学術団体としての栄養学の実践と研究を,いかに見える化するか

巻 頭 言
学術団体としての栄養学の実践と研究を,
いかに見える化するか
武見ゆかり
特定非営利活動法人日本栄養改善学会理事長
昨年11月より木戸前理事長の後を引き継ぎ,理事長職
Care)の現場からの科学的根拠づくりと,社会への発信
の重責を担うことになりました。会員の皆さまには,学
の強化とし,そのための当面 2 年間の具体目標を,①学
会活動の発展のため,一層のご協力をお願いする次第で
会活動の見える化の促進,②実践栄養学の研究推進体制
す。
の整備としました。これらを本部事業として推進するだ
さて,年頭にあたり,一言ご挨拶申し上げます。下記
けでなく,③本部事業と支部会活動との連携の中で進め
の図 1 は,第13期・第14期, 2 年間の活動体制と目標を
たいと考えています。
示したものです。図の最上位に,学会としての使命,つ
以下に詳細を示します。
まり,栄養学の実践と研究の両輪で,国民の健康寿命の
延伸と,誰もが心豊かに生活できる活力ある社会の実現
NPO 第₁₃期・第₁₄期事業の具体的な展開
に貢献するという使命を示しました。そのために,学術
1 )学術および国際活動の見える化の促進・魅力的な
団体としてめざす長期目標は,実践栄養学の学術として
広報
の確立にある,という木戸前理事長のお考えを引き継い
でいます。そして,中期目標は,栄養管理(Nutrition
・学術と国際の活動を充実させ,ホームページ等での広
国民の健康寿命の延伸・心豊かに生活できる活力ある社会の実現
長期目標(Goal):実践栄養学の学術としての確立
中期目標:栄養管理(Nutrition Care)の現場からの科学的根拠づくりと、社会への発信の強化
短期目標(第13・14期の目標):学会活動の見える化の促進と、実践栄養学の研究推進体制の整備
理事会
監事
学術
広報
理事長
事務局
副理事長
国際
編集
庶務
・管理栄養士の教育のあ
り方委員会
・学会賞等選考委員会
・倫理指針検討WG
1. 実践栄養学研究セミ
ナーの見直し・充実
2. 研究倫理に関する体制
整備・教育の充実
3. 利益相反マネジメント
の対応方針の決定
・国際活動推進委員会
・栄養学雑誌編集委員会
・名誉会員/終身
1. HPの見直し・充実
2. メールマガジン配信
3. 地方支部会HPと
本部HPの密接な
リンク
1. ICN(2021)準備
委員会への参画
2. IUNSワークショッ
プへの協力
3. 大韓地域社会営養
学会との連携のあ
り方検討
4. 国際協力活動の推
進と人材育成
りじかい
4. 「生活習慣病予防その他の健康増進を目的とした
食事」の推進のための取組み検討
1. 投稿論文の質の向上
2. 実践報告の質と量の
充実(とくに現場から
の投稿増に向けて)
3. 英文論文投稿の開始
4. Web投稿システム導
入の検討
・出版事業(出版
物の改定)
会員推薦委員会
1. 会員増対策
の検討
2. 支部会再編
の検討(必
要性も含め)
財務
1. 財政基盤の確立
2. 支部会会計関係
申し合わせ事項
の見直し
・関連学協会等との連携
学術総会
1. 各支部会の活動のさらなる充実 ⇒ HP等の活用で相互に共有
2. 本部事業との連携
地方支部会
図 1 特定非営利活動法人日本栄養改善学会 NPO 第13期・第14期の運営体制とめざす方向
連絡先:武見ゆかり 〒350-0288 埼玉県坂戸市千代田3-9-21 女子栄養大学栄養学部 食生態学研究室
電話・FAX 049-282-3721 E-mail [email protected]
Copyright © THE JAPANESE SOCIETY OF NUTRITION AND DIETETICS
栄養学雑誌 Vol.74 No.1 1∼3(2016)
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報を積極的・魅力的に行っていきます。
・学術関係では,当然のことながら,
「栄養学雑誌」掲載
論文の量と質の向上を図り,英文論文の掲載も検討し
ます。また,実践報告の充実を図ることとし,そのた
め実践栄養学研究セミナー等も企画中です。
有・相互連携を促進できるように,学術総会開催時に
は支部長会議を開催することとします。
社会の成長戦略の動向の中で,改めて本学会の使命
を考える
・学術関係の新たな取組みとして,生活習慣病予防など
今日,健康寿命の延伸は,日本社会の重点課題として
健康増進を目的とした“健康な食事”のあり方につい
保健医療福祉分野に限らず,社会のあらゆる局面で注目
て,社会での普及推進を進めます。
されるようになりました。平成25年 6 月に閣議決定され
・国際関係では,2021年開催の国際栄養学会議に向け
た日本再興戦略の戦略市場創造プランの中で,健康寿命
て,日本栄養・食糧学会と協働で準備を進めます。ま
の延伸が主要テーマの 1 つとして取上げられたことの影
た,韓国の大韓地域営養学会との連携を強化し,日韓
響が大きいでしょう。
シンポジウムに加え,国内の学術総会でも英語セッ
安倍政権の政策の“胆(きも)”である,この成長戦略
ションを定着させたいと考えています。
は,
「日再興戦略 改訂2015」1)として昨年改訂,閣議決
・国際関係の新しい活動として,日本の栄養改善活動の
定され第 2 ステージに進んでいます。改訂成長戦略の中
最大の成功事例の 1 つである“学校給食”をテーマ
では,「未来投資による生産性革命の実現」と「ローカ
に,英語での情報発信を充実させ,また,アジアの
ル・アベノミクスの推進」の 2 つが,政策の車の両輪と
国々との連携を強化していきます。併せて,国の健
されています。
康・医療戦略の栄養改善事業等に参画するなど,“攻
前者の「未来投資による生産性革命の実現」の鍵とな
め”の活動を推進していきます。
る 3 施策の 1 つに,「個人の潜在力の徹底的な磨き上げ」
2 )実践栄養学の研究推進体制の整備
があり,その中では,長期的展望にたった総合的な少子
・本学会の特徴は,栄養学の実践と研究の強い結び付き
化対策,労働生産性の向上による労働の「質」の向上,
にあります。両者を担う学会員が集まり相互に連携し
および女性と高齢者の活躍の推進が重点事項としてあげ
切磋琢磨してきました。この特徴を最大限に活かし,
られています。これらのどれをとっても,その基盤には
今後は,実践現場からも科学的根拠を生み出せる体制
健康の確保とそのために適切な栄養摂取が不可欠です。
を整備したいと考えています。そのために,学術面で
しかし,栄養学の実践とそれを支える研究が,これらに
は,上述の実践栄養学研究セミナーを本部事業として
どのように寄与できるのか(できているのか)を具体的
実施するだけでなく,支部会レベルでも開催できるよ
に示せないと,理念としては理解されても,社会におけ
うな体制づくりをしたいと考えています。
る栄養分野の評価にはつながりません。
・実践研究を充実させるためにも,研究倫理に関する体
また,後者の「ローカル・アベノミクスの推進」には,
制を整備し,学会員の倫理教育の機会を増やします。
1 )中堅・中小企業・小規模事業者の「稼ぐ力」の徹底
また,栄養学分野における産学連携が一層活発になる
強化, 2 )サービス産業の活性化・生産性の向上, 3 )
状況を見据え,利益相反(conflict of interest: COI)マ
農林水産業や医療・介護,観光産業, 4 )これらを日本
ネジメントの体制も整えます。
全国で達成するために求められる地方自治体のリーダー
・「管理栄養士の教育のあり方委員会」を今期より常置し
シップ,以上の 4 つの柱があります。このうち, 2 )の
ましたので,管理栄養士養成および,卒後の現任教育
サービス産業として具体的に示される 5 分野は,小売
のあり方について,国や他職種の動きも見据えつつ積
業,飲食業,宿泊業,介護,道路貨物運送業であり,道
極的な議論を行っていきます。
路貨物運送業を除き,栄養・食が直接的に関与している
3 )本部事業と支部会活動との連携強化
分野です。また, 3 )の中では,農林水産業と食品加工・
・木戸前理事長のリーダーシップの下で,全国 9 支部が
流通販売等を組み合わせた 6 次産業の推進と,医療・介
すべて整いました。今期は,各支部会の活動を一層充
護・ヘルスケア産業の活性化と生産性の重視が位置づい
実させていただくと同時に,本部事業との連携を強化
ており,これらも栄養・食が密接に絡む施策です。
していきたいと考えています。例えば,前述の実践栄
このように,栄養・食が直接,間接に関わる分野が政
養学研究セミナーの各支部での開催などがその一例で
府の主要政策の対象となることは,喜ばしいことかもし
す。
れません。しかし,ともすれば産業振興の面ばかりが強
・本部と支部の連携だけでなく,支部会同士の情報共
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栄養学雑誌
調され,真に社会の人々の健康寿命の延伸に寄与する施
2
栄養学の実践と研究を,いかに見える化するか
策なのか,或いは,社会の中でも“弱者”と言われる層
本学会は,栄養・食を通して,社会に暮らすすべての
の生活改善や健康格差の縮小に役立つ取組みなのかと
人々の健康を支え守る使命を有する学術団体です。その
いった面からの議論や検証が不十分なままに,物事が進
使命を全うすべく,理事長として全力で取り組んでまい
んでいく危惧も感じています。
ります。
今日のこうした社会の動きに対し,私たちは,栄養学
これまで以上に,学会活動への積極的なご参加・ご協
の実践と研究を担う学術団体としての自覚を新たにする
力を衷心よりお願い申し上げます。
必要があります。社会の動きに呑み込まれるのでもな
く,対立するのでもなく,協働できるところは積極的に
協働しつつ,公平・中立をモットーとする科学に立脚し
た組織としての自負と責任を持って向き合う必要があり
ます。
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文 献
1) 内閣官房:「日本再興戦略」改訂2015「未来への投資・
生 産 性 革 命」,https://www.kantei.go.jp/jp/singi/
keizaisaisei/pdf/dai1jp.pdf(2016年 1 月25日)
Vol.74 No.1
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