を重み付けする必
要性と数値化に必要な手順について述べた.そして実際に「女子力」という言葉を例
にあげ,構成要素の抽出過程を考察するためメディアでの扱われ方,その言葉と併せ
て使用されている言葉の解析と意識調査を行った.その結果,メディアでの扱われ方
や言葉の解析からは外面的,客観的なキーワードを抽出することができ,意識調査か
らは主観的,内面的な判断基準を抽出出来ることが分かった.
昔から「もっと可愛くなれる!」
「より美しくなれる!」等といった曖昧な言葉を用いて効
果を謳った商品の販売が行われている.しかし,消費者にとっては分かり辛い指標であり,
効果についての誤解を生む場合もある.そこで,このような曖昧な言葉を数値化すること
で,具体的な効果を示す事が可能となり購買意欲をあげることが出来ると考えられる.指標
となる曖昧な言葉は「多い」「少ない」というような具体的に数値を伴って説明出来るもの
と,
「可愛い」「美しい」といった全て人の主観によって左右されるものとがある.本研究で
扱う曖昧な言葉とは,後者の場合を指す.本研究ではこのような曖昧な言葉の構成要素を明
らかにする手法を示し,言葉の重み付けを行い数値化するシステムを構築することを目的と
する.本稿では感性情報化システムの提案を行い,数値化する際必要となる構成要素の抽出
過程を考察する.2 章では,指標となる曖昧な言葉のグループ分けを行い,曖昧な指標を数
A Study on the Information Processing System
for Measuring ’Jyoshiryoku’
Mami TOKUYAMA,†1 Kei HIROI,†1
Masato YAMANOUCHI†1 and Hideki SUNAHARA†1
It is difficult to define the ambiguous words such as ’beauty’ or ’pretty’, but
these words are often used in catchphrases for advertisements. These words are
inefficient as indexes for consumers, in some cases even misleading them about
the effect of the products. Therefore, we assume that we can express the specific effects of these products and can increase customer interest by quantifying
these words. In this study, we intended to build a ”sensitivity computerization system” that quantifies and assign specific weights to ambiguous words
by identifying their components. We investigated the extraction process of the
値化した.関連研究として,同じく曖昧な言葉でありながら政府の政策の一つの指標として
も使われている幸福度について述べる.これらのグループ分けや関連研究で使われている手
法を参考にし曖昧な言葉の構成要素を抽出する.3 章では,重み付けを行い数値化する感性
情報化システムについての提案を行い,数値化する際必要な構成要素の抽出過程を考察す
る.4 章では,
「女子力」という言葉を例に挙げ,3 章で述べた方法で構成要素を明らかにす
る.5 章では,今後の課題と展望を述べる.そして 6 章で本稿をまとめる.
2. 曖昧な言葉
指標となる曖昧な言葉は2種類に分類される.一つは「綺麗」「可愛い」のように昔から
†1 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科
Graduate School of Media Design, Keio University
あるが時代によって意味が変化している言葉.そしてもう一つは「主婦力」
「女子力」
「肉食
系」のように時代によって生み出された新しい指標の言葉である.
「綺麗」「可愛い」と言っ
た言葉は昔からある言葉であるが,時代の流行等によってその言葉が指す意味は変化してい
る.例えば「可愛い」という言葉は「小さいものに対する愛着」というような意味で使用さ
れていたが,現代においては年齢等は考慮されず非常に広範囲な意味で使用されている.一
方で,同じ意味を含みながらも時代によって新しく生み出されている言葉がある.二つの中
から「綺麗」
「女子力」という言葉を例に両者の検索ボリューム動向を図 1 図 2 に示す.これ
図 2 「女子力」の検索ボリュームの移り変わり
は Google Insights からのデータで Google で検索された総検索数に対する特定の検索キー
ワードの検索数のデータを正規化して相対的に表したものである1) .縦軸は検索ボリューム
横軸は検索された 2004 年から 2012 年までの年次である.
「綺麗」という言葉は,年によっ
曖昧な言葉をアンケート調査と,客観的な事実からキーワードを抽出し構成要素を選
(2)
て突出した変化は見られない.一方で,
「女子力」という言葉は 2002 年に初めて使われた言
選定した構成要素に年代や性別等の違いからくる各要素への重要度によって重み付け
葉だと言われているが,2011 年になり急激に検索数が増加している.この年に AneCan と
いう雑誌の中で「女子力って何だ?」という特集が組まれ人々の関心が高まった2) .このよ
うにある時から新しく生み出され,メディアで使用されることによって急激に関心が高まる
ような言葉がある.
各要素の重み付けを行う.
を行う.
(3)
数値化を行う.
数値化の計算式や要素の数を明らかにし,計算する.
その流れを図 3 に示す.
図1
「綺麗」の検索ボリュームの移り変わり
3. 感性情報化システムの提案
指標となる曖昧な言葉を数値化する感性情報化システムの提案を行う.
3.1 感性情報化システムの概要
感性情報化システムの概要を説明する.
曖昧な言葉を数値化する際には,3 つのステップが必要である.
(1)
言葉の構成要素を選定
図 3 情報処理システムの流れ
3.2 構成要素決定の方法
に結婚願望という項目があったとする.結婚願望は年代や男女によって異なる.2010 年に
曖昧な言葉の指標に幸福度がある.幸福度とは人々の幸福感を指標化したものである.社
行われたネットリサーチの DIMSDRIVE が行った結婚観に関する調査によると,20代男
会学,心理学,経済学を中心に様々な分野によって研究されており,政府の政策の指標の一
性で結婚願望がある人は 59.6 %同じく 20 代女性は 53.9 %それが 40 代になると男性は
つとしても利用されている世界的な指標である.
「幸福感」は人によって感じ方が違い,定
47.7 %,女性は 37.1 %であり違いが見られた3) .その為,年代によってその構成要素を
義することは難しい主観的な言葉だが,日本における幸福度は主観的な「幸福感」と客観的
等価で表すのではなく,結婚願望が高い人が多く見られる年代においては重要度が増すと考
なデータである社会的要因の相関関係を分析する事で有用性のある指標として利用されて
えられ,重み付けが必要になる.
いる.幸福感は主に意識調査によってデータが集められている.そこで,曖昧な言葉の意味
3.4 数 値 化
が時間軸によって変化していることから特定の年代に対象を絞り意識調査を行い,比較要因
重み付けが行われた構成要素を数値化する.その際どのような計算式にあてはめ数値化行
としてメディアで使用されている意味を抽出し考察する.具体的には,実際にメディアでど
うのか,また各要素の数値を決定する必要性がある.数値化を行うと、曖昧な言葉に共通認
のように扱われているか,インターネットネット上での検索語やその言葉が使われているブ
識を持たせる事が出来る。
ログから関連語を解析し,分析比較を行う.構成要素を決定するまでの流れを図 4 に示す.
4. 構成要素抽出
3 章までで述べた事を基に「女子力」という言葉を例に構成要素の抽出を行い考察する.
4.1 メディアでの扱われ方
女子力という言葉は,共有辞書サービスはてなキーワードによると「女性の,メイク,ファッ
ション,センスに対するモチベーション,レベルなどを指す言葉.
」と定義づけられている.
これは,
「女子力アップ」を謳った商品が多数発売されており,多くがファッションや美容に
関する商品であることからそのようなイメージが一般的に定着していると予測される.
「女
子力」という言葉は,2002 年に漫画家の安野モモコ氏が『美人画報ハイパー』の中で初め
て使ったとされている.それ以来様々なメディアで「女子力」という言葉は使用されている
が,2 章で述べたように 2011 年に AneCan という雑誌において「女子力って何だ?」とい
う特集が組まれたのをきっかけにインターネット上での検索数も一気に跳ね上がっている.
特集の中で 1000 人を超える読者に対して行われたとされるアンケートによると「女性らし
い見た目」
「気遣い」の他に「仕事で使える女子力」と題して「存在感」
「影響力」
「心配り」
「意識の高さ」「切り替え力」「精神的な強さ」が女子力が高い女子に必要な要素としてあげ
られている.しかし,
「女子力」が仕事に関する指標であるという認識は一般的ではない.
4.2 関連語の摘出
図 4 構成要素決定の流れ
インターネット上において「女子力」がどのような文脈で使われているかを分析した.検
索された語と共に多く検索された言葉を表示する Google の関連ワードでは「診断」「アッ
3.3 重 み 付 け
プ」「顔文字」というような言葉が表示されている.また Google Insight Search によると,
選定した構成要素に年代や性別等の条件を基に重み付けを行う.例えば構成要素の一つ
女子力という言葉の検索クリエは「女力」「女子力アップ」「女子力パラダイス」「モテる」
「女子力」のような言葉である.また,Yahoo!ブログにおいて「女子力」という言葉が使わ
れている記事50件を形態素解析し,頻出回数の多い名詞を摘出することで文脈を推測し
た.その結果を表 1 に示す.
「化粧」「コットン」「香り」「肌」「メイク」というような美容
に関するキーワードが多く見られた.これは一般的に定着している「女子力」のイメージと
同じである.他にも「仕事」や「エプロン」「料理」等家事を連想する言葉など,日常生活
におけるキーワードと共に使用されているという可能性が高い.
名詞
回数
名詞
回数
女子
91
42
15
14
14
13
12
11
11
11
10
10
9
9
9
8
コットン
8
8
8
8
8
7
7
7
7
7
7
7
7
6
6
6
ネイル
6
6
6
6
6
6
6
5
5
5
5
5
5
5
5
5
気
人
エプロン
ゴール
仕事
自分
好き
アップ
友達
久しぶり
女の子
先生
化粧
子
肌
彼氏
購入
クリーム
ネイル
家
休み
巨乳
色
男子
メイク
流行
バイト
の計 5 問を自由回答,または選択回答で尋ねた.45 人から回答があり,有効回答数は 44
「あなたがある人を「女子力が高い」と判断した場合,特に選ぶ基準となる要素は何です
回数
雨
ますか?(複数回答可)
• ※男性の回答者の方にお聞きします.女子力の高い女性をどう思いますか?
「女子力とは何だと思いますか.
」に対する男女別の回答をそれぞれ表 2 表 3 に示す.
名詞
香り
• ※女性の回答者の方にお聞きします.女子力を上げるために実際にしていることはあり
である.
表 1 形態素解析結果
笑
• ※女性の回答者の方にお聞きします.女子力が高い女性になりたいと思いますか?
彩
女性
髪
キレイ
大好き
男
意味
体験
卓球
料理
男
隠れ
感じ
手作り
服
か.一つお答えください.
」に対する男女別の回答をそれぞれ表 4 表 5 に示す.
表2
女性回答/キーワード群 (自由回答、複数回答可)
気遣い、気配り
自分磨き
料理、家事
女性らしさ
可愛らしさ
モテ
思いやり、優しさ
言葉遣い
仕草
柔軟性
計算
香り
ファッション
内面
不思議な力
-
-
-
-
-
-
表3
男性回答/キーワード群 (自由回答、複数回答可)
気遣い、気配り
モテ
自分磨き
料理、家事
女性らしさ
化粧
ファッション
内面
可愛らしさ
香り
持ち物
-
-
-
4.3 女子力に関する意識調査の結果
「女子力」という言葉を人々がどのようにとらえ,またどのようなときに「女子力が高
い」と判断するのか調査を行った.幅広い年代の印象を一般化することは困難なことから調
表4
女性回答/判断基準 (自由回答)
気遣い、気配り
自分磨き
身だしなみ
可愛いものが好き
身だしなみ
モテ
料理
外見
異性に対する行動力
瞳
動作
-
-
-
査対象は主として20代,30代の男女に限定して行った.
調査方法は質問紙による直接回答または WEB 上での入力による.また調査内容は,年
齢,性別を聞いた上で
• 女子力とは何だと思いますか.
• あなたがある人を「女子力が高い」と判断した場合,特に選ぶ基準となる要素は何です
か.一つお答えください.
4.4 考
察
以上の結果から女子力という言葉はメディアではメイクやファッションといった外見に関
表 5 男性回答/判断基準 (自由回答)
気遣い、気配り
行動き
持ち物
聞き上手
話し上手
モテ
可愛さ
清潔感
作法
身だしなみ
笑顔
可愛いものが好き
-
-
する指標であるという意味で使われており,また関連語の摘出により「女子力」という言葉
が一般的に「ネイル」「化粧」等外見に関する事,また仕事というような日常生活に密着し
た言葉で使われているということが分かった.しか意識調査から実際に人が女子力の判断基
準としているのは美容やファッション等に関することだけではなく,
「気遣い,気配り」等の
内面的なものからも判断されていることが明らかになった.このことより,メディアでの扱
われ方や言葉の解析からは外面的,客観的なキーワードを抽出することができ,アンケート
によって行った意識調査からは主観的,内面的な判断基準を抽出出来ることが分かった.
5. 今後の課題と展望
今回行った考察から,メディアでの扱われ方や言葉の解析からは外面的,客観的なキー
ワードを抽出することができ,意識調査によって行った意識調査からは主観的,内面的な判
断基準を抽出出来ることが分かった.今後は,それらの要素を重み付けする必要がある.ま
た重み付けをする際に,場面や年齢,性別等の条件によって区別する必要がある為,それら
の分析を行いたい.今後指標となる曖昧な言葉を感性情報化システムによって数値化する
ことで,具体的な指標としての活用が期待される.指標が見えることで人々のモチベーショ
ンに繋がったり,今まで感覚的であった広告においても説得性が増すと考えられる.
6. ま と め
本稿では,消費者にとっては分かり辛い指標である,曖昧な言葉を数値化する感性情報化
システムの提案を行い,数値化する際必要な構成要素の抽出過程を考察した.また,構成要
素を重み付けする必要性と数値化する際に必要な手順について述べた.そして実際に「女
子力」という言葉を例にあげ,構成要素の抽出過程を考察するためメディアでの扱われ方,
言葉とともに使われている言葉の解析と意識調査を行った.その結果,メディアでの扱われ
方や言葉の解析からは外面的,客観的なキーワードを抽出することができ,意識調査からは
主観的,内面的な判断基準を抽出出来ることが分かった.
参
考
文
献
1) Google:Google Insaights for Search,http://www.google.com/insights/search/(参
照 2012-5-1)
2) 小学館:AneCan 6 月号,Vol.5,No.6,pp.256-265(2011)
3) ネットリサーチ ティムスドライブ:http://www.dims.ne.jp/timelyresearch/2010/100525/(参
照 2012-5-2)
4) 大竹文雄,白石小百合,筒井義郎:日本の幸福度,日本評論社(2010)
5) 井口征士,猪田克美,小林重順,田辺新一,長田典子,中村敏枝:感性情報処理,オー
ム社(1994)
6) 原島博,井口征士:感性情報処理,工作舎(2004)
7) 平松隆円:スキンケアにする感情調整作用に関する研究,繊消誌,VoL.48,pp.750-757
(2007)
8) 平松隆円:POMS を用いたマニキュアによる化粧行動の感情調整作用に関する研究,
繊消誌,pp.107-112(2008)
9) 山本純平,徳田義幸,川添瑞木,米澤拓郎,高汐一紀,徳田英幸:momo!バイタルセン
サを用いた気分の解析と雰囲気の可視化,情報処理学会研究報告,VoL.118,pp.79-86
(2007)