[ベックニュース ] 2009 - クリニコ

BEQNews
[ベックニュース]
◉食を通じてQOLの向上に
貢献する栄養通信
Better quality of life
through better nutrition
編集・発行●株式会社 ジェフコーポレーション 〒 105-0012 東京都港区芝大門 1-3-11 YSK ビル 7F http://www.jeff.jp (03)3578-0303
提 供●株式会社 クリニコ 〒 153-0063 東京都目黒区目黒4-4-22 http://www.clinico.com (03)3793-4101
2009
No.
◉病態栄養TOPICS
褥瘡における栄養管理の重要性
◉臨床現場訪問 褥瘡患者の栄養管理
◉TREND 経腸栄養のリスクマネージメント∼ RTH 製品の有用性と今後∼
◉連載 患者さんのQOLを考える∼患者ケアのエピソード∼
3
Column▶▶▶
連載◉HRQOL
(Health-Related QOL)
とは、
その実践例 ❸
患者さんのQOLを考える
【最終回】
∼患者ケアのエピソード∼
PEG創始者の一人である➡
Ponsky教授と Nutrition Weekで 久米の郷 さくら診療所▶
金子 徹也 先生
TETSUYA KANEKO
なってきたのも大きな進歩です。
2000年初頭から
ています。
介護度が高くなり、
介護福祉施設でも
始まったNSTの普及やTNTプロジェクトの影響も
胃瘻の管理を仕方なく恐る恐る始めたのでしょ
よいよ最終回です。
今回は経腸栄養
否定できないと思います。When the gut works,
うが、
胃瘻に安易に頼りすぎて、
経口摂取や口腔
法
(EN)
におけるQOLについて考え
use it.
という大きな指針のもとに、
これまでPN一
ケアがなおざりになっていることも否定できませ
てみましょう。
一昔前、
ENといえば経
辺倒だったのが ENに関心が向きはじめたのも追
ん。
本邦では、
脳血管障害例だけではなく認知症
鼻胃管が中心でした。
研修医のころ、
い風になりました。
しかしながら、
決してENが万能
の症例でも、
経口摂取量が低下して栄養不良にな
病棟の看護師から挿入困難例があればしばしば
というわけではなく、
病態に即して用いれば、
TPN
られた方に対して胃瘻が漫然となされているよう
呼び出されたものでした。
そのころから胃内に確
に勝るものがないのは言わずもがなです。
胃瘻や製剤の進歩と普及
い
実に挿入し確認することは容易でなく、
気管内挿
です。
倫理的な問題もあり、
導入に対して論議は
あるようですが、
欧米では数年前から認知症末
管で誤注入になったり、
注入ルートが静脈ルート
様々な症例での栄養療法
と良く似ていたために、
誤連結などの医療事故が
早期ENも少しずつ普及し始めました。
集中治療
はなされなくなってきているようです
(Nutrition
新聞を賑わせていた時代もありました。
以前は、
や救急治療の急性期には以前なら絶食が常識でし
Week 2004)
。
本邦でもPEGの適応に関して、
消
介護福祉施設では胃瘻を造設した患者の受け入
た が、長 期 の 絶 食 や 過 大 な 侵 襲 がbacterial
化器内視鏡ガイドラインが作成されてはいます
れなどもってのほかで、
経鼻胃管が挿入されてい
translocationという病態に陥るとの指摘から、
可及
が、
もっと論議されるべき領域だと思います。
なければ受け入れてもらえませんでした。
最近で
的早期からの経腸栄養剤の投与が腸管の機能や
はその逆で、
欧米と同様に経鼻胃管が挿入して
形態の維持に有効であると報告されました。
最近、
患者のQOLを第一に
あったら受け入れてもらえなくなりました。
約10
経腸栄養剤
(食品)
の開発も進み、
免疫制御栄養剤
技術の進歩により、
PEGが困難な症例や禁忌
年程度でこの変化ですから隔世の感があります。
や免疫調節栄養剤など、
病態に応じた使い分けを
の症例にもPTEG
(経皮経食道胃管挿入術)
やPEJ
QOLを考慮に入れた臨床栄養での大きな進歩の
考慮しながら重症患者や感染症合併患者にも積極
(経皮内視鏡的空腸瘻造設術)
なども可能になり、
一つだといえましょう。
とある特老では、
「胃瘻部
的にENが用いられ、
その効果が報告されています。
これまで胃瘻をあきらめなければならなかった
屋」
と称して、
ある部屋に入居している全員が胃瘻
アルギニンが有効である一方で、
侵襲の程度によっ
患者がその恩恵を受けられるようになりました。
患者だったり
(笑)
、
そんな時代になりました。
ては、
多過ぎると逆に負荷になることも指摘されて
その一方で、
経腸栄養剤による恩恵は十分なもの
胃瘻の器具や技術も随分進歩しました。
消化器
いますから、
病状に応じた使用が基本であることは
だったでしょうか?患者は病態別に開発された経
外科医をしていたころから、
外科的胃瘻はStamm
論を待ちません。
早期ENの普及には、
厳格な投与
腸栄養剤の恩恵にあずかっているでしょうか?必
法やWitzel法のときに、
また、
空腸瘻などは食道全
速度の管理と小腸内への投与
(できれば Treitz 靭
要エネルギーが考慮されることなく、
漫然と一定
摘術、
胃全摘術、
膵頭十二指腸切除術のときに、
術
帯以遠の空腸)
が必須です。
インターベンションが
の経腸栄養剤が投与されていないだろうか?腹
後の栄養管理のために積極的に導入してきました。
上手な放射線科医に相談するのも一策です
(イレウ
壁が厚くなり、
PEGのサイズが合わなくなったり
学会においても、
術後の管理方法としてTPNとEN
スチューブの挿入が得意な消化器科医より格段に
埋没したりしていないでしょうか?食べられない
との有効性を議論した時期もありましたが、
当時は
上手です)
。
今後、
本邦でも、
重症患者の治療におい
からといって口腔ケアが放置されていないでしょ
経腸栄養専用のポンプが普及していなかったため、
てもENがもっと普及することを祈ってやみません。
うか?多くの問題が依然として残されたままに
下痢や腹満などの合併症で十分なエネルギー量が
がんの領域ではどうでしょうか。
ESPENも、
が
なっているのが、
残念ながら現状でしょう。
投与できず、
ENの有用性が一部の施設でしか認め
ん治療でのエビデンスレベルを報告しています。
栄養療法と患者のQOLを考えるべきなのに、
られなかったこともありました。
1990年代に入ると、
十分な栄養摂取にもかかわらず体重が減少して
治療を施す側のQOLが、
治療を受ける側のQOL
本邦でも経皮内視鏡的胃瘻造設術
(PEG)
が普及し
いく患者にはENを行って栄養状態を維持すべき
より優先されたりしていないでしょうか。
安全で
はじめました。
それと同じくして各種病態別の経腸
であり、
また、
ENがQOLの改善にも有効であると
簡単であることは煩雑な医療や福祉の形態や制
栄養剤の開発が進んできました。
経腸栄養剤も長
されています。
そして、
栄養障害のある術前患者
度からすれば必要なことでしょうが、
やはり第一
期投与になれば欠乏症が発症しますので、
銅、
亜鉛、
に対する術前2週間程度のEN療法や、
術前7日
に優先して考えられるべきことは、
利用者のQOL
セレンなどの微量元素が添加されたり、
脂肪酸の
程度の免疫制御栄養剤の投与が推奨されていま
です。
ENに対する偏った考え方をする人は以前よ
配合比や組成などが工夫され、
病態や病状に応じ
す。
頭頚部領域のがん患者の体重減少を予防す
り少なくなってきましたが、
口から摂取する、
腸を
た投与が可能になってきました。
しかしながら、臨
ることで放射線治療などの治療中断を予防でき
使うということは自然で合理的なアプローチです。
床で使用される場合は食品として扱われることが
るので、
ONSを含めた積極的な介入が推奨され
われわれが毎日食事をするように、
ENもいつも同
多く、
どうしても質より価格が優先されてしまい、
病
ています。
ONSの有用性は、
入院中の患者
(高齢
じメニューではなく、
栄養組成はもちろん風味や
態ごとの使用はなされていないのが現状だと思い
者、
周術期、
急性期)
だけでなく、
在宅患者での
味覚も考慮にいれた栄養療法になれば、
とこっそ
ます。
入院中は食事費用内で賄うことが栄養士の
QOLの向上や合併症の低下など報告が数多くあ
り思っています。
知ってますか?欧米にはカフェラ
手柄だったりして? 病院内に5種類以上の経腸栄
ります。
投与量や投与期間などについては、
今後
テ味の経腸栄養剤があるんですよ!
養剤が常備されているところがどれくらいあるで
の検討を待ちたいと思います。
稿を終わるにあたって;私小説的な原稿になり、
しょうか
(やはり栄養士さんは電卓を捨てなければ
やはり症例として多いのは、
介護福祉施設や在
思うがままに書き綴ったことに関してお許しくだ
なりませんね)
。
経口補助栄養食品
(oral nutritional
宅での療養を続けられる患者でしょう。
多くは意
さい。
先達の多くの努力のもとに本邦での栄養療
supplements: ONS)と称して、補助栄養によって術
識障害や嚥下障害を発症され、
口からの栄養摂
法が成り立っていることに敬意を持ちながら、
こ
前や在宅などの場面で体重減少を予防することが
取が不可能になられた方です。
こういった症例の
れからの日本の臨床を担ってくださる若い先生
患者のQOLの維持、
向上につながることが示され、
場合以前は経鼻胃管が常識でしたが、
現在では
方に期待と深いお願いをもって稿を終えます。
稿
以前に比べ味や風味が工夫され経口摂取しやすく
どの介護福祉施設でも胃瘻症例があふれかえっ
の機会を与えてくださった関係者に深謝しながら。
07
期での栄養障害に対して、
胃瘻の積極的な導入
2009年3月1日発行