1 「褥瘡の局所治療-TIME 理論で考えるラップ療法と 陰圧閉鎖 - Ne

「褥瘡の局所治療-TIME 理論で考えるラップ療法と
陰圧閉鎖療法-」
兼古 稔 氏(上富良野町立病院外科医長・副院長)
本日は、お招きいただきましてありがとうござい
ます。上富良野町立病院外科の兼古と申します。
僕も地域医療の方面では結構いろいろやっていた
というか、大学を卒業して以来、外科一人医長でや
っていた時期が半分を超えています。下川町立病院、
枝幸国保病院、美深厚生病院、そして今の病院、4
カ所で外科一人医長をずっとやっていました。そう
いうことばかりやっていたので、外科医というより
は、自称「外科系総合医」と言っています。
それで、本日のタイトルなのですけれども、褥瘡の
局所治療ということです。僕は興味があってこうい
うことをかなりいろいろやっていたので、お話しさ
せていただく機会を頂きました。
図1 圧迫応力
これに対して引っ張り応力というのは、皮膚に対
して水平な力が働く(図 2)。これによって血管が
引き伸ばされて内腔が狭くなるので、血流が悪くな
るというお話です。
まず、褥瘡というのは特殊な傷なのかどうか、こ
こから考えてみたいと思います。褥瘡というのは何
かといいますと、定義があり、大ざっぱに言ってし
まうと、「持続的な力が皮膚に掛かり続けることに
よって起きる、皮膚の慢性創傷」です。ですから、
お尻にできるものだけが褥瘡ではなくて、耳にでき
ることもありますし、後頭部にできることもあるの
です。こういうものをまとめて褥瘡と言っています。
この持続的な力によって皮膚の血流が長時間絶え
るというのが褥瘡の原因になっているわけです。ど
ういうことかといいますと、皮膚にこういう力が掛
かります。圧迫応力、引っ張り応力、せん断応力。
せん断応力はさらに三つに分けることができ、表面
せん断応力、皮下せん断応力、深層せん断応力と分
けることができます。これだけでは、何を言ってい
るかさっぱりわからないですね。それはどういうこ
とかと言うと、押す力、引っ張る力、ずれる力のこ
とを難しく言っているだけなのです。実際に見てみ
ましょう。
圧迫応力というのはどういうものかというと、皮
膚に垂直に掛かる力を言います(図 1)。こうやっ
て圧力が掛かると血管がつぶされます。病的骨突出
があると褥瘡が起きやすいというのは非常に有名な
話ですが、こういうことなのです。だから、病的骨
突出があると褥瘡を起こしやすい。そういう話です。
図2 引張り応力
最後に、今一番重要と言われている、ずり応力(せ
ん断応力)です。これはどういうものかというと、
三つに分けて考えられ、組織の境目でこういう力の
影響を受けやすいと言われています。働く部位によ
って、表面ずり応力、それから皮下層ずり応力、そ
れから深在性ずり応力という、三つに分けることが
できます(図 3)。
図3 ずり応力
1
このずり応力が働きますと、特に深在性ずり応力の
場合にはこうやって血管が引っ張られ、ここのとこ
ろの血流が弱くなってしまう(図 4)。
これはどういうことかといいますと、TIME 理論の
T は Tissue nonviable or deficient(活性のない組
織 ま た は 組 織 の 欠 損 ) 、 I は Infection or
inflammation(感染または炎症)、M が Moisture
imbalance(湿潤のアンバランス)、そして E が Edge
of wound non-advancing or undermined(創辺縁の
治癒遅延、または層のポケット化)。こういうもの
があると傷は治りにくいということで、その頭文字
を取ったのが TIME 理論と呼ばれているものです。こ
れを解決するために Wound Bed Preparation をしな
さい、と。ここまで言っても、さっぱりわかりませ
んね。褥瘡治療をやっている人はみんな、大体ここ
でつまずくのです。田中マキ子さんとか、北大名誉
教授の大浦先生が書いている TIME 理論の本を読む
と、僕が読んでもよくわかりません。でも、これは、
実はそんな難しいことではないのです。どういうこ
とか―。
まず、TIME の T です。これは要するに、壊死組織
をきちんと除去しなさい。あるいは、血流のない組
織、例えば腱なんかがそうです。こういうものを除
去すればいいということです。つまりどういうこと
かというと、きちんとデブリードマンしましょうと
いうことなのです。全然、大した難しいことでもな
かった。これはとても重要なことなのですが、その
重要性についてはまた後で触れます。
もう一つ、炎症・感染。きちんと炎症や感染を制
御しなさいと。ここで要注意なのは、感染がありま
すよといって、すぐ消毒というのは間違いです。も
う大分広まっているので皆さんの常識になっている
かと思いますけれども、傷は消毒してはだめなので
す。消毒薬というのは基本的には、イソジンなんか
は酸化還元反応、エタノールは脱水作用、たんぱく
変性とかいろいろありますけれども、まとめて言っ
てしまえば、細胞障害作用によって細菌を殺すのが
消毒薬なのです。それから消毒薬の効果というのは
限界があります。まず作用時間については、皮膚消
毒をして約 3 時間で皮膚の細菌数が元に戻る。これ
は外科系の医者だったら大体誰でも知っているので
すが、グローブジューステストというのがありまし
て、手の中を消毒した後に培養液を入れた手袋をは
いて、脱いだやつの細菌数をカウントしていくとい
う実験があり、3 時間で元に戻るということが知ら
れています。それから、消毒薬の効力。消毒薬、特
にイソジンなんかは、有機物に触れるとすぐ失活し
てしまいます。それから、当然ですけれども、消毒薬
はすべて細胞毒性があって、それを使って細菌を殺
しています。
図4 ずり応力が働くと・・・
これは非常に困ったことで、ここが血栓閉塞すると
何が起きるかというと、3~4 度の褥瘡の原因になる
わけです。だから、最近、ずり応力というのがとて
も重要だというふうに言われています。結局のとこ
ろ何かといいますと、褥瘡というのは血流が悪いだ
けの慢性創傷であって、特別な傷でもなんでもない
のです。ですから、正しい治療の仕方をすれば、そ
れで普通に治ってくれるというのが褥瘡だと思って
ください。治らないものが褥瘡と思い込んでいると、
これはとんでもないことになってしまいます。
さて、創傷治癒を阻害する要因というのがありま
して、一般的に一番多く言われているのは血流障害
です。圧負荷とか、あるいは閉塞性動脈硬化症なん
かがあっても悪いですし、糖尿病で血行障害があっ
てももちろんそうです。あと代謝障害も創傷治癒の
阻害要因になります。がんを持っているとなかなか
傷が治りません。初期は全然別ですけれども、特にが
ん末期の患者さんというのは傷が本当に治らないの
です。あるいは、全身の炎症。肺炎なんかがあって
も、今までよく治ってきたなという褥瘡が、突然悪
化したりすることがよくあります。もちろん、糖尿
とか透析とか著しい低栄養、こういうのでも傷は治
りにくい。
それに加えて、最近言われているのが、TIME です。
TIME 理論というのが 2003 年ごろ発表され、比較的
よく支持されている創傷治癒の阻害理論です。どう
いうことかというと、これは褥瘡学会でも推奨され
ていて・・・創傷治癒遅延は TIME 理論で説明できる。
従って、Wound Bed Preparation を考慮して治療す
べきである。・・・これは、何のことだかさっぱり
わからないですね。この辺からだんだんくだけてい
きます。そのうち、文字までくだけます。
2
さて現在、茨城県の石岡第一病院にいる有名な先
生で、夏井先生、「新しい創傷治療」というホーム
ページを主宰されていますが、この先生が出した学
説があります。消毒イコール「ウル○○マン治療」
というのです。大きい声では言えないので丸になっ
ています。どういうことかといいますと、、、、9
時からウル○○マンの番組が始まります。そうする
と、ウル○○マンというのは当然、最後の方に出て
きます。大体、9 時 25 分ぐらいに出てきます。そう
すると、3 分間たつとカラータイマーがピコピコ点
滅して、ウル○○マンは帰っていく。そうしたら、
翌日また 9 時から放映するとなると、ここで再登場
するわけです。となると、この間は、怪獣がやりた
い放題なのです(図 5)。
出液を除去して消毒しようとすると、どうなるか。
組織の中には消毒薬が届くわけがないのです。しか
も、消毒薬によって、今度はさっきよりももっとひ
どく表面の組織が死滅してしまうということになる
わけです。
では、消毒しないと傷は化膿するのか。こんなこ
とはない、ということが基本理論になります。皮膚
や腸には普通に細菌がいるわけです。大腸菌という
名前が付いているぐらいですから。傷に菌がいても
悪さをしなければいい、ということです。こういう
のを Colonization(細菌の常在化)と言います。
では、化膿というのは何なのかというと、皮膚の
下、皮下組織でもいいのですけれども、傷に細菌がい
て、炎症を起こしている状態があって初めて、化膿、
感染と言うのです。炎症には「四つのサイン」とい
うのがあります。ローマ時代のケルズスという人が
最初に言ったものですが、「発赤」「疼痛」「熱感」
「腫脹」。この四つが全然ないものはもはや、感染
とは言わないのです。
では、常在菌で感染が起きないかというと、これ
はちゃんと起きることになっています。代表的なの
が、感染性粉瘤と呼ばれる病気です。あれは常在菌
で起きます。どういうときに起きるのかというと、
常在菌で感染が起きるのは、組織 1 グラム当たりに
10 万個の細菌がいる場合、または異物があって、組
織 1 グラム当たり 100 個の細菌がいる場合。こうい
うのを言います。では何が悪いかといったら、これ
は細菌が悪いというより、異物が悪いというふうに
考えるのが常識的な判断だと思うのです。異物とい
うのはどんなものがあるかというと、例えばガーゼ
やなんかがそうですし、壊死組織や血腫なんかもそ
うです。もちろん、外から入った異物もそうなりま
す。
これは傷の写真で(図 7)、夏井先生のところか
ら借りてきたのですけれども、かさぶたは立派な異
物になります。赤くはれて、熱を持って、痛いわけ
です。
図5 ウル○○マン
これを消毒に置き換えてみます。
朝 9 時の回診で消毒します。そうすると、生き残
った皮膚の常在菌が毛穴から出てきまして、大体 3
時間後には元の菌数に戻る。ということは、翌日の
回診までの間、この間は消毒してもしなくても、全
く一緒です(図 6)。
図6 回診消毒
赤く
腫れて
何の意味もない行為である、そういうことになるわ
けです。しかも、消毒薬はさっきも言いましたよう
に、有機物に触れると失活してしまいます。さらに
低濃度の消毒薬も、組織障害は起こします。組織に
は全く届かないわけです。そこで、短絡した人が浸
熱を持って
痛い
図7 かさぶた
3
正しく治療している傷。これはフィルムドレッシ
ングで覆っているだけです(図8)。
おいしそうなケーキですね(図 9)。
フィルムの下に膿が貯ま
っているように見えます
が・・・
フィルムを取ってみると、発
赤も腫脹も熱感もありませ
図9 ケーキ
ん。
もちろん痛みもありません
実はこれは僕が作ったのですけれども。おいしそう
なケーキなのですけれども、このケーキも乾いたら
おいしくないですよね。傷も同じなのです。乾燥し
てしまうと、肉芽組織は死にます。当然ですね、細
胞には水が必要なのです。では何で僕らが死なない
かというと、死んだ皮膚、つまり角質が体を覆って
くれているからなのです。しかも、傷を治すために
は滲出液というのが出てきていて、その中には傷を
治すための物質も含まれているわけです。乾燥させ
てはいけないのです。縫合していない傷にガーゼを
当てるとどういうことになるかといいますと、滲出
液が吸われて、蒸散して、肉芽が乾燥するわけです。
良い訳がないのです。
では、創面を水浸しにするのがいいか。これもま
た間違いなのです。水浸しにすると、滲出液によっ
て周囲皮膚が障害を起こしたりします。一番面倒く
さい合併症がとびひ(伝染性膿痂疹)です。それか
ら、肉芽が上がり過ぎる過剰肉芽というのを作った
りしますし、あるいは角質が軟らかくなって皮膚が
弱くなって、傷が付きやすくなる。こういう問題も
起こすわけです。つまり、Moisture imbalance(湿
潤のアンバランス)というのがあってもよくない。
では、そこをどう考えるか。どの程度湿潤してい
ればいいかといいますと、これは表面をごくわずか
滲出液が覆ってくれていればいいのです。乾燥しな
いぎりぎりで十分です。滲出液が常に創面を覆って
いるけれども、周囲の皮膚に漏れ出さない程度であ
れば、十分です。では、どうやってそれを判断する
か。これは傷の状態をよく観察するしかありません。
慣れてくると、3 日に 1 回ぐらい見ていても上手に
コントロールできるようになるのですけれども、最
初のうちは毎日傷を見て、傷がどう変化するのかと
いうのをよく観察する必要があります。観察するポ
イントはここに挙げたとおりです。滲出液の量が正
常か、創面が浮腫状かどうか、ポケットになりかか
図8 正しく治療している傷
何か膿がたまっているように見えますけれども、フ
ィルムを取って見ると、とてもきれいな傷で、発赤
も腫脹も熱感も痛みも全然ない。こういうふうに傷
は治っていくものということです。では、結局、感
染の制御はどういうふうにするのかといいますと、
デブリードマンとドレナージ、これがすべてなので
す。あと、治る速度を速くするために抗生剤をちょ
っとかませてみましょうか、程度でいいのです。つ
まり、異物を除去することが感染制御につながると
いうふうに考えてください。これは非常に大事なこ
とです。だから、T を制御することがとても重要と
いうことなのです。TIME 理論の T というのはとても
重要で、ここをきちんとしてやれば、I も勝手に制
御されてしまう。そこが大事だと思ってください。
では、抗菌剤軟膏はどうなのか。持続的に消毒薬
を放出するようなものがあります。代表的なのが、
ユーパスタとかカデックスとかゲーベンです。正直
言って、僕は要らないと思っています。それでも使
っている先生はいるのですが、非常に使い方が難し
い。基本的にはどれも、細胞障害作用を持っている
わけです。だから、菌は減っても、治癒障害を起こ
すこともあるわけです。これは本当に使う時期が難
しくて、使える時期は本当にごくわずかの、褥瘡で
言う黄色期のごく一部の時期だけだと思います。そ
れもタイミングを誤るとひどいことになってしま
う。赤色期といって、肉がしっかり増殖しているよ
うな時期にこれを使うと、一気に元に戻ってしまう
ことがありますので、使い方が大変難しい。だった
ら、わからない人は使わない方がいいのではないか
と考えています。
4
っているか、上皮化が進んでいるか。こういうのを
まとめて、傷を見る目を養う。こういうふうに考え
る。
ただ、こういうふうに言われてもなかなか簡単に
できないというので、ちょっとポイントを示します。
これは、どちらがよく治っている傷だと思います
か(図 10)。どなたかお答えいただけますか。
どちらが治癒の良い状態でしょう?
上皮化の 辺
上皮化の 辺
縁が鮮明
縁が不鮮明
顆粒状の肉芽
滑らかな肉芽
図10 治癒の違い
お答えがないので答えを言ってしまいますけれど
も、これは明らかに向かって右側の方がよく治って
います。どこで判断するかというと、こっちの方は
肉芽が顆粒状です。こっちは滑らかです。滑らかに
なっている肉芽というのは、よく治っている状態で
す。
それから、もう一つは辺縁を見ます。上皮化して、
ここは白っぽくなっているところです。そこのとこ
ろの境目がかなりくっきりしています。こっちは、
ちょっとぼやけてよくわからない状態になっていま
す。しっかり治っている傷の場合は、辺縁が不鮮明
になります。
こうやってジャボジャボにしてしまってもやっぱ
りよくないです(図 11)。やや過剰な湿潤ですね。
そうすると、ここくっきりしていますよね。こうい
う状態のときには、ちょっと乾燥めにする。吸収性
の被覆材を使うことで、一気に上皮化が進むことが
あります。
最後に残った E というのは何かというと、創辺縁
の遅延です。これは過剰になった肉芽とか、乾燥が
原因のことが多い。さっき見たとおりです。あれが
TIME の E なのです。湿潤し過ぎたらドライサイドに
置くとか、あるいはステロイド軟膏によって血流を
絞ってやるという手もあります。乾燥し過ぎだった
ら、吸収の少ない被覆材を使う。例えばポリウレタ
ンフィルムなんかを使ってやればいい、あるいはサ
ランラップでも結構です。
では、ポケットになったらどうするか。これはず
り応力をなくしてあげるしか基本的には治療方法な
いのですが、もうちょっと早くしたい場合には、ポ
ケット切開とか陰圧閉鎖とか皮弁手術というのを使
う。ただ、当然、侵襲があります。褥瘡というのは
基本的に体が弱っている人のものなので、何でもか
んでもこれをやればいいというものではないという
のは、頭に置いておいてください。
では、具体的にどういうふうに褥瘡の治療をする
かといいますと、傷を乾燥させず、ウエットにし過
ぎず、壊死組織は取り除いて、圧はかけないように
する。圧をかけないのは耐圧分散マットの使用が必
要になりますが、それ以外についてはどうしようか。
では、創傷被覆材を使って治療しましょう。これは
非常にいいものなのです。ところが欠点があるので
す。何かといいますと、現在は、未滅菌のポリウレ
タンフィルムを除いて、連続 2 週間以上の使用は保
険適用上認められない。ちなみに、未滅菌のポリウ
レタンフィルムも、保険でコストは出ません(安い
ので褥瘡にも使ってますけど)。しかも、ハイドロ
サイトとかを使いますと、非常に高いのです。これ
では、実際には使えないということになってしまい
ます。なぜなら、3~4 度の褥瘡で 2 週間以内に治る
ものなんて、ほとんどないのです。僕は今までで 1
例だけ、直径 5 ミリの 4 度褥瘡、関節に通じるやつ
があり、それは 4 日で治しましたけれども、それ以
外は治せていません。では、どうするか。ほかの方
法を考えましょう。金が掛からなくて、薄くて、滲
出液をため込まないで、創を乾燥させないで、固着
しないで、可塑性に富む。こういう考えでラップ療
法というのが生まれたわけです。
やや過剰な湿潤
上皮化の辺縁が鮮明
図11 過湿潤による治癒傷害
ラップ療法というのは 1996 年、今から 12 年前に、
5
現在は長野県松本市の相沢病院の褥瘡治療センター
長をやっている鳥谷部先生……この先生もそれこそ
地域医療の先生で、当時東北の小さい国保病院で内
科の先生をやっていました・・・この先生が発表し
た褥瘡治療法です。どういうことかといいますと、
褥瘡を水で洗って、ラップで覆って、それを不織布
テープで張り付けて、おむつで覆う。これだけ。こ
れで褥瘡が治るという発表をされたのです。大反響
を呼びました。賛否両論。「『こんなことをやって
はいかん』と、発表した褥瘡学会の理事の方から怒
鳴られた」というお話をよくされています。では、
何でこれで実際に治るのかという話をしましょう。
デブリードマンをきちんとしておけば、滲出液が
不織布テープから漏れて出てしまう。だから、感染
がコントロールできて、ラップにより湿潤環境が保
たれ、ずり応力の緩和も期待できる。滑るので、ず
り応力を緩和してくれます。これは事実です。結局、
どうして治るかというと、TIME 理論に合致している
からラップ療法でも治る、ということです。やみく
もにラップを使っているというわけではないので
す。
問題点がちょっとありまして、初期のラップ療法
だと通気性に問題があって、嫌気性菌が繁殖しやす
いとか、ドレナージが不十分だという問題があった
ので、現在は第 2 世代ラップ療法、OpWT(Open
Wet-dressing Therapy 開放性ウエットドレッシン
グ療法)と呼んでいる方法が行われています。
滲出液……これは、ラップの代わりに穴開きのポ
リ袋を使うのです。生ごみに使うやつ、皆さんご存
じですね。そいつを貼ってやって、上からおむつを
当ててやれば、実はこれは簡易なハイドロサイトに
なってしまうのです。というわけで、よりいい。
実際、どんなふうにやるかというと、これは 100
円で買った霧吹きです(図 12)。
シャーシャーシャーと掛けてあげまして、周りをよ
く拭く。傷の中をゴリゴリふいたらだめですよ。そ
れで、この穴開きのポリ袋、小さく切ったやつを張
って、あとは上からおむつを当たるだけ。とっても
簡単。ここまで、うちの病院でやる治療としては平
均して 3 分ぐらいです。
では、こういうものを使ってもいいのかというと、
全然問題ありません。実際、ラップ以外でも使って
いる日常品は他の治療でも結構あるのです。では、
被覆材ではだめなのか。被覆材でも、創傷治癒理論
に沿って使う分には全然問題ないわけです。ただし、
市販の被覆材でラップ療法と同等に行おうと思う
と、膨大なコストが掛かる。これが大問題なのです。
試算してみました(図 13)。
簡単な試算
仙骨部のポケットがない8×8cmのⅣ度の褥瘡
治癒までに1年かかるとする
被覆材の場合
ハイドロサイト10×10cm(1枚1200円)
1200円×365日=438000円
うち病院の持ち出し分 412800円
ラップ療法の場合
平おむつ1/2枚30円+穴あきポリ袋1枚0.5円
31円×365日=11315円
図13 ラップ療法の試算
ハイドロサイトという被覆材があります。これは 10
×10 センチで、1 枚 1,200 円します。1 年かかると
してこれを 365 日使うと、43 万 8,000 円掛かるわけ
です。保険でお金を出してくれる分は、症状詳記を
書いても 3 週間分しかありませんから、それを引き
ますと、41 万 2,800 円病院から全部持ち出しになる
わけです。ではラップ療法の場合はどのぐらいかと
言うと、
平おむつというのは大体1 枚60 円ですから、
それを半分使うとして 30 円。それに穴開きポリ袋 1
枚、0.5 円。31 円掛かるとしても 1 万円ちょっとし
か掛からない。はるかにコストが安いわけです。だ
から僕らはこれでやるしかないということです。お
金を出してくれるのだったら、何ぼでも被覆材を使
うのですけれども。
それで、被覆材治療の問題点は、どの被覆材をど
ういう時期に使うか、非常にわかりにくいことがあ
ります。とにかくたくさん被覆材があって、何がな
んだかわからないという人が多いのです。それから
コストが高いので、つい交換を避けてしまう。それ
第2世代ラップ療法の実際
図12 第2世代ラップ療法の実際
6
によって褥瘡が悪化するケースが実は、後を絶たな
い。デュオアクティブという被覆材がありますけれ
ども、あれを 1 週間貼りっ放しにして、デロンデロン
になって、ぐちゃぐちゃに感染したという実例もよ
く知っています。
それから、コストが高いので、つい小さく使って
しまうという問題もあります。小さく使うと、当た
り前ですけれども、圧力が皮膚に掛かりやすくなる
わけです。でも広く当てるとコストが掛かる。被覆
材治療というのは、ここが問題なのです(図 14)。
さて、最近、褥瘡学会なんかで流行っている方法
で、陰圧閉鎖療法というのがあります。これは非常
にいい方法です。どういうことかというと、これは
93 年ごろに開放骨折の治療で初めて使われました。
陰圧を掛けることによって血流をよくして、それか
ら壊死組織をドレナージしてやろうという考え方で
す。それで、アメリカで VAC という製品が作られた
のですけれども、非常に高いのです。困ったなという
ので、札幌の時計台記念病院院長の本田耕一先生が、
注射器とか持続吸引器を使った簡易陰圧閉鎖療法と
いうのを発表されました。2003 年の話です。
実際、これはうちでもやってみました。52 歳の男
性なのですけれども、外傷性硬膜下血腫で脳挫傷に
なってしまい、搬送中、意識レベルがドカンと落ち、
病院に着いたらすぐ、除脳硬直が始まりました。何
とか一命を取り留めたのですけれども、全失語四肢
まひというふうになってしまって、旭川市内の病院
へ転院しました。そちらの病院で仙骨部の褥瘡がで
きた。それから、その病院に入院中に PEG トラブル、
PEG が脱落して、旭川医大に再転院して、胃瘻閉鎖
術と腸瘻造設を行って、1 回ほかの病院を経てから
うちの方へ転科になりました。著しいるいそうがあ
って、四肢の著しい屈曲拘縮があって、仙骨部と左
の第 1 指の IP 関節のところに褥瘡があった。腸瘻栄
養をやっているので、1 日に 10 回ぐらいの水みたい
な下痢がビュービュー出ていた。これでラップ療法
をやると、さすがに大変です。1 日に 10 回全部替え
なければならないので大変。しかも、四肢まひの患
者さん、体動がほとんどありませんので、これは陰
圧閉鎖療法のいい適用だなというので、早速始めて
みました。
小さく使うと何が問題?
どちらが皮膚に圧力がかかりますか?
広く当てればコストが・・・、
狭く当てれば治癒しない・・・
図14 小さく使うと何が問題?
これは実際にうちでやった、初期のラップ療法の
症例なのですけれども、こんなふうに褥瘡があって、
見た感じ、お尻のところは 4 度の褥瘡です。上の方
は 2~3 度の浅い褥瘡だと思うのです。これがどうな
るかというと、1 カ月ぐらいにはきれいな赤色期の
肉になって、ほぼ 3 カ月できれいに治っているわけ
です(図 15)。
実際にこんな感じです。このチューブの先に持続
吸引器がくっついています(図 16)。
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図15 ラップ療法の症例
図16 陰圧閉鎖療法の実際
7
この写真ではハイドロサイトをちょっと当てている
のですけれども、今はもうハイドロサイトは要らな
いと思って、僕は使っていません。最初のころだけ、
ちょっと使っていました。
来院時、こんな感じの褥瘡だった。5×3 センチぐ
らいの大きさ。ポケットは結構大きかった。これが
1 週間たつと、こうなります。2 週間たった。4 週間
でこうなります(図 17)。
いうのはすごいメリットです。それから、ポケット
の収縮が非常によい。問題点は何かいいますと、フ
ィルムドレッシングがはがれたときに、対処が面倒
くさい。在宅ではちょっと困難です。注射器や持続
吸引器をぶら下げているのは、結構ストレスになる。
ですから、問題点はありますけれども、ポケットが大
きい褥瘡とか、ADL の低い患者さんには非常に有用
です。
コストはどのぐらいかというと、うちではペンロ
ーズドレーンを使ってやっています。4 ミリのシリ
コンチューブを使ったら、このペンローズドレーン
の部分が 30 円ぐらいになります。大体こんなもの
で、470 円(図 19)。
1週間目
来院時
陰圧閉鎖療法のコスト
ペンローズドレーン1本
300円
ポリウレタンフィルム
100円
コネクター類
4週間目
2週間目
安息香酸、タフグリップなど
30円
注射器、三方活栓など
10円
図17 陰圧閉鎖療法治療経過1
交換は3日に1回で十分
8 週間、16 週間(図 18)。
30円
計 470円
→1日あたり 160円弱
炎症期から早期に離脱出来ることを考えればお得
図19 陰圧閉鎖療法試算
8週間目
交換が 3 日に 1 回ぐらいですので、1 日当たり 160
円弱と、これも非常にお安いです。それで、炎症期
から早く離脱できれば得なので、炎症期の時期だけ
これをやって、その後はラップ療法に切り替えると
いうのが大体うちのプロトコルです。メリット、デ
メリットそれぞれ書きました。ラップ療法は非常に
簡単なので、在宅に持っていった方は、これが一番
いいと思います。陰圧閉鎖は、炎症期の時期にささ
っと使ってささっとやめるというのが一番いいでし
ょうね。使い分けはこういうふうになります。
16週間目
図18陰圧閉鎖療法治療経過2
この方はほかの病院に転院しましたが、最後、ち
ょこっと 1 センチのスリットが残ってしまったので
す。それがなかなか治ってこないのですけれども、
ほぼ治癒に近い状況。もちろん、この状態だったら、
患者さんには何の苦痛もありません。これぐらいき
れいに治ります。
陰圧閉鎖療法は何が良いかといいますと、壊死組
織の消失が非常に早い。つまり。褥瘡で問題になる
炎症期から早く離脱できる。炎症期というのは、当
然ですけれども痛いですし、臭いですし、滲出液は
ジャバジャバ出ますし、そこから早く脱出できると
さて、褥瘡治療の目的って、何でしょう。褥瘡を
治すことですか。僕は違うと考えています。
褥瘡に伴って、苦痛とか不利益がある。これを解
消してあげることが大事ではないでしょうか、とい
うのが僕の考えです。これを、僕は「褥瘡共存論」
と呼んでいます。実はこの辺は、先ほど言った本田
耕一先生とも非常に意見が一致していまして、お互
いに「そうだよね」と、よく言っています。
褥瘡があることによって何が問題かというと、一
つは感染です。炎症期、それから壊死組織が残って
8
いる場合、ドレナージ不良なんかで感染が起きます。
それから、当然、炎症期には痛みもあります。滲出
液やにおいなんかの問題もありますし、栄養ロスの
問題。それから治療や処置のコスト、これも重要な
問題です。それから、介護、処置の手間もやっぱり、
重大な問題なわけです。ではどうやって考えるかと
いうと、早期にデブリードマンをきちんとさせてや
る。あるいは、例えば陰圧閉鎖を併用してもいいで
しょう。それから、低コストの治療をやる。これは
とても重要なことです。お年寄りは、お子さんがし
っかりされていて全部看ていらっしゃる方もいます
けれども、老老介護の方は年金で自分の治療費を払
うわけです。となると、とても大変なのです。1 カ
月 1 万円だって、あの方々にはとても大変なことな
のです。だから、少しでもコストの安い方法を考え
てあげなければいけない。あと、治療自体の心身負
荷が少ないこと。もともと体力のない方ですので、
これは当然です。現在のところこの三つを同時に満
たすのは、ラップ療法と簡易陰圧閉鎖療法だけだと
思います。
勢でいるか、これがとても重要です。そこで原因分
析をして、それに合ったマットの手配なんかをする。
あとは、状況によって通院にしてみたり、往診にし
たり。これがうちの 1~2 度のフローチャートです。
当町の在宅褥瘡フローチャート
Ⅰ、Ⅱ度の場合
訪看・ヘルパーが発見
休日?
YES
ポリウレタンフィルム貼付
NO
翌日
外科受診
ポリウレタンフィルムまたはラップ貼付
通院or往診
往診、原因分析、マット手配
図20 在宅褥瘡フローチャート(Ⅰ~Ⅱ度)
これが 3~4 度になりますと、即日入院にします
(図 21)。なぜかというと、3~4 度の場合は当然、
初診時には炎症期と考えていいわけで、そこから離
脱させなければいけないわけです。デブリードマン
を適宜してあげて、あるいは陰圧閉鎖療法をする。
肉芽が上がってきて、炎症期を離脱したなという時
点で、ご家族にラップ療法の指導をする。これは本
当に簡単ですので、皆さんすぐ覚えてくれます。ラ
ップ療法の指導をして、マットの手配をして、退院
に持っていく。そこから通院、往診です。もちろん、
全身状態がうんとひどい人まで追い出すことはして
いません。
地域医療においては褥瘡治療をどういうふうに考
えるか。とにかくまず、早期に発見してあげること
です。僕の経験上、2 度の褥瘡は、除圧をきちんと
してやれば大体 2 週間で治ります。3 度の褥瘡にな
ると、これは 3 カ月ぐらいかかります。4 度になる
と、大きさにもよりますけれども、半年はかかりま
す。ですから、訪看とか在宅介護士でネットワーク
を作ってもらって、早く見つけてもらって、早く病
院に連れてきてもらう。そこで適切な治療をぱっと
やってしまうと、褥瘡というのはあまり作らなくて
済むし、早く治るのです。それから、除圧がきちん
とされなければならない。最近は介護用品の方で体
圧分散マットのレンタルもありますし、できれば病
院なんかでも、きちんとマットはそろえた方がいい
と思います。実を言うと、うちはとんでもない数の
マットがあります。ベッド全部を満たすよりも多い
だけの体圧分散マットがあります。
それから、炎症の管理がとても大事です。例えば、
きれいに褥瘡が治ってきたなと思っても、肺炎を起
こしたら一気に悪化してしまうわけです。
これは、うちの褥瘡治療のフローチャートです(図
20)。休日であれば、訪看やヘルパーがまずポリウ
レタンフィルムを貼ってしまいます。翌日に僕のと
ころに連れてきます。診て 1~2 度であれば、フィル
ムラップを付ける。それで褥瘡の場合、とても往診
が重要です。お家でどんな体位でいるか、どんな姿
当町の在宅褥瘡フローチャート
Ⅲ、Ⅳ度の場合
訪看・ヘルパーが発見
YES
休日?
NO
ポリウレタンフィルム貼付
外科受診
翌日
通院or往診
即日入院
ラップ療法指導
炎症期離脱?
YES
マット手配
→退院
図21 当町の在宅褥瘡フローチャート
(Ⅲ~Ⅳ度)
9
ちょっとこれは自慢なのですけれども、うちの町
の褥瘡発生状況です(図 22)。
ありがとうございました。(拍手)
ちょっとつけ加えさせてください。時間がないの
ではしょったのですけれども、本田耕一先生が書い
た陰圧閉鎖療法のいい本が絶版になってしまってい
て、当院の陰圧閉鎖療法の手順を書いたマニュアル
を今日持ってきていますので、欲しい方、どうぞお
持ちください。20 部ぐらい用意してあります。以上
です。
上富良野町の褥瘡発生状況
人口12000人強
高齢化率28.2%
院内発生のⅢ~Ⅳ度褥瘡はこの2年間 1例だけ
Ⅰ~Ⅱ度褥瘡:年間10数例発症→全例治癒
Ⅲ~Ⅳ度褥瘡:年間2~3例(全例炎症期離脱)
(オープンベッドのため他院のDr.が管理していた)
十分なマット配備、早期発見・早期治療によると思われる
図22 上富良野町の褥瘡発生状況
人口が 1 万 2,000 人強、高齢化率 28.2%ですから、
北海道の平均よりやや高いぐらいです。若い人も多
いのですけれども、高齢者も多いのです。1~2 度の
褥瘡が年間十数例発症しています。これは全部治し
ています。今まで治らなかった人は一人もいません。
3~4 度の褥瘡は年間 2~3 例あります。これは全身
状態の問題があるので、完治まではいっていない例
が結構多いのですけれども、炎症期は完全に全部離
脱させています。だから、患者さん本人はこの状況
になると、全然苦痛なく、ボーッとしています。
院内発生の 3 度以上の褥瘡はこの 2 年間で 1 例し
かありません。その 1 例というのは、実はうちはオ
ープンベッドにしていまして、他院の先生が管理し
ていたのです。僕はその患者さんが入っていたこと
すら知らなくて、ある時相談されて、「何じゃ、こ
れ」と。それが 1 例だけでした。何でこういうこと
ができるかというと、マット配備がきちんとしてあ
ることと、早期発見・早期治療なのです。ですから、
うちの町では褥瘡はすごく少ないですし、なっても
割と早く治ってしまう。そういうことなのです。
最後になりました。褥瘡というのは最初にお話し
したように、条件をきちんと整えてあげれば治る傷
です。治すためには、正しい創傷治療の知識が必要
になります。全身状態が悪ければ、どんなことをし
ても褥瘡は治りません。きちんと除圧しなければ、
やっぱり何をやっても治りません。何よりもまず、
褥瘡による苦痛を取ってあげましょう。これが僕は
一番大事だと思います。そして、予防と早期発見・
早期治療が最も重要ということになります。ご清聴
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