施分第13-2-2号 原子力安全委員会 原子力安全研究専門部会 第13回 原子力施設等安全研究分科会 出力増強等の軽水炉利用の高度化に関する 安全評価技術 (分類番号2−1−2) 平成19年12月25日 独立行政法人 日本原子力研究開発機構 安全研究センター 熱水力安全評価研究グループ 1 日本原子力研究開発機構に期待する安全研究 に関する対応状況 期待する安全研究 • 核熱水力挙動解析手法の高度 化と評価用データの整備 調査票 三次元二相流に関して 容器内挙動最適評価技術の高 度化(受動安全設備の過渡事象、 9 蒸気発生器二次側の伝熱流動を精度良く 解析するため、三次元コードACE-3Dを最 適 評 価 コ ー ド RELAP5 と熱的に結合した コードを用い、現象の詳細評価を行なうとと もに三次元解析モデルの整備を進めた。 9 汎用三次元コードFLUENTを用い、二相流 での温度成層化現象のシミュレーションを 行い、三次元二相流解析モデルの適用性 の検討、課題の同定などを進めた。 シビアアクシデント時における格納 容器内ガス状ヨウ素放出に関する 基礎データの拡充を含む) シビアアクシデント時における格納容器内 ガス状ヨウ素放出について 9 三次元二相流、流動と構造の 相互作用、核熱の連成を含む 炉心熱伝達など、複合的な過 渡熱水力モデルの開発 • 事故時の原子炉システム・格納 9 (独)原子力安全基盤機構からの受託によ り、実験及び解析的検討による研究を実施 している。 2 出力増強等の軽水炉利用の高度化に関する 安全評価技術 研究目的 合理的な規制に資するため、安全余裕のより高精度な定量評価が可能な最適 評価手法を開発する。特に、3次元二相流や流動と構造の相互作用、ならびに 核熱の連成を含む炉心熱伝達など、複合的な熱水力現象のモデル化を図り、必 要なデータを取得する。シビアアクシデントに関しては、リスク上重要な現象の ソースターム評価の不確実さ低減を図る。 分類番号2−1−3の一部を含む 研究内容 イ.熱水力最適評価手法の開発 (1) 最適評価手法の開発 (2) 核熱水力安定性実験 ロ.燃料健全性評価に関わる熱水力評価手法の開発 (3) 反応度事故(RIA)時の過渡ボイド試験 (4) 沸騰遷移後(Post-BT)の熱伝達試験 (5) 放射線照射表面活性(RISA)効果による伝熱促進技術開発 ハ.ソースターム評価手法の開発 (6) ソースターム評価手法の開発 3 成果の活用 (研究の進捗・成果) 課題名 予算 1 最適評価手 法の開発 2 核熱水力 安定性実験 3 RIA時の 過渡ボイド 試験 4 沸騰遷移後 (Post-BT) 熱伝達試験 5 RISA効果に よる伝熱促 進技術開発 6 ソースターム 評価手法の 開発 目 標 詳細 → 参考資料 主な成果 • OECD/NEA ROSAプロジェクトをH17に開始し、6回の 国際的 マッチン グファンド 軽水炉利用の高度化や高経年化に対 応し、高精度な最適評価(BE)手法の 開発に必要な詳細熱水力データを得る 運営費 交付金 安全裕度の適正化検討のため、BWR のUO2炉心とMOX炉心の燃料特性の 相違が核熱安定性に及ぼす影響を調 べるTHYNC実験を実施する 保安院 受託 高燃焼度燃料の融点低下に対応し、 反応度事故(RIA)時のBWR燃料健全 性に必要な技術情報を得る 保安院 受託 BWRの異常な過渡変化時における燃 料健全性評価や学会基準の技術的検 討に必要な情報を得る • 低圧条件ではあるが、放射線誘起表面活性(RISA)効果に エネ庁 公募 安全裕度の定量評価に資するため、炉 心の強放射線照射が沸騰熱伝達に及 ぼす影響をJMTRでの照射下沸騰熱 伝達改善確認実験により調べる • 60Coガンマ線照射下でCsI水溶液からガス状ヨウ素生成を JNES 受託 シビアアクシデント晩期の放射線環境 下での格納容器内ソースタームの評価 を通じて、リスク評価上の不確かさの 低減、AM策の整備や防災対策・解除 判断に必要な技術知見を得る LSTF実験により詳細熱水力データを得る • 実験後解析を通じて最適評価(BE)コードの課題を抽出 • 軽水炉の国際的な安全性向上に貢献 • THYNC実験により、コード検証に必要なデータを取得 • 燃料特性の相違による流動や出力の減幅比の相違を、BE コードTRAC-BF1で定性的に予測できることを確認 • 低温時および高温待機時を対象としたRIA模擬実験 • ボイド率の時間変化や分布など、RIA時燃料エンタルピーの より合理的な評価に不可欠なデータを取得 • データを基に、最適評価(BE)手法の予測性能を検証 • 定常試験で熱伝達係数を取得 • 種々の相関式と比較し、壁面への液滴付着を考慮した相関 式は試験結果を概ね予測できることを確認 • サブチャンネル熱水力BE解析コードCOBRA-TFにより沸騰 遷移の発生を良好に予測 より、限界熱流束(ドライアウト熱流束)が平均で約17%向上 することを確認 • 第39回原子力学会賞(技術賞)を受賞 模擬・評価する試験を平成17年に開始 • 有機物(MEK)の有無の影響に関するデータを取得 • 放射線照射下のヨウ素化学挙動に関する機構論的解析モ デルの整備を開始 4 出力増強等の軽水炉利用の高度化に関する安全評価技術 (1) 熱水力最適評価手法の開発 【国際的マッチングファンド】 OECD/NEA ROSAプロジェクト 加圧水型原子炉 (PWR) ROSA/LSTF (炉心熱出力 3423 MW) (原子力機構主催のOECD国際共同研究、 17年度から4年間、14カ国17機関参加) 高さ 約 蒸気発生器 加圧器 蒸気発生器 • 軽水炉の利用高度化や高経年化に対応する知見 や最適評価手法の検証・開発用詳細データを取得 • 国際的な安全性向上に貢献 (例) ECCS注入時の温度成層化(高経年化に対応) 流体温度 (K) 加圧器 m 29 540 530 520 圧力容器 圧力容器 510 500 0 配管内 多点温 度計測 7 6 5 4 3 2 1 7 6 5 4 3 2 1 20 40 60 80 100 時間(秒) 数値流体力学(CFD)コード ¾ 最適評価手法の 検証・開発用ツールの整備 高さ比 1/1 体積比 1/48 炉心出力 10 MW(14%模擬) ECCS注入 550 三次元温度分布 LSTFの実験結果 ¾ 最適評価手法の 検証・開発用データの取得 • 温度成層や圧力容器LOCA等、6回のLSTF実験 • 実験後解析を通じて最適評価コードの課題を抽出 • 炉心出口温度の有効性などAM策の有効性を検証 専用ホームページ http://www.nea.fr/html/jointproj/rosa.html 5 成果の活用 (活用状況) 最適評価手法の開発: OECD/NEA ROSAプロジェクトを継続してLSTF実験を行い、 軽水炉利用の高度化に対応した詳細熱水力データを得ると共に、 実験後解析を通じて最適評価(BE)コードの課題を抽出した。さ らに、軽水炉の国際的な安全性向上に貢献した。 ¾ LSTF実験データは原子力安全基盤機構(JNES)にて、クロスチェック用解 析コードの検証・整備に活用されている。 ¾ さらに、ROSAプロジェクトに参加する内外の規制および規制支援機関によ り、安全解析用BE手法や多次元二相流解析コードの検証・開発に利用され ている。 ¾ OECD/NEAワーキンググループ(WGAMA)からの要請に基づき、AM策実 施の判断条件である炉心出口温度の有効性検討に必要な情報を答申した。 過渡ボイド試験: 要請に基づいてJNESに試験結果を提供し、クロスチェック用解 析コードの整備に活用されている。 6 今後の研究見通し イ.熱水力最適評価手法の開発 9 OECD/NEA ROSAプロジェクトやTHYNC実験を通じて最適評価(BE)コード及び解析モデ ルの開発・整備を継続する。さらに、不確かさ解析手法や数値流体力学(CFD)コードの活 用検討を進める。 9 これらの成果を基に、軽水炉利用の高度化に対応して産業界が検討を進める統計的安全 評価手法の安全解析への導入に際し、安全審査のクロスチェック解析に対応可能なBEコ ードや統計的安全評価手法の検証・整備に必要な情報を提供する。 ロ.燃料健全性評価に関わる熱水力評価手法の開発 9 過渡ボイド挙動試験については、予定通り平成19年度に試験を終了する。試験結果は JNESに提供し、クロスチェック用解析コードの検証・整備に役立てる。さらに、クロスチェッ ク解析の精度を改善する解析モデルを提供する。 9 Post-BT熱伝達挙動試験については、燃料集合体体系で過渡試験を実施し、学会基準の 技術的検討に必要な情報を得る。さらに、サブチャンネル解析手法など、個別の現象に対 する詳細なクロスチェック用安全解析手法と共に取得・提供する。 ハ.ソースターム評価手法の開発 9 シビアアクシデント時の格納容器内ガス状ヨウ素挙動に関する研究成果は、シビアアクシ デントの事後対策に必要なアクシデントマネジメント(AM)策の策定に用いる。さらに、防災 対策解除の判断基準など緊急時の的確な意思決定や、実効的な防災計画の立案に必要 な技術的基盤として活用する。 7 8 参考資料 出力増強等の軽水炉利用の高度化に関する安全評価技術 (2) 核熱水力安定性実験 • BWRの異常な過渡変化時における炉心 0.6 F lo w ra te (k g /s ) 安定性と燃料健全性の評価 • 全MOX、部分MOX、ウラン燃料の特性相 違の影響を包括的に把握 • 安全余裕を現実的に評価する三次元核熱 結合解析コードを検証・開発 0.5 燃料特性A(UO2) 燃料特性 B(MOX) 流量 外乱 投入 0.4 減幅比=a2/a1 0.3 a2 0.2 a1 0.1 0 0 5 燃料特性 A 燃料特性 B 実験 解析 実験 解析 減幅比 (-) 0.39 0.37 0.44 0.58 周期 (s) 2.9 3.1 2.9 3.1 Time (s) 10 15 THYNC実験解析(TRAC-BF1コード) MOX炉心ではUO2炉心よりも安定性が低下する (減幅比=大)が、短時間に安定状態に収束 試験体 核熱結合試験装置(THYNC) BWR炉心のボイド反応度に対応する 核動特性を実時間で演算・模擬 THYNC実験で見られた燃料の核熱特性の 相違による安定性(減幅比)の相違を最適評 価コードが定性的に予測できることを確認 9 参考資料 出力増強等の軽水炉利用の高度化に関する安全評価技術 (3) 反応度事故(RIA)時の過渡ボイド試験 【保安院受託】 1.0 必要な技術情報を取得 • 高燃焼度燃料の融点低下に対応 0.8 ボイド率 • RIA時のBWR燃料健全性評価に C P W 0.6 ボイド率は (C)中心領域→ (P)燃料 棒間→ (W)流路壁領域 の順に増加 0.4 0.2 0.0 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 時間 (秒) 模擬 燃料棒 W 2x2 バンドル体系 P C バンドル試験部 の水平断面図 低圧バンドル試験体 試験条件 流入水流速: 0.3 m/s 流入水温度: 93 ℃ 模擬燃料棒出力: 11.9 kW W,P,C: ボイド率計測領域 低温時を模擬した過渡ボイド試験結果の例 9低温時および高温待機時を対象とした実験を行い、ボイド率の時間変化や分 布など、RIA時燃料エンタルピーのより合理的な評価に不可欠なデータを取得 9得られたデータを基に、最適評価(BE)手法の予測性能を検証 10 参考資料 出力増強等の軽水炉利用の高度化に関する安全評価技術 (4) 沸騰遷移後(Post-BT)熱伝達試験 【保安院受託】 • BWRの異常な過渡変化時における燃料健全性評価 • Post-BT学会基準の技術的検討に必要な情報の取得 heat transfer coefficient (W/m2oC) 3 10 4 被覆管/冷却材熱伝達 に係わる技術基盤の整備 60 x2 0.715 0.735 0.758 0.774 0.789 Improved DR Groeneveld Koizumi Sugawara 2 10 4 0 50 100 150 wall superheat 200 (oC) 250 20 300 定常試験により得られた 熱伝達係数と相関式との比較 高圧単管(基礎)試験装置 9 BWR炉心の伝熱流動条件を模擬 9 燃料集合体を単一の配管で模擬 9 直接通電加熱で燃料の発熱を模擬 9 配管壁の温度計測に基づいて沸騰 遷移の発生や熱伝達係数を評価 -5% 30 10 0 +5% 40 P = 7MPa G = 1000kg/m2s x1 = 0.65 1 10 4 2MPa 4MPa 7MPa 50 0 Critical Linear Power Density 0 10 20 30 40 50 60 Observed Critical Linear Power (kW/m) 沸騰遷移の発生に関する試験と 解析(COBRA-TFコード)の比較 • 定常試験で熱伝達係数を取得し、種々の相関式と比較 ¾ 壁面への液滴付着を考慮した相関式により 試験結果を概ね予測できることを確認 ¾ 今後実施する過渡試験のベースデータとする • サブチャンネル熱水力最適評価(BE)解析コード COBRA-TFによる沸騰遷移発生の良好な予測を確認 11 参考資料 出力増強等の軽水炉利用の高度化に関する安全評価技術 (5) 放射線誘起表面活性*効果による伝熱促進技術の開発 【エネ庁公募】 *Radiation Induced Surface Activation : RISA • 事故時や異常過渡時における 安全余裕の現実的評価 • 軽水炉の高度利用(出力向上等) における限界出力の現実的評価 基礎的 技術情報 を取得 5 試験条件 試験体: 円筒状 10 cm長 2 mm内径 圧力 約気圧 限界熱流束 (MW/m2) Katto and Ohno (1984) 4 3 2 1 0 0 JMTR 照射カプセル 原子炉照射前 照射中 照射後 100 200 300 400 500 600 700 質量流束 (kg/(m2s)) 限界熱流束の比較 • JMTRの照射前・照射中・照射後に同一の強制沸騰伝熱条件で計測 • 照射によるRISA*効果により,限界熱流束が平均約17%増加 第39回 • JMTRでのPIEにより、伝熱面性状に関する詳細データを取得 原子力学会賞 技術賞受賞 12 参考資料 出力増強等の軽水炉利用の高度化に関する安全評価技術 (6) ソースターム評価手法の開発 【JNES受託】 • シビアアクシデント晩期の放射線環境下格納容器内ソースタームを評価 • リスク評価上の不確かさを低減 • AM策の整備、防災対策/解除判断に必要な技術的知見を取得 ガ 吸・脱着 ガ ヨウ素捕集フィルターへ NaI検出器で131Iを連続測定 MEK/硫酸酸性pH=5 I2、有機 放射線 ヨ 溶存ヨ I2、I- ヨ ヨ 気相スイープ (空気、窒素) ペイント 気液分配 溶出 ヨ • 水の放射線分解 • ヨウ素の酸化、加水分解等 • 有機物の影響 - 酸の生成→ pH低下 - 有機ヨウ素の生成 格納容器 放射線下の 放射性ヨウ素挙動 60 Co γ線 フィルターに捕集されたヨウ素割合 ガス状 CsIを含む 水溶液試料 (131Iトレーサ) ガス状ヨウ素基礎試験 9 CsI水溶液等を60Co γ線で照射し、放射 線によるガス状ヨウ素の生成を模擬・評価 9 ペイントの効果等、格納容器環境を模擬 9 格納容器内ヨウ素化学挙動モデルを開発 MEK/硫酸なし (4500∼6000sで 撹拌停止) pHの低下 放出量の増大 HCl酸性pH=5 硫酸酸性pH=5 ガンマ線照射 (サンプラー内の液滴 による流失あり、本図 の値は実際の放出量 より少ない) 時間(s) 照射下ガス状ヨウ素の発生を時系列で測定 • 有機物(MEK:メチルエチルケトン)の添加は、pH= 5→ 4程度に低下させ、ヨウ素の気相放出速度を増 大 • データに基づき、放射線照射下のヨウ素化学挙動に 13 関する機構論的解析モデルの整備を開始した 参考資料 安全研究年次計画総合評価の指摘事項 への対応状況 指摘事項 核 核熱水力最適評価手法の高度化関する研究 核熱水力最適評価手法の高度化に関する研究 9 実験データベースの整備 および安全裕度の適正化 の検討が年次計画中に実 施されなかった。 9 重点安全研究計画での確 実な実施を期待する。 9 核熱結合(THYNC)試験装置を用いて、BWRのUO2炉心と MOX炉心の燃料特性の相違が核熱水力安定性に及ぼす影響 を調べる模擬実験を実施し、安全裕度の適正化検討に必要とな る解析コードの検証用データを取得している。 9 試験データに基づいて最適評価(BE)解析コードTRAC-BF1の 性能評価を進めている。 シ シビアアクシデントの研究分野 シビアアクシデントの研究分野 9 研究レベルの維持・向上 のため、関係機関が連携 した人的資源の有効活用 や人材育成が必要。 9 他機関との連携として(独)原子力安全基盤機構からの受託に より、格納容器内ガス状ヨウ素放出に関する研究を実施してお り、機構内では安全研究センター内の複数の研究グループが協 力することにより、人材を有効活用している。 大型非定常試験装置(LSTF) 大 大型非定常試験装置(LSTF) 9 原子力機構の中期計画に て今後廃止措置に着手す る施設とされている。 9 重点安全研究計画を踏ま え、今後のあり方について 検討される必要がある。 9 平成20年度迄OECD/NEA ROSAプロジェクトで利用される。 同プロジェクトでは、平成21年度以降の延長が検討されている。 9 日本原子力学会が平成19年10月に開始した『熱水力安全評価 基盤技術高度化検討』特別専門委員会で策定される熱水力安 全研究ロードマップの議論において、LSTFをはじめとする既存 の熱水力試験設備を用いた研究ニーズが、あらためて総合的に 14 検討される予定である。
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