2010年10月理事会報告 - UK PI Club

2010年10月理事会報告
2010年8月半期決算概要
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2011保険年度のジェネラル・インクリースは5%
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2010年8月20日現在、当クラブの自由準備金及び
資本金は4億1, 900万ドル
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クレームは全体的に改善、特に2009年及び2008年
が良好に推移
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クレームの最終支払予想額は堅実な見積を継続しつつ
3,400万ドルを減額
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年間の投資利回りは4%の見込み
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2009年度のコンバインド・レシオは102パーセント
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S&P格付けはA-、アウトルックは安定的
カロウシス理事長 挨拶
今年度上半期、当クラブの財政状況は引続き改善している事をご報告できることは
喜ばしいことです。当クラブの自由準備金及び資本金は、今年度上半期決算において
4億1,900万ドルに増加しました。特筆すべきは2009保険年度のクレームが確実に
減少していること、また2008保険年度も緩やかに改善がみられることです。現在、
2009保険年度は18カ月が経過し、より明確にクレーム傾向を把握できることから、
最終支払保険金の見積を減額することができました。また2008年度も良好に推移し
ているため、当クラブは堅実にクレームを見積りつつ、最終支払予想額を全体で
3,400万ドル減額することができました。どのようなクレームに改善が見られたか
は、本誌の「クレームの概要」で詳細に解説しています。
当クラブの目標の一つに、コンバインド・レシオを100%とすることを掲げていますが、2008保険年度は
(予定外保険料を除き)105%、2009保険年度は102%となりました。2010年度は現在期中であるため
明確な見解を申し上げることはできませんが、今までのところ2009保険年度の同時期と大差はありません。
しかし、現時点ではまだ慎重な見積りを維持することが必要です。
今期上半期の投資収益は良好で、さらに9月は好成績でした。今のところ保守的に見積もった年間投資利回
り4%の目標に近い実績を示しています。
この財政的な好材料を背景に、理事会では今後の状況を鑑み慎重に検討をした結果、2011保険年度のジェ
ネラル・インクリースを5%と決議いたしました。この決定は上昇するクレーム金額を考慮して採択されたも
のです。それは最近のクレーム減少の理由が、クレーム件数の減少であり、個々のクレーム金額の減少ではな
いからです。確かにクレームの平均コストは上昇し続けており、さらにドル安が拍車をかけています。さらに
コンバインド・レシオを100%とする当クラブの保険収支目標を達成するのであれば、前述の平均クレーム金
額の上昇と、マーケットの回復に伴ってある時点から急速に上昇するであろうクレーム件数の増加に対応する
ために若干の保険料増は必要であると考えています。
過去2年間に講じた措置に対するメンバーの皆様のご協力により、クラブの資本基盤を回復しておきなが
ら、クレームの急上昇により再構築した財務力を再び消失させるのは愚かなことでしょう。経済が回復する
中、いかにクレームが素早く上昇するかを検証した結果、再保険にかかわる新戦略を導入しました。これは保
有クレームやプール・クレームが予想外に上昇した場合にクラブを守るためのもので、昨年度末の決算報告書
でお知らせしました。
私共はヨーロッパで今後新しく導入される「ソルベンシー2」規制に対応すべく作業をしています。これは
現行の規制以上に資本強化の維持が求められるものですが、当クラブのソルベンシー2への対応状況は順調に
進んでいます。この新規制は、単に資本強化を要求するだけにとどまらず、コーポレート・ガバナンスを含め
全社的なリスク管理に焦点を置いています。そのため理事会のストラテジー委員会は、年間8回の会合を重ね
るなど、当クラブの効果的な企業統治にとって益々重要さを増してきており、委員としてご尽力いただいてい
る理事の皆様には感謝しています。
副理事長のエリック・アンドレ氏(監査委員会及びIPIR財務委員会の長を兼任)、アラン・オリビエ氏(トー
マス・ミラー社の理事会における当クラブの代表を兼任)及びパトリック・デカビユ氏は、ほぼすべての委員
会のメンバーであり、彼らの支援および賢明な助言は欠かすことができません。上記理事はもちろんのこと、
当クラブを監督し、順調な運営に導いていただいているすべての理事の方々のご貢献に感謝いたします。
クラブ理事長
ディノ・カロウシス
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当クラブの財務概要
2011年度ジェネラル・
インクリースは5%
2011年 ジェネラル・インクリース(GI)
理事会は2011年度のGIを5%といたしました。昨年同様、
クレームが減少し、投資パフォーマンスの安定した商業環境で
は、穏やかなジェネラル・インクリースを設定することができる
わけですが、GIを全く設定しないのは賢明ではありません。
第一に個々のクレーム金額が上昇していること、第二に経験上、
クレームと海運活動の周期における経済の回復期には、クレーム
は通常より早い上昇傾向を示します。当クラブとしては、経済の
潮目が変わるときには、クレームが保険料を上回らないように慎
重になる必要があります。
歴史的にGIとは、上昇するクレームをカバーするために保険
料率を引上げるという事でした。これはしばしば標準小売価格や
消費者物価指数を上回る速度で高騰することがありました。近年
多くのクラブでインフレに対応するだけでなく、保険料全体の不
足分をカバーするためにGIを充当しているようですが、これは
GI本来の姿から逸脱しているという概念をもたらし、保険料全
体で適切なレベルであれば必要ないという意見につながります。
しかし、UKクラブは純粋な、つまりコスト上昇をカバーする
形でGIを保持することは正当で望ましい姿であると考えていま
す。もしGIを適用しないのであれば、将来の(例えば人身ク
レームをはじめとする)コスト上昇分は、保険契約内で何らかの
方法によりカバーしなければなりません。UKクラブが採用して
いる手法は、すべてのメンバーの保険料率にまずGIを適用し、
その後に個々のメンバーの保険成績及び翌年度のフリート毎のリ
スクを査定して調整を行う方法です。言いかえれば、このシステ
ムは、メンバー共通のリスクにかかわるコスト上昇分を、すべて
のメンバーに均等に割当てた上で、個別の保険成績やリスクの度
合いによる調整を適用することができるということです。
2009保険年度の
コ ン バ イ ン ド・レ シ オ
は102%
コンバインド・レシオ
右頁図1は2004年から2009年までの会計年度および保険年
度における当クラブのコンバインド・レシオの変化を示したもの
です。この期間にコンバインド・レシオを100%のレベルまで減
らすという当クラブの長期目標に着実に近づいています。
予定外保険料を除くと2008年度及び2009年度はそれぞれ
105%と102%でした。
* コンバインド・レシオとは
保険会社の収益力を図る指標。
100%を超えると収益より支出
が多いことを意味する。
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(保険金 + 諸費用)
保 険 料
2011保険年度の
標準免責額は引続き
5,000ドル
免責額(Deductibles)
昨年、当クラブは標準免責額を設定し、10月の理事会で翌年
度のクラブの免責に関する方針を決定するという方式に変更しま
した。2010保険年度ルールは(標準免責額は理事会決議による
と)改 正 さ れ、理 事 会 で す べ て の ク レ ー ム は 一 出 来 事 あ た り
5,000米ドルという標準免責額を設定しました。2011年度も標
準免責額は、引き続き5,000米ドル(他通貨の場合は当該ドル相
当額)に据え置かれました。
当クラブとしては、できるだけ上記標準額を最低金額としてと
らえていただく様お願いしていますが、標準金額と違う免責額を
維持することは可能です。なおクラブ管理者では保険更改にあた
り、メンバーのクレーム実績によっては、標準免責額より高い額
を提示させていただくこともありますのでご了承ください。
投資利回りは年利4%の
目標を達成する見込み
投資実績及び方針
8月末時点の投資収益は1,700万ドルで利回りは1.6%でし
た。マーケットは9月に非常に上昇し、本誌執筆時点の10月初め
には収益はかなり上向いています。投資方針については昨年度末
から変更はありません。現行の資産構成は、77%が預金及び固
定金利債権、15%が株式、8%は絶対収益追求型ファンド(ARF:
Absolute Return Funds)です。上半期を終えて、ほとんどの
資産はそれぞれの基準を達成しています。当クラブの投資ポート
フォリオは、引続きそのリスク選好度(Risk Appetite)及び許
容度(Tolerance)そして資本パフォーマンスに対する投資担当
部門の今後の見通しを反映して参ります。
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管理費の米ドルコストを削減
昨年当クラブでは、ポンド建ベースのクラブ管理費について、
リスク・ヘッジする方針を設定し、1ポンドに対し1.5米ドル以
下の有利なレートで、為替の変動によるリスクを軽減し、管理費
の米ドルでの支出を削減することができました。
自由準備金及び資本金は
2010年度半期末時点で
4億1,900万ドル
自由準備金及び資本金
2010年10月の理事会開催前の時点で、当クラブの総資本は
今上半期に1千万ドル増加して、約4億1,900万ドルとなりまし
た。当クラブの資本基盤の継続的な強化は、全メンバーの信頼の
礎となるものであり、皆様のご協力によって着実に準備金を積み
立ててきた結果、更に将来に備えることができました。
スタンダード・アンド・プアーズ
当クラブの現在のS&P格付はA-(アウトルック:安定的)です。
解除保険料の方針
2008年度に、解除保険料にかかわる方針の変更があり、未閉
鎖保険年度の解除保険料が当該年度にかかわる不確実性のレベル
を反映する形で変更されました。解除保険料は今後も継続してこ
の新方針に従って設定されます。2010年10月以降適用される
解除保険料は表1の通りです。
ソルベンシー2
-
今後の対策
現在、当クラブは金融当局FSAだけでなくその他関係当局のす
べてのソルベンシー及び法的要求事項を満たしています。当クラ
ブのソルベンシー2に準拠するためのプロジェクトは順調に進ん
でいます。広範囲にわたるこの規制のために、クラブ管理者、理
事会そしてその委員会では、過去18カ月間に膨大な時間や労力
を費やしてまいりました。
クラブはこの新たな規制の枠組みを、特別な法規制として取扱
うのではなくクラブの運営として取り込むため、一般業務の通常
S&P格付は Aアウトルックは安定的
の手順に導入することを模索しています。当クラブはソルベン
シー2の先駆けとして英国FSAが行っている自己資本査定(ICA:
Individual Capital Assessment)の枠組みをすでに役立てていま
す。これらは、投資方針の判断であり再保険契約締結などの業務
上重要な判断を下す際に利用することによって、クラブに重要な
付加価値を与え、リスクを軽減しています。上記プロジェクト
に、ハイブリッド資本の導入による積極的な資本管理の成果を合
わせれば、当クラブはソルベンシー2の実施に着実に対応できる
立場にあります。
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クレームの概要
クレームは全体的に改善
特に2009年が顕著、
2008年度も良好に推移
2010年8月の半期決算では、クレームは改善されています。
2008および2009保険年度はもっとも改善していますが、その
他ほとんどの年度も良好に推移しています。
2008年度のクレーム見積りを設定する時期には、海運業界は
ピークを迎えており、クレーム金額と件数が最高レベルに達して
おり、その中でも特に傷害クレームが顕著でした。その他の年度
も時間の経過と共に悪化していた事もあり、年数の経過していな
い直近の保険年度のクレーム見積りは慎重に立てる必要がありま
した。しかしその後の経過は幸いにも良好です。保険年度当初に
悪化した理由は、クレームが以前より早く通知されるようになっ
たことや、これまでの経験から保守的な見積りをしていたことが
判明しました。それに比べ、2009年は海運活動が停滞したため
クレームが減少する事が予想されましたが、このクレーム減少の
規模やタイミングは全く不確実です。当初の最終支払予想金額は
2億9,000万ドルでしたが、18カ月経過時点でクラブの保有ク
レームは良好に推移し、プール・クレームの好成績も伴って、
2009保険年度の最終支払予想保険金額は2億6千万ドルに下が
りました。
直近の保険年度で最終支払額の見積が減少したのは、クレーム
件数の減少が主な原因です。表2は各保険年度の6カ月経過時点
でのクレーム件数の比較です。2008年以降クレーム件数がかな
り減っている事をはっきり示しています。
クレーム件数は減少したものの、クレーム金額は非常に上昇し
ています。左の表3ではクレームタイプ別の12年間の実績コスト
上昇率を示しており、次頁図2では、一件当たりの平均コスト
(ACPC)をクレーム・タイプ別に折れ線グラフで比較していま
す。この分析では疾病クレームが最も高い上昇率を示していま
す。各タイプとも、実績コストは5%から11%の上昇率を示して
おり、最近の経済の失速の影響による下落の兆候は見られませ
ん。過去3年間の傾向をみると、クレームの高騰は長年のインフ
レ率よりずっと高い上昇率である事がわかります。
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クレーム件数は減少
したが、
平均クレーム金額は
急激に上昇
クレームの推移
下の図3は当クラブの2010年8月20日における保険年度別のプールとプー
ル以外(保有クレーム)の最終支払予想保険金(Ultimate Claims)の比較で
す。最終支払予想の保険金額は、最新の見積額を検討した上で調整されまし
た。2010保険年度はまだ保険期間が満了していませんが、6カ月のみ経過し
た時点の最終支払予想額を慎重に考慮した数字を示しています。
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下記図4は、当クラブに報告のあったクレームの金額が4半期毎にどのよう
に推移したかを比較したものです。これは2000年から2010年までの(保有
クレーム及びプール負担金を含む)既報告クレームの見積額と支払保険金の合
計で、2008年と2009年度に明らかな改善が見られます。2010年度は現時
点で2009年度を踏襲していますが今後の展開を断定するには時期尚早です。
プール・クレーム
下記図5は当クラブのプール負担金の不安定さを示しています。最近の
年度では2006年度の9,400万ドルという高額な年から、2008年度の
2,800万ドルという比較的成績の良い年まで大きな幅があります。
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プール・クレームは6-8四半期が経過したころから金額の上昇率が
鈍化します。しかし、2009年度は4-6四半期から特にそれが顕著で
あったため、この年度の最終支払予想金額を減額することになりまし
た。他の年度もわずかに改善しています。2010年度は半期末時点で
4件のプール・クレームがあり、そのUKクラブ負担分は500万ドルに
上ります。前年同期では4件で150万ドルでした。プール・クレーム
は2010年10月までに、7件までに増加しています。(表4参照)
クラブの保有クレーム (プール以外のクレーム)
貨物クレーム
過去6カ月間で、貨物クレーム全体では多少悪化しており、2005年
と2008年度が予想を上回る速さで上昇しています。2009年度のク
レーム件数は2008年度に比べ20%減少しており、2010年度は
2009年度と同様のレベルを継続しています。ただしクレーム毎の平
均コストはより高くなっています。
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人身クレーム
(Injury and Illness Claims)
2009保険年度は、どのカテゴリーにおいてもクレーム数が減少し
ており、傷病クレームではかなりの変化が見られました。この傾向は
2010年度も継続しており、クレーム件数は2008年までのどの年度
よりも、かなり少ない状況です。クレームあたりの平均コストが10
年間に10%上昇している中、件数の激減はクレーム・コストを全体
的に引き下げる結果になりました。しかし平均コストが上昇している
ため、海運活動の活発化により件数の減少傾向が反転した時、今後こ
のタイプのクレーム・コストは急激に増加することが見込まれます。
疾病クレーム(上記図6)は次頁図7に示す傷害クレームに比べ、
クレームの推移は短期間で現れます。これは多くの病気は満足した結
果で解決し、障害あるいは死亡給付に至らないで終わる事を示してい
ます。そして医療費は全体的に高額にはなりません。
過去6カ月のクレーム見積りの経過を見ると、多くの保険年度で改
善している事がわかります。疾病及び傷害クレームで最も顕著な変化
が見られるのは、2009年度の見積額が当初の予想より減少している
ことです。
傷害クレーム (Injury Claims)
傷害クレームは、疾病クレームとは違うパターンで推移します。そ
れは怪我というものが長期にわたり、しばしば医療やリハビリ治療を
必要とし、最終的に回復するまでに何年もかかるからです。このタイ
プのクレームは、医療費の上昇に影響を受けやすいものです。次頁の
図7は2010年8月20日時点の見積りを比較したものです。
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2008年度の傷害クレームの金額が減少したことは、非常に珍しい
ことで、これが当該年度のクレーム全体の最終支払予想額をかなり調
整することとなった主な理由です。この保険年度は数件の高額クレー
ムについて2010年2月時点で見積を減額しましたが、それ以降半期
にわたりこれを維持しています。2009年度にも改善が見られます。
2011年度保険更改のためのロス・レコード
2010年11月より、クラブのウェブサイト上のメンバーズ・
エリア内 Underwriting Onlineにて、ロス・レコードがアク
セス可能となっています。ご登録メンバーはいつでもご覧いた
だけますので、是非ご利用ください。
英文サイト(http://www.ukpandi.com/)
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UK P&Iクラブ 日本支店
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平成22年10月
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