Life Science

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多剤耐性菌を殺菌する次世代型ペプチド性抗生物質の
発明と応用研究
良原 栄策 医学部医学科基礎医学系
キーワード
准教授
多剤耐性グラム陰性菌、緑膿菌、新規薬剤標的、BAM 複合体、ペプチド、抗生物質
ほとんどの抗生剤が効かない多剤耐性菌の出現が社会的に大きな問題となっている。特にグラム陰性菌の仲間である緑膿菌 (P.
aeruginosa) およびアシネトバクター (A. baumannii) が世界で蔓延しており、この状態が続けば医療崩壊につながるのではと危
惧されている。この深刻 k な状況を打開するための最も有効な方法は新規薬剤の開発であるが、残念ながらその進展は見られ
ていない。そこで我々は多剤耐性グラム陰性菌に有効な新規薬剤の開発にチャレンジしてきた。新規薬剤を開発するための我々
の戦略は、標的分子を新たに定め、それを効率的に阻害する方法を開発するというもので
ある。
まず新規薬剤標的分子として BAM(β-barrel assembly machinery)複合体が有望であると
考えた。BAM 複合体はグラム陰性菌の外膜生合成で中心的な役割を担う装置であり、菌の
生存に必須な機能を有するからである。次のステップはいかにその機能を阻害するかであ
るが、我々は複合体のタンパク間相互作用を阻害することで、集合体としての機能を阻害
できるのではと考えた。ではどのようにすればタンパク間相互作用を阻害できるかである
が、我々はタンパク間インターフェイスを認識するペプチドが設計できれば、これらペプ
チドが相互作用を特異的に阻害できるのではないかと考えた。このような考えをもとに設
計したペプチドが多剤耐性緑膿菌及び多剤耐性アシネトバクターを殺菌する活性を持って
いることが明らかとなった。
図1 外膜生合成における
この結果は多剤耐性グラム陰性菌に対する新規ペプチド抗生剤が開発されたことを示し、
BAM複合体の機能
多剤耐性菌感染症治療への新たな道が開かれたものと考えられる。
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研究の概要
研究成果
(1)緑膿菌 BAM 複合体を標的として設計したペプチド
5 つのタンパク質から構成される BAM 複合体の中で、ます BamA と BamB とのタンパク
間互作用の阻害を目指した。
BamA との相互作用に関与する BamB の結合部位 (binding site) の構造を模倣したペプチ
ドを数種類設計した。その一つであるペプチド LT2-N を緑膿菌に作用させたところ、殺
菌作用を示すことが分かった。さらいこのペプチドは多剤耐性緑膿菌も殺菌した。一方、
動物細胞に対しては何ら毒性作用を示すことがなかった。これらの結果は、このペプチド
が多剤耐性緑膿菌に有効な新規抗生物質であることを示すものである。
(2)アシネトバクター BAM 複合体を標的として設計したペプチド
アシネトバクター BAMl 複合体の中で、BamA と相互作用している BamB の結合部位の構
造を模倣したペプチドをやはり数種類設計し、合成した。その一つであるペプチド FS2-N
の活性を調べたところ、アシネトバクターを殺菌し、さらに多剤耐性アシネトバクターも
殺菌することがわかった。この結果から、このペプチドは多剤耐性アシネトバクターに作
用する新規抗生物質であることが示された。
(3)ペプチド抗生物質の活性増強
これらペプチドを抗生物質として応用するためには、その抗菌活性を増強することが必要
と考えられる。そのために上記ペプチドの構造を様々に修飾、変化したペプチドを設計す
る。その中からどのような構造が活性の増強に影響するかを明らかにする。この研究を精
力的に進めているが、ペプチド LT3-N が高い活性を示すことが現在分かっているところ
である。
今後の展望
(ⅰ) 臨床への応用をより可能にするために、ペプチドの抗菌活性をさらに増大する研究を進める。
(ⅱ) 臨床応用に向けて細菌感染マウスモデルを用いてペプチドの in vivo における抗菌活性を調べる。
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