Title アルミニウムの特性を利用した炭素-カルコゲン2重結合 - 金沢大学

Title
アルミニウムの特性を利用した炭素-カルコゲン2重結合化合物の合
成
Author(s)
千木, 昌人; 中島, 正
Citation
有機合成化学協会誌, 53(8): 678-686
Issue Date
1995-08
Type
Journal Article
Text version
publisher
URL
http://hdl.handle.net/2297/3673
Right
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http://dspace.lib.kanazawa-u.ac.jp/dspace/
総合論文
アルミニウムの特性を利用した炭素-カルコゲン
二重結合化合物の合成
千木昌人*・中島正*
SynthesisofReactiveCompoundslnvolvingCarbon-Clualcogen
DoubleBondsUsingAluminum-BasedChalcogenatingReagents
MasahitoSEGI*andTadashiNAKAJIMA*
Novelchalcogenatingreagents,bis(dimethylaluminum)chalcogenides(Me2AlEAlMe2,E=Se(6),S(7),Te
(8)),werepreparedj〃sjtwbythetransmetalationofbis(tributyltin)chalcogenideswithtrimethylaluminumin
tolueneat80oC・Aldehydesandketonesweredirectlyconvertedbythereactionwith6tothecorresponding
selenoaldehydesandselenoketones,respectively,whichwereeffectivelytrappedby1,3-dienestoaffordtheir
Diels-Alderadducts・Similarly,thereactionofⅣ,N-disubstitutedformamidesandisocyanateswith6gave
selenoformamidesandisoselenocyanatesingoodyields,respectively.α,β-Unsaturatedselenoaldehydesand
ketonesunderwentaregioselective[4+2]dimerizationtoyieldcyclicdiselenidederivatives,Thesereactive
speciesalsounderwentintermolecularDiels-Aldercycloadditionsintwodifferentmodesdependingonthetrap
pingagents、Furthermore,avarietyofselenocarbonylcompoundswereefficientlysynthesizedbythereaction
ofacetalderivativeswith6TheWittig-typereactionofselenoaldehydeswithanytypeofphosphorusylides
gaveE-olefinspredominalltly・Similarreactionofaldehydesorketoneswith8affordedcycioadductsofthecor‐
respondingtelluroaldehydesorteUuroketonesanddienes・Ontheotherhand,thereactionofisocyanateswith8
gaveisocyanidesingoodyields,inwhich8actedasadeoxygenatingreagent・
Keywords:Carbon-chalcogendoublebonds;Chalcogenatingreagents;Diels-Alderreaction;Selenoalde
hyde;Selenoacylsilane;Selenoamide;Isoselenocyanate;Selenonester;Telluroaldehyde;Tellur‐
oketone.
野が開拓されるようになった。この分野の発展の発端と
1.はじめに
なったのは稲本らによるジホスフェンAr-P=P-Ar
セレンやテルルなどのカルコゲン元素を含め第3周期
の合成2)やWestらによるジシレンAr2Si=SiAr2の合成3)
以降のへテロ元素に見られる大きな特徴の1つは,。軌
の成功である。一方,アルデヒドやケトンの同族体であ
道の利用により原子価殻を拡大できる点である。このた
る炭素-カルコゲン(Se,Te)二重結合化合物に関しても,
め,超原子価化合物による新しい化学の分野が開拓され
時を同じくしてその合成研究が活発に行われるように
ている')。このような原子価拡張効果に関連し,1980年
なった4)。一般に,これらの化合物はその結合間距離が
代に入り,これらへテロ元素の二重結合を有する"低配
長くなることと汀電子の重なりが小さくなるため,著
位へテロ元素化合物',の化学という新規な有機化学の分
しく不安定で非常に多量化しやすく,その反応の制御は
困難であると言われている5)。しかしながら,逆の見方
*金沢大学工学部物質化学工学科(〒920金沢市小立野
2-40-20)
*DepartmentofChemistryandChemicalEngineering,
FacultyofEngineering,KanazawaUniversity(2-4020KodatsunqKanazawa920,Japan)
678
をすればこれらの化合物は潜在的に高反応性であり,有
機合成における有用な鍵中間体として利用されることが
期待され,これら活性化学種の効率のよい発生法の開発
は重要な研究課題と言える。最も効率的な合成法は,力
(24
有機合成化学協会誌
ルポニル基の酸素原子を直接カルコゲン原子に置き換え
る'0)。例えば,ヘキサン中でトリメチルアルミニウムは
る方法である。最近,筆者らはこの考え方に基づき,直
THFやエーテルと容易に1:l複合体を形成することは
接変換を達成するためのカルコゲン化試剤の設計に重点
よく知られている'1)。さらに基質分子内の酸素原子と配
を置いて研究を進め,種々の炭素-カルコゲン二重結合
位したアルミニウム化合物はそれ自体アート錯体となる
化合物を容易にかつ効率よく発生させることに成功し
ので,配位子の求核性が増大しカチオン中心への攻撃が
た。本稿では筆者らの行った研究結果を中心に,これら
起こりやすくなる。このような点を考慮すれば,セレン
活性化学種の反応も含めて紹介する。
化剤の設計においてアルミニウムの特性を活用するのが
かなり効果的であるものと予想できる。そこで,ビス(ジ
2.カルコゲンイヒ試剤の合成
メチルアルミニウム)セレニド(6)を第2のセレン化試剤
カルポニル基(C=O)をチオカルポニル基(C=S)に変
として位置づけ,その合成について種々検討した。
換するイオウ化反応は1970年以降活発に研究され,現
6のイオウ類似体5は既にイオウ化剤として用いられ
在Lawesson試薬(1)6)や五硫化二リン(2)などがイオウ
ており'2),その合成法は硫化水素を使用するものであっ
化剤として天然物合成や有機合成反応において広範囲に
た。これに準ずれば6の合成には猛毒でしかも扱いにく
使用されている?)。これに対し,カルポニル化合物から
いセレン化水素が必要となる。一般に,有機スズ化合物
直接セレノカルポニル基(C=Se)に変換するための有効
の合成にはアルミニウム化合物との金属交換反応がよく
なセレン化剤は1980年代後半までほとんど知られてい
用いられている'3)。このことは逆の見方をすれば有機ア
なかった。筆者らはケイ素原子の酸素原子に対する大き
ルミニウム化合物の合成法でもあり,Sn-Se結合を
な親和性に着目し,ビス(トリメチルシリル)セレニド(3)
Al-Se結合に変換できることになる。そこで,式2に示
と触媒量の塩基の組み合わせがアルデヒドの直接セレン
一Me4Sn
(Me3Sn)2Se+2Me3AI〒凧←(Me2AD2Se(2)
化反応にきわめて有効であることを見いだし,セレノお
よびチオアルデヒドの効率的合成法を開発した(式1)8)。
80°C,2h
また,ほぼ同時期にリン原子を利用したセレン化剤4も
報告された,)。
6
す反応を行いその溶液のlHNMR測定を行った結果,
テトラメチルスズがほぼ定量的に生成していることが確
。
◎
M・OCi<二1-<ひOMC職
3
4
(Me2AO2S
(Me2AD2Te
7
8
3
をそのまま次のカルポニル化合物との反応に使用した。
(Et2ALS(Me2Al)2Se
phPC12
R」LH+(Me3Si)2S.
これらの事実は,この交換反応がかなりきれいに進行し,
系中に6が生成していることを示している。6は湿気や
酸素と容易に反応するため単離を行わず,トルエン溶液
Se
lI
0
準物質:Me2Se)に1本のシグナルのみが観測された。
2
1
(Me3S02Se
認された。また,77SeNMRスペクトルでは-420ppm(標
なお,以下の反応では安全性と経済性の点を考慮し,よ
56
り毒性の少ないブチル置換体(Bu3SnLSeを用いた。こ
のスズセレニドは,単体セレンをアルカリ水溶液中ロン
ガリットで二価のセレンアニオンに還元した後'4),
Cat,n-BuLi
-
THF
1文I
Bu3SnClとの反応により高収率で得られる。また,この
化合物は空気中きわめて安定であり,取り扱いがたいへ
(1)
ん容易である。
このSn-Al金属交換反応に用いる溶媒は,アルミニ
ウムに配位することのできないトルエンやキシレンなど
式1のセレン化法は塩基条件下での反応のため副反応
の非極`性溶媒であることが必須であり,また80°Cで3
が起こりやすく,その反応制御にかなりの注意が必要で
時間程度反応させれば十分である。THFやジオキサン
ある。さらに,基質はアルデヒドに限られ,ケトンやア
などのような酸素原子を含む溶媒を用いるとJMe3Alの
ミドなどの他のカルポニル化合物には適用できないとい
アルミニウムが溶媒酸素に強く配位し,もはや交換反応
う大きな問題点があった。一方,酸素原子との親和力と
が進行しなくなってしまう。さらに,この試薬の合成法
いう点ではアルミニウム原子もかなりの能力を有してい
でもう1つ重要なポイントは6のセレン原子をイオウや
第53巻第8号(1995)
(25)
679
テルル原子に容易に置き換えることができる点である。
したがって,6~8は酸素原子を含む様々な基質に対し
カルコゲン元素を導入するカルコゲン化試剤として,き
わめて一般性の高い有用な試薬であると言える。
3.セレノカルボニル化合物の合成と反応
3.1.セレノアルデヒドの合成とその環化付加反応
セレノアルデヒドはきわめて不安定な化合物であり,
容易に多量化し炭素-セレン単結合に変化する。したがっ
て,セレノアルデヒドは一般に伽s伽で捕捉剤と反応
させ,得られた生成物からその存在を確認する方法がと
人甫講ii;誼Ixl
」二iごL:L力:鱸`jfli〔::
65-100oO4-5h
R1R4
R=Ph,n-Pr,jLPr,$BuR1,R2,R3,R4=HorMe
Yield=53~79%,regioisomerratio=50:50~72:28
Scheme2
られる。通常は共役ジエンを共存させ,Diels-Alder付
加体として単雛する。これまでのセレノアルデヒドの合
成法については,他の総説'5)を見ていただくことにし,
おける位置選択性が完全に逆転するという興味ある結果
ここでは筆者らの研究結果の報告にとどめさせていただ
も得られた。
本反応の特徴はアルミニウムのルイス酸性および酸素
く。
捕捉剤にシクロペンタジエンやシクロヘキサジエンの
原子との親和性を利用している点であるが,この反応で
環状ジエンを用いた場合,得られた環化付加体の立体異
はまず)6のアルミニウムがアルデヒドのカルポニル酸
性体はいずれもエンド体が優先しており,またセレノア
素に配位し,カルポニル炭素が活性化される。次にこの
ルデヒドの置換基がかき高くなるにつれてエンド体の割
活`性化された炭素へ分子内的にセレン原子が求核攻撃し
た後,アルミニウムオキシドの,,2-脱離とともに炭素一
合が著しく増大した(スキーム1)。このことは反応の遷
セレン二重結合が形成されるものと考えられる。本反応
人涌|;lii鵲堯rIxJ響二iJli
65-100oQ4-5h
R=Ph,PMeOC6H4,PCNC6H4,2-Furyl,2-ThienyI,
はTHF還流温度以上の熱が必要であり,これはおそら
くセレン原子の求核攻撃の段階に熱を要したものと考え
ている。
3.2.セレノアシルシランの合成と反応
アシルシランはその特異な分光学的性質によって注目
を集め,近年有用な合成中間体として広範囲にわたり利
nPr,jLPr,lLBu
用きれている'8)。そのイオウ同族体のチオアシルシラン
Yield=59~91%,endo:exo=57:43~>99:1
はBoniniらにより1986年以降精力的に研究され,含イ
オウ化合物の合成や不斉反応に応用されている19)。一方,
セレノアシルシランに関しては筆者の知るかぎりほとん
移状態において,二次的な軌道相互作用のほかに,環状
ど報告例がない。
ジエンのメチレン部位とセレノアルデヒドの置換基との
アシルシランと6との反応を共役ジエン存在下50°C
立体的な因子'6)がかなり重要であることを示している。
で4時間行った結果,良好な収率でセレノアシルシラン
一方,セレノアルデヒドと鎖状の非対称1,3-ジエンと
とジエンとの環化付加体が得られた。また,捕捉剤とし
の環化付加反応では,その位置選択性はほとんどの場合
てα~メチルスチレンを用い同様に反応を行うと,炭素一
それほど高くなかったが,置換基が2-ブチル基のセレ
セレン結合形成が選択的に起こりエン生成物を与えた。
ノピバルアルデヒドと2-メチル-1,3-ペンタジエンとの
さらに,イオウ化剤7を用い対応するチオアシルシラン
反応では,立体障害のため片方の位置異性体のみが生成
を合成し,これとオキソスルホニウムメチリドとの反応
した(スキーム2)。
を行うと,シリルチイランが良好な収率で得られること
基質にケトンを用い同様に6との反応をジエン共存下
も見いだした(スキーム3)20)。同条件下アシルシランと
行ったところ,対応するセレノケトンとジエンとの環化
付加体が良好な収率で得られた'7)。この反応において,
上記のメチリドとの反応ではエポキシドが生成しないた
め2'),このことは興味ある結果と言える。
ケトンの置換基が芳香族と脂肪族とでは環化付加反応に
680
26
有機合成化学協会誌
RR門
o柵辨上』
劉糞Ⅷ
八M閨儂鳳傘
SiMe3
=I【
=66~9396
s
Rワ△
E=S
Me3Si
Yield=53~64%
Scheme3
3.3.α,β-不飽和七レノカルポニル化合物の合成とそ
3.4・ホルムアミドおよびイソシアナートと6との反応
の環化付加反応
窒素や酸素などのへテロ原子がセレノカルポニル基に
前節で示したように,炭素-セレン二重結合はジエノ
結合すると,その非共有電子がセレン原子上にも非局在
フィルとして高い反応性を有しているが,これが分子内
化し,共鳴安定化によりこの化合物を直接単雛すること
で他の二重結合と共役した場合セレンを含むヘテロジエ
が可能となる。そこで,基質に様々なセレノアミドとイ
ンとしての反応特性が期待される。そこで,基質にα,
ソシアナートを用い,6と100°Cで反応させた結果,対
β-不飽和アルデヒドやケトンを用い,6との反応により
応するセレノホルムアミドとイソセレノシアナートカ塙
対応するα,β-不飽和セレノアルデヒドやケトンの合成
収率で得られた(スキーム5,6)23)。これらの化合物はき
を行い,その反応性について検討した。生成する化合物
わめて安定であり,さらなる有用な分子変換が期待され
は末端にセレン原子を有する共役セレナジエンであり,
る。
捕捉剤が存在しない場合,これらの化合物はヘテロジエ
3.5.ベックマン転位を利用したセレノラクタムの合成
6のアルミニウムのルイス酸性を利用し,オキシムメ
ン(4刀)とジエノフイル(2汀)の両方の反応挙動を示し,
自己二分子[4+2]環化付加反応がhead-to-head型で位
シラートのベックマン転位を経るセレノラクタムおよび
置選択的に進行した。一方,捕捉剤としてノルポルナジ
セレノアミドの合成を行った(表1)24)。本反応では,メ
エンを共存させると,これらはヘテロジエンとして作用
シルオキシ基の脱離により生成するイミノカルポカチオ
し,そのDiels-Alder環化付加体が良好な収率で生じた。
ン中間体にアルミニウムセレノラートが攻撃し,イミノ
これに対しシクロペンタジエン共存下では,炭素-セレ
セレノラートを経て最終的に加水分解されるものと考え
ン二重結合のみが反応に関与したDiels-Alder付加体が
oSe
高収率で得られたことから,共役系をもつセレノカルポ
H人N-RT:十万一H人N-p
ニル化合物の反応性の一端が明らかとなった(スキーム
4)22)。
RR
R2
RJ繍斗rJE団峠
R熱到
R=Ph,Me,Et,-(CH2)5-,-(CH2)20(CH2)2F
Scheme5
Yield=50~91%
1つ
R2
Yield=90~93%
R2
R1
Yield=45~63%
Ⅱ=c=o而示;L藤二二
R=Ph,pCIC6H4,Bn,1-Np,
n-Bu,n-C18H37,cyc10hexyl
Scheme6
Scheme4
第53巻第8号(1995)
Yield=80~95%
R≠H
(27
681
TablelSynthesisofselenolactamsorselenoamidesDm
られる。スキーム5の反応はⅣ,Ⅳ一二置換体に対して
Beckmannrearrangement・
MSO(
のみ効果的であるため,このベックマン転位を利用する
本手法は窒素上に水素原子をもつセレノラクタムやセレ
N
Ⅳ人R瓊而;て‐型Ⅳ叉Ⅱ三
ノアミドの有用な合成法であると言える。
3.6.イソセレノシアナートの反応
スキーム6で得られたイソセレノシアナートは加水分
R1R2Time(h)ProductYield(%)a)
解を受けることなくきわめて安定な化合物である。そこ
で,これと各種求核剤との反応を行い,様々な含セレン
{CH2)`.‘6s。,’
化合物の合成を検討した。反応結果をスキーム7にまと
1:!;二:鶴H::
めた25)。アルコラート,チオラート,セレノラートやア
ンモニア,ヒドラジン,アミン等の反応ではいずれの場
合もセレノカルポニル炭素への攻撃が選択的に起こり,
対応するセレノカルボニル化合物およびその誘導体が良
好な収率で得られた。また,α-アミノ酸との反応では
coic〔&『。,‘
分子内環化が進行し,セレノヒダントイン誘導体が生じ
た。光学活`性なアミノ酸が容易に入手できるため,得ら
れた化合物を利用し,不斉反応や,7SeNMR測定による
光学純度決定試薬への応用が期待される。一方,炭素求
核種としてのGrignard試薬との反応では対応するセレ
PhPh4.5ph人NHph67
MePh4.5Me人NHph86
EtPh4日人NHph76
ノアミドが得られ,またシアノ酢酸エステルのような活
a)Isolatedyield
性メチレン化合物との反応では,分子内水素移動を伴い,
ヨウイヒメチルによる反応停止の結果,四置換オレフイン
縣>-<::.M・縣>-〈CO2MORNH人NH②
CO2Me
c-
RNH」LR
ー
R-N=C=Se
R-N=<SeMe
ER,
E=S,Se
O
RNH人S・〆、ン
人ハ
ト ゴエⅢ叉Ⅱ
Se
ゾャ
Se
RNH人NHNH・
Se
RN」LNR
NR
M:壬RmUmp
e
了mHp
全一<瓠Ⅷ
(a)NH3
(b)RNH2
(c)(COCO2
(。)NH2NH2
(e)NaNO2,HCI
(f)R℃H(NHRi)CO2H
(9)PhCH=CHCH=NR
(h)REM(M=Na,Li)
(DCH2=CH-CH20Na,80°C
O)RELi,MeI
(k)RiMgBr
(|)CNCH2CO2MaMeI
(、)CH2(CO2Me)2,MeI
Scheme7
682
28)
有機合成化学協会誌
が高収率で得られた。
w・川歳lMⅦwJfJ
以上の反応のほとんどは出発原料に入手容易なイソシ
アナートを用い,そのセレン化反応により得られるイソ
セレノシアナートを単雛することなくone-Potで行える
1Mノ
,)0
/、
利点があり,有機合成上たいへん便利で効率的な合成手
-
法であると言える。
2)H20
3.7.アセタール誘導体と6との反応26)
-
8)。また,本手法により沸点の低いセレノアルデヒドや
2)H20HO
川堺》、
Yield=38%
M・OQ赤lMa
一一R
Se
AlO
/、/、/」LH
、〃〃
1)。
/A1
R=H,Ph,B、,MajLPr,n-C7H1
Yield=85%
Yield=83%
◎
,)0
が生成しプジエンにより収率よく捕捉された(スキーム
R,=Me,曰
r
て検討した。芳香族,脂肪族いずれのアセタールを用い
た場合も,きわめて効率よく対応するセレノアルデヒド
=I【
,=2
wL志lM叱川。汁
反応による炭素-セレン二重結合化合物への変換につい
Wすば」
、=1
Se
をgeminal位に有するアセタール誘導体を用い,6との
、
0
tp○
F』・ト
来するものである。そこで,基質として2個の酸素原子
ー一一一
【Hpm
6がセレン化剤として有効に作用する最大の理由は,
アルミニウム原子の酸素原子に対する大きな親和性に由
HO
2)H20
YieId=78~96%
Yield=53%
Scheme8
Scheme9
側鎖末端に水酸基やホルミル基を有するセレノアルデヒ
Ⅳ:><:前:元忘一
ドも合成可能となった(スキーム9)。さらにオルトエス
テルやオルト炭酸エステルとの反応においても,対応す
るセレノンエステルやセレノ炭酸エステルが生成するこ
R=Ph,n-Bu,OEt
R,,R,=Me,Et
とが明らかとなった(スキーム10)。エステルと6との
反応から直接セレノンエステルを合成しようとすると,
Se
R」LoR
Yield=67~91%
SchemelO
アルコキシ基の脱離を伴ってアシルセレニド誘導体を与
えてしまう。したがって,オルトエステルを出発原料に
大熊らはリンイリドとセレンとの反応を行うと,中間体
用いる本手法は,セレノンエステルの有用かつ簡便合成
にセレノアルデヒドが生成し,これとリンイリドからオ
法であると考えられる。
レフィンが得られることを報告している27)。
3.8.セレノアルデヒドとリンイリドとの反応
筆者らは種々のアセタールを用い,6との反応により
セレノアルデヒドを生成させ,この反応溶液にリンイリ
セレノアルデヒドの反応性についてはこれまで,ジエ
ンとのDiels-Alder反応以外はほとんど研究されていな
ドを加え反応させた結果,予想通りwittig型反応が進
行し,いずれの場合も非対称型のE-オレフィンを優先
的に与えた(スキーム11)28)。また,チオアルデヒドと
リンイリドとの反応においても同様な結果が得られた。
い。前節で述べたアセタールを出発原料に用いるセレノ
アルデヒド合成の手法では,反応系へのアルデヒドの混
入を完全に避けることができ,セレノアルデヒドとリン
イリドとの真の反応も検討することが可能である。一方,
第53巻第8号(1995)
この結果は,アルデヒドと不安定および準安定イリドと
29
683
M●><:Mo
|鬮叉」
6
 ̄
100°C,2h
Ph3P=CHR,
RCH=CHRo
25orlOOoC,1.5-25h
この反応では,系中にまず生成するテルロアルデヒドの
[4+2]環化付加体が環ひずみのためラジカル開裂を起こ
し,テルルの脱離後ビラジカル中間体を経て,分子内再
環化が進行したものと考えられる.
4.2.テルロケトンの合成と環化付加反応調)
アダマンタノンと8との反応をシクロペンタジエン共
Yield=29~68%
E:Z=68:32~>99:1
R=Ph,pMeOC6H4,pMeC6H4,Bn,n-C7H15
R,=Ph,CO2Me,CO2Et,n-C6H13
存下100°Cで行うと,テルロアダマンタノンとジエンと
のDiels-Alder付加体が55%の収率で得られた。捕捉
剤のジエンを共存させない場合は,テルロアダマンタノ
ンの二量体が生成した(スキーム13)。しかしながら,
Schemell
のwittig反応においてz-オレフィンが優先的に得られ
幻o歳匝
る事実と対照的であり,反応機構の面から興味が持たれ
る。
4.テルロカルボニル化合物の合成
0
4.1.テルロアルデヒドの合成と環化付加反応
塁C
16族第5周期のテルルと炭素の二重結合化合物に関
Yield=55%
する合成研究は1979年以降ごくわずか報告されている
むくF>け
だけであり4。),その中でも最も不安定であると考えられ
るテルロアルデヒドの合成は筆者らの方法29)以外,数例
が報告されているにすぎない30)。テルロアルデヒドは現
Yield=28%
在まで単量体として単離された例はないが,セレノアル
Schemel3
デヒドと同様共役ジエンとのDiels-Alder付加体として
テルロケトンの鎖状ジエンによる捕捉には現時点で成功
安定に単離できる。
ビス(トリブチルスズ)テルリドと2当量のトリメチル
していない。最近,溶液中で安定なテルロケトンの合成
アルミニウムとの金属交換反応をトルエン中80°Cで行
が報告された31)。そのテルロカルポニル炭素のI3CNMR
い,系中にビス(ジメチルアルミニウム)テルリド(8)を
におけるケミカルシフトは301ppmとかなり低磁場に
生成きせ,引き続き種々のアルデヒドと鎖状ジエンを加
現われている。
え,さらに100°Cで2-4時間反応させると,良好な収
率で対応するテルロアルデヒドとジエンとの環化付加体
4.3.ホルムアミドおよびイソシアナートと8との反応
が得られた29)。これに対し,捕捉剤としてシクロペンタ
原子や酸素原子が結合するとメソメリー効果により安定
ジエンを共存させた場合,予期したDiels-Alder付加体
化し,その化合物は単離可能であると考えられる。ホル
は得られず,テルルの脱離を伴って3員環と5員環が縮
環した化合物が中程度の収率で生成した(スキーム12)。
処理後フロリジルのカラムクロマトグラフィーにより,
3.4.節で述べたと同様,テルロカルポニル基に窒素
ムアミドと8との反応を100°Cで2時間行い,通常の後
テルロホルムアミドを単雛することに成功した22)(ス
(Bu3sn)2T・÷2M.3A|〒5両757百55舌(Me2AI)2Te
8
R=Ph,pMeOC6H4,
PCNC6H4,斤BufBu
oTe
H人N-R弓55旨ごT三N-H人N=R
B
-
△[よ鮒l
八
β》4
O
キーム14)。なかでもN-メチルテルロホルムアニリド
RR
。
R=Ph,MaEt,-(CH2)5-,-(CH2)20(CH2)2‐
Yield=15~46%
Schemel4
Schdmel2
684
Yield=13~88%
R≠H
30)
有機合成化学協会誌
は88%の収率で得られ,きわめて安定な化合物である。
2)M、Yoshifuji,LShima,NInamoto,KHirotsu,
T・Higuchi,ノ.A''@.Che柳.SOC.,103,4587(1981)
3)R、West,M,J,Fink,J,Michl,Scie"c2,214,1343
一方,イソシアナートと8を100°Cで反応させると,期
待したイソテルロシアナートの生成は全く見られず,テ
(1981)
4)(a)C,Paulmier,“Me州川此agP〃tsq"d肋teγwzcdj.
ルルの析出を伴ってイソシアニドが良好な収率で得られ
た32)(スキーム15)。したがって,本手法はイソシアニ
αtFsj〃O“"jcSwthesjs,,,ed・byJ.E・Baldwin,
PergamonPress,Oxford,1986,p、58;(b)F、S
Guziec,Jr.,``O7gZJ"oseJe"jol川CMmstry,,,ed・by、、
Liotta,JohnWileyandSons,Inc.,NewYork,
1987,p、277;(c)F、S・Guziec,Jr.,“T〃eCMmstry
q/Oγ9口"jcMe"加川α〃dTell""況川Cb,1W14"。S,,,
Vol、2,ed・byS・PataiJohnWileyandSons,Inc.,
ドの簡便合成法として有用であると考えられ,この場合
8は結果的に脱酸素化剤として作用したことになる。
8
R-N=C=0--
100°C,2h
R=Ph,1-NpnC18H37,
cyclohexyl
[R-N=C=Te]
l-To
NewYork,1987,p、215
5)14族金属元素の二重結合の構築と性質に関する総
説:L,E・Gusel,Nikov,NS・Nametkin,Che伽.
此ひ.,79,529(1979)
R-NC
Yield=63~81%
Schemel5
6)LThomsen,KClausen,S、Scheibye,S、-0.
Lawesson,“O7gu"jcS〕'伽CSCS,',ColLVo1.7,ed,by
lP・Freeman,JohnWileyandSons,Inc.,New
5.おわりに
York,1990,p,372
7)R,A,Cherkasov,G,AKutyrev,A、N・Pudovik,
以上のように,炭素-カルコゲン二重結合化合物の合
TetmMml0,41,2567(1985);M.P・Cava,ML
Levinson,jbjd.,41,5061(1985)
成において,アルミニウム原子を2個含む6-8がきわ
めて有効なカルコゲン化試剤であることが明らかとなっ
8)MSegi,T・Nakajima,S、Suga,S・Murai,1.Ryu,
AOgawa,N・Sonoda,ノ.A伽.C/IC腕.SOC.,110,
1976(1988);M・Segi,M,Takahashi,T,Naka
た。誌面の都合上,7を用いたチオカルポニル化合物の
合成については割愛させていただいたが,ほとんどの場
合同様に合成可能である。従来の炭素-カルコゲン二重
jima,S・Suga,S、Murai,N、Sonoda,TetmM7mt
Let几29,6965(1988)
結合の構築法は,カルコゲン元素を含む前駆体を合成し,
9)LP・Michael,,.H・Reid,B,G・Rose,R、A・Speirs,
これから誘導するものがほとんどであった。このような
ノ.CノZc帆.SOC.,C/IC"0.cm?@川0012.,1988,1494
方法では,目的化合物の構造が異なるたびにその前駆体
10)H・Yamamoto,HNozaki,A"深uL伽腕.,肋/,〃.
E"gj.,17,169(1978);KMaruoka,H、Yamamo‐
の設計が必要となり,困難を伴うことがしばしばである。
したがって,本稿で紹介した筆者らの手法は,有機化合
to,jbjd.,24,668(1985)
物へのカルコゲン元素の一般的な導入法を提供するもの
11)T,Mole,JR、Surtees,A"st,ノ.Che腕.,17,961
(1964)
として利用価値の高い方法であると言える。
12)HImaeda,T・Hirabayashi,K・Itoh,Y、Ishii,
最後に,本研究の遂行にあたり,適切なご助言と暖か
Oxgu"o111etqノ.Che伽.伽.,1,115(1970/1971)
13)M・Pereyre,ルP,Quintard,A、Rahm,“Tj〃伽
O'9m"jcS)'l0tMjs,,,Butterworths,London,1987,
い励ましをいただいた大阪大学の園田昇教授,村井真
二教授,ならびに金沢大学の須賀操平名誉教授に深く感
謝いたします。また,この研究は日夜精力的に実験を遂
P、8
14)L、Tschugaeff,W,Chlopin,C"e柳.B”.,47,1269
行してくれた多数の学生諸君の努力の賜物であり,ここ
(1914)
に記して厚く感謝の意を表します。
15)岡崎廉治,有合化,46,1149(1988);N、PellouxLeon,Y・Vallee,MJj〃G7、ゆChe川jstrツノW"s,2,
本研究の一部は,文部省科学研究費補助金,旭硝子財
団研究助成金,チバガイギー研究奨励金,ならびに実吉
N0.4,22(1994);大熊健太郎,有合化53,218
奨学会研究助成金によってなされたものであり,ここに
(1995)
深謝いたします。(平成7年4月3日受理)
16)M、A・Fox,R・Cardone,N、J、Kiwiet,ノ.O酒.
文献
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24)MSegi,H、Tsuchida,T,Nakajima,unpublished
results
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有機合成化学協会誌