卒業 / 修了研究・制作

卒業研究・作品
生物模倣技術(biomimetics)
を応用した製品計画
近年、生物の持つ力を人間の社会や生活に生かそうとする「生物模倣技術(バイオ
ー掃除機ー
自然界に存在する様々な生物が、時代や環境の変化に応じ身につけてきた、必然か
ミメティクス)と呼ばれる“自然に学ぶ”開発手法が注目されています。具体的には、
つ合理的な機能(形/構造/生産方法など)からヒントを得て、それを人工的に再現し
太田 瑶子
あらゆる分野で役立てようとする技術です。今回その生物模倣の手法を使い、製品開
Ohta Youko
デザイン工芸コース
発に取り組みました。研究の対象を、身近な日常生活の中の行為「掃除」とし、その際
に使う「掃除機」を選択しました。まずは現状から様々な問題点を洗い出し、問題解
決の糸口になりそうなキーワードを基に、同様な状況(環境)下にあると想定される
動植物を徹底的に調査。また動植物が持つ特有の形や構造などを参考に様々な部分
を追求し、新たな提案にフィードバックさせるといった作業を重ねました。商品化に
至るまでには数多くのハードルを残すものの、今までにない新しい方法での問題解決
案の発掘に、大きな可能性を導き出すことができました。
CHANGE ーフィルター機能付きダストボックスの提案ー
参考にした動物:サメ(鱗:楯鱗)
家庭用掃除機(フィルターダストボックス)製品開発 思考プロセス
紙パック式掃除機
需要のターゲット
掃除機の中に設置した紙パックにゴミを
溜める方式の掃除機
特徴
ダストボックス
・ゴミがたまったら紙パックごとに捨てる
フィルター
(一度きり、使い捨て)= 紙パックは消耗品
・新しく買う必要がある
紙パック式掃除機の問題点
中間的な存在
機能の融合化を図った
・紙パック代金がかかる(経済的問題)
・ゴミ捨て時に、ホコリが舞う(メンテナンス)
<求められる要素>
<フィルターの役割>
<ダストボックスの役割>
ダストボックスに関して
+
ゴミを集める・溜める
小さなゴミを吸着する
汚れた空気からゴミを濾す
ゴミをキャッチしなければならない(掃除中)
<ユーザーが不便に感じているところ>
フィルターに関して
問題点
掃除機の吸引力が弱まる
掃除機のフィルター掃除 こまめにしなければならない
フィルターの性能維持をするため(維持能力)
裏表や方向によって
①くっつく⇔はずれる
ないだろうか?
もっているやつ
「裏表」
性質や機能が変化するものは
一つで二つの性質
サメの鱗の拡大図
方向性による性質の違いを
ゴミの動き→求められる役割が 2 つある
②ひっかかる⇔はずれる
photo by:Pterantula (Terry Goss)
(吸引力低下につながる)
魚:軟骨魚類の鱗
表面テクスチャ拡大図
「方向」
楯鱗(じゅんりん)
探しに行くキーワード
「相対する」性質、構造
「二面性」を持っているもの
…サメやエイの仲間に見られる。
求められる要素、探しに行く要素
概略図
円鱗(えんりん)や櫛鱗とは全く違う作り
+
前方
内部機構 (大まかな部品の位置関係)
楕円形
後方
3尖頭型
↓
実現可能としたポイント
・洗って何度でも使用可能
(再利用・再使用・経済的・エコ)
本体
フ
ター
ル
フィ
ター
モー
の形状
細い突起と V 字型の溝が付いた形状
き
能付
ー機
タ
ィル
楯
(全て尾びれの方向に向かって整然と並んでいる)
クス
ボッ
ト
ダス
(イメージ図)
0.1mm
・ゴミは水と一緒に洗い流すので
着目ポイント
ほこりが飛び散らない
(メンテナンス面)
特徴:体の表面(鱗)をなでると
求められる要素とリンク!
「つるつる」
頭 尾
同一のものであっても
方向性によって二つの異なる性質がある
「ざらざら」
(※同じものでも方向性の違いによって
性質が異なる)
イメージ図①
掃除中(キャッチ)鱗の向き 尾→頭(ざらざら)
メカニズム(原理)
プロトタイプの形状構造 鮫の鱗(楯鱗)
ダストボックスの内壁の凹凸、テクスチャ
×
自然界に多く見られる渦巻(対数螺旋)
表面積を稼ぐための形状
ゴミを伴った空気がサメ肌のテクスチャ側の内壁に押しつけられて
引っかかりでゴミをキャッチする
0.1mm
ぶつかり、ゴミを取れるようにらせん状に施してある。
イメージ図②
清掃後(リリース)鱗の向き 頭→尾 (つるつる)
大きなゴミから小さなゴミまで取るために凹凸(サメ肌のテクス
チャ)を奥に行くにしたがって徐々に細かくなっていく構造。
※入り口から出口にかけてテクスチャの形状が小さくなっていく。
風の流れ
それにともなってダストボックスからフィルターに機能(役割)
が移行していく
新構造 対数螺旋の形状により渦巻の幅が狭くなっていて流れる空気に加速がうまれる
ゴミを水で洗い流す
※「対数螺旋」とは…渦が一巻きするごとに一定の比率・角度で幅が広くなっているもの
080
※分かりやすいようにゴミは黄色の玉で表してあります
卒業研究・作品
CD Clip・Keep
目的を達成するためには過程が存在する。例えば、旅行に行くときに、シーンや目
ー過程を楽しむためのデザインー
的に合わせて服をコーディネートする際、旅行している自分を想像してわくわくするこ
木・マグネット
h60×w45×d35mm
とはないだろうか。しかし、近年音楽を「選ぶ」という行為に関して、例えばCDショッ
中手 美歩
によって音楽を選ぶ楽しさを感じて欲しい。そこで今回私は「音楽を選ぶ」という行
デザイン工芸コース
為に着目し、選ぶ行為さえも楽しみの一つになる製品を提案する。
Nakate Miho
プで吟味するという行為さえもネット上で処理出来てしまう。改めてアナログな方法
この「CD Clip・Keep」で、今の気分で聞きたい曲はどれにしようか、とCDを挟ん
で持つ。どこかに仮置きをしたり、やっぱりこの曲は今の気分に合わない、と思って戻
したりする。その過程を繰り返しながら、自分の気分や気持ちをコーディネートする
過程を楽しんでほしい。
052
卒業研究・作品
地域素材による、新用途提案
−地域の魅力に気づくデザイン−として、兵庫県北播磨地域の地場産業である凍り
ー地域の魅力に気づくデザインー
こんにゃくを素材とした3つの製品アイデアを提案する。凍りこんにゃくとは、食用こ
凍りこんにゃく
(お風呂用パズル)
■:h50×w50×d50mm
●:h50×φ50mm
▲:h50×w46.5×d41mm
(フラワーベース)h66×φ60mm
(ベビーマット)h22×w480×d360mm 熱田 直美
Atsuta Naomi
デザイン工芸コース
054
んにゃくの水分を乾燥させ繊維状にしたもので、北播磨地域の寒さが厳しく空気が
乾燥した12月∼3月の限られた時期に製造されている。
今回提案する「お風呂用パズル」
「フラワーベース」
「ベビーマット」は、凍りこん
にゃくの可能性を広げる目的で展開した。親水性に優れたグルコマンナン成分によ
り肌に優しく、また100%自然繊維で環境に優しい素材であることに注目した。身
近な生活の中で凍りこんにゃくに触れることで、冬の北播磨のやさしい魅力に気づ
いてもらいたい。
卒業研究・作品
キッチンツール
(レードルレスト)の提案
私は“使い心地の良いものを大切に、愛着を持って長く使う”という考えやそうし
ーロングライフ製品のデザイン基準の
抽出からコンセプト・キーワードを探るー
ン賞製品を主に抽出作業を進め、抽出した要因を活かした製品作りを行おうと考え、
アルミニウム・真鍮
h18×w82×d21mm
行いました。
小澤 あい
位置づけられている調理器具(おたまや鍋等)ではなく、サブの役割を果たすツール(鍋
Ozawa Ai
デザイン工芸コース
た使い方をしたくなる製品の持つ“長く使いたくなる”要因を探すべく、グッドデザイ
“目的を果たしつつ、さりげない”という要因を念頭に置き、キッチンツールの制作を
キッチンツールと言っても様々ですが、今回私は一般的にキッチンツールのメインと
敷きや砥石等)に注目し、サブの調理器具があるからこそメインの調理が円滑に進むと
いう考えのもと、主に煮込み料理に登場する「お玉置(レードルレスト)」の制作を行い
ました。お玉を置いた時に美しく且つコンパクトだけどしっかり受け止められ、使用外で
は場所を取らないことを重視したことにより、お玉の丸みのあるエッジに沿った形状、
最小限のサイズで冷蔵庫に貼り、いつでもすぐに使えるようデザインしました。
037
卒業研究・作品
マルチバリケード
バリケードは、立ち入り禁止区域や、危険な場所には欠かせないものであり、歩行
ーバリケードのニュースタイルを目指してー
者の安全を守っている。そんなバリケードが設置されている場所を見た時、乱雑とし
ポリエチレン・射出成形
h855×w1000×d50mm
ていると感じたことはないだろうか。実際そのほとんどは、雑然としており、見た目や
吉岡 由起
ようなものだ、という固定観念があり、その状態が当たり前となっている。
Yoshioka Yuki
デザイン工芸コース
イメージ的にも悪い印象を与える。しかし、私達は、バリケードが置かれた空間はその
このバリケードは、設置場所に合わせて連結しながら壁面を構成することで、場所
に即した対応ができる。開閉式になっており、閉じた状態では完全なシールドの役目
を果たす。開いた状態では、連結することで広い範囲に使うバリケードになる。また、
脚や扉の板材は脱着可能で、縦にして使うことで、高さが欲しいところまでブロック
できる。全体的なかたちは、従来の角張ったとげとげしいイメージを緩和するため、
丸みを帯びたフォルムにしつつ、バリケードの注意喚起という役割を失わないように
した。
038
卒業研究・作品
簡易ゴミ収集設備の提案
w30×d30×h140mm (収納時)
w150×d90×h140mm (展開時)
中野 かすみ
Nakano Kasumi
デザイン工芸コース
ゴミ出しは生活をする上で欠かせない作業であり、その収集のための設備は誰もが
利用する公共設備のひとつです。これまで、環境問題への関心から資源ごみの収集環
境が改善される中、可燃ゴミの収集環境へは目を向けられることはあまりありませんで
した。私はこの設備が、多くの人が利用し様々な場所で目にする製品として、まだまだ
見直す余地があると考えます。
そこで、新しい可燃ゴミの収集設備の提案として、使用時・不使用時の設備の在り
方、設備の設置と撤去を考え、常設型で1ポールからのノックダウンが可能な簡易ゴミ
収集設備を考えました。同時に、動作の多い投入作業を見直し、屈むことなく立ったま
ま片手でゴミ出しができるように工夫しました。
040
卒業研究・作品
犬とスマートに出掛けるための
パッキングアイテムの提案
本体:ポリエステル
w150×d80×h370mm
濱谷 奈々
Hamatani Nana
デザイン工芸コース
愛犬とのお出かけは荷物が多くなりがちです。ペットホテルや犬連れ可能なアウト
ドア施設などの遠隔地へ出向く際には、人間の赤ちゃんと出かけるくらいの荷物が必
要になります。また普段の散歩において、特に街中やドッグカフェなどの改まった場所
へ出かけた時のフン処理は人目も気になり、迷惑がかかるので素早く対応したいで
す。さらに処理後、マナー袋をぶら下げて歩き回るのは自分も周囲も決して気分のい
いものではありません。そこで、今回は”格好も立ち振る舞いもスマートに行える”を
コンセプトにしたアイテムを提案しました。
フン処理は上部の口からマナー袋をとり出し、始末後は下部のアルミ缶に収納し持
ち帰り、住まいの地域規定に沿った方法で処分するかたちとなります。本体はおやつ
や玩具、ペットボトルなどいつもの散歩グッズがすっぽり入るサイズで、これをベース
バッグにお出かけシーンに合わせて使用します。
041
卒業研究・作品
和のしぐさから見る
現代コミュニケーション
日本独特の文化は世界から注目されている。しかし、現代では日本人である私たち
ー江戸しぐさから見る現代マナーのルーツー
今回、
「日本らしさ」として日本の作法や動作に注目し、その中から、江戸時代の
書籍・ボード・紙
h128×w182×d3mm
h515×w364×d3mm
中山 亜希子
Nakayama Akiko
デザイン情報コース
自身が自国の文化について知らないことも多い。
様々な人々が知恵を出して築き上げた生活哲学である「江戸しぐさ」をとり上げた。
江戸しぐさと、それに共通する現代の事象を共に紹介する書籍を制作し、日本の伝統
文化に興味を抱くきっかけづくりを目指す。
既に発行されている、教養本や資料本として江戸しぐさを取り扱った書籍と差別化
するために、江戸しぐさと共に紹介する「現代の事象」に、より重点をおいた内容を
意識して制作した。
061
卒業研究・作品
Relaxをテーマにした
プロダクトデザインの提案
ーオフィス用加湿器ー
透明アクリル・ABS樹脂
φ60×h100mm
現在、ビジネスを取り巻く環境は変化している。女性の就業人口は増加し、また
女性がオフィスで過ごす時間も増加傾向にある。そのようなオフィスで働く女性に
「Relax(リラックス)」という要素を踏まえた加湿器の提案をしたい。そのため、
現状調査から得られた以下の2点に着目し、加湿器のデザインに取り組んだ。
①既存のリラックスグッズは家庭で使用するものが大半を占め、オフィスで使
用できるものが 少ないこと。
角舘 あかり
デザイン工芸コース
②働く場所を選ばないフリーオフィスという考えが増加していること。
そして、商品コンセプトは「機能の可視化」。中央の水タンクを見せることで、既
存製品のような機械的な印象を払拭した。また、超音波で蒸気を発生させるため、
本体が熱くなることもなく、どこへでも持ち運びが可能である。
仕事中の「忙しい時間」に少しでも「リラックスした時間」が流れるよう、この
加湿器を利用してもらいたい。
↓
Kakudate Akari
059
卒業研究・作品
空間分割の提案
布・アルミ
h1800×w600mm
金森 悠
Kanamori Haruka
デザイン工芸コース
公共の場所では、状況や人間関係によって無意識のうちに相手との快適な距離を
選んでいる。距離が選択できない場合には、音楽や携帯電話などで境界を保とうと
している。しかし、このような一方的に相手を遮断する行為は周囲から受け入れら
れているとは限らない。空間を分け合う双方が快適に過ごすために以下の点を考慮
し、ロールスクリーンを利用した間仕切りの制作に取り組んだ。
①完全な、壁・個室としないこと ②変化する状況に対応できるものであること
「感じる壁」をコンセプトに、その場の状況によって変化可能なロールスクリーン
を提案する。モチーフを障子とし、石や鳥居等から空間を感じる日本人の感覚に着
目した。3層のスクリーンが独立して稼働するため、その場にあった調節が可能。3
つの重なりにより、柔らかな境界が生まれる。また、仕切りを従来のロールスクリー
ンや衝立などより遮光が抑えられる。スクリーンのテキスタイルを変更し、様々な場
所で利用してもらいたい。
060
卒業研究・作品
丁寧な所作をうながす
商品の提案
木・プラスティック
w107×d65×h10mm
髙橋 佳那
Takahashi Kana
デザイン工芸コース
昨今、マナーが注目されており、関連書籍や教室が人気となっている。そうしたマナー
に付随する「丁寧な所作」は、対人関係を円滑にする上で重要な役割を担う要素のひと
つである。また、丁寧な所作とは、場に応じて自然に出るものであり、無意識のうちに、
相手への敬意を表す手段でもあると考えた。そこで、どのような状況で丁寧な所作が出
るのかを検討した結果である以下の2点に着目し、製品のデザインに取り組んだ。
・私物と公物の区別が曖昧なもの(ex. 来客用カップなど)
・日本古来の文化に接するとき(ex. 茶道・華道など)
これらをふまえ、コンセプトモチーフを「ふすま」とし、ふすまの造形そのものと、そ
れに伴う仕種を製品化した。対象には、自分のものであり、相手のものでもあると考え
られる最も身近なツールである「名刺」を入れる箱、名刺入れを選択した。
女性は、より女性らしく、男性は、仕種を優しく柔らかく。そのような所作をうなが
す製品として、この名刺入れを提案する。
061