GPSG

5.2 GPSG
GPSG(Generalized Phrase Structure Grammar)とは



親ノードと娘ノードからなる構文木において,それぞれの
ノードに対応する範疇が満たすべき条件を記述する文法
理論
それぞれの範疇は素性の集合により特徴づけられ,この
素性を用いて範疇間の関係を規定
親ノードと娘ノードの間の素性の伝搬に関する制約を
記述
5.2.1 範疇と素性
(1) 範疇
主要範疇として,名詞N,動詞V,形容詞A,前
置詞P を用いる

二つの原始素性を用いて定義する



名詞類を表す原始素性[N]
動詞類を表す原始素性[V]
主要範疇の定義
[+N]
[ーN]
[+V]
A
V
[ーV]
N
P
(2) バーレベル


句に対する範疇は,主要範疇の投射で定義
投射には2段階あり、それぞれの段階をバーレベルで表
す
表記法
X 0 ,X 1 ,X 2
X,X’,X”
X,X,X
バーレベルが1のとき一本バー,バーレベルが2のとき
二本バーと呼ぶ
バーレベルの定義
X
N
V
A
P
X’
N’
V’
A’
P’
X”
NP
VP
AP
PP
一本バー X’は,主要範疇とその主要範疇を下位範疇化する要
素からなる構成を表し、二本バー X”は,一本バーの構成に付
加詞句がついた構成を表す
例)
文 “He sees tables in the room”
sees
…V
sees tables
…V’
sees tables in the room …VP
(3) 素性

素性は,素性標識 “feature-label” と素性値 “featurevalue” の対で表す
<feature-label, feature-value>


素性標識は,性,数,人称などの文法的特性につけた名
前で,いくつかの値を持つ
素性は,素性標識に文法的特性の一つの値を与えるも
のである
(4) 素性値

素性値は,アトムまたは範疇

アトムの素性値を取る例
<GEND, MASC>
<PER, 3>
<PLU, +>
<NUM, SIG>
<NUM, PLU>

素性<feature-label, feature-value>を,便宜的に,
「素性feature」あるいは「feature素性」と呼ぶ


原始素性やバーも素性の一種である
<N, +>, <N, ->, <V, +>, <V, ->
<BAR, 0>, <BAR, 1>, <BAR, 2>
範疇の定義
例)名詞を表す範疇N
N : {<N, +>, <V, ->, <BAR, 0>}
例)名詞Nの二本バーN”,即ちNP
NP : {<N, +>, <V, ->, <BAR, 2>}

一致制約に関する素性AGR
{<AGR, {<N, +>, <V, ->, <BAR, 2>,
<PER, 3>, <GEND, MASC>, <PLU, +>}
>}
→三人称複数男性の名詞句NPとの一致制約

構成素の不完全さを記述する素性SLASH
<SLASH, {<N, +>, <V, ->, <BAR, 2>,
<PER, 3>, <PLU, ->}>
→三人称単数の名詞句が消失

例1)
a boy who φ likes Mary
主語の部分が消失 → 消失主語

例2)
the table which he saw φ
目的語の部分が消失 → 消失目的語
(5) Feature Cooccurrence Restrictions(FCR)

素性の共起に関する制約

範疇として定義可能な素性集合に対する制約を与える

例えば,時制素性を持つ範疇は,必ずVの投射
→名詞類は時制素性を持たない
(6) Feature Specification Defaults(FSD)


素性に対して特定の素性値を仮定
例えば,名詞の数に対する素性値を複数に仮定
→素性<PLU,+>は記述不要
5.2.2 ID/LP規則
(1) ID/LP規則と構文木
句構造規則 X → Y Z
X
Y
Z
•ID(Immediate Dominance)
娘ノードに対する親ノードの直接支配
•LP(Linear Precedence)
娘ノード間の順序

ID規則の表記法
X → Y, Z

LP規則の表記法
Y < Z
(2) ヘッド

ヘッド
娘ノードの中で特別な役割を持つノードで,記号“H”を用
いて表す
X → H, Z

ヘッド娘
親ノードから見たヘッドH
その姉妹ノードに関して下位範疇化


語彙ヘッド
ヘッドが語彙範疇であるとき語彙ヘッドと呼ぶ
主要範疇N,V,A,PがID規則の中でヘッドであるときは語
彙ヘッドとなる
語彙項目の中で規定されている下位範疇化素性
SUBCATの素性値を指標として表示
例)語彙項目の中に <SUBCAT, n>
語彙ヘッド
H[n]
(3) 素性の伝搬


ID規則中の親ノードと娘ノードの間には、素性の伝搬が
ある
親ノードとヘッド娘の間で伝搬する素性をHEAD素性、親
ノードとヘッド娘ではない娘ノードとの間で伝搬する素性
をFOOT素性と呼び、伝搬しない素性もある

ID規則中でBAR素性がHEAD素性として扱われている場合、親ノー
ドのバーレベルとヘッドのバーレベルは同じ
VP → H

BAR素性をHEAD素性として扱わない場合、それぞれの範疇にBAR
素性を明記する必要がある
(但し、バーレベルが0のものに関しては、語彙ヘッドが特別な形をし
ているため、明記しなくてよい)



HEAD素性:{AGR, ADV, AUX, BAR, INV, LOC, N, PAST, PER,
PFORM, PLU, PRD, SLASH, SUBCAT, SUBJ, V,
VFORM}
FOOT素性:{SLASH, WH, RE}
非伝搬素性:{CASE, COMP, CONJ, GER, NEG, NFORM, NULL,
POSS, REMOR, WHMOR}
(4) ID規則の例

ID規則中に語彙ヘッドを持つものを、語彙的ID規則と呼ぶ
ER 4) VP → V
VP → H[1]
語彙ヘッド
ER 3) VP → V NP
VP → H[2], N

語彙項目
{<N, ->, <V, +>, <BAR, 0>, <SUBCAT, 1>}
{<N, ->, <V, +>, <BAR, 0>, <SUBCAT, 2>}
ER 9) NP → N
N 1 → H[30]
ER 10) PP → P NP
PP → H[38], NP

ID規則中に語彙ヘッドを持たないものを、非語彙的ID規則と呼ぶ
ER 1) S → NP VP
S → X , H[-SUBJ]
2
ER 6) NP → D NP
NP → Det, H
1