2.新川センサテクノロジ株式会社 (1) 会社概要 - 中小企業基盤整備機構

2.新川センサテクノロジ株式会社
(1)
会
会社概要
社
設
所
名: 新川センサテクノロジ株式会社
立: 1994 年
在
地: 東広島市八本松町大字吉川 5677(広島工場)
サ イ ト 代 表: 広島工場長
事 業 内 容: (1)回転機械監視装置の開発・設計・製作・販売
(2)変位・振動センサ、トランスデューサ、モニタの開発・設計・製
作・販売
(3)塩害予知装置、pH/ORP 制御装置の開発・設計・製作・販売
(4)メカトロ製品、各種検査装置の開発・設計・製作・販売
従 業 員 数: 70 名
資
本
金: 5 千万円
認証取得時期: 1994 年 7 月(ISO9001)
1996 年 10 月(ISO14001)
新川センサテクノロジ株式会社(以下、新川センサテクノロジ)は平成 6 年に、新
川電機株式会社の生産本部を分社化した、
従業員 70 名の中堅企業です。環境マネジ
メントシステムの国際規格である
ISO14001 の認証を取得した同社の広島工
場では、主として発電所、石油化学プラ
ント、鉄道、ハイテク産業および宇宙機器産業
向けの変位・振動計、回転機械監視装置等を開
発・製造しています。
(2)
なぜEMS導入を考えたのか
① 国際規格への積極的適合
同工場の製品は国内のみならず、エンドユーザーが世界 50 カ国に拡がっているので、
国際規格に適合していくことが非常に重要であったこと。
② 無公害工場の永久維持
同工場は、公害問題もなく環境負荷も極めて小さいが、発展する企業の責務として
さらに環境改善を図り、これを永久に維持して行く必要があった。
③ 消費資源の最少および最適化
工場で使用する間接資材のさらなる節減、廃棄物の再利用、再製品の使用、リサイ
クル性の高い物質への転換等を促進させるため、環境面からの新たなアプローチ(無
駄の排除)が必要であった。
(3)
推進体制及びスケジュール
◆推進体制
環境マネジメントシステムの構築は、品質保証部に環境管理責任者を設置し、認証
取得に関する業務を一任するかたちで始められました。環境管理責任者が考えたこと
は、アシスタントがパソコンで次々と文書化していきます。文書化したことは全て実
行しなければならないので、実施責任者(課長、主任クラス)になる人には、連絡を
密にし、早め早めに動いてもらい、実施面での遅れが出ないようにしました。環境方
針、目的・目標、環境マネジメントプログラム等の重要事項を審議する環境委員会は
メンバー等を人選し、早めに設置しました。
◆スケジュール
環境マネジメントシステム構築の経緯は次の通りです。
1996 年 2 月 15 日に品質保証部に環境管理責任者を設置し、早速工場内の環境負荷
について法規制別に調査を開始しました。工場にどのような法律・条例が適用されて
いるのか、全く手探りの状態だったのですが、環境六法等を片手に一つづつ潰しなが
ら環境負荷の調査を 2 週間で完了しました。この調査結果を基に、登録申込み時に提
出する環境管理システム審査登録調査票を作成しました。
2 月 29 日には審査登録機関に認証取得の意向表明を行ない、その後工場視察や登録
範囲の協議を経て、3 月 27 日に正式に登録申込みを行ない、3 月 29 日受理されました。
マニュアルの作成は 4 月 1 日から開始しました。誰にでも解かる簡潔なシステムを
作るには、まず、文書体系が簡素でなければならないことから、手順はマニュアルに、
管理要領は規程類に記載し、内容は事業規模に見合ったものとしました。6 月初めに
マニュアルの草案が完成し、審査登録機関のチェック(1 度だけ)を受け、修正後各
課に配布、直ちに説明会を開催し、システムの全容と各人の役割について逐一説明し、
工場長、各部課長の理解を得ました。また、システムの全容をわかりやすく示すため
に、「環境管理流れ図(フローチャート)」(図表 4-2-1 参照)を作成しました。
図表 4-2-1 広島工場環境管理流れ図
(環境委員会)
現
状
把
握
環境方針
(計画案審議)
(要求事項考慮)
法的要求事項
目 的
利 害関 係 者・ 産 業
界からの要求事項
環境負荷調査票
(環境負荷選定)
環境影響評価表
環 境 目 的 ・
目 標 の 設 定
会)
環境委員長
(是正案審議)
内部監査員
実施責任者
(フォロー)
環 境 管 理
環境マネジメント
計 画 推 進 書
プログラム(実施)
工場長承認
(文書関係監査)
決定事項の実施
一 般 教 育
専 門 教 育
緊急事態対
応 要 員
訓
練
環境委員
環境マネジメント
プログラム(計画)
(教育・訓練)
特 別 教 育
環境マネジメント
プログラム
環境管理責任者
目 標
監 視 ・ 測 定 表 (適合性チェック)
(文書関係)
環境マネジメント
マニュアル
規 程
フォーム 記 録
教 育 ・ 訓 練
計
画
表
実 施
不適合是正票
( 発 行 )(不適合の指摘)
(計画・実施関係監査)
(工場長へ報告)(不適合の指摘)
内部監査
内 部 環 境 監 査
不適合是正票(発行)
(報告)
内部環境監査報告書
営層による
(情報提供) 経
見
直
し
国 内 外 情 報
社 内 外 情 報
マネジメントレビュー
是正票(作成)
(是正指示)
外部監査
(環境マネジメントシステム全般の監査)
環境管理責任者は 6 月 28 日に環境影響評価表をもとに、96 年度の環境目的・目標案
を作成し、環境委員会で審議し、工場長がこれを承認しました。各課の実施責任者(課
長、主任クラス)は承認された環境目的・目標に基づいて環境マネジメントプログラム
の計画案を 6 月 30 日に作成し、環境委員会で説明のうえ、本案として発行しました。
環境マネジメントプログラムの運用は 7 月 1 日から開始されました。全従業員を対
象とした一般教育は、7 月 9 日から 9 月 10 日にかけて実施しました。内部環境監査員
については教育機関が主催する「養成コース」を環境管理責任者が 7 月 18 日から 2 日
間受講し、修了証書を取得しました。また、内部監査を 8 月 27 日から 30 日にかけて
実施し、9 月 25 日には審査登録機関による事前審査を受け、登録審査への移行が可能
であると判断されました。10 月 11 日に経営層による見直しが行なわれ登録審査に向
けての全作業を完了しました。
環境管理責任者が設置されてから 8 ヶ月後の 10 月 15 日に登録審査が行なわれまし
た。審査の結果、システムは全て整備・運用され、かつ十分に機能していると判断さ
れ、判定会を経て、10 月 31 日付で ISO14001 の認証を取得しました。
◆コスト
EMS構築費用として認証取得のための審査費用など直接費用が約 150 万円、その
他内部環境監査員の社外教育費や環境目標達成のための設備投資等を合わせて 135 万
円かかりました。環境マネジメントプログラム(環境行動計画)の実施により無駄が
排除され、設備投資のリース費用を差し引いて年間 100 万円のメリットが出ています。
2 年目から認証に係る費用は維持審査費用(約 30 万円)のみになるので費用/効果は
プラスに転じます。また新たなプログラムが設定されると直接的メリットはさらに増
えていきます。
(4)
EMSの構築手順
基本的には ISO14001 の要求事項に沿ってシステムの構築を進めていけばよいのです
が、事前に全体をどうまとめるかの構想を練っておかないと、文書化がスムースにい
かないと考え、環境管理流れ図を最初に作成しました。
組織的には、プロジェクトチームによる構築ではなく、専任の環境管理責任者に構
築作業を一任する方法を取りました。システム文書を作成する過程で、色々な情報を
必要としますが、その入手方法を考えたり、調べたりするのに目に見えない多大な時
間がかかりました。1 人でやる場合には、もう少し余裕のあるスケジュールを立てる
とよいと思います。
EMS構築の基本は現場にあるといって過言ではないでしょう。環境管理責任者は
マニュアルや規程類を作成するうえで必要な情報を収集するために、法規制別に工場
内の設備や排出物を中心にヒアリングなどもまじえて調査しました。排出量の比較的
多かった廃油については、適正に処理されているかどうか、委託契約を結んでいる処
分業者の処分場所と処分の方法を追跡調査しました。現場の調査が終了すると、手順
を決めたマニュアルと実際の管理要領を定めた規程の作成にとりかかりましたが、こ
こで特に考慮したことは、まず文章の冒頭に主旨を書き、次に「誰が」「いつ」「ど
こで」「何を」「どのように」といったことを明確にすることと、リピート性の記録
については作成が容易となるようにフォームを決めたことでした。必要なフォームは
マニュアルに先行して作成し、フォームの内容はマニュアルに文書化していきます。
このようにすれば、マニュアルを見ながらフォームの使用方法がよく解ることになり
ます。
環境管理責任者は環境負荷調査票のフォームができると、このフォームに記載して
ある調査事項に従って、再度工場の内外を調査し、例えば、大気への放出があれば、
その発生源をつきとめ、環境負荷の発生状況、特性、緊急事態発生時の環境影響、発
生量、発生のメカニズムなどを詳細に調べていきました。次に、この調査結果を基に
して環境影響評価表を作成しました。この表には環境負荷に関する全ての情報を記載
し、環境負荷の基準量なども設定し、個々の負荷の環境影響度(汚染影響度×発生量
×発生頻度)を数値で表し、点数の大きいものに○印をつけ、目的・目標の有力候補
としました。作成上、留意した点は、特定の課で行なうものと、全従業員が参画でき
るものを考えたことで、特に省資源(紙)、省エネ(節電)は点数にかかわらず取り
上げることにしました。
最終的に実施責任者(課長、主任クラス)は、目的・目標に沿って、これを達成す
るための方策やスケジュール、目標/実績追跡グラフ、実施内容等を記載した「環境
マネジメントプログラム」を作成し、発行しました。
特定の課で実施するもので、例えば、廃ダンボールの切断作業は一つの部署や一人
の人に作業が集中しないように、各課の人の協力を得るようにしました。
プログラムに記載している方策の実施に不備がないように、実施責任者が毎週 1 回
の朝礼で、課員への協力を呼びかけています。また、課員への伝達は記録として残す
ように文書化されています。
プログラムの実施状況は環境管理責任者が毎月1回フォローすることになっていま
すが、全体計画の進捗状況をラインの部長にもチェックしてもらうために、環境管理
計画進捗書を別に作成しています。その他、全従業員を対象にした一般教育資料など
はEMSの構築に平行して作成しました。
(5)
環境方針・環境目的
◆環境方針
工場長は工場の最高位経営者として社の基本方針に基づいて、国際的な環境管理の理念に沿
うよう環境方針を定め、これを朝礼時に全従業員に周知徹底すると共によく見える場所に掲示
し計画的で効果のある環境活動を継続して実施する。
社の経営基本方針
1.経営理念
我が社は努力と英知を結集して社会に貢献し従業員の福祉と会社の発展を目指す。
2.経営ビジョン
我が社はセンシング技術で世界にはばたく。
3.経営方針
我が社はお客様の満足を第一とする。
広島工場は『積極的に環境管理を実践して地球の環境保全に貢献する』ことを工場の環境理
念とし、環境目的及び目標の設定と実施により環境改善並びに現状の維持に努めることが、企
業の最重要責務と認識し環境方針を次のように定める。
環境方針
1.環境マネジメントシステムの継続的改善を実施する。
2.汚染を防止する。
3.産業廃棄物を削減する。
4.環境法令及び利害関係者・産業界との同意事項を遵守する。
(注)1.上記環境方針は現時点に於ける環境問題を改善することのみならず、今後国際的な
環境管理ニーズを適合して行く意志を含むものである。
2.環境方針は要望があれば 4.4.3.5 項に従って一般に公表する。
1996 年 6 月 1 日
新川センサテクノロジ株式会社
広島工場長
同社の環境方針は経営基本方針に基づいて定められています。経営基本方針には同
社の特徴が記載されており、この基本方針も含めて、規格要求事項を満たした環境方
針になっている点に特徴が見られます。
◆環境目的
環境目的の例をいくつかご紹介しましょう。
A 産業廃棄物の削減
B 有機溶剤の削減
C 省資源
D 省エネルギー
Aは前述の環境方針の3に、Bは2にそれぞれ対応しています。C、Dは全従業員
が環境マネジメントシステムに積極的に取り組むために設けられたものです。各々の
目的には、例えば「洗浄用メタノールの 50%削減」といったような各年度の目標が立て
られており、各目標を達成するための方策(行動計画)が策定されています。同社で
は方策の内容によって、たとえば設備投資が必要な場合であればその投資額と、期待
される効果(節減額)が予算ベースで把握されています。
(6)
構築を振り返って…
1996 年 10 月 15 日、(財)日本品質保証機構による登録審査を受け、同機関の判定会を経て、
10 月 31 日付で環境マネジメントシステムの登録証を受領しました。これは経営者以下全従業
員が自分の役割を自覚し、全うした賜物です。
認証そのものは自社の環境問題を国際環境規格に基づいて対処しているという証であって、
環境そのものを保証するものではありません。しかし、「認証あるところに努力あり」は世間
が認めるところであり、その意義は深いものがあります。
広島工場が認証取得で名実ともに新しい環境重視型企業を目指して動き出したことは確かで
す。・・・・(中略)
環境問題は発展を続ける企業にとって永遠の課題であり、あせらず計画的に着実に改善を進
めることが最も重要です。
既に我々は、ポイ捨ての時代から使い切る時代に入ったのだと自覚し、これを今すぐ実行し
ようではありませんか。
(新川センサテクノロジ社内報「カントリー吉川田舎倶楽部」より抜粋)
同社の環境管理責任者の三好勝行氏が登録までの道程を振り返って、「ISO14001 登録証
取得」というテーマで社内報に寄稿されているので、これを引用させていただきました。
また、早期取得のための成功の鍵としては以下の項目を挙げられました。
KE
Y ☆ EMS構築のために専従者を確保
(7)
導入のメリット
同社はEMS導入のメリットとして、環境、経営、組織のそれぞれの面において以
下のものを挙げられます。
環境面
1)産業廃棄物の削減(発泡スチロールの全廃)
入荷梱包の廃ダンボールを、リースした機械で短冊状に裁断して緩衝材化したり、
流入する緩衝材を再利用して、年間約 1000kg の発泡スチロールを全廃することが
できた。
2)有機溶剤の削減(洗浄用のメタノールの削減)
94 年 4 月に洗浄用フロンを全廃し、メタノールに切替えていたが、96 年 10 月自
社で超音波洗浄機を改造することにより、メタノールから温水循環へとさらに改
善し、メタノールの使用量を年間約 550kg(70%)削減することができた。
3)省資源(コピー用紙の削減)
設計図書が多いこともあって大幅な削減は難しいと予想し、1 年目 2%、2 年目 4%
という目標を立てたが、プリントアウト前の校正、両面コピー・裏紙の活用(裏
紙には「無効」の印を押し、使用時の混乱を防止している。)を徹底することに
より紙の使用量をA4換算で年間 8.6 万枚(15%)削減することができた。
4)省エネルギー(節電)
電気使用量は生産の増減で変動するため、節電分がいくらでるか予想できなかっ
たので、前年実績を目標にして活動を始めることにした。具体的には照明、ヒー
ター、モーターを不要時に切ることや、冷暖房温度、時間帯の適正管理を行い、
また、実施責任者が節電パトロールを月 1 回行い、節電状況や改善すべき点を見
つけ、指導することによって、結果として年間1.2 万 kwH(3.4%)節電すること
ができた。
経営面
1)企業のイメージアップ
認証を取得して以来、マスコミの取材、関連機関および大学教授のインタビュー、
問い合わせなどを受け、広報誌、新聞、テレビ、業界雑誌、インターネットなど
を通じて広く報道されたり、また、自治体から表彰(環境賞)されることにより
企業のイメージアップになっている。
2)体質強化
環境改善で無駄が排除され、これが業務改善(コストダウン)となって現れ、結
果的に企業の体質強化になっている。
組織面
社内報に環境コーナーを設けて、活動状況や社会情勢などの環境情報を載せて、
環境に対する関心を高めたり、環境フォーラムへ参加することにより、従業員の
環境意識が徐々に向上し、組織が活性化してきた。
(8)
今後の課題
同社では今後の課題として以下のものを挙げられます。
1)省エネルギーの徹底
省エネの第 1 段階である、電気機器の「不使用時の電源を切る」は徹底できたの
で、第 2 段階として例えば、市水道の直接配水化によりポンプを撤去する(現在、
市水を一度タンクに受けてポンプで配水している)などにより、固定負荷の削減
に取り組む予定。第 3 段階としては、費用対効果の面でペイすれば新エネルギー
源として太陽光発電システムの導入を検討する。
2)ゴミの出ない物流システムの確立
現在、入荷梱包の廃ダンボールを緩衝材化するなど廃棄物の再利用を行なってい
るが、今後は出荷梱包に用いているダンボールの代替品として、繰り返し使用可
能な通い函を採用し、ゴミのでない物流システムを検討する。
3)環境ラベルの採用
製品に対しては環境チェックシステムを確立し、主要製品に環境ラベル(第三者
認証)を貼付することを検討する。