Takashi ーWAMATSU - 愛知教育大学学術情報リポジトリ

愛知教育大学研究報告,
硬
骨
46 (自然科学編), pp. 31
魚
類
の
42, March, 1997
受精(I)
岩松鷹司
(生命科学領域)
Fertilization
in Teleostean
Takashi
Fishes
IWAMATSU
(Department of Biology)
コイCypri、lUS、フンジュルスFundulus、サケ0丿zar一
I
序
言
hynchm、メダカOryziasおよびタナゴRkodettsな
どで、数種の卵生のものに限られている。魚類の受精
受精,それは2つの異形の細胞の合体によって1つ
の新しい細胞を形成する過程である。その過程は異
が体系的に研究され始めたのは、半世紀ほど前からで、
なった組織で形成されたそれら両細胞の出会いで始ま
決して古くはない。そのことは多くの総
り,細胞相互作用および細胞周期の基本現象がそれに
説14・21・22・29・82・100,136にみることができる。
続く。受精に必須である要素がどのようなもので,そ
II
受精の準備
れらが卵にいつどのようにして揃うか。それは,濾胞
受精のために卵に準備されるものは分化のときに始ま
内で卵母細胞の形成から成熟までの排卵前の過程に揃
り、受精後もその役割を担う。
うはずである。発生を保証する卵黄のような成分の蓄
積,多精受精防止及び発生中の胚を保護す
るための卵膜の形成,侵入した精子核が卵
核と出会うための卵門の位置の決定,そし
て減数分裂の完了にしても,受精・発生の
ための活動である。すなわち構造・機能上
の両面から見て,受精の活動は卵の分化・
成長・成熟の段階からすでに始まっている
と言っても過言ではない。
1960年代に入っ
て,われわれは,この観点から,卵母細胞
の形成,成長,成熟,そしてその受精能の
獲得の研究を通して,受精の研究を展開さ
せてきた。近年,細胞の分裂サイクル機構
の解明に焦点が絞られ,遺伝子産物の機能
に関する研究が活発になってきた。そのた
め,現時点においてこれまでの研究成果全
体を見渡し,どのような問題がどの段階ま
で解明されたか,どのような問題がまだ未
解決の状態にあるかを明確にするように迫
られている。
ここでは,特に硬骨魚の卵の受精に関し
て,これまで解明された点を紹介すると共
図1
メダカの精子の形態
にその重要点について記述する。受精の研
頭部に丸い核(N)をもち,中片部(MP)には主としてミトコンドリア(M)
究材料にされてきた主な硬骨魚はゼブラ
を含む.鞭毛(F)は,基部には基底小体(中心粒,C)をもち,周りに
フイッシュBmれC扇面into,ニシンClubea,
は波動膜(*)をもつ.
31-
岩
1
松
鷹
司
をなしている。したがって,多くは球状をなす頭部の
魚類精子の大きさと運動速度
大きさは魚類全般に小さい(表1)。図1に見られるよ
うに,主として頭部には核と中心粒,中片部にはミト
コンドリア,尾部は波動膜をもつか,もたない鞭毛か
らなっている。核に隣接した鞭毛基部にある基底小体
(中心粒)は,卵内侵入後,両受精前核の合体および
卵割に重要な役割を果たす。
細胞膜外面には卵を認識するための糖が分布してい
るらしく,レクチンによる精子間の凝集が見られる。
(2)
卵
卵の大きさは魚種によって異なるが,直径が10㎜を
超える大きいものはなく(表2),その形は卵形を示す
ものはそれ程多くはない(図2)。
a.卵膜
卵母細胞は分化して間もなく,濾胞細胞に取り囲ま
れる。やがて濾胞細胞と相互作用をもつ無数の微小突
起を生じ,分裂の休止状態に入る。そしてゴナドトロ
ピン(GTH)の刺激で発達した濾胞の頼粒膜細胞から
分泌されるエストロゲンが一定のレベルに達すると,
肝臓細胞はそのホルモンの刺激を受けて卵黄(vitellogenin,
MW.
(ZI3)(メダカ28
420kDa;
pi. 3.8-4.0)26,27および卵膜
; ニジマス36)のタンパク質など卵形
成に必要なタンパク質を活発に合成するようになる。
卵母細胞は,一定の発達段階から,肝臓で合成され
て血液によって運ばれたそれらのタンパク質を用い
て,卵膜や卵黄を形成し始める。走査型電子顕微鏡で
1
配偶子の形態
観察できる卵膜表面は,形態はもとより分子レベルで
雌雄両配偶子は互いに受精するのに適合した極性を
も受精時には精子の行動に影響を及ぼすと考えられる
もつ形態へと進化を遂げてき
たと考えられる。雄性配偶子
である精子は雌性配偶子であ
る卵の位置にまで移動運動
し,卵内に侵入するのに適し
た形態をしており,卵は新細
胞として活動し,個体へと発
生するのに必要な構成成分を
備えた形態をしている。
(1)精子
原生殖細胞から精原細胞に
分化したのち生じた精母細胞
は,2回の減数分裂を完了し
て精細胞になる。そして,鞭
毛が生じると共に精子に変態
する。精細胞は,中心粒から
生じた鞭毛の位置の反対側の
頭部先端には,ほ乳類の精子
とは違って,先体をもたない。
すなわち,精子は変態中,細
胞質を失い,頭部は核膜に包
図2
硬骨魚の代表的な卵形(Ginsburg,
まれた凝縮クロマチンが主体
-32-
1972より改図)
硬骨魚類の受精(I)
研究がある。しかし,卵膜成分の供給が卵母細胞ある
表2
いは濾胞細胞のいづれであるかについても現時点では
数種の魚類の卵門の形態
判明していない3・22・67.なお,魚類の卵膜に関する総説
はDumont
d
and
Brummett
(1985)16及びYamagami
「。(1992)123にみることができる。
魚類において,成熟未受精卵の卵膜を構成している
タンパク質は,主として2
3種類の糖タンパク質で,
分子量が類似している(表3)。これらの分子量の大き
さは,マウス(ZP1,200kDa;
ZP2,
83kDa)76,ウシ(ZPl,
78kDa:
21kDa)83,ヒト(ZPl,
92-80kDa;ZP2,
62-54kDa)6,さらには二枚貝
(220kDa;
り69,ZP3もメダカのZI3と33%同じである78.先体を
もち,卵膜を溶かして貫通するほ乳類精子は,卵膜と
一ヵ所で結合して先体酵素によって卵膜の糖タンパク
質を溶かして卵表に接する。一方,硬骨魚類は卵膜に
精子の通過を許す卵門をもち,精子先体をもたない。
しかし,卵膜表面に達した精子をその小さい卵門に導
く構造や物質が卵膜表面や卵門に存在することが期待
される。これまで,卵膜外表に粘性多糖64,糖タンパク
質(メダカ44),さらには特定の形態(図3)をもつ卵
が知られている。メダカ未受精卵では,卵膜の外表及
び卵門・卵門管内に卵膜糖タンパク質ZI1-2及びZI3
がまばらに存在し,精子を卵表に引き留め,卵門内に
効果的に導いている。上記のように,メダカのZI3は
精子との結合力がある点でも,マウスの精子と結合力
のあるZP3とは酷似している。
以上のように,卵膜は卵母細胞の時期には微小突起
を発達させて分裂を抑制することによって成長させる
のに役立ち,受精時には構成タンパク質の変化による
あり,十分なことはまだ明らかではない。メダカの卵
膜の形成に関して,
Tsukahara
(1971) "S
Tesoriero
(1980)115およびHartとDonovan(1983)3oの形態的
-
33-
Zp3,
66-58kDa;
ZP3,
180kDa)9とは決して大きく異なるもので
ヒラメの雌特有のタンパク質と約28%が同じであ
ZP3,
64kDa;
U㎡o
はない。むしろ,マウスのZP2にみられるようにシロ
が,その分子レベルでの研究はまだ始まったばかりで
120kDa;
ZP2,
eloneatulus
岩
図3
松
鷹
司
特殊な卵膜の表面構造をもつ卵の写真(R.
A-C:Luciocゆhaltts
A,D: bar, 500μm;
si).の卵,
Riehl博士のご好意による)
D-E:S蛍石soma
B: bar, 10μm; C: bar, 100μm;
-
34-
aureumの卵,
E: bar, 50μm.
硬骨魚類の受精(I)
卵門に精子を導く効果を無くしたり,硬化・収縮して
した微小突起の間を埋めるようにして卵膜の最外層
卵門の閉鎖による単精機構に役立ち,正常な発生を保
(ZO)が形成される。その内側に卵膜内層(ZI)が生
証している。
じ始めた後に,類粒膜細胞から分化した卵門細胞は卵
b.卵門
表に向けて微小管とトノフィラメントの芯をもつ太い
卵母細胞から個体に発生が可能である卵細胞に分
細胞突起を押し込むように蛇行しながら伸ばす(図
化・発達することは,どの生物にとっても種族保持に
6)。卵門細胞の太い細胞突起は,卵膜形成開始から卵
何より大切なできごとである。成熟卵を見ると,卵核
表に接着していて,その周りを卵膜成分が満たしてい
は動物極にある卵門のそばにあり,侵入した精子核と
くのではなく,卵膜内層が形成され始めて後に,卵膜
合体するのに都合のよい位置に存在する。特に卵黄の
に差し込む形で卵表に接着する。そのため,卵門の周
多い魚卵においてその極性が明確である。最近メダヵ
りの卵膜外層と内層が内側に引きつっている。卵門は
卵において,卵の極性が濾胞細胞と卵母細胞との相互
卵膜が厚く形成されるにつれて,そのキノコ型の卵門
作用によって決定されることを示した。すなわち,卵
細胞の握れた突起を鋳型として,卵膜が完成すると同
母細胞において卵黄核の出現・発達と共に,そこから
時にでき上がる8o。同様なことがワカサギ
出される情報に応じて穎粒膜細胞が卵黄核に面した卵
(Hypomesvis)やニシン(Clupea)でも報告されてい
表に密集するようになる。それらの濾胞細胞は卵膜形
る87・114。卵門細胞の突起は卵母細胞の成熟時に起きる
成と時を同じくして,卵核と卵黄核とを結ぶ軸(将来
微小管とトノフィラメントの退化・消失で萎縮し,卵
の卵軸)を中心に一定方向に移動(回転)運動を始め
表から離れて卵膜から脱却する55・81。こうして,排卵時
る呪卵黄核の位置が植物極になり,その反対側か動物
に卵門が開口する。卵膜は,外敵から卵を護る必要の
極になって,その動物極に穎粒膜細胞から分化した卵
ない卵胎生魚では薄い。卵生魚でもカレイ科の魚卵の
門細胞が位置するようになる(図4)。こうして卵軸は
ように漂泳性のものの卵膜は薄く,水底性の卵では厚
卵黄が形成される以前に決定される。しかし,動物極
い1o9。卵膜がそうであるように,卵門の形態も魚種に
で卵門細胞が,穎粒膜細胞からどのように誘導され,
よって異なっており(表2),Riehl(1980)95は卵門を
分化するのかについては全く不明である。卵門をもつ
魚卵のような偏黄部において,どのように卵核が部門
の傍の動物極側に位置するようになるかについても
答えはまだ出されていない。卵門を数十個もつ軟骨魚
類8,22と違って,多くの硬骨魚類は動物極に一個の卵門
をもつ(図3,図5)7・15・3o・54・6o・64・lo9。卵膜の一部である
卵門は濾胞の頼粒膜細胞から分化した卵門細胞の関与
によって,卵膜に形成される17,18.55,80,87,88,99.109,110,114,
122・134・135。メダカの若い卵母細胞において,卵表に発達
図4
メダカ卵の卵形成過程と動植物極の決定の模式図
AF:付着糸,AP:動物極,CA:表層胞,CH:卵膜,
MC:卵門細胞,MP:部門,N:核,VP:植物極,Y:卵黄,
図5
YN:卵黄核,YV:卵黄小胞.卵母細胞を貫く中心の線は動植物
メダカの卵門
上図.動物極付近の卵膜外表(矢印:卵門).
極軸を示す.
bar, 100μm.
下図.卵門の外観.
-
35-
bar, 10μm.
岩松鷹司
vestibule
(卵門の入り口の
窪み)の著しいタイプIに
入るものにNaemacheilus
barhatulus,
Pwngitius"^,
Leuciscus
cepkalMs"
Gobio
sohio'^'^,
pfioxintis.
I)hOχ細鵬
Tinea
dchlasoma
tinea.
meeki,
lasoma
Cich-
nierofascia恒常,
Chaenocゆhalus
aceratus.
Nototheがα
neelecta.
Nototheni串nudifrons,
タイプIIに入るものに
Cyprinus
cαゆio,
carassitis,
Carassiws
Salmo
Salvelimis
salar.
alpiniis,タイプ
IⅡの入るものに
trutta,
SMlmo
Salmo
血山,
Sahno
laciistris,
A:濾胞細胞から分化して間もない卵門細胞.B:形成中の卵膜に太い細胞突起を押し込んで
sairdneri.
fontinaUs,
egontts
メダカの卵門細胞の発達と卵門のでき方を示す模式図
t7
Salmo
Salvilimis
図6
h
fera,
Cor-
Coreeonus
vnacraphthalmus.
Cor一
egonus
wartm£誹毀i,
Esox
ludus,
Champsocゆhalus
いる卵門細胞.C:完成に近い卵膜にみられる卵門と卵門細胞.
その形態でいくつかのタイプに分けて,魚類の分類の
gunnari,Notothe外辺rossiれ3ssi,そしてタイプIVに入
基準にも活用され得ることを示唆している:深い卵門
るものにNototheniops
の窪み(卵門前庭)と短い卵門管をもつタイプI,浅
μmの卵門管(表2)は,幅0.7
larseni^*がある。直径1
4μmの球状の頭部を
い卵門の窪みと卵膜の厚さに対応した卵門管をもつタ
もち,振幅の小さいべん毛運動で前進する精子にとっ
イプⅡ,卵門の窪みはなく,卵門管上部が漏斗状に広
て大きからず,小さからずである(図8)。その大きさ
がっているタイプIll,
4
(卵門管の鋳型になる細胞突起の太さ)は単数の精子
2段の卵門の窪みをもち短い卵
が進入して卵表と接するのに最も重要であるが,どの
門管をもつタイプIV(図7)96.卵門前庭micropylar
ように決定されるかに
ついては不明である。
以上述べてきた卵門
は,1個の精子を卵と
合体させるのに重要で
あるばかりではなく,
精子が卵内に侵入する
位置を限定する上に重
要な構造であり,卵核
の位置する動物極に形
成される。種によって
異なる形態をもつ卵門
がどのように形成され
るかについても,まだ
詳しく研究されていな
図7
しl。
硬骨魚の卵門の型
Riehl (1977,1980)より改図.
-36-
硬骨魚類の受精(I)
c。細胞膜
卵表層に集積している。卵母細胞が成熟するときには,
細胞外部と境界をなしている細胞膜は,卵母細胞で
核膜及び多孔薄板は消失し,ミトコンドリアはその部
は容積の増大(成長)に伴って,著しく増加する。細
分から細胞質全体に分散し,小胞体も膨れて細胞質に
胞膜にはリセプター,酵素やリガンドのはか,能動輸
一様に分布する。この表層の変化と時を同じくして表
送系の種々のチャンネルが内在し,それに内接する細
層胞は,分泌が可能なように細胞膜に接する(図10)。
胞質には細胞骨格タンパク質を含む様々な構造タンパ
卵黄塊をもつ卵ではそれを取り囲む表層の厚さはゼ
ク質が存在する。卵母細胞の成長時には,増加する微
゛ラフィッシュでは5
20μmで,卵門直下の細胞質
小突起,分泌や飲み込みの動態とともに膜内タンパク
。他の部分より厚い傾向がある34・53.成長期を終えた
質の変化がみられる。魚では,この変化に関する報告
減数分裂直前のメダカ卵母細胞では,卵門に近い部分
は多くないが,卵母細胞の成熟時における細胞膜のイ
に大きな卵核胞が存在する。核膜の消失によっても核
オン調節に関して,海産無せきつい動物,両生類やは
内にあまり細胞質成分が入り込まないため,その卵表
乳類で研究されている77.
層部に表層胞や油滴のような大きい細胞質成分は存在
d.卵表層
しない。
卵形成中,卵母細胞の原形質膜には無数の微小突起
また,サイトカラシン(10
が存在する。卵母細胞は分裂に関与する微小管成分
50μm/m1)を用いた実
験的研究によって表層にマイクロフィラメント(アク
(チューブリン)が卵表における微小突起の形成に使
チン)が存在することを示すゼブラフィッシュでの観
われている。特に,成長の著しい卵母細胞において細
察121や電顕による観察(ゼブラフィッシュ121
長い糸状の微小突起が非常に発達している(図9)。成
かおる。
長に伴って増加したリボソーム・粗面小胞体・ミトコ
蛍光色素ローダミン・フアロイデイン(RhPh)による
ンドリアや成熟時に現れる多孔薄板annulate
laは他の細胞成分表層胞cortical
卵黄穎粒や多小胞体multivesicular
lamel-
vesicles
body
; サケ53)
染色での観察は,F-アクチンが細胞膜に接した薄層を
(aIve011),
などと共に
なして分布し,
microplicae内に濃縮されている121。
因みに,ドジョウやゼブラフィッシュの未受精卵抽出
液のSDS-PAGEにみられるアクチンは43kDaの単
一バンドである4o。
表層胞:
排卵されたばかりの卵において,大きな表層胞は卵
門に接した細胞質と大きな卵核の存在した部城には存
在しない。受精時に精子の侵入点から伝播される表層
胞の分泌波については後述する。ここでは,表層胞の
形成過程について要約する。
Yamamoto(1961)136によれば,表層胞に関しては
ソールウェーの魚類学者Sarsの1876年の記載が最も
古い。卵形成中の出現をFundulus卵母細胞において
Guthrie(1925,
1928)'"・25が初めて観察しており,それ
以降Spek(1933)108を始めとし,沢山の研究者が報告
している。また,多くの海産無せきつい動物,両生類,
図8
メダカの卵門内への精子の進入図
MB:卵門前底部,MC:卵門管,
図9
ZI : 卵膜内層(卵膜構
成長期におけるメダカ卵母細胞の細胞表面
bar, 10μm(岩松・鬼武,未発表)
成糖タンパク質,分子量),ZO:卵膜外層.
-37-
岩
松
鷹
司
るらしいことを示している9・1o・2o・124-128。この多糖含有
ほ乳類などの動物の卵にも見られるこの構造体は,魚
類においてはその形態や大きさもその成分もまちまち
の液胞は決まって卵黄形成の前に現れる(Gobius
である(表4)が,受精時に分泌される点では共通して
p昭αれellus,
Smaris
いる。表層胞と呼んでいる卵表層の胞状構造は,魚類
iTia
A.
bmeri■,
「cedo,
Crenilabrtts
hゆ'setm^'';FunduliAS
pavo,
Ather-
heteroclittes'^
',
パイクパーチ116,117
;
大西洋ニシン128
イギョ9,10
; ラ
; マス130
;
メダが32)。これに対
して,コイやタイリク
スナモグリ56,シロマ
ス類6o,それに多くの
サヶ類92では,油滴が
最初に現れる。パー
チ73,メダカ1やドジョ
ウ9oの魚種では,液胞
が初期には卵核胞に接
しているし,コイやタ
イリクスナモグリ56,
Crenilabr心pai;o",大
西洋ニシン124,129では,
細胞質の様々のところ
図10
メダカの表層胞の膜と細胞膜との接着
CA:表層胞,SB:球状成分.
x4,000
に現れ,表面に移動す
(岩松・太田,未発表).
る。 しかし,
一般に早期研究者によって大きい泡状alveolusの形
pasanellus,
態,近年になって性状とか,頼粒もしくはそれよりや
加
や大きいという意味でvesicles小胞と表現されてい
チ,ブリーム,コイ,テンチ4・5,カレイ125-127サハリ
る。 Ginsburg(1972)22によってまとめられているよう
ントゲウオ135ニホンメダカ132Channa
に,卵形成中の呼び名も含めてvesicles
ed
yolk^*,
vacuolar
gouttes
yolk9・1o,
carbohydrate
Rinden
yolk^^
alcedo,
く初期から卵表層に存在する。
vakuolen'',
表層胞の大きさと数は卵母細胞の成長につれて増加
vacuolelike
するが,魚種によって差が認められる。タイリクスナ
と記載されている。混乱を無くす意味で,卵黄小胞を
モグリ,コイ,Smarts
alveolus
またはcortical
vesicle
に統一した方がよいと考える。少なくとも,卵黄
形成に先立って出現するこの胞状構造は表層胞と
同じ103,104で,卵黄成分と異なっており,卵黄小胞
と呼ぶのには相応しくない。
魚類における表層胞の前駆体は£iopsetta
agとClupea
harengus
obs-
pallasiの卵母細胞で細
胞学的に詳しく研究されている124-128.この研究
によれば,その前駆体の形成にゴルジ体物質に対
応した好銀性構造argentophil
bodies
の関与によ
るという。また,その形成に小胞体やゴルジ体が
かかわっていることが多くの観察から報告されて
いる2・1o3・119ツノガレイやニシンの若い卵母細胞
において,核周縁の細胞質に小さい穎粒が現れる。
この頼粒の形成にゴルジ体が関与していることが
成長中のキンギョ卵母細胞で観察されてい
る131。キンギョの卵母細胞における多糖類に富ん
だ液胞は中性赤で染まり,
Paratの液胞と一致す
-
38-
bのi/eri,
maruleus^'^
bodies9o,そして単にvacuoles22・35・68・74・75・1o8・116・117など
表層胞cortical
Atherina
やベニザケ92など多くの魚類では,液胞は卵形成のご
of unsaturat-
claires56・",
Amaris
Gobius
alcedo及びC粍戒臨by心p匹θ
A.
硬骨魚類の受精(I)
これは,卵母細胞が一定の大きさになると,液胞の数
は増加しなくなり,増加する卵母細胞表面に再分布す
るために,表層胞の分布層の厚さが減少する結果を示
している。
チョウザメ卵の表層粒は,球状もしくは卵球状で,
一定の形態をしていない。チョウザメ卵ではその内部
構造はそのままでは観察できないが,その直径は大き
いものでは3
4μm,小さいものでは0.2
0.5μmで
ある22.塩基性色素メチレンブルー,トルイジンブ
ルー,ピロニン,そしてアニリンブルーやマラカイト
グリーンのような酸性色素で染まる11-13。
硬骨魚の表層胞も球状もしくは卵球状である。ニホ
ンメダカでは表層胞は球状成分とコロイド状の成分か
ら成っている(図10)42・133。
100
200
300
400
Diameter
図11
500
600
700
800μ
of oocytes
色素で染まる1
ドジョウの卵母細胞成長に伴う表層胞の層の厚さ(a)と容
積(b)の変化(Osanai,
Fundulusの卵母細胞の表
層胞成分でも中性赤,メチレンブルーや他の生体染色
数個の球状成分を含んでいる25.
ローチやフレームなどのコイ科魚類の表層胞は複合体
1956)
をもっている5.大きさが5.4
21.2μmの表層胞には
では急激な成長期に卵細胞質全体に広が・ぶているが,
直径3
他種のGo
種によって表層胞は特色ある構造をもっている。キン
bins
pasanellmとAtherinaでは表層に2
3層以上にならない56・57.
Osanai(1956)'°によれば,
6.8μmの球状体が1
12個含まれている。魚
ギョ卵では,表層胞はいくつか散在する球状体を含む
ドジョウの卵母細胞における液胞層の厚さは最初急増
塊を含んでいる。コイでも表層胞は小さい成分を多く
し,その後変わらないか,僅かな増加を示す(図11)。
含んでいる。多くの魚種(シロザケ,ベニザケ,カレ
-39-
岩
松
イ,ローチ,フレーム,テンチ,コイ,イワナ,メダ
鷹
司
以上,表層胞は,その膜が受精時に細胞内膜融合に
カ)では,表層胞はトルイジンブルー,チオニン,ポ
よって細胞膜に新しい特性をもたらすものであり,内
リクロームメチレンブルーでメタクロマシアを示す。
容も種々の酵素・レクチンなどの未知の機能物質を含
パーチ卵では,表層胞の多糖類の大部分がヒアルロン
み,外分泌されると病的多精妨止に役立つもので,正
酸であると報告されている72・73。切片をヒアルロニ
常な受精・発生に備えられている1ol。
ダーゼ処理をすると染色性は低下しないことから,シ
ロザケやベニザケの酸性多糖類とは異なっているよう
である65・66。また,コイ科の表層胞は中性及び酸性の多
糖類を含んでおり,硫酸多糖類を含んでいないらし
い5。その他,
PAS陽性である1・2・5・34・48・SS,66,70,105,115・119・134。
0htSuka(1958)89は,メダカ卵の表層胞成分を酸加
水分解して,多糖類がマンノースやメチルペントース
型の糖とともにガラクトースを含んでいることを報告
している。
Inoue
とIwasakiによって,
1978年38にニ
ジマスの未受精卵から分子量200kDaのポリシアロ糖
タンパク質(H-PSGP)が発見されて以来,
Inoue
(1986)",
Selman
et
Inoueと
Kitajima
et al.(1986,1989)5o・52,
d,(1986)103は,それが表層胞に由来する
ものであることを示し,
hyosophorinと名付けた。よ
く研究されているその糖タンパク質45-47,49,50,79,106,107
は,θ-グリコシル結合で単一のポリペプチドと結合し
た5種類のオリゴシアルグリカンを含んでいる(図
12)。
13の糖タンパク質で,約25のtandem
repeat
か
ら成っている37・5o。シアル酸の豊富な糖タンパク質は
サケ科魚類を除いた
PlacoがosMs,
Cyprinus,
Tribolodoが9,Parahichthys"°2及びOryzias^'において。
[Asp-Ala-Ala-Ser-Asn-Gln-Thr-va1-Ser]エ,の糖
タンパク質で,このペプチド単位のAsnにFuc,
-Man3-Ga115-GlcNAcgNeuAc6が結合した7
kDa
の
糖タンパク質からなっている。
表層胞の他の成分にhyosophorinを分解する酵素
(プロテアーゼ51),酸性フォスファターゼ31,63やレク
チンの存在が報告されている。しかし,コリンエステ
ラーゼ63,トリメタフォスファターゼやアリルスル
ファターゼ31を含んでいない。淡水魚卵のレクチンの
反応に関しては,
d
Prokop
d
「。(1978)59,voss
d
(1983,1984)85・'^
Ozaki
察されている。
Nosek
d
「。(1967)'^
Krajhanzl
屁(1978)12o,Nosek
d
d
「。
α/。(1983)91によって観
「。(1983,1984)85・86とNosek
(1984)84はレクチンが表層胞と関係があることを示
している。表層胞は多糖を含んでいるから,当然レク
チンがこれらの構造のグリコシル基化したものと結合
反応するのに役立っていると考えられる。
このほか,卵表層には他の細胞成分の存在が報告さ
れている。コイ,キンギョの表層胞にCA穎粒(直径
0.2
2μm)が存在し61-63そしてメダカ卵にはa一類
粒(0.1
0.3μ
「37)の存在が報告されている。しかし,
CA穎粒についてはその機能面の証明がなく,そして
a一顧粒については電子顕微鏡での確認ができておら
ず,なお不明な点が残されている。
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硬骨魚類の受精(I)
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岩
松
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鷹
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司